シチュエーション
眠い、とてつもなく眠い。 メイドの朝は早い、それはもうとんでもなく。 空が明ける頃に起床し、掃除に庭の手入れ、朝食の準備で出る洗い物…と、気づいた頃にはあっという間に時間が経っている。 低血圧気味の私にとってこれほど苦痛な時間はない。 手に持った水気の残るグラスを拭きながら深く溜息を吐き出す。 「フラン様!」 パタパタと駆け寄ってくるメイドが私の名を呼ぶ。 …まったく、廊下は走るなとあれ程言ったのにこのバカは治らないようね。 「どうかしましたか?」 けどそんな面倒な事わざわざ言いたくもないからぐっと堪える。 なにより私のイメージが崩れかねないものね。 「それが……また王子が部屋を抜け出してしまったようで…。私では見つけることが出来なくて…」 その報告を聞いた途端、手に持ったグラスを叩き割りたい衝動に駆られる。 私達の主かつ、この国の王子…。 バカ王子は身体が弱いくせに、何度も何度も部屋を抜け出しては私の仕事を増やす問題児。 私が何度このバカ王子に予定を狂わされたか…思い出すだけで人を1人捻り殺したくなる程だ。 「…わかりました、私が探しておきますので貴方は自分の仕事に戻りなさい」 「メイド長にこのような事を頼んでしまって…申し訳ありません」 可愛らしいおさげを揺らしながら必死に頭を下げてくるメイド…。 この鬱陶しいおさげを切ってしまいたい。 「気にしないでいいのよ、さ…いってきなさい」 安堵の表情を浮かべながら走り去るメイドに向かい、本日二回目の溜息を吐き出す。 ああ…あのバカ王子を殴れたらどんなにスッキリすることか…。 そんな事を思いながら私はバカ王子が居るであろう庭に向う。 美しく咲く花々や青々とした緑に彩られた庭に…居た。バカ王子が寝間着姿のまま倒れてる。 まさか…と思い焦って駆け寄る。もし大事があったら私の責任になってしまう。 「王子!大丈夫ですか!」 力なく横たわる身体を抱きかかえ、白く透き通った頬を何度か優しく叩く。 「…暖かい」 私の手に冷たい手を重ねながら、王子が目を覚ました。 「お体は大丈夫ですか?」 額に手を当ててみるが特に熱を感じる程ではなく。 一先ずは安堵。その代わりに…このバカ王子に対する苛立たしさが蘇ってくる。 「また部屋を抜け出したのですね…。どうして何度言っても聞かないのですか?」 「…ごめんね、どうしても花の様子が見たくて…」 …怒りを通り越すと呆れてしまうというのは本当のようね。 「本当はもう少し早く戻るつもりだったんだけど、メイド達とのかくれんぼがつい楽しくて」 屈託なく微笑む王子。金の色をした髪が陽に照らされ、何も知らない者が見ればさぞ心奪われる笑顔…であろう。 だが私はこの笑顔に憎たらしさしか感じない。 まったく、こんな我侭の為にわざわざ私が出張ってやったのかと思うと殴りたくなってくる。 「…でも、もう鬼に捕まっちゃった。だから戻るよ…ごめんなさい」 「そうしていただけると助かります」 そう言いながら王子を立たせる。 …やっと自分の仕事に戻れる。 ふと見ると、王子は何故か私に向って手を差し出している。 「…手を繋いで」 「は、はぁ…?」 言われるまま手を差し出し、冷たい手を優しく握り締める。 「…やっぱり、暖かいねフランの手」 「あ、ありがとうございます…」 「あのさ…部屋まで、手を繋いでくれない?」 「…はい?」 「なんだかね…フランの暖かい手を握ってると気持ちがいいんだ」 王子は頬を薔薇のように染めながら恥ずかしそうに私の手を強く握る。 面倒だ。すぐにでも仕事に戻りたいのに…。 だから王子の表情に胸が疼いた気がしたのは気のせいだ。第一そんなの私らしくもない。 「フラン…いいかな?」 「王子がお望みとあらば…」 そう、私はメイドだ。