残念な彼女の話
シチュエーション


満員電車の中、息を潜める存在。
下半身に、そっと掌が伸びてくる。太ももの裏をくすぐるように指先が撫でて這い上がる。
上へと滑る掌が柔らかい部分に辿り着くと一転、今度は力強く掴み上げてくる。

「ひ……っ」

たまらず漏らされる声に、掌の主はほくそ笑む。
ますます無遠慮になっていく掌は尻たぶを割り開き、奥まった部位に密やかに息付く敏感な部分へと指先が伸びて――。

『ドアぁ開きます。ぉ降りの際は足元ぉ気を付けくぁさい』

ドアが開き、吐き出されるように電車から降りる。
そのまま人の波に揉まれながら駅の改札を抜けた所で振り返る。
そこでは、さっきまで下半身を弄っていた掌の主がニタニタとした笑いを浮かべていた。

「……おい」
「え?」
「お前……なっにを人のケツ痴漢しとんだ!?」
「あっははは! まあいいじゃまいか減るもんじゃなし」

“彼女”はあっけらかんと笑い、俺の肩をポンと叩いた。

「堪能させてもらったよ」
「っじゃねえよ! しかもお前あまつさえ“中”にまで入れようとしやがったな!?」
「え〜……やっぱり気になるじゃん。801穴とか」
「ねえよ。ついてねえよんなもん!」
「そうなの!?」
「っじゃねえよわざとらしく驚くな! 馬鹿かテメェは!」

ニタニタ笑いを崩さないこの女。一応、俺の恋人である。
付き合いだしてから生粋の腐女子であることをカミングアウトした彼女は以来、日を追う毎に遠慮がなくなっていく。
こんな女だと知っていたら、俺から告白して付き合わなかっただろうか。

「……はぁ」
「んっふふふふ」

……やっぱり告白してたろうな。たまにむかつくけど、変態だけど、人のアナルヴァージン狙ってるけど。

――好き、なんだよなあ。何故か。

「……行くぞ。一応デートなんだから」
「ツンデレツンデレ」
「やかまし」

彼女の手を取って歩き出す。相変わらずのニタニタ笑いの彼女を連れて。なんだかんだで離れられないのは、惚れた弱みというやつであろうか。

「……間接アナル愛撫」
「うるさいよ!?」

全くもって残念な彼女だが、俺は彼女が好きなのだ。

「んふふ。しっかりエスコートしてよ? 主に仕える執事のごとく!」

――本当、残念な彼女だ。






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