この素晴らしい夢を見た
甘い菓子の味を埃ほども知らないで生きてみたかったのだと思う
九月の雨を今まで知らなかったように
魔法の外側でもいい、内側でもいい、どこかに行きたかったのだ

漂流するように動いたことはあったけれど歩いたことなんてなかった
知識というものが無かった
死にかけたことも無かった
きっと今日、私はどこにもいなかったのだ、昨日もそして明日からも

トレイに乗せられていたものはポピーとゼラニウムとルビーだった
陽光が一度も差さない世界で飲み干してしまうのが残念だった
香りは黄金色、私はまた嘘をついてしまうのだろう、だれかが許す範囲で
月齢が瞳孔のかたちによく似ている頃だった、時は夜で草花は寝ていた

覗き窓のような本と本の隙間から本が私を見ている
まだ居ないので想像だったけれども、それが私だったのだと思う
かすみの中で自分の感情について私なりに考えていた
夜が終わりそうになる頃、私は宝石の淹れ方を覚えた

外殻を形成してくれたのは与えられた運命とでまかせの誇り、その出来そこないだ
だからここにいたかった、私は何でも欲しかった
どこからかいつまでも続くのは多幸感で、多幸感で、多幸感だった
好きになるのなんていつも一瞬だ

帰還のかわりに気管を手に入れた
できなかった呼吸ができれば歩くのも、走るのも、共にあることも簡単だ
吸い込むのは私を読み上げた、だれかの生きる脈動のある世界の構成の一部を
読み上げただれかが読むのは、私が呼吸を始めた動的な世界の骨組みの一部を

わたしは、あなたと雨が土をめくる音を聴いている
奇しくも夢は覚めないままにその速度をはやめて、66を72にした
あなたのいる現実で
この素晴らしい夢を私は見たのだ