だから王子が望めばそれに従う。 だから余計な事は…王子が私の言葉にほんの少し寂しそうな表情を浮かべた事は見ないフリをした。 「…軽い風邪、のようですね」 白衣を着たどことなく貫禄のある医者が私にそう告げる。 傍らには豪華な装飾の施されたベッドに横たわる王子。 苦しそうに不規則な呼吸を繰り返して力なく咳をする。 見るからに辛そう…だが、男なら少しは我慢しろ。 「念の為、薬を出しておきますが…。まあ、この調子ならすぐに治るでしょう」 医者の言葉に背後に居た数人のメイド達が安堵の吐息を漏らす。 私は微笑を作りながら頭の寂しくなった医者に頭を下げる。 「ありがとうございます」 ああ早く仕事に戻りたい。 「さっ…お医者様をお送りしてください」 背後のメイドにそう声をかけ、最期に軽く医者に会釈する。 はー……終わった。 今日は朝から王子が体調を崩したせいで色々な予定が台無しだ。 王子のスケジュールを調整し、医者の手配をして……ああ…これだから身体の弱い奴は…。 …苛々してても仕様がない。さっさと仕事に戻らないと…。 「それでは…リリさん。今日一日王子のお世話を…」 と、おさげのメイドに声を掛けた時。 「…まっ…て……フラン…」 弱々しい声がベッドから漏れる。…どうやら王子がご苦労な事に苦しいのにも関わらず声をかけてきた。 「はい?如何なさいましたか?」 「…ボク…今日はフランと一緒にいたい……。ダメ…かな?」 ダメに決まってるだろう。 「王子、そのような我侭を仰られましても…」 仮にも私はメイド長という立場に居る。 そこら辺のメイドよりやる事も、堪っている仕事も沢山ある。 …このバカ王子はそれをわかってないようだ。 内心腹立たしく思いながらも、あくまでも冷静に…穏やかな表情を浮かべる。 「でも…ボクはフランが……ゲホッ…う…ぐっ……」 苦しそうに咳き込み、胸を抑える王子。 …この体調だ。精神に負担をかけることはできない…か。 明日の仕事量を思いながら内心溜息をつく。 「…畏まりました。ではリリさん、代わりに貴方は……」 細々と私がやるはずだった仕事の分担やらを話し、さっさと仕事に戻らせる。 「ゴメンねフラン…我侭言って…」 まったくだ。 「ねぇ…こっち…きて…」 「はい、どうなされました?」 まったく、17にもなって子供かお前は。 言われるまま王子の傍に寄り、ベッドのすぐ横にある医者の座っていた椅子に腰を下ろす。 すぐ近くで見る王子の顔は蒼白で、まるで今ここで掻き消えてしまいそうな程だ。 青く澄んだ瞳が私を弱々しく射抜く。 「手を…」 王子はそう言いながら布団から手を出す。 「…はい、畏まりました」 この所王子は私の手を握るのが好きなようだ。いい迷惑…。 相変わらずの冷たい手を壊れ物を扱うように両手で包み込み、安心させるように優しく微笑んで見せる。 「ありがとう…フラン」 あーはいはい。 「暫く……このまま…で…」 王子は柔らかく微笑を浮かべると瞼を閉じ、暫くするとすぐに寝息が聞こえてきた。 その寝顔はどことなく安堵しているようで…私は思わず目を逸らす。 …手は強く握られている。外す事はできない。 「はぁ……面倒…」 冷たい手を知らず内に握りしめながら、寝息を立てる王子に視線を移して私は小さく溜息を吐いた。 ふわふわと宙に浮いたような感覚。 私は今夢を見ている。 その証拠に、目の前の光景はずっと昔の出会い。 肩口で切り揃えた黒髪は風に揺れてさわさわと頬を撫でる。 月明かりの元で金糸のような髪を私と同じように靡かせて。 色素の薄い肌は降り注ぐ蒼白い月明かりのせいで病的な印象を与えていた。 足元で揺れる色とりどりの花と相まってこの世のものとは思えない光景に思えてくる。 私は見惚れたようにその光景を見ていた。 綺麗で、それと同時に…何故か怖かった。 私を壊してしまいそうなこの光景から目を逸らしたかった。 「月が綺麗ですね、貴女もそう思いませんか?」 ニッコリと花のような笑顔で目の前の人は微笑む。 今と変わらない、その心内を感じさせる笑顔に私は拳を握り締めた。 私の中のスイッチが入ったり切れたりしている。 目の前の光景は消え、夢から覚めたという自覚がじわじわと意識を塗り替えていく。 ゆっくりと首を振って瞼を開け…。 「おはよう、フラン」 その声で私は完全に目が覚めた。 王子が目の前…というより、ベッドから見上げるように笑顔を見せている。 そこですぐに今の状況に気がついた。 「も、申し訳ございません!」 どうやら王子の看病をしていたら寝入ってしまったようだ。 …とんだ失態。私らしくもない。 「あ、謝らなくて平気だよ。ボクは全然気にしてないし」 そっちが気にしなくてもこっちが気にするんだよ。 ああもしこれが誰かの耳に入りでもしたら…ここまで築き上げてきた私の立場がなくなってしまう。 幸い寝入っていたのは15分という短い間だったのが救いといえば救い…か。 「あのね、本当に気にしなくていいから。 だって…………フランの寝顔、とっても可愛かったし…」 …まあ、自分の容姿にはそれなりの自信はある。 褒められて悪い気はしないけど……なんだろう。まだ夢を引き摺ってるのかもしれない。 「…ごめん…勝手に寝顔見ちゃって……」 どうやら私が黙っていたせいで怒らせたのだと勘違いしたらしい。 「いいえ、私の方こそ勝手に寝てしまったのですから、おあいこですよ」 王子は妙にネガティブに考える癖がある。正直ウザイ、面倒臭い。 「…ありがとう」 嬉しそうに微笑む王子。…単純な奴だ。 「あっ、ねえ、フランはどんな夢を見てたの?」 多分王子にとっては何気ない質問だったのだろう。 けど…今は夢の内容を思い出したくはなかった。 「ええと……昔の夢、です」 「昔?」 「はい、私がお城に仕えていた時の夢です」 まあ嘘ではない。 「へぇ……フランっていつから働いてたの?」 「そうですね、13の時からお城に仕えておりました」 「じゃあ14年も…」 王子は驚いた様子でそう言葉を漏らした。 …別に驚くような事じゃないと思うけど。 「そんなに大した事ではありませんよ」 「ううん、すごいよ… …ボクなんかより全然……」 王子は青い瞳を悲しげに揺らして瞼を伏せ、まるで今にも折れてしまいそうな程弱々しく翳りを映す表情を浮かべた。 何故王子がこんな顔をするのか、なんとなくわかる。 王子は身体が弱い。 そのせいか、周りも、本人も、王位継承者としての王子を求めなかった。 2つ上のもう1人の王子が居たせいもあるが、それ以上に本人の意志が希薄すぎたせいだ。 隠れ住むように郊外の屋敷にこうして住居を構えたのも偏にそういった経緯があったからだろう。 ――コチコチと時を刻む音が耳障りだ。 言葉を噤み、天井を遠い目でじっと見つめる王子は、どこまでも弱々しい。 掻き消えることを望んでいるような…。 ……ああ面倒。 だから嫌なんだ、こういうウジウジした奴。 「王子は何も欲しいモノがないのですよ」 「…ボクに欲しいモノがない…?」 丁寧な口調は崩さなかったけど、つい本音が出てしまった。 止める事も出来たけど…嫌な夢も見たことだし、いいや。 「地位も、責任も、守りたいモノも、なにも欲しくないのでしょう だから何も固執しない、全て手放してここにいるのではありませんか」 王子は何も言わない。何も言わず、青い瞳で私を射抜く。 肯定も否定もせずにただ言葉を受け取る。 それはまるで王子の生き方そのもの。 「…ですが、それもまた王子の生き方です。私は否定しませんよ」 好きでもないけど。 「…………うん」 漸く口を開いた王子は、小さく…本当に小さく、言葉を紡いだ。 再び訪れた沈黙。 今度は、耐え切れなくなったのは王子の方だった。 「ねえフラン。もっと楽しい話をしよう」 「はい、なんでしょうか?」 それには同感。このままだと余計な事まで喋ってしまいそうだったから。 「あ、あの…フランにね、ずっと前から聞きたい事があったんだ」 聞きたい事? 「………嫌なら答えなくて良いんだけど…… フランは…今、好きな人とか……いる?」 頬を朱色に灯しながら伺うように弱々しくそう尋ねてきた。 …これは恐らく勘違いではないだろう。 王子の瞳から滲む私への好意…これは、決して主がメイドに対して向けるべき好意の色ではない。 恐らく………。 ………そこまで考えて、ふと黒い感情が湧いてきていることに気づいた。 無防備なまでに私に対して好意を向けてくる少年。 未だ穢れを知らない柔らかそうな唇、白く美味しそうな肌。 …汚したい。どうしようもなく、壊してしまいたい。 いつもならこんな感情すぐに押し込める自信があった。けど今は……。 「…ふふっ、どうしてそんな事が知りたいのですか?」 知らず内に私は唇を歪め、女の顔で笑っていた。 「っ…そ、れは………その…」 私を射抜いていた瞳は忙しなく色々な場所を映し、その動揺具合が声以外でもわかるよう。 おかしくなってしまう。本当におかしい。 私は身を乗り出し、片足をベッドに乗せて覆い被さるように手で身体を支える。 …スカートが捲くれて太股が肌寒い。 「フ、フラン…!?」 ああ、この慌てる様がイラつく。 形のいい眉が困惑で垂れ下がって、それでもどこか期待する瞳を向けるこの少年を滅茶苦茶にしてやりたい。 私は何も言わず、赤く染まった頬を指先でなぞる。 ピクンと、指先に伝わる感覚に瞼を細めて顔を近づける。 紅を注した唇を僅かに開いて歯の隙間から舌を覗かせる。 熱い頬をザラザラとした舌でぬるりと舐め、舌先で擽るように柔らかな肌の味を堪能すると 唾液をわざと滴らせながらゆっくりと首筋へと這わせていく。 ぬめりとした唾液が枕元に落ちてシミを作った。 「ふっ……ぁ…ぁ…ん」 王子の甘い声が鼓膜に響き、私の衝動を揺さぶっていく。 その声に触発されたのか、溜まらず私は王子の白い首筋にかぷっと甘く噛み付いてしまった。 舌先で肌をぬるりと舐めながら軽くちゅぅっと音を立てて吸い付く。 汗のしょっぱい味と、王子の匂いに心が満たされる思いだった。 唇を離すと舌と首筋に銀色の糸が伝う。 白い首筋に赤い花弁が痛々しく、けれど禁忌の匂いを放って私を蕩けさせる。 ゆっくり顔を離すと、様々な感情を混じらせた顔で私を見る王子が居た。 「あの…これって…」 「王子の疑問にお答えします」 …そう、まずはこれに答えないといけない。 なにをするにしても……。 だから、思ったことを伝えよう。 互いの息がかかるほどの距離で見つめあい、ゆっくりと腕の力を抜いていく。 王子は私の意図を察したのか、瞼を閉じて僅かに睫毛を奮わせる。 けれど私は唇が触れる寸前で小さな笑いを漏らした。 何がおかしかったのか。…多分、王子も、私自身も全てがおかしく見えたから。 茶番だ。 人差し指で王子の柔らかな唇を奪い、耳元で吐息と共に囁いた。 「私は、子供が大嫌いです」 そう呟くや否や、身体を剥がしてベッドから下り、ずっと前から絡ませていたお互いの手を解いた。 「それではそろそろお仕事に戻ります。何かあればお申し付け下さいませ」 目を見開いて呆気に取られた表情で固まる王子を尻目に、私は軽くお辞儀をして部屋を後にした。 パタン。と、ドアが閉まると、私は溜息をついた。 馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい。 子供の恋愛ゴッコに付き合ってる余裕は私にはない。 手近な私で恋を知った風になっているだけ。 そんな王子に付き合う必要なんてない。これはメイドの仕事じゃないはずだ。 「めんどくさ…」 面倒だなぁ、ホント。 汗ばんでいた掌を握り締めながら、私はついさっきの出来事を意識の隅に押し込め、仕事に戻った。 「私は、子供が大嫌いです」 そう、言われた。 どういう意味なのかな……。 さっきまでフランの舌が触れていた首筋を確かめるようになぞりながら考えてみる。 答えになってない気もする。 けど、これが一番欲しかった答えだとも思う…気がする。 質問の裏に隠したボクの「想い」に対する答え…。 もしそうなら………ボクは振られた、ということなのかもしれない。 言葉通り「嫌い」なのだろうか…。 ……きっとそうなのだと思う。 「…はぁ」 知らず、溜息が漏れた。 好きな人から嫌われるのはやっぱり堪える。 フランがボクに良くしてくれるのは、ボクが主だから…。 それをわかってるつもりだったのに、本当はわかってなかったのかもしれない。 …どこかで期待していた。 「……痛い」 胸が痛い。 発作の痛みじゃない、胸が締め付けられるような切ない痛み。 よくわからないけど、フランに出会ってからこんな想いばかりしているような気がする。 「諦め……られるわけ、ないよ…」 フランと出会ってからずっと…ボクはこの気持ちを抱き続けていた。 今更振られたからといって、この気持ちをすぐに消す事は出来ない。 例え嫌われていたとしても……。 「大人になるってどういうことなのかな…」 もし子供じゃなければ。もし大人になったら、フランはボクを好きになってくれるのかな。 そんな妄想が頭を駆け巡り――やがて、諦めの溜息が漏れた。 ボクは大人になんかなれない…随分前に諦めてしまったから、何もかも。 ボクにも欲しいものはあった。守りたいものもあった。 でも…こんな体じゃ、なに1つ手に入れられるものなんて無い。 それに気づいてしまったら…もう、諦めるしかないのに。 「…はぁ、……花、元気かな…」 気分を変えよう。 変えないと……こんな気持ちのままいたら、また体調を崩してしまう。 ボクはベッドからのそのそと這い上がり重い体で窓まで近づく。 外はいつの間にか月が光り輝いていた。 黒い空にぽっかりと浮かぶ月の輝きは、まるで自分の暗い気持ちを照らすかのようで。 ほんの少しだけ心が軽くなったような気がして、自分の単純さに笑みを零しながら窓の外に視線を落とした。 月明かりの元でいつものように美しく咲いている花。…その近くに、見知った人影がいた。 その人影の姿形に止まってしまうのではないかと思うほど、心臓が大きく跳ねてしまった。 「……フラン…」 花の近くで立ち尽くすその後姿は紛れも無いフランで…。 けれどいつもの完璧な立ち振る舞いとは違う…ような気がする。 どこかぼんやりとしているような……。 それはいつも一つに纏めた髪が下ろされ、ふわりふわりと揺れているせいか。 それともボクの気持ちが…揺れているせいなのか。 ボクは暫しその光景に見惚れていた。 初めて出会った時のように、ただただ心惹かれていた。 フランはただ立ち尽くす。動くのは風に揺れる栗色の髪だけ。 ………あぁ……ボクはやっぱりフランが好きだ。 だってこんなにも綺麗な人を……諦められるわけ、ない。 ―――思えば、これがボクの中の始まりだったのかもしれない。 ずっと止めていた気持ちが動き出した。 そんな…予感がしていた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |