シチュエーション
なにか音がする。なんの音? 意識が回復するにつれ、自分がものすごいきつい姿勢を取らされていることに気がつき慌てて目を開けた。 「きやっ?!」 いきなり視界に溢れたフラッシュに怯え、強く目を閉じる。 …なに…写真?! 「いやっ?!」 がむしゃらに動こうとして未だに両手首が拘束されたままなのに気がついた。 「いやっ!」 「起きたのか」 白いベッドシーツの上に薔薇の花びらが撒いてあった。その中央で足を大きくM字に拡げた格好で拘束されている。すっぱだかにされ、ポーズをとらされていたのだ。背中を支える者に気がつき恐る恐る振り返る。いろはが無表情に服を着たままさやかの上半身を支えていた。 「なん…なんなの」 空調が効いていてひんやりしている。窓もカーテンも引かれ部屋は夜の闇より暗かった。 「なんなのっ?!」 さやかが悲鳴を上げる。だが、自由にならない身体をただ揺さぶるしか出来ず再び泣き始めた。 シーツに乗せられてた踵が皺を作り寄せ、薔薇の花びらが場所を変える。 「…アングルが変わるな」 膝が揺れるため写真が安定しない。 溜め息をついて、薫はカメラをテーブルに置いた。 「いろは、腹が減った。運んでくれ」 急に、背中を支えていたいろはが動き、支えを失ったさやかはベッドに放り出された形になった。 天蓋を飾る刺繍が涙で滲む。涙が止まらずこめかみに流れ落ちて行く。髪が涙で湿った。でも構わず泣いた。 「何て言って欲しいんだ?」 急にベッド脇から声がして、さやかは身体を捩らせた。 「…帰して」 「何て言って欲しいと聞いた」 「うちに帰してっ!」 叫ぶような声を上げたさやかにやれやれと薫が頭を掻く。ベッドサイドに置いてあった椅子を持って来て座ってさやかを見た。 さやかの涙が溢れた目が薫を見る。泣きすぎて目が腫れぼったくなってる勿体ない、薫はそう思った。 「…写真…撮ったの?」 柔らかい曲線で出来た唇が震える。ふっくりとして愛らしい唇だった。 「それが?」 「今すぐ消してっ!」 ああだこうだとうるさい人形だ。薫は、深い溜め息を吐きながらカメラを指さした。 「消せって言われても無理だよ」 「消去してっ!」 何を言っているんだと薫が顔をしかめると、扉を開けながらいろはが答えた。 「薫様、デジカメと勘違いされているんだと」 薫が嫌そうな顔をした。慌てたのはさやかだ。デジカメじゃないカメラって何っ? 「…説明が面倒くさい。もういい、喋るな」 いろはが手際良くテーブルに食事を並べていく。部屋にいい香りが流れた。 「スープはなんだ」 「ジャガイモの冷製スープですね」 「ふじにしたら、珍しい」 薫が機嫌良さそうにテーブルにつく。裸でベッドにくくり付けられている女の横で、何事もない様子で食事を始める薫。 さやかは強く目を閉じた。狂ってる。この家は狂っている。 「いろは、アルコールは?」 「零時までお待ちを」 軽く舌打ちし、薫が炭酸入りの水を飲んだ。 「なにもかも、零時だ」 つまらなさそうに呟く薫にいろはが笑った。 「静様のを掠めてる事は存じてますが」 「人聞きの悪い。日本が厳しいんだよ…っとに」 小さくパンを千切りながら首を傾げた。 「お前は二十歳すぎてたな」 いきなり声をかけられ泣いていない事にさやか自身が驚いた。あまりの異常な事ばかり続くので頭が麻痺したようだった。 「質問に答えろ」 そう言われ、微かに頷く。 「少し素直になったか」 楽しそうに笑い、薫はデザートの果物を乗せた皿を引き寄せた。メロン、巨峰、マスカットなどが乗っている。 さやかは何となく分かった。この薫という男は…逆らわなければ…多分、ひどいことはしない。 だから…ひどい事をするなら…さやかは視線を薫の後ろで給仕をするいろはを見た…この男だ。 「質問に答えたら、食わせてやる」 ベッドが軋んだ。さやかの頭の横に薫が腰を下ろす。だが、それでもゆうに一人分大の空間がある。ベッドが異様に大きい。180ある薫が腕を伸ばしてようやくさやかの口元に手が届くぐらいだ。 「お前、20だろ?」 頷く。薫が嬉しそうにメロンをフォークで細かく切り差し出した。甘い香りがする。口元に差し出され薄く唇を開ける。唇に触れそうで触れない。さやかは困ったように目線を薫に向けた。 「舌を伸ばせ」 しばらく考えていると、メロンが口元に押しつけられた。慌てて口を開く。すると、またフォークが引く。 「なにをしてるんだ」 からかう口調に諦めたようにさやかは舌を伸ばしてメロンを口の中に落とした。 甘い…豊潤な香りと瑞々しい水分が口の中に拡がる。 「酒を飲んだのは幾つだ?」 同じフォークでメロンを口にしながら薫が聞く。さやかはメロンを飲み込み、一度溜め息をついた。 「お屠蘇なら…子供の頃からよ」 「…おとそ?」 首を傾げる薫にいろはが笑う。 「そう言われたら、薫様は正月は日本にいらっしゃいませんね」 「日本の風習か」 「正月の風習です」 ふうんと頷いて、薫が今度は巨峰を手に取った。丁寧に皮を剥いていく。紫の汁が薫の指を伝う。 「汚れます」 いろはが薫の膝にナプキンを敷いた。 「捨てればいいだろ」 「さすがに一日三枚捨てられたら、静様に呆れられますよ」 そういえば、応接室で会った時は白のパンツだったが…今は、バーバリー特有の柄が入ったズボンに変わっている。 「口、開けろ」 はっと反射で唇を開けると、巨峰を摘んだままの指が降りて来た。巨峰だけを噛もうとして…指が退けられず、目線で伺う。 「舐めろ。汚れた」 巨峰の汁で塗れた指を口に含まされ…さやかがためらうように舌を伸ばした。薫の親指と人差し指を舐める。薫が指先を包む感覚に軽く笑い、巨峰を落とした。 「煙草は?」 「吸わないわ」 巨峰の種をどうしようと軽く眉を寄せるといろはがぐい、と顎を掴んだ。 「んふっ…?!」 いきなり口に指を突っ込まれ種をすくいとられる。いきなり口の中に指を突っ込まれる感覚にさやかが再び涙を浮かべた。 「…ひどい」 薫に訴える。なぜか、そうしていた。薫といろはの力関係を感じたのだろう。薫は別に気にしてないようにいろはが差し出した皿に種を吐き出した。 「葡萄は嫌いか?」 そうじゃない…。ただ、いろはに触れられるのは…怖い。 「男はいつだ」 あっさりと聞かれた事にさやかは顔を赤く染めた。答えられず、口を噤む。 「…答えられない事か?」 不思議そうに薫が呟き、巨峰を口にした。 「答えろ」 ベッドが軋む。薫が膝で進みさやかの開かされた股の間に胡座をかいた。 「いやっ?!」 いろはがさやかの腰の下にクッションを押し込む。 「いろは、足の縄をもう少し長くしてくれ」 「いやぁっ?!」 さやかが悲鳴を上げた。50cm程、縄が伸されまた括られる。足の間にいる薫を蹴飛ばそうとしたが、あっというまにいろはに拘束された。 さやかの顔の上をいろはが跨ぎ、逆八の字に足を開かせる。腰が浮き上がるほど身体を屈折させられてさやかは再び泣き始めた。 「ひどいこと…しないで…」 暗いとは言え、ベッドサイドの灯は充分さやかの秘裂を照らす。いや…いろはがベッドサイドからペンライトを薫に差し出した。 カチと捩じる音がして眩しい光がさやかの視界を奪う。 「いやっ!」 「質問に答えないからだろう」 「いやっ!」 「いろは、どこだ?」 ペンライトの光が揺れる。いろはが身体を伸ばした。なにをしようとしているのか気がつき…さやかは呆然とした。 「これが、クリトリスです」 「…い…や…」 「なんだ…わかりにくいな」 薫の指先が触れた。 「興奮すれば、大きさが変わります」 「ペニスみたいだな」 「ま、そんな所です」 「いやよ…やめて」 さやかは強く目を閉じた。閉じた瞼をとおしても、ペンライトの灯が揺れるのが分かる。 やめて…見ないで。 「これが俗に言う花びら…というものですね」 「ああ、浅子さんがピアス開けた所か」 いやよ…やめて…お願い、見ないで。 さやかの身体にうっすらと汗が浮かび出す。いろはに掴まれたままの両足が震え出す。 さやかが、はう…と喘いだ。 「…今、口を開いたのはなんだ」 「そこが、おまんこです」 「いや…」 薫の指が軽く沈む。さやかは身を捩った。だがいろはは、足を放さない。 嬲られる…。さやかは軽く息を弾ませた。視線に犯されて、指で犯される…。 「いろは、これは毛は多い方か?少ない方か?」 「いやあっ?!」 いきなりの質問にさやかが悲鳴を上げた。いろはが笑う。 「まあ、普通といった所かと」 「サンドラにはなかったぞ?」 「あちらの国の事情でしょう。永久脱毛する女性もいますから」 ふーんと呟きながら、さやかの陰毛を指で捏ねあわせる。 「どういたしますか」 「邪魔だから、剃る」 「やめてぇぇっ!」 さやかが大きく身を捩った。なにかが壊されてしまう。そんな恐怖だった。いろはから逃れようと、足を闇雲に振り回す。腰の下に置かれたクッションは跳ねて転がった。いきなり暴れ出したさやかに薫が眉をしかめる。 「いろは!」 「動くな」 「いやっ…む…ぐ」 いきなりさやかの顔に体重がかかった。見開いた目にいろはのズボンの尻が当たる。 顔を潰すように腰を下ろされ、さやかは呻いた。息ができない…。暴れていた足が力なくシーツに投げ出され、さやかの身体からも力が抜けていく。 「…今度暴れたら、首を締める。いいな」 いろはの言葉が酸欠で耳鳴りがし始めた耳にようやく届いた。 分かった…というように手枷がはめられた両手首を一度鳴らす。ゆっくりといろはの身体がさやかの顔から離れていった。 「ひぃ…くっ、えっ…」 さやかの唇からは子供がしゃくりあげるような声しか上がらない。 壁に凭れ、コーヒーを飲んでいた薫が疲れたように軽く目を閉じた。 「兄さんも、徹哉もこんなに疲れたのか?」 いろはがさやかの足から手を放しながら笑う。強く握りすぎてさやかの足首に指跡が浮いていた。部屋の隅から縄を二本持って来て、さやかの膝を持ち上げて今度は枕元の柱に結ぼうとする。 「待て、いろは」 膝を掴んだままいろはが薫を待った。薫がコーヒーカップをテーブルに置き、ベッドに近付いて来る。さやかが涙が止まらなくなった目で薫を見た。 「暴れるからだ…怖かったか?」 思わぬ優しさで顔に手をかけられ、その優しさに必死に縋る。 「こ…わ、い…」 息ができないのは、ただただ恐怖心にしかならない。さやかが顔を添えられた手に大きく擦り付けるような動きをした。 「良い子だ。」 初めて、薫がさやかに唇を重ねた。コーヒーの香りがする。その香りを吸い込むようにさやかは自分から大きく口を開いた。薫の舌が絡む。少し苦いコーヒーの味がする。 薫が、唇を放した時、追いかけて舌を差し出したのはさやかだった。その舌に気がつき、軽く薫が歯先で噛む。 「いろは。このままでいい。準備しろ」 有無を言わせぬ薫の言葉にさやかは諦めたように息を吐いた。 綺麗に剃り上げられる間、さやかの両足を支えていたのは薫だった。だが、さやかが薫が触れる所にいることに安心したのか、抵抗はしなかった。 「暴れるなよ」 薫が髪を梳きながら額に唇を当てると小さく頷いてキスをねだった。それに答えてやる。 片刃の剃刀が丁寧に剃り上げていく。薫がそばに居る限り…いろはは怖くない。さやかは深く溜め息を吐いた。 「風呂の用意を致します」 「頼む」 さやかの秘部から顔を上げたいろはが小さな盆に乗せた道具を揃えて部屋から出ていく。いろはの姿が消え、初めてさやかが身を捩って薫に身体を寄せた。 「どうした」 「あの人に…触らせないで」 「いろはか?」 薫の言葉に、さやかが胸に顔を埋め頷く。軽く良い香りがした。ブルガリのトワレだ。薫が困ったようにさやかの肩を抱く。 「…いろはに触らせなかったら…後は構わないのか?」 深く意味を考えなかった。ただいろはに触られない事が約束してもらえればよかった。さやかが大きく頷く。その顎を捉えた。 「いろはに触らせない。」 薫の目に見つめられ、さやかは感謝のまなざしで薫を見つめ、顔を上げ口付けた。 「…だが、あとはいやは無しだ」 薫の言葉に小さく頷く。今度は薫がさやかに口付けた。 「すっかり嫌われましたな」 二人分のシルクの寝間着を揃えていろはがベッドの足元に立っていた。さやかが薫に身を寄せる。 「動くな。縄跡がひどくなる」 薫に鋭く言われ、さやかは身体を動かす事をやめた。 「私が縄を解いてもよろしいでしょうか」 慇懃に聞かれ、さやかが怯えたように薫を見る。薫が笑った。 「縄を解くぐらいは構わないだろう」 さっき、触らせないと言ったのに…そう反論しようとしている間に縄が解かれた。 「触れずにできました」 いろはの口調にさやかがきょとんとし、薫が大きく笑った。 手枷も外されて、ようやく自由に身体が動く。さやかは、紫色に腫れた手首と足首を見て半泣きになった。足首は特に擦過傷ができ傷になっている。 「ひどい」 「よく暴れたな」 感心したように薫が手首に唇を当てた。その手に海綿を渡す。 「洗え」 薫に海綿を渡され、何をどうしていいのかわからぬままさやかは洗い場に突っ立った。 「…何をしてる」 檜でできた小さな椅子に座った薫が呆れた顔で立ち尽くすさやかを見上げる。 洗えって…まさか、薫を?男の広い背中に戸惑う。人の身体など洗った事などない。諦めたように薫がさやかから海綿を取り上げた。 「おい、しゃがめ」 言われた事が分からずさやかが一歩後ろに下がる。あーもう、面倒くさいとばかりに薫が腕を振った。 「きゃあっ?!」 パアァンと良い音が浴室に響く。痛みよりも音と、尻をひっぱたかれた事に驚いてさやかは慌てて薫の前にしゃがみこんだ。 「ぶたないでっ」 「じゃあ、いろは呼ぶぞ」 「居ますよ」 脱衣所からいろはの笑いを含んだ声がしてギョッとさやかが振り返った。 「入ってこないでっ」 「お前がもたもたするからだろう」 薫がさやかの肩を掴み、自分に背中を向けさせる。白い薄い背中が震えていた。背中の真ん中を背骨が綺麗に走っている。肩甲骨の丘が二つ浮き出ていた。 「…今更、胸隠すか」 「いやっ!」 明るい浴室に、さやかの身体に羞恥の紅がさす。 「いやって言ったか?」 「言ってないっ!」 慌てて首を振ったさやかに脱衣所からいろはの忍び笑いが聞こえた。 薫がオリーブで出来た石鹸を海綿に擦り付け、2、3度揉む。そしてゆっくりとさやかの首に海綿を押し当てた。柔らかい感触にさやかが小さく震える。海綿を滑らそうとした時、脱衣所から声がかかった。 「薫様、掛け湯を」 薫がぽかんと口を開ける。その顔を見て…さやかも笑った。 大人がゆうに三人入れる広さの檜風呂に浸かり、さやかは大きく溜め息を吐いた。身体も心もほぐれる。だが…子供のようになってしまった秘部を見て顔を曇らせた。こんな身体じゃ銭湯にも行けない。 「どうした」 背中から腕が回り湯の中で引き寄せられた。さやかの背中に薫の胸が当たる。さやかの太股に薫のペニスが当たり、気がつかなかった振りをして身を捩って避けた。 「…お風呂の入り方も知らないなんて」 薫が指先でさやかの乳首を弄り出す。さやかの肩が震えた。 「留学が長かったんだ」 小学校からスイスの全寮制の学校にいた。高校からアメリカに留学して、そのままアメリカの大学に入った。そこを飛び級で卒業し… 「え…」 さやかが驚いたように振り返った。お湯が揺れる。 「来年…受験だと」 家庭教師のバイトでは、そう言われた。 薫がさやかの疑問に気がつき、頷く。 「日本の経済を日本語でちゃんと学ぶ」 「だけど…アメリカの」 「大学を二個出たらいけないなんてないだろう」 大学を二個と数える辺りが不安なんだろう。日本語の言葉は難しい。だが、日本で経済を動かすなら必ず必要になる。 「…私はなんの為に…ここにいるの?」 「俺の相手をするため」 唇を重ねられ、さやかが目を閉じる。そういう事ではないような気がする。なんだろう…この、囚われ感は。 「大木様は、最初から選ばれておいででした。」 脱衣所から聞こえて来るいろはの声に、さやかが耳を傾ける。 「薫様に、相応しい女性を探しておりました。」 あのさやかと面接をした男は200人近くの人間と会っている。その中で、大木 さやかが上がった。近辺調査までして親の会社まで調べた。 「父の会社…まで?」 さやかの手が震えた。だが…その切り札を見せたということは…さやかが薫を見る。 「…私は、何?」 「一応、おもちゃ兼、恋人兼、婚約者兼、愛人兼、妻兼…俺の筆下ろしをする人」 バシャンと大きく湯が揺れた。さやかが強く薫に抱き締められ深いキスを与えられる。 「目茶苦茶だわ…」 この半日、なにが起こったのか分からないままだった。荷物は消え、吊されて、気を失って…写真を撮られ、秘部を細かく調べられた。 いっぱい泣いた。このままここで飼い殺されるかと思った。 「…これだけ調べたら、普通、なんていうか自然を装って…」 薫は、目鼻立ちもはっきりしている。普通に歩いていても目を引くだろう。その薫とただ普通に出会い…そう考えていたら、また噛み付くように唇を重ねられた。 「そんな事してるまに、さやかは兄さんに会って好きになるのさ」 自嘲気味に言われ、さやかが首を傾げる。それをフォローするようにいろはが答えた。 「静様は、薫様が大変心配なのですよ」 薫に悪い虫が付く前に、虫を自分に引き寄せて潰す。薫が物心ついたころから静がしていた事だった。 「ただ、薫様も責任は考えていただくように…」 「いろは、出ろ。説教はもういい」 いろはの気配が消える。薫は深く息を吐き、湯船に身体を凭れさせた。 「…あなたは、なんなの」 薄ら寒くなる。この男は誰?なにもの? 「ただの坊だ。一族企業の本筋の次男坊だから期待はされてないが」 だが、スキャンダルはうるさい。ある程度なら揉み潰されるがさすが下世話な週刊誌に追い回されるのは真っ平だった。 一族は、二十歳すぎたらとっとと結婚する。あとは愛人がいようがなんだろうが構わないのだ。相手さえ選べばそれで許される。 「…私…怖いわ」 思わず呟いたさやかに優しく口付けた。 「安心しろ。さやかにも先輩がいる」 言われた意味がわからず、首を傾げる。 「俺の兄さんの嫁の浅子さんと、従兄弟の徹哉の婚約者の美沙子だ」 「会う事があるの?」 薫は頷いた。 「俺が気に入ったからな。さやかは、もう俺から離れられない」 「俺が私から離れられない…って言うのよ」 さやかが混乱している頭をそっと薫の胸に当てた。いろんなことを言われたが…自分も一つ、伝えていない事がある。 「…男は、19よ」 薫の手がさやかの髪を撫でた。 「初めてが良かった?」 「いや、今のさやかがいいから構わない」 はっきりとした口調にさやかは小さく溜め息を吐いて身体の力を抜いた。 のぼせる前に脱衣所に出ると、レモンの輪切りを浮かべた水差しが置いてあった。 「水飲めよ」 薫に言われて、グラス二つに水を注ぐ。そういえば、この屋敷に来て初めての飲み物じゃないだろうか…さやかが勢いよく飲み干したのを見て、薫がそのグラスに水を注いでやった。 「喉渇いていたのか」 「多分…」 あれだけ泣いた。脱水症状が現れなかったのが不思議なぐらいだ。 「寝室に戻るぞ」 軽く身体を拭き、そのまま歩き出した薫に慌てて、いろはが用意したシルクの寝間着を身に着けて追う。 先程の寝室の扉を開き…一瞬、薫の足が止まった。 「…なに?」 後ろから部屋を覗き込む。そして目を丸くした。 部屋中にばらまかれた花びら。薔薇の香りで噎返るようだ。テーブルには冷えたシャンパンとクリスタルの足の高いクリスタルシャンパングラス。そこには、一枚ずつカードが差し込まれていた。 『誕生日おめでとう!おめでとうの数だけ幸せがありますように。兄より』 『童貞卒業おめでとう。やっと知識が実践できるな。徹哉より』 唖然としたさやかの前で薫が悔しそうに徹哉のカードを握り潰した。 「あのやろ…」 覚えておけよ…と呟く薫がはっと時計を見た。 「…零時すぎたのか」 しばらくなにかを考えるように時計を見ていたが、急に嬉しそうに口元を緩め、さやかの腕を取った。ずかずかと花びらを踏み散らし、ベッドにさやかを突き飛ばす。 いきなりの事にさやかが目を白黒させた。 「なに?どうしたの?」 「二十歳だ!成人したんだっ!」 喜びを爆発させるようにさやかの唇を奪う。 「だから、なにっ?」 「日本で、酒も煙草も好きにできる!これでどこに行っても、俺を束縛するものはないっ!」 …いろいろと、なんか言いたい事はあるが…さやかは、ちょっと複雑に笑った。酒も煙草も…早い人なら、二十歳待たずとも…。 だが、どうも目の前にいる青年は、そういう決まりは守るべきだと言われて来たんだろう。…そう思うと、少しかわいかった。 さやかの手が薫の手に重ねられる。 「…とりあえず…酒と、煙草と…私…どれからにする?」 薫が当たり前だろうと笑った。 「お前は俺のプレゼントだ。一番にいただく」 薫の手が、さやかの寝間着を乱暴にひんむいた。 ベッドで口付けを交わし、啄む口付けから舌を絡める口付けに変わる。舌が柔らかくさやかの口を蹂躙する。溢れた唾液を我慢できず、さやかは音を立てて飲み込んだ。 薫の指がさやかの乳房を一度試すように柔らかく揉み、指で柔らかさを感じる。さやかが身体を捩った。足を崩して座った太股に思った以上の早さで愛液が伝っていく。 「なんでもじもじしてる」 唇を放され、そう聞かれた。さやかが困ったように俯く。身体が期待している…初めての男、それも相手は未体験だという。口にしたらはしたないと言われそうだった。 「足が痛いのか?」 ふくらはぎに手を滑らせた薫に慌てて首を振った。薫の手を取り…恐る恐る自分の剃り上げられた秘部に導く。 薫の指が温かいぬるま湯のような状態のさやかの秘部に驚いた顔をした。 「…すごいな」 顔を赤くしてさやかが俯く。はしたない…。だが、薫は嬉しそうに差し込んだ指を揺らした。 「さやかは、感じやすいんだな」 薫の両手がさやかの股にかかる。口付けを交わしながら薫がさやかの足を拡げた。M字型をとらせるように開かせてさやかが落ち着くまで唇を重ねる。 「見るぞ」 そう呟かれ、小さく頷いた。薫の身体が離れる。さやかは強く目を閉じた。薫の指がつるつるになった秘部を片手で器用に寛げる。 「ぁ…ふ」 こぷ、とまた溢れた愛液にさやかは熱い息を吐いた。愛液が伝う。薫が笑った。 「シーツがお漏らししたみたいになるな」 「いやっ!」 慌てて足を閉じたさやかに、薫が表情を消した。 「開け」 「いやっ…」 薫の顔が険しくなる。 「いろはっ!」 さやかははっとした。いろはに身体を触らせない、だからいやはなしだと… 「いやっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ」 身体を起こした薫にすがりつこうとして突き飛ばされた。突き飛ばされてもまた、薫の腕にしがみつく。泣きじゃくりながら謝っていた。 「ごめんなさい…もう、言わないから…ごめんなさい」 「さやかは、我が儘だ」 冷たい口調で言われ、勝手に涙が零れた。我が儘なのはどちらなんだと思うが…なぜか、薫に言われると自分が小さな子供になった気がする。 「お呼びになりましたか」 いつの間にか、いろはがベッドの足元に立っていた。さやかが顔に手を当てて泣きじゃくる。 なんのことはない…ただ、からかわれて恥ずかしかっただけなのに…お漏らしなんて。 「さやかが、いやいやばかり言う」 溜め息を吐いた薫にいろはが、首を傾げる。 「いやがっているようには見えませんが」 薫にそう答え、さやかに聞く。 「いやなのか?」 さやかはいろはの言葉に首を横に振った。薫が目を丸くする。 「いやって言ったじゃないか」 「もう、言わないな?」 いろはの言葉に頷く。いろはが薫を見て笑った。 「だそうです」 薫がなにかを考えるようにベッドから下りた。足元に撒き散らされた薔薇の花びらを一枚ずつ拾ってシーツに落としていく。 いろはが、部屋の片隅のテーブルに置いてあったカメラを持って来た。ストロボの電源を入れる。古い形のカメラだ。いろはがフィルムを巻く音が部屋に響く。 なにが始まるのか…さやかはゆっくりと理解した。 「足を開け」 いろはがさやかの足元のシーツを伸ばす。皺を伸ばされたシーツの上に震える膝を薫に向って立てた。鼓動が早くなる。私は何をしようとしているの…。なのに勝手に身体は動く。 薫がいろはからカメラを受け取り、レンズの調整をする。 「いろは、部屋が暗い」 いきなり部屋の灯がつき、さやかは目を閉じた。膝が倒れそうになる。だが…堪えた。 「そのまま…開け」 足元に薔薇が散ってる。拳一つ開くのにも思った以上に辛い。 「さやか、顔上げろ」 目を閉じていた顔になにかが触れた。水で湿らせたタオルだと気がつき、目を開ける。いろはが涙で汚れたさやかの顔を拭っていた。 「薫様は、綺麗に撮ってくれます」 さやかが頷いて、また足を拡げる。いろはの手がさやかの腕を背中に回した。胸を突き上げる姿勢をとらされる。 「手伝いますか?」 いろはの言葉にさやかは涙を浮かべた目で頷いた。自分ではどうしても…これ以上足を拡げられない。 いろはの手がさやかの膝裏に回り…容赦なくぐいっと拡げた。ぱっくりと拡げられた秘部が外気に触れひんやりする。さやかが堪えられないようしゃくり上げた。 「動かずに」 いろはの手が離れていく。 シャッターを切る音が部屋に響く。しばらくすると、その音にさやかの甘い喘ぎが混じり出す。 身体が薄くピンクに染まり、下唇を軽く噛んだ歯がなまめかしい。軽く喉をのけ反らせ、肩で喘いでいる。喘いでいる呼吸に合わせ、尖った乳首が震えていた。 折り曲げられた臍が苦しそうに震え、すぐその下にあるはずの茂みは無い。恥丘のすぐ下からぱっくりと秘裂が拡げられ…クリトリスがツンと尖っていた。そして、たまに口を開いては閉じる腟口。 溢れる愛液は枯れる事を知らぬようにシーツに染み込んでいく。 「…綺麗だな」 ようやくカメラを置きながら薫が呟いた。薫もファインダー越しに興奮したのだろう、ペニスが鋭い角度で天を向いている。 いろはが頷いてカメラを受け取った。 「薫様…」 「なんだ」 「…言い忘れておりましたが…」 いろはが、軽く頭を下げた。 「女のいやは、甘えでございます」 薫が溜め息を吐いた。 「そうなのか?」 さやかが顔を赤らめて頷く。 「じゃあ、いやと言ったらどうしたらいい」 さやかが震える唇で答えた。 「…あなたの…好きにしていい」 いろはがカメラを持って部屋を出ていく。薫はゆっくりとさやかの拡げられた足の間に身体を進めた。 「どうしたらいい?」 さやかが目を閉じて呟く。 「…中を、ほぐして」 「はっきり言え」 薫の言葉に、泣きそうになる。だが、堪えた。 「…指を、入れて」 「おまんこにか」 いきなり薫の口から飛び出した単語にさやかの方が真っ赤になる。だが、頷いた。19歳で体験したが、二、三度で別れた。その後一年程自分でもそこに触れていない。 「多分…きついの」 指が軽く触れ、さやかは息を吐いた。軽く掻き回すようにしながら薫の指が潜り込んで来る。 「熱いな」 さやかが頷いた。さやか自身も熱い。しばらく指一本で中を探っていたが、一度抜かれた。 「二本、いけるか?」 さやかが頷く。 「大丈夫…」 中指と人差し指を揃えて薫が再び入って来る。さやかが軽く身体をのけ反らせた。 「…倒れて…いい?」 薫の片腕がさやかの背中を支えベッドに横にならす。 「中がうねってる…」 「お願い…あの…」 イキそうでイケない。強い刺激が欲しくて、さやかは身を捩った。 「なんだ」 「あの…」 薫には口にしないと伝わらない。さやかは顔を手の平で覆った。 「あの、ね…その上の…」 「…その上?」 薫がようやく気がついたようにクリトリスに目を向けた。昼ペンライトで見た時より確かに幾分大きくなってる。 「クリトリスがどうした」 さやかは、もどかしさと焦れったさで思わず自分の指を伸ばした。指をクリトリスに添えるようにして円を描く。 「あんっ…あ」 きゅうっと指を柔らかく噛む感覚に薫が驚く。さやかの指先の動きが早くなる。薫の指から愛液が手首まで伝った。 「動いてっ…」 さやかが思わず口走る。薫がゆっくりと指を動かし始めた。 浅く、深く…掻き回すように、天井のざらざらを擦るように。 「ひぁん…やっ」 指を取り巻く肉襞が次第に強い力で薫を捉えていく。 「…どうした」 「イキそう…」 「構わない…イけ」 薫の指がさやかの入口付近のざらざらを強く擦るように動かす。さやかが喘いだ。腰から快感が突き上げて来る。だめ…いや… 「いやぁっっ」 身体を突っ張らせてさやかは息を止めた。股を強く締め付け薫がさやかの痴態を上から瞬きもせず見下ろす。 胸から一気にさやかの身体が紅色に染まった。顎がかくっかくっと空気を求めて動く。 薫が耐え切れなかった。力が入ったままの足を無理矢理持ち上げさやかの身体を無理に折り曲げる。苦しげにさやかが呻いた。 閉じられた秘部の間に指を添え、そのまま、一気に突き込んだ。 「はあっ…いやっ…」 「狭い」 薫が呻くように呟く。叩き付けるように捩じ込まれ、さやかは泣きながら身体を捩らせた。 「苦しいっ…やめてっ」 だが、薫の耳には入らなかった。肩に担ぎ上げたふくらはぎに軽く歯を立て射精を逸らす。薫の息も荒い。 さやかも揺さぶられるまま再び、快感が襲う。 「締め付けるなっ!」 怒鳴りつけられて泣いた。自分ではどうしようも出来ないのだ。 「くそっ…」 さやかの中で、薫の強張りが強くなる。それを感じさやかがまた身体を捩じった。このまま…イケる。 「来て…」 さやかが腕を伸ばした。薫がきつく顔をしかめる。 「来てっ!」 さやかが叫んだのと、薫が激しく胴震いしたのとほとんど同時だった。 …笑い声に目が覚めた。ぼんやりとしていると横にいた男が身体を起こした。 誰… 「起きたか?」 そう顔を覗き込まれ昨日の事が一気に蘇る。また、下で笑い声が弾けた。 「誰…?」 ベッドの上で薫に身を寄せる。知らない声に怯えた。 軽くノックの音がしていろはの声がした。 「皆様お待ちです」 「わかった」 薫がベッドから下り、いつの間にか置いてあった麻のガウンを羽織る。さやかにも投げた。 「このままでいい。」 でも…とさやかが顔に手をやる。寝起きの上に…ガウンだけなんて…しかも、階下からは女性の声もする。 「気にするな。兄さん達だ」 「顔だけでも、洗わせて」 「3分で洗って来い」 薫が窓を開けながら笑った。 階段を薫に手を引かれながら下りる。昨日通された応接室の前にいろはが立っていた。 「お誕生日おめでとうございます」 「うん」 いろはの言葉に薫が頷く。そういえば、誕生日だと言っていた。さやかが思わず足を止めた。腕を引かれ、薫が振り返る。なんだ?という表情に…困ったように呟いた。 「お誕生日…おめでと」 薫が破顔して笑う。急に抱き締められてあっというまに抱き上げられた。 慌てて、さやかが首にすがりつく。いろはが笑いながら扉を開いた。 部屋の中には二組の男女がいた。麻のサマースーツを着た男が目を丸くして煙草を落しかけた。 「お姫様だっこか…」 その横で、胸元を深く開けたワンピースを着た女性が微笑む。ストレートに伸びた髪が開け放した窓から入る風に揺れた。 「薫さん、大喜びね」 昨日さやかが座っていたソファに座っていた二人も振り向いて笑った。男が軽く髪を掻き揚げる。 「あー、俺の支払いか」 「徹哉様が、変な事言い出すからだわ」 膝を叩く仕草に、仲がよさげに見え…さやかは少し肩の力を抜いた。薫が赤い革張りの安楽椅子に勢いよく座り、さやかの足を手摺にのせる。横抱きのまま座らされてさやかは顔を赤らめて薫の胸に伏せた。 「紹介する。あの煙草が兄の静だ。その横の人が義姉の浅子さん。ソファに座ってるのが従兄弟の徹哉で…」 さやかの前に、影が出来た。可愛らしい人形のような顔をした女の子がさやかを覗き込む。 「私が、美沙子です。」 軽く頬に唇を当てられさやかは困ったように頬を赤くした。 「なんの話をしてたんだ?」 薫が徹哉に聞いた。 「毎年の事だよ。」 うんざりという顔で天井を見上げる徹哉に浅子が笑う。 「薫さんが、無事にさやかさんと…ね」 続きを静が受ける。 「男になれてたら、徹哉が払うと言ったんだ」 「ああ、秋のクルージングか」 そう言って、薫が笑った。意味がわからずさやかが目の前に立っていた美沙子を見る。同じ年だろうか…。 「あなた、ダンスは出来て?」 美沙子に聞かれ首を横に振る。すると美沙子の横に浅子が立った。甘い香りがする。大人の女性の香りだ。 「見てるだけよりは、踊れた方が楽しいわ。毎晩パーティよ」 「シガーバーに、カジノにダンス。ショーにプールだ」 浅子の横に静が立つ。その横に徹哉も立つ。いつの間にか、薫が座る椅子の回りに輪が出来ていた。 「誕生日、おめでとう」 静が慈愛を込めて薫に祝いの言葉を述べる。薫が頷いた。 「ようやく、大人になった」 薫の目が光る。それをさやかは静かに見つめていた。薫の手がさやかの手に重ねられる。 「知らない事ばかりだ」 徹哉が笑った。 「当たり前だ。昨日までただの子供じゃないか」 「もう、子供じゃない」 薫の言葉に美沙子と浅子が笑う。 「仲間外れはなしだからな」 明るい笑い声が響いた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |