シチュエーション
![]() ちいさな小料理屋。 細長い店内はカウンターしか席がなく、すべて調理場の女将と差し向かいで酒を飲む、そういうタイプの店だ。 切り盛りしているのは数年前に亭主に先立たれた女将さん。 地元の馴染み客でそこそこ繁盛はしているものの、生活が豊かとはいえない。 「おかみ、『トイレ』借りてぇんだが。」 馴染み客の一人、商店街で乾物屋を営む壮年の男が、カウンタの向こうで働いている女将に声を掛けた。 「・・・・・・ああ、空いてるよ。」 女将は、男がカウンタの上にあるビール瓶の陰に隠すようにして置いた、数枚の紙幣をちらりと見たあと、そう言って応えた。 「おう、じゃあ借りるぜ。」 そして男は、小さな小料理屋の奥にある手洗い所、ちょうどそこの側にある階段に、靴を脱いであがっていった。 その階段は、二階にある部屋に向かう、住居と店舗の境目になる階段だ。 ノックの音。 「・・・はい。」 その部屋の主、高校生になる少女が、勉強の手を止めて応えた。 「いま、いいかい?」 「・・・・・・いいですよ。」 少女は部屋のドアをあけた。小料理屋の常連であり、自分にとっても常連である、顔見知りの男。 「そっちのへやにどうぞ。」 彼女はできるだけ物音を立てないように、部屋を出た。 案内した部屋は、昔は父親と母親の寝室だった。幼い頃母を亡くし、再婚した今の継母はこの部屋で休むのを嫌い、別の部屋に夫婦の床を敷いた。 そして父親までもなくした今、この部屋はもっぱら、高校生の娘の商売のために布団が敷かれている。 彼女は、部屋に置いてある安い電気ポットからぬるい白湯を注ぎ、男に勧める。 酒やタバコの臭いを少しでも濯いでほしかったのだが、男は軽く手を振って拒んだ。 今夜も、もう遅い時間だ。それでも近く学校の試験もあるから、このあとも勉強しないといけない。 できるだけ早く終わらせたくもあったが、この男がねちっこいセックスを好むことを彼女は知っていた。 それでも、言っておかなくてはいけない。 「あの、できるだけ早く・・・。」 そんな言葉など半ば無視するように、男は少女を押し倒した。 少女は、執拗に身体をまさぐられながらも、懸命に声を殺す。 それでも、彼女の気持ちとは裏腹に、女として育ち始めた彼女の身体は、男を迎えて喜びの声を上げてしまう。 側にあった手ぬぐいを噛み声を堪えても、女の官能に流されてしまう、白い喉をそらせて喜んでしまう。 「へへへ、そんなに我慢してないで、いつもみたいにスケベな声を聞かせてくれよ。」 男がそういって、彼女の隙を突いて手ぬぐいを取り去ってしまった。 「あっ! ああっ、ああああっ、ひああああああああっ!!」 少女の切ない泣き声が、狭い部屋に響いた。 かちゃり、とドアを閉める音。 男とのセックスを終えた少女が、自分の部屋に戻ってきた。 「おねえちゃん・・・・・・。」 すると、先に休んでいたはずの、もう一人の部屋の主が声を掛けてきた。 「・・・・・・起こしちゃった? ごめんね」 不安そうに姉を見つめるのは、もうじき中学生にあがる妹だ。 同じ父母から生まれた二人姉妹は、今は血のつながらない継母と、三人で暮らしている。 「おねえちゃん頑張るから。高校でたらこの家を出て、二人で暮らそう?」 静かに頷いた妹をもう一度寝かしつけて、姉は再び勉強机へと向かった。 少女を抱いた乾物屋は、下の店で再び飲み直していた。 「ずいぶんと長いトイレじゃねーか。」 「へへへ、スゲー気持ちよくて、スッキリしたぜ!!」 男と飲んでいた連れ、商店街の質屋が下卑た笑いでからかっている。 「俺も『トイレ』借りたかったけど、こいつが使ったあとはさすがに無理だな!」 そんな下品な男たちに、カウンターの向こうの女将が、小さく笑っていった。 「もうじき、『トイレ』のほうもひとつ増やしますんで、その時はごひいきに。」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |