能面の少女
シチュエーション


能面の少女は、面の奥でくぐもった荒い息をつきながら、私を拒もうと必死にもがいていた。
酒と、酒以外の薬物、そして己の中の滾る血にまで酔った私は、それに構わず、浴衣を引き裂
くように脱がしていく。
やがて、白い肌が露わになった、少女はか細い手で胸を隠そうとするが、その間から覗く裸身
には汗が光り、その色合いと肌触りは乳白の陶器に似ていた。
わずかに覗く乳首は桜の蕾だ。

――乙女だ。まぎれもない、処女。

弱々しい抵抗を続けるが、あっさりと両手は開かれる。ほとんどないほどの乳房が、息づか
いと共に激しく上下した。
わずかな隆起を指でなぞると、少女は発作を起こしたように胸を逸らす。

――それなのに、純白の仮面は表情一つ変えない。

これほどまでに体は感じているのに、純白に塗られた、木彫りの冷たい質感の小面は、性を交
わしているなどどこ吹く風とただ穏やかに微笑むばかりだった。

私は、発作的に面の口の所に開けられた小さな穴に舌を差し込んだ。

「……っ」

今まで何一つ口に出さなかった少女が、初めて声を漏らした。
口部の穴には舌が入る程の余地はなかったが、少女の濡れた唇に舌先が届いた。
唾液の味は甘く、私はますます酔いが深くなる自分を空恐ろしく思った……

私が、なんとも奇妙な体験に退屈を紛らわせたのは、下宿の大家を一応の生業に始めてから三
年ほどたった夏の日のことだった。

「○○さん、手紙ですよ」
「はて、手紙とはめずらしい」

封筒はなかなかに上等な紙だったが、その差出人の名が私を戸惑わせた。

「牡丹楼からか」

私が馴染みにしている揚屋の名である。ここしばらくは懐の余裕がなくご無沙汰していたが、
さりとてツケをためた覚えもない。
不審に思って中を開けてみると、そこには奇妙な事が記されていた。

『ある妓を抱いて欲しい……?』

その妓を抱く際の料金は必要無い、むしろこちらから謝礼を寄越しても良いという。

「はて」

私は考え込んだ。なんとも奇妙な依頼である。
客に貢ぐ色女は多いというが、私にはそのような良い目にあった覚えがない。
いや、もてたことが無い訳ではない。ただこちらから断っているだけのことである。それにし
ても……

「よし、行くか」

私は万年筆を白紙の原稿用紙に転がして、質屋からモーニングの三つ揃いを請け出すと、その
足で牡丹楼へ向かった。
原稿とにらみ合うだけが仕事ではない。

「はああっ」

乳首を吸った途端に、可愛らしい声が仮面の奥から漏れ聞こえた。

――ここが弱いのか?

とすると、案外処女ではないのかという考えが一瞬頭をよぎるが、少女のくぐもった声はあ
まりにも幼く、叱られた子供が泣き出したときに出すような声だった。

――とすると、特別にこの子は敏感なのか。

私は、右の乳首を舐めながら、左胸を優しくさする。
たまにつねると嫌がって身をよじるが、その動作がなんとも可愛らしい。
漏れ聞こえる息づかいは相変わらず肺病患者のように荒かったが、その荒さは徐々に変容し始
める。

―――そろそろか。

私は、ずっと太ももをさすっていた右手を徐々に上へ、股の付け根へと位置をあげていき…


「ああっ」

そこに手が触れた瞬間、少女は感電したように体を動かした。
少女はきつく膝を閉じたが、秘所にはまだ私が残ったままだ。
私は、手の痛みを殆ど感じなかった。 そのまま、指を蠢かせる。クリトリスに優しく触れる。
面がのけぞり、白い首筋が露わになっる。私は、その不自然な体勢のまま、首筋に舌をはい回
す。
垂直に沿った男根を、太ももにこすりつける。右手はビショビショに濡れていた。
激しい痙攣とともに少女は身をよじらせた。
絶頂に達したというのに、仮面はあいかわらず表情を変えていない。ただ、仮面の隙間から、
涎がきらきらと漏れていた。

「これは○○さん、ようこそお越しくださいました」

銚子を一つ空にしたとき、女将がいつもにまして愛想良く挨拶をした。

「ああ、お呼ばれにあずかってきたよ」
「お手を読まれたのですね」
「ああ。……変な病気を持っているんじゃあないだろうね」
「いいえ、まさか」
「では、余程の不細工とか」
「貴方の好みでは無いかも知れませんが」

女将の笑いになにか妙な物が含まれているような気がしてならなかったが、私は構わずに杯を
勧めた。

やがて、程々に酔った頃に私は部屋に通された。その部屋は、今まで私が利用した事のない
最も上等な部屋だった。羽布団に私は体を沈める。

――ここで寝るだけでも、釣りがきそうだ。

しかし、私の好色な部分は、言いようのない期待と不安で、興奮状態に陥っていた。
初めて女を抱いたときにも、こんな興奮を味わったことはない。
初めての時には萎縮していたあの部分も、今晩はいきり立っている……いや、しかし、今宵の
猛り方が少々おかしいことに、私はこの時点で初めて気がついた。
まるで、自分の物ではないように、私のそれは、固く高くいきり立っていたのである。

「とろろ芋をつまんだせいかしらん」

その疑問が溶ける前に、がらりとふすまが開いた。跳ね起きた先には、女将に連れられて奇
妙な少女が立っていた。
背丈は十代前半といったところか。そういう妓はそう珍しくない。
奇妙なのは、女将に手を引かれてやってきた少女の顔は、小面の面に覆われていたことだ……

「この子なんですよ、抱いて欲しいのは」
「……貴方の所の子ではないようですね」
「ええ。その代わりに一つ条件があるのです」
「正体を詮索しないこと?」
「ええ……それと、この面を外さないことです。絶対に」

……少女は絶頂の余韻にいまだ痙攣したように体を動かしていたが、私はそれに斟酌せずに膝を開いた。
我ながら浅ましいことだと思うのだが、私のいきり立った男根は、主人になったように私を支配していたのである。
少女の膝は力なく二つに分かれた。そこにはくっきりとした割れ目がある。
一瞬ドキリとしたことに、そこにはわずかな茂みさえなかった。

――幼い。

しかし、背徳間などすでに吹き飛んでいた。
開かれたあそこは乳首よりもあでやかな桜色で、私を受け入れるべき場所が、ひくひくと動いている。早く入れてくれと言わんばかりに。
私はぐいと体を沈めようとしたがそれを察してか、低いうめき声がかすかに聞こえてきた。

「や……めて」

顔をあげると、愉快そうに笑う小面の顔がある……能面が上を向くと笑って見えるというのは本当らしい。
とても、私に犯されるのをやめて欲しいという表情ではない。
わたしは、すでに濡れそぼったそこに、私自身を突っ込んだ。

「んあああっ!」

嬌声にはほど遠い声。思っていたとおり中はきつく締め付けは強かった。
私は膝を持ち上げて、思う存分に中を犯し尽くす。
数多くの女を抱いてきた私だったが、少女の、私のあそこを吸盤のように吸い尽くすそれは言いしれぬほどの快感を感じていた。

「ひっ」
「ああっ」

悲鳴に近い声を、上下に揺れる仮面が発する。髪を振り乱しながらも、無表情。
仮面の奥の顔は?
引きつっているのか、悦びにゆがんでいるのか。
私は、思わず仮面をずらそうとしたが、宙を掴んでいた手がずらそうとした手を押さえた。

――神聖不可侵というわけか。

私は腹立ち紛れに、腰を思い切り突き上げた。私の腕の中で思い切り胸を反らす。
私は少女の中に欲望をはき出した……

「……しかし、私がわざわざ選ばれた理由はなんなんだい」
「皆に評判がいいからですよ」
「何の評判?」

私はにやにや笑いながら言った。

「いやだ、おわかりのくせに。こんな店での評判って言ったら……ねえ、旦那」

私の上で、裸身が踊る。髪が舞う、そして仮面が狂乱していた。
少女の乱れ方は尋常ではなかった。

……私は、一応はき出し終えて(その量は私が一度に出した最高のものだった)やや落ち着いていた。
白い割れ目を更に白く汚したそれは、月光に照らされいやらしく光っている。
それを見ているとまたすぐにむらむらとしてきたが、その前にふと思い立ったことがあった。
傍らに片付けられた膳には、酒が……おそらく媚薬入りの酒が残っていたはずである。
私は、それを水で薄めるとコップに入れて仮面の少女に差し出した。

「喉が渇いただろう。後ろを向いているから飲みなさい」

汗まみれの少女は喉が渇いているはずである。
少女がそれを手に取ると、私は後ろを向いた。
ごそごそ動く音に振り向くと、少女が面をずらして口だけを露わにして、コップの水を一気に飲み干そうとしていた。
ごくごくと白い音がうごく。唇は小ぶりで小さかった。面がずれていてこちらは見えないのだろう。私は面を戻す前に、また後ろを向き戻った。

酒とクスリの効果はてきめんだった。
少女は、私にすがりついて、無言で何かを訴え始めた。白い裸身に、ほのかな桜色が滲んでいる。うなじについたホクロがひどく色っぽく見えた。

「どうしたんだい?」

わたしがとぼけると、少女は荒い息づかいをしたまま何も告げない。

「なにをしてほしいんだい」
「だ……いて」

くぐもった声。

「さあて」
「抱いて、私を抱いて!」

声の調子は幼いはずなのに、酷く淫奔に聞こえる。
少女が私を押し倒そうとする。その力はか弱かったが、私は調子を合わせて倒れることにした。
慣れない手つきで、私の物を穴にいれようとする。その小さな手に握られるだけで、わたしのものは益々固くなった。

「ああ」

少女の体を私の物を貫いたとき、漏れ聞こえたのは歓喜だった。
私が思わず出したのにもかまわず、少女は必死に腰を動かし始めた。

あっという間に朝がきた。私はだらしなく眠りこけていたが、ムリもない。
数えただけでも十回は出したのである。
すでに昇りきった太陽がひどくまぶしい。黄色に見える。
やはりというか、能面の少女の姿はなかった。
部屋には私の不快なにおいと、少女の甘酸っぱい残り香が残るばかりだった。
布団には赤いしみが残っている。
私は痛む頭を抱えて牡丹楼を出た。懐には礼金として頂いた十円もの金がうなっている。この金で精がつく物を食べないと、腎虚で死にそうだ。
「ひどく喜んでいましたよ」

私を送り出す女将の顔は酷く満足げだ。よほどの礼金をもらったのだろうか。

「あの子は」
「聞かない約束ですよ」
「そうか……」

下宿に帰ってくると、私が下女として雇っている少女が庭をはわいていた。

「あ、こんにちは」

もうそんな時間かと私は苦笑する。そういえば、この娘は昨晩の少女と同じくらいの年齢だ。
ふと、思い立って少女のうなじを見ると、そこには小さなホクロがあった。

「どうされました?」

私を怪訝そうに見る少女。

「いや、まさか」

私は苦笑して、部屋に戻った。
私はこれからもうなじにホクロがある少女を見ると、あの娘の事を思い出すことになるのかもしれない……
私は礼金の十円で能面を買った。もちろん小面の面である。

(ふぃん)






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