シチュエーション
「利行君の口に合うのって、これかなあ」 分かってるくせに。メールでしっかり伝えたのに。 焦らしてる。それもそれと分かるようにやっているから、余計に焦れる。 「その右手の奴です。……そっちは左手!……そうです、それ!」 「ふふ、怒らないの」 昼下がりのマンションの一室の良く整理されたダイニング。悦子さんは僕に 歩み寄って来る。白いタートルネックのセーターとベージュのスカート。栗毛 の軽いウェーブの髪に成熟した女性のにおい立つ雰囲気をまとっているが、気 品の良さも滲み出している。 「じゃ、これ、ね」 悦子さんは、右手の球状の口枷を僕の口に押し込んだ。さっきは革製の布の ものをかざされたので怒ってしまったのだ。 腰掛けた僕の前で、口枷のベルトを頭の後で止める。僕の顔にセーターの胸 が触れるか触れないか。心をくすぐる化粧品の香り。 計算ずく。ずるい、女性だ。 「これでできあがり。……やだ、何興奮してるの?」 僕の脚はダイニング用の椅子の足にベルトで縛られている。手首はタオルで 結ばれ、頭のうしろに固定され、やはり革の紐で椅子の 足に繋がれていた。 僕は全裸。隠し切れない欲望は、痛みを伴うほど屹立し、脈拍と共に動いて いた。口の端から落ちた雫は、その根元の茂みに落ちた。 ……僕はこれを望んでいた。これをずっと待っていたのだ。 ◆◆◆ このシチュエーションをとあるサイトに載せたのは軽い気持ちだったが、女 性のナマの裸すら見たことも無い自分の日ごろの夢想そのもので、反応など全 く期待していなかった。サイトに送ることで、どこか自分の欲求を昇華させた に過ぎなかった。 送信して2日後に、女性の名前で送られてきたメール。いつものスパムとは 違うアドレスのものをつい開けてしまう。 “とある人妻です。イタズラしたくなっちゃいました―” 今思えば最初のこの一文から、僕はそそられてしまった。股間のものをい いようにいじられる感触をも想像した。 “道具もいろいろありますヨ♪いじめてあげるね” という文句にも思わず体を熱くした。 具体的な日時、場所と服装、髪形と34歳という年齢まで書いてあり、あま りに出来すぎの話に疑ったが、もしかしたらという期待に胸が高まって仕方 なかった。 大学の講義をさぼっての、平日の午前のとある駅前のショッピングモール。 まばらな女性客の中に浮いてしまっている僕は、気恥ずかしく待ちあわせの ベンチで小さくなっていた。 その僕の前に立った女性―茶の革のブーツ、茶のスカート、白のセーター と薄緑のショール。深い栗色のロングヘアを揺らし、色白な瓜実顔の中の大 きな目をくしゃっとほぐして、 「あなた?利行君?」 34歳には見えない。人妻に見えない。自分よりは年上そうだが、快活そう な声に幾分甘えの含んだ感じで、先走った妄想の斜め上を行っていた。 「はい、悦子さん……ですか?」 「初めまして。ふふ……」 初対面の僕に包み込むように微笑みかける。それからかがんで、僕の耳に 鮮烈なレッドの口紅の唇を寄せて、少し低い声で、それでも明確に囁いた。 「やらしいセックス、しましょうねえ?」 思えばそのまんまの言葉だ。セックスはいやらしいのだから。 でも、人が行き来する場で、はっきりとそれでいて諭すように言われば、 それは呪文になってしまう。その呪文はファミリーレストランでの食事中 も、見も知らない家庭の部屋に入っても、ずっと耳に繰り返されていた。 期待どおりのシチュエーションに、そんなスパイスがあれば、当然興奮 してしまう。 「で、これはオプションね」 さっきの革の布を僕の目に押し当て、それを頭の後に縛られる。 僕は彼女に何もできない。触りに行くことも、視線を刺しに行くことさ えもできないでいる。予想もしない追い討ちをかけられて、軽く恐怖する。 その恐怖にわくわくしている。 ふぅっ 温かな息を耳に。僕はぞわりと顔を震わせ、反射的に守るように自分の 腕で耳を隠す。細い指の爪の先で反対の耳の産毛に指を滑らせる。 「ううっ……」 声が上がってしまう。 「ふふ、かわいいんだ」 そう言いながら、僕の耳の中に舌が入っていく。つぷり、にちゃ、と 聴覚をダイレクトに揺さぶった。尖らして、奥底を探られる。 「ふう……おお……おおおっおう」 くすぐったい。そういう感想さえも表せないじれったさが、どこまで も自分の今の不甲斐なさを増幅させていく。 不意に、股間の固い棒を悦子さんが握った。冷たさの中にじんわり伝 わる温かさを感じる間もなく、先端のずる剥けの部分を集中的にさする。 「ううう……おうおう……ぐう」 「こんなに固くしちゃうから辛いのよ。……でも固いけど、細っぽいの ね。チンポって感じじゃないよね。そうね、オチンチンちゃんって感じ?」 言うことが恥ずかしい言葉。言われて恥ずかしい言葉。 耳元に焼き付けられる容赦ない囁きのなぶりに、僕は正直に反応して いく。 もう、高まっていく体。内腿がわななき、下腹が震える。 「おおお!うううう!あおお!」 「利行くぅん。もう出しちゃうの?気持ちよくなっちゃったの?」 呻きと共に、壊れた機械のようにうなずくことしかできない。それを 無視して、睾丸の辺りに指を滑らせて、笑いを含み、 「イっちゃいたいの?じゃ、イっちゃったら今日はおしまいにしま しょうね」 「ううう!おっ!ううう!」 今度は馬鹿みたいに首を振る。 手の動きは早くなっていく。頭の芯に綿でも詰まったように朦朧と し、脊髄に濃厚な刺激が矢継ぎ早にやってくる。 狂おしい発射の衝動がすぐそこに迫る―― そこで、手が離れた。 「やあね、そんなに一人で気分盛り上げちゃって」 遠いところから、悦子さんの声だけが聞こえる。目をふさがれたせい で彼女の体温や息遣いまでも感じられたのに、今それすらもなく、おそ らく部屋の外から、妙にクリアに侮蔑をともなって響いている。 「みっともなくて、堪え性のないオチンチンちゃん。――毛を剃ってみ ようか?どうせ要らないでしょ?」 揺さぶられまくる自尊心。椅子に縛られ、なすすべもないままに弄ば れる、この状況に頭が痺れている。 うなずいてしまったらどうなるだろう。 お願いです。汚らしい陰毛を剃り落としてください、と意思表示した ら… 『さもしい子ね』などと、さらに僕を罵り、それからハサミや剃刀の刃 物の冷たさと危険さを感じながら、もっとひどい屈辱にまみれることが できるだろうか。 見えない中、妄想が錯綜し、増大する。勝手な至福の中、布ずれの音 がする。続いてぱさりと布が床に落ちる音。 僕のあごに両手が添えられ、頬にやわらかいマシュマロのような肉の 感触。――乳房だ。彼女の息の音と、肌を滑る乳首の固さで気づいた。 咥える事も、舐めることも出来ないのに、つい唇でその突起を捕らえよ うとする。 「ふふ、必死ね。――かわいい!」 ぐっと顔に胸を押し付けて、頭を撫でてくれた。貶められて、褒めら れて、嵐の中の小船のように、いいように狂わされていく。 彼女の体がずり下がり、まっすぐに僕の胸に口を押し当てる。そのま ま僕の乳首を舐め、甘噛みを見舞われる。 「……ふーーっ!おう、おう!」 ちゅちゅ、ちゅば!ぴちょぴちょぴちょ…… 音を立てて吸う、乳りんに沿って舌が回る……執拗なしゃぶりだけで、 僕はもう発射の準備が出来てしまっていた。 「女の子みたい。そんなに乳首が感じるのぉ?」 がくんがくんがくん…… もっと責めてもらいたくて、精一杯の意思表示に何度もうなずいてし まう。口の両端からは、もう唾液がだらだらだ。 「じゃあさ、もっと“いいこと”しようね?」 ぐらりと体が右に傾いで、ゆっくりと椅子ごと倒れていく。 「ふっ!?」 僕は予想もしないことに体を固くしたが、どうやら危険がなく、横た えられることが分かると、身を任せていた。右の腰が冷たいフローリン グに触れ、それから、椅子が完全に倒された。たった今まで口に納めら れてた乳首が、外気に触れてひんやりする。 「とても無様ねえ。こんな格好した人っていないでしょうね」 頭の上から含み笑いと共にかけられる言葉。放置プレイは好きじゃな いこともメールには書いた。積極的に弄繰り回して欲しいとも書いた。 話が違うと思うと同時に、急に鼻の前に、香りがした。芳醇でなめら かな香り―― 「これ、何の匂いかわかる?本当は利行君のカウパーでいいと思った んだけど、あんまり出ないから、このオリーブオイル使うよ」 僕があまり先走りがでないのは事実だ。でも何にオリーブオイルを使 うのだろう。 僕の背中に悦子さんが回る。それから、手でお尻と椅子との隙間を作 ってから。 つるり、ずうううっ 僕の肛門に指が一本入ってきた。 「うっ!……ううーっ!?」 体を思わず硬直させると、悦子さんはまた笑う。 「ほんとに女の子なんじゃないの?そんなに鳴かないでよ」 かき回す指。螺旋。円運動と、直進運動の溶け合い。肉体的には、わ ずかに痛い。精神的に苦しさと恥ずかしさと、蹂躙されている悔しさと。 でも、ある一点!そこをこすられると、自分の熱い肉に響くような 快感が走り、そのたびに声が止められない。 「うっ!……うっ!……ううううっ……ううっ!」 「いいの?ここが甘いの?」 快感は狂ったようなうなずきに代えるしかない。たまらず足をバタバ タさせて紛らす。 「ここ、いっぱい弄ったら、出ちゃう?」 出ちゃう!懸命なうなずき。 「出ちゃったら、セックス無しなの、わかってるよね?」 それは困る。したい。悦子さんとしたい。 それなのに、指は止まらない。震わせるように責めてくる。さらに、 「もう一本増やしまーす」 深く苦しく押し込まれる。螺旋、往復、振動、ピンポイント。 いつしか、床の面の顔によだれがたまっているのに気づく。それほど 声が止められず、思考が呆(ほう)けていく。悦子さんにいいように犯 される今の自分に、震えるほど悦楽を感じている。 「これがいいのね?これ!ほらっ!!」 その部分を2本指で、連続で震わす。この攻めで、腰が、蕩ける。 もう、出る! 「うーっ!うーーっ!うっ、うっ、うっ!」 「こう!?こう!?出ちゃうの!?」 「うーーーーーっ!!」 暴れてガタガタと床を鳴らす椅子の音は気にならなかった。 それくらいの、今まで感じたこと無かった噴出感と、強烈な快感に。 目隠しで目の前は暗かったが、意識が遠くなり、暗転した。 ーーめのまえがしろい。 薄ぼんやりした景色の中、気付け薬の強烈な匂いで、横倒しのリビン グの風景に強引に引き戻された。 「!!」 「利行君、イっちゃったねえ、ほら、すんごいの。窓見て」 目隠しを取られていたことにも、今気づいた。リビングの窓、自分の 位置から2メートルは離れているのに、そこに白濁が飛んでいて、ゆっく り下に落ちている。ほとばしりで、そこまでの軌跡も分かってしまう。 自分の腰の辺りには、直径3cmほどの溜まりになっていて、しぼみき った分身から未練がましく、残りが垂れている。 「あんなに飛ぶのって初めて見た。お掃除が大変。……でも」 少し残念そうに、諭すように肩に手をかけた。 「あんなに出ちゃ、もう立たないでしょ、おちんちん。また今度にしま しょうか?」 見上げると悦子さんは、出会った時のようなやわらかな笑みで僕を見 ている。 トップレス。もちのようにふくらんだ乳房の上の、ツンと前を向いた 乳首の色の薄さが、その歳に似つかわしくなく、若々しく、みずみずし い。 あのおっぱいに顔を埋めたい。揉みしだいて、舐めて、吸い付いて、 揺すって見たい。 むずがゆさを感じて、それが体にこみ上げてきて、硬くなるモノ。 「んーっ!ううううーん!」 「えっ?あらあら」 悦子さんは、女神のような微笑からサキュバスのような艶笑に変えた。 「ふふ、もう少し、楽しませてもらえるようね?」 「ああ、やっぱり拘束されるのが似合うのね、利行君は」 椅子に繋がれた革の紐はほどかれ、再び目隠しされ、手首はタオルで 後ろ手で縛られて、寝室に誘(いざな)われた。そこで、大きさはおそ らくセミダブルのベッドに仰向けで寝かされ、膝をベルトで縛られた。 手首はベッドの頭のところで固定されてしまったらしい。 無防備な格好への拘束は、どうしても期待で体中が敏感になってしま う。 そんなところに、先ほどの発射で汚れた僕の先端に、たよりないもの が当てられ、やさしく拭われる。悦子さんがティッシュで掃除してくれ ている。 「やせっぽちの子って『ああ、いじめてやりたい』って思っちゃう。そ れに色が白いから黒いベルトがとっても映えるの」 嬉々として言う。需要と供給がぴったり合って、僕もうれしい。 「ど変態だと、このおちんちんちゃんも大変なんじゃない。嗜好が合わ ないと満足できないんじゃない?」 掴まれた肉棒は、それでもびくんと震える。悦子さんの手が嬉しい。 でも、もっとうれしいのは…… 「こんなふうに、踏んでくれる人なんていないでしょ!」 竿の部分を、すこしひんやりしたものに、へその方向に踏まれる。お そらくはストッキング地の足で、情けない僕のものはみっともなくひしゃ げているだろう。 悦子さんはさらに、足に前後動を加える。執拗に、時折強く踏みつける。 足の指先。僕の先端にこすりつけたり、カリの部分をなぞってみたり、 袋をいじってみたり。 「ふうううっ!……ううううう!……」 さっき出したばかりなのに、被虐の快感に、もう、高まっていこうとす る。腰が動き、背中が反ってしまう。 「ね、今度出したら、本当にお預けなんだから!我慢なさいっ」 無理なことだ。ど変態が夢にまで見たあこがれのプレイに興じて、その Mさを煽るSな女の人の容赦の無い言葉を投げつけられれば、それで果て ないほうがおかしい。 「おう!……ううううっ!……おおおおっ!…………う?」 もう3秒このままなら、また吐き出してしまうというときに、離れた足。 本当にこっちの高ぶりを心憎いほどわきまえている。そこがたまらない。 「ねえ、そろそろあたしのことも楽しませてくれない?」 布がぱさりと床に落ちた音。その後で、彼女はベッドに乗って、僕の顔 の左右のスプリングが軋んだ。今、僕は跨がれている 悦子さんの足がずれて、代わりに少し重いものが両耳の横へ。素肌の感 触。太腿だ。 僕の胸に暖かで、液体に濡れた重さの感覚が乗った。悦子さんのお尻に 踏まれている。 「上手にできたらぁ、アイマスクは取ってあげるから」 鼻先から口元にぺチャリと濡れそぼったもののが押し付けられる。しば らくは動かずにいたが、魅惑的な芳香を伴って、そそのかすように口枷を 過ぎ、鼻筋を辿る。 熟れた悦子さんの秘貝は、やがて鼻の適度な固さを気に入り、それで肉 の中をこじり始める。芳醇にとろとろしたものが、鼻の穴にも流れ来るが、 僕は言い尽くせない享楽の中で、動かせる頭を突き上げることで、彼女の 欲望に応えようとした。 「あん……うん……うん……そうよぉ……そんな感じ……ふうん……」 鼻の先をクレパスに沿って擦り付ける。上の方の、女の人の甘い突起を とらえるようになると、彼女の吐息は切なく、熱く、短く、強くなる。 夫は単身の長期出張だと語った彼女は少しの刺激で声を荒げた。 「……いっ……はっ……やん、あん……はあっ!……それ……あっ!」 “SとMは表裏一体だ”という言葉は、まったくそのとおりだ。Mが喜び そうなことをSは繰り出す。でもその想像は突きつめれば、Sの中にある Mとしての欲がある証しなのだ。僕は今、奉仕をしているのではない。悦 子さんの中のMに応えるSで、敏感な部分を嬲っている。 左右の動き、円の動き。強弱や一度止めてからの、突然の振動。 「ああん!……ああん!……あああ、利行君……いっ……はあっ!……」 腰や太腿が痙攣している。あの上品ないでたちの悦子さんが、こんなに も、はしたなく声を乱している。 ――もっと、泣かせてやろう さらに多くの振動を与えようとした瞬間に。 ピンポーンというチャイムの音、それから。 ガチャン、ガチャ、ガチャ……キイ 玄関のドアが開けられた音。 「ただいまあ!」 弾けるような女児の声。 僕は大いに慌てる。玄関先にある戸を開ければ、ダイニングに繋がる。 先ほどの狂態の始末はしなかったはずだ。横倒しになった椅子、撒き散ら された白い粘液を見れば、いくら子供といえど、怪しむだろう。 「おかえりなさい、千佳。今、ちょっと洗濯物の整理をしてて出られない のぉ!」 そういいながら、悦子さんは僕の頭に手を回し、革の目隠しを取り去った。 しばらく感じなかった光を受けて、目の前はぼんやりしている。 「テレビのお部屋も、散らかしちゃったの。だから入らないでくれるかしら?」 「ふうん。……手伝おっか?」 「いいわ。お母さんでないとできないの」 やり取りのうちに次第に視界が回復する。初めて見る目の前にある淫猥な 肉のほどけ方。しどけなく開いて、よだれのような女の欲の蜜を垂れ流して いる。僕が見ているのを見て、からかうように外側の襞を指で開いて見せ付 ける人妻。 素肌という白いスクリーンの前で咲く赤いグラジオラス。奥の縁が褐色で ありながら、盛んにひくついて男を誘っている。茂みは長方形に生え揃い、 軽くくびれたウエストはしっとりとなだらかで、さっき見たおっぱい越しに、 淫らに目元を潤ませた悦子さんの白い喉。 僕の心はそぞろだ。彼女の家族に痴態を晒してしまうのか、夢にまで見た 淫靡な光景に本能のままに振舞えばいいのか。 「いいよ、チカ、手伝う!」 「本当にいいのよ――そこに塾のカバン置いてあるでしょ。学校のカバン置 いていってらっしゃい」 硬直してしまっている僕を哂うように、ぐちょぐちょの鼻先に近づくしこ り。鼻筋を舐めるように動くのと、 「はーい、いってきます!」 という声はほぼ同時だった。 ――どこまでもドキドキさせる人なんだろう。子供が帰ってくるなんて聞 かされてなかった。 そして、どこまでも貪欲に性を貪るんだろう。娘との会話の途中で、腰を 僕の顔に押し付けてくるなんて。 かなわない。全部悦子さんの手のひらの中で踊らされている。主導権なんて 握れないんだ。 「驚いた?娘が帰ってきてびびったの?」 興奮と動揺に目線が定まらない僕に、上から嬉しそうに尋ねる悦子さんの 口角は上がっている。 「変態だから、見られてもいいんでしょ?残念だったんじゃない?」 背筋(せすじ)が震えてしまう。年端もいかない見ず知らずの女の子に、 縛られて勃起してしまっている姿を見られるのは、最悪の恥辱かもしれない。 けれど、このシチュエーションに悦子さんの肉のひくつきと蜜の溢れ方だっ て、僕の鼓動に負けてはいない。もう、顔中は悦子さんの芳香にまみれている。 悦子さんも浮気現場を娘にみられるという、この上ないスリルに身をやつし ているのだ。 僕たちは今、微妙なギブ・アンド・テイクの中にある。 悦子さんは体をよじって、僕の下腹部を見る。 「あらあ、縮み上がらないのね。やっぱり感じたの?ドスケベなおちんちん ちゃん。さっきより、もっと大きくなってない?」 軽く筒のあたりをつかんで、上下にしごく。 「ううっ……ふうっ……うおっ……」 ふいの攻撃に、縛られた太腿が痙攣する。 「ふふふ……」 ベッドサイドの戸棚から小さな赤いビニールを掴み、口を使って破った。肌 色をしたゴムの避妊具を唇ではさみ、ずり下がって僕の節くれだったものを包 んだ。 とうとう、女の人の中に入る。期待に震えて熱く固まった血潮が、悦子さん の蕩けた花壷を狙っている。 「はあっ……ふっ……」 潤滑油をシャフトにまぶす。それだけの行為に、この人妻は扇情的に身をく ねらせる。悪戯っぽく僕の目を見て反応を楽しんでいるのだ。 「……ううう!……ううう!」 早く、早くっ!入れたい、入れたいっ! 言葉に出来ていないのに、叫ばずにいられない欲望。自分が自分でいられな い、ただセックスに支配された獣のように腰を跳ねさせる。 そのとき、口枷が外された。口の中を支配していたボールが糸を引いて顔の 横に転がった。 「利行君、何?どうしたいの?」 僕の両肩を手でシーツに押し付けて、顔の真上で問いただした。長時間拘束 されて痛むあごのせいで、声が出しづらい。 「……せっ……せっくす、したいです……」 「セックス?何、それ、どういう風にするものなの?」 ここへ来てまだ焦らそうとしている。苛立ちを隠せない僕は説明を始める。 「それは!……あそこを、あの中に」 「なあに、それ?なんだかわかんない。ーーきちんと言いなさい!」 僕はその教師のような叱責に軽い電気を受けている。具体的に悦子さんにお 願いする言葉を選んでいる。 「悦子さんの……お……おまん、こに……」 「はっきり言いなさい!」 「おまんこに!……僕の、ち……ちんぽを」 「ちんぽじゃないでしょ、こんな細っぽいの!『おちんちんちゃん』って教え たでしょ?」 僕は衝撃を覚えた。あんな恥ずかしい言葉で、自分の性器を呼ばなくてはい けないのか。カリは確かに大きくなく、鉛筆のように細長い感があるがそんな に粗末なものなのか。 けれど、そんなに粗末なもので彼女に侵入することは本当に望外で光栄なこ となのかもしれない。悦子さんと言う辛辣で意地悪な女神に服従することこそ が、するべきことなのだ。 口を開いて、小声で言った。 「悦子さんのおまんこに……僕のおちんちんちゃんを入れたい」 口が震えてしまうような屈辱。それが体中にさざ波のように甘美に広がる事 実。僕は顔を真っ赤にして、目をシーツに移す。 「あらあ、人にお願いする言い方かしら?」 「悦子さんのおまんこに、僕のおちんちんちゃんを入れさせてください」 「人にお願いするなら、目を見て言いなさい!」 あご先を指でつままれて、正面を向くように強制されて。どうしようもなく、 ぞくぞくする。 もう、逆らえない。 僕ははっきりお願いした。 「悦子さんのおまんこに、僕のおちんちんちゃんを入れて、やらしいせっくす をしたいのです」 悦子さんは、息を荒くしている。上体を起こし、高いところから僕を見下すと 黒のストッキングを履いた右足で僕の額を踏んだ。 「もう一度!」 「僕のおちんちんちゃんを、悦子さんのおまんこに挿し込みたいです!」 「こんなことする女としたいの?」 「こうしてくれる悦子さんだから、したいです!」 足を浮かせると、今度は足の指を口に突っ込んだ。もう、わかっている。ス トッキングの生地越しの足指を吸い、舐めまわし、軽く噛んだ。 「……んっ……うん……ふん…………ふふふ」 悦子さんの濡れそぼったものから、僕の腹に1滴、2滴と落ちてきた。 僕の肉棒も焦燥を露わにして脈打っている。 お互いの性器がお互いを欲している。 「じゃあ、ど変態のものを入れてあげる……」 少し狂気じみた瞳で、艶っぽい微笑を僕にくれた。 「あ、あ……入って……入ってくるの……ほらあ、ほらあ……」 膝を立てて、全部を見えるようにしておいて、手ですぼまりに狙いをつけて、 僕の肉の高まりを飲み込んでいく。蠕動とあわせて、順々と咀嚼していくように。 「はあ……はあ……悦子さんが……おちんちんちゃんを……食べていきます」 「見てえ……ずっぽり……挿し込んでるのお……」 まだ胎内に収まらない濡れそぼった陰茎を、愛液が時間をかけて、上塗りを 重ねていく。肉で、体液で僕は侵食されていく。 途中なのに、そこで前後に腰を揺らす人妻。すぼまりできつく締め付けて、 熱蜜のなかでかき混ざっている感覚。 「はうっ……あん……あっ……あっ……こすれて……る……いいの……」 やがて、ゆっくりした腰の回転。自分の膝に置いていたが、いつしか僕の膝に 手が乗り、腰を突き出すように、はしたなく漕ぐ。 「……堅いのぉ……こりこりくるのぉ!……としゆきく……かたいのぉ!」 あんなに蔑んだ僕のもので快楽を貪っている。品がよく、優しげな主婦で母親 でも、Sな女性でも、悦楽に負けるただのオンナ。 僕はぬるついた肉の鞘中で振り回されているものを、勢い良く突き上げた。根 元まで収まって陰毛と陰毛が一つになった。 「……はあああっ!……だめえ……いちばん奥……」 内臓を押し上げて、悦子さんの腰もせり上がる。膝が震え、のけぞった体に電 気が走る。同時に僕を逃がさないようにきつく絞りたてる。悦子さんは押さえつ けるように前傾して、全体重を乗せて恥骨をこすりつけた。腰を突き出して、局 部を見せ付けるかのようなポーズで乱れる。肉棒を引くときには、中の柔肉も吸 い付いているのが丸見えだ。 「ああっ、ああっ、あ、あ、あっ……」 腰の動きに合ってしまう声のピッチは、僕をいつしか面白がらせていた。動き をグラインドに変えれば、ああん、ふうんと僕のカラダを味わうように甘えた声 で鳴く。 悦子さんは僕の“おちんちんちゃん”で涙を流している。 息絶え絶えの人妻は、たまらないという感じに体を離すと、肩を上下させてし どけなく膝を開けて、僕の足元に仰向けに横たわった。その体勢で、僕の膝の拘 束具のバックルを外した。次に気だるい風情で僕の顔に顔を近づけて、手首の拘 束を外した。 「ね、起き上がってえ?」 色香たっぷりの声に逆らえずに、ベッドの上に胡坐で座る。悦子さんは寝室の クリーム色の壁紙に左手をついて、僕にまあるいヒップを突き出した。反対の手 の指で、肉に包まれた秘貝を露わにして、淫靡さが吹き零れる目尻でこう訴えた。 「利行君が、突っ込んで……」 すこし背中をよじった卑猥な曲線、太腿までの黒のストッキングから浮かび上 がるヒップの豊かさに、正直むしゃぶりつきたくなる。あんなに僕を罵った女性 が、僕を迎え入れようと一番恥ずかしいところをさらけ出している。 何も考えられずにじり寄った。背中に抱きついた。下腹に張り付くくらい屹立 したものを悦子さんの熱いぬかるみに当てた。押し込む。一気に奥をこじる。 「はあああああ!あっ……あっ……いきなり……とどいてるぅ……」 僕の勢いに圧されて、悦子さんの上体は壁にへばりついた。バンザイの状態で 壁を掻く彼女。僕の両手は、平面につぶされた乳房を揉みしだきにかかっている。 つきたての餅の柔らかさと、素敵な気分にさせるボリューム。 「……はあ、はあ、はあ……なんか……犯されてるの……すごく……強引……」 僕の顔の前で、思った言葉を我慢できずに、熱い吐息混じりに口にする。その 耳にキスして舌で味わった。 ふいに悦子さんは、バストから離せないでいた右手の中指を握り、そのまま自 らの下腹部に下ろしていく。そして、つかんだ僕の指先を彼女の蒸れ切った陰毛 の上に押し当てた。もう少し下に移せばクリトリスに当たる。 「……ねえ、ここ……ここ、目がけて……ずんずん、こじってぇ……」 ずっぷり埋まってしまったものをゆっくり半分抜いて、狙うように切っ先で肉壁 を擦る。反射的に淫肉が絞られ、頭がガクンと背中に反る。 「ああっ!……それ……それなのぉ!……はぁ……ぐちょぐちょなのぉ……」 慣れない腰の動きに肉茎が外れる。入れなおすたび空気を含んで、ぐぷっとか ぢょっという音が耳に焼きつく。僕と悦子さんで作る音だ。 コツをつかむと、慎重に腰を揺らすだけでよかった。僕は陰毛に絡めていた指 をそっと下ろし、さっき鼻先でいじった肉のしこりに円を描く。 「いやあ!……ふ、ふ、ふ……ああ!……あたしを……追い詰める……気でしょ ……あん!」 わなわなと全身で震える嬌態に愛おしささえ湧き上がった。髪の中に顔を埋め、 うなじを舐め上げる。どこまでも熱く湿り気を帯びていく彼女の中が、ゴム越し でも飲み込もうと蠕動して、抜くときにきゅっと捕まる。 「悦子さん、エロすぎだよ……セックスって、エロいよ……」 悦子さんイコールセックス。僕はぬかるみに飲み込まれるイメージの中、いつ もオナニーで感じる高まりが始まっているのを感じた。 「悦子さん、もう、出ちゃいそうだ。我慢できないよ!」 「はあ……はあ……まだだめ……もう少し……」 突きながら、右手で陰毛の中の紅い芽をつまみ、左手で乳房をつかんだ。 「ああっ!……あああああっ!……………はっ!……はっ!」 中で強く締まって、その動きが全身に断続的に、ビクッビクッと伝わる。 悦子さんは力尽きたように、僕に背を向けたまま横倒しになって、そのまま 震えていた。眼は焦点が定まっていない。 「……はあ、はあ、んっ……すご……イッちゃったあ……」 僕は女性をイカせることができたんだ! 行き場のない欲望が脈動で蠢く。張り裂けるような肉隗は、さっきまでのぬかる みを求めている。 外気に触れて、放出欲は収まりつつある。けれど女性に絶頂を味合わせた達成感 は、僕の本能を呼び覚まさせていた。自分が生物の牡であることをはっきり自覚し た。 「悦子さん、ね、もっと入れたいよ」 花を求める蜂のように、牝と化している悦子さんににじり寄る。無遠慮に白い膝 を開いて、熱くとろけた箇所をさらけ出した。 「だめえ。ちょっと触らないで……」 惚けきった顔で身体が思うように動かせない女体に、僕は覆いかぶさり、当たり 前のように挿し込んだ。奥まで。 「ん……ふああああああ!……はあ……あ……」 さっきの締め付けは無いが、あの熱の中に戻った安堵に酔いしれる。その感触に 僕ははしゃぐように身体を往復させる。 動きにあわせて揺れる目の前の乳房。その前後に踊る紅い突起に狙いをすまして、 口で襲う。舌でなぞる。鼻が肉の中に沈む。母以外の乳房に夢中になり、いつしか 両方のそれを鷲づかんで味わう。 「……利行君、動いてえ……」 僕はあまりに魅惑的な感触に、腰を動かすのを忘れていた。交互に舌から乳首を 迎え入れて、抜ける寸前まで腰を引き、限界まで押し込む。 愛液が白く濁って、根元近くでこびりついている。 「ああっ!ああっ!……すごっ……ああっ……おちんぽ!……すごい!」 あんなに蔑んでいた僕のもののことを、いやらしい言葉には違いないが、認めて くれた。僕は確かめたくて、 「悦子さん、ちんぽ、いいの?僕のちんぽ、いいんでしょ?」 だらしなく開いてしまっている唇から、絶え絶えに漏れ出る声。 「ちんぽ……いいのお!突いてえ……ちんぽで……奥う!」 とうとう言った。嬉しくて、にわかに沸いた余裕で、彼女の顔を見る。 時折、唇の上と端をなめる仕草。鮮烈な口紅と淫猥な言葉。その口を欲しいと思 った。だから、食べてしまう。吸って、中の粘膜と粘膜を一体させる、今の下半身 でやっていることと同じように。甘みをも感じる体液を味わって、湧き出るそれは 同じようにシーツに流れ落ちる。 そう考えたら、再び始まった収縮の中、ゴムで果たせない体内への射精の欲求が 高まった。 「ね、悦子さん、悦子さん!……」 動きながら、快感であらぬところに視線が泳ぐ悦子さんに語りかける。 「出そう!口に出したいよ!」 糸のように光る唾液のなごりをあごにつけて、喘ぐ悦子さんの息は必死だ。 「……はっ!……あっ!……あっ!……もっと!……もっと!」 「いいんだよね!口に出すよ!」 「いい!……いい!……ああっ……イッちゃう!」 聞こえているのか聞こえていないのか。けれど僕もすでに余裕が無く、勝手に許 しを得たと、その勢いに任せて最大限のピストンを見舞う。 「……あああああああっ!……あっ!」 「……うあっ!」 限界の限界を味わって、一気に抜いて肉棒からゴムを取り外した瞬間に、生き物 のような白い筋が、すっかり上気した悦子さんの頬と目を射抜く。僕は慌てて、半 開きの彼女の口に注ぎ込む。第2射が入っていったのを見てから、力任せに押し込 む。 もう、暴力だ。膝と下腹の痙攣と共に何度も発射する精を、強引に体内に取り込 ませようとしているのだから。 こんな快美感は初めてだった。女性を満足させ、屈服させ、自分のしたい風に開 放させた。 悦子さんは、鼻で荒い息を僕の陰毛に吹きかけて、それでも肉茎へしゃぶりつい ている。僕の全ての欲液を口腔に留まらせて、そのぬるぬると舌をからませている。 「あはあ、あ、はあ、悦子さん!……嘘だろ……ああっ……気持ちよすぎる」 大切に粘液を呑み込んでいく。そのリズムで甘噛みしながら、先端を舌で刺激す る人妻。指が肛門の前をくすぐり、奥底に残る精までも吸い尽くす。 たった今出したのに、明らかに射精欲が高ぶる。 「……あっ!……あっ!……はあ、はあ、はあ……」 咥えるペニスの黒ずみと真っ赤なルージュの対比の淫らさに耐えられなくて、達 してしまった。 もう出るものは無いのに、痺れる感覚。腰に力が入らなくて、僕はすっかり消耗 して、悦子さんの横に倒れこんだ。 二人で見詰め合った。乱れきった髪。一層艶めいた肌が美しさを倍加させている。 その髪を人差し指でなぞって僕が笑いかけると 「……悪い子」 けだるさの中、少し怒った声で顔をそむけた。 ◆◆◆ ちょうど、車内に彼女のマンションの最寄のバス停のアナウンスがあった時だった。 「…………!」 回数券をあやうく落としそうになった。真面目そうな運転手は、少し心配そうに 僕を見たが、何も無かったかのように最大限の努力をして降りた僕に、何も声をかけ なかった。 歩き出す今も、僕の中に仕込んだローターが激しく振動している。携帯電話につな いであり、コールで動く代物だ。 あれから週に2度は悦子さんのマンションに通っている。 そして、お互いの身体を蕩かしている。 今日は子供が完全に登校を終えて、主婦が家事を一段落させる午前10時のバスを 指定され、コンドームをかぶせたプラスティックの固まりを直腸に埋めて出かける ように指示されていた。 いつ何処で動くか分からないスリル。身体の中心にはめ込まれた違和感をよそに、 その恐れと期待に、僕の脳は軽く痺れていた。けれども少しも動く気配の無いそれに 拍子抜けして、何の気構えもしていなかっただけに、スイートポイントへの急激な振 動は、後頭部を殴られたような刺激を叩き込まれた。 「……ふ!……う……」 注意して息をしないと、ぎこちない歩みになる。時折横を通り過ぎる人に怪しまれ ないようにだけ注意していたら、いつものマンションに着いていた。 人がいないことを確かめる。エレベータが下りてきていないか、階段に足音は無い か、ひとしきり確かめてから、ホールのインターホンを押す。 程なく、返事がする。 「何しに来たのかしら?」 愛しくて、ずるくて、賢くて、淫らで、残酷で、美しい人妻―― 分かっているくせに。ローターは一度たりとも止まる様子は無い。 僕は、この時、はっきり言うことになっている。 「やらしいセックスをしに来ました」 SS一覧に戻る メインページに戻る |