甘さを消し飛ばすように燃える田園に立って、何千もの水滴に埋まる女の子を見て、磔刑を見ている不可解さを押し潰して、飲みほしきれない海水を自分の数だけコップに掬って、部屋に溜まった空気を集めて、山の鉄塔を手のひらのなかで壊して、イースターどころか夢の兎にまで逃げられて、崖っぷち午前八時から崖のした午後四時に落ちて、苛めた覚えのない甲虫に仕返しされて、憂えたような顔つきの博士に駄目ねと言われて、近くにあった回転ドアから出られなくなって、雄大で尊大な猫に深海まで追い出されて、浮かびあがったら誰もいなくて、泣きやんだ痕がある頬の泥を擦って、伸びあがるように加速する流星群を観測して、だけど雨が降ってきた
雨粒を傘の裏側にそっと隠して、たすけられないと水族館の冷えた壁一面に書き連ねて、野にも山にもなれないと喚いて、死んだあとの部屋を思って、繊細に紡がれた血液色の糸を辿っていって、ノイズしか聴こえないラジオを胸に耳をすませて、なぜ殺そうとしたのかを忘れて、かたい暗夜・寝台のうえで寝返りを打って、硝子を塗ったスターチスを買って、「ただいま」と言う練習をして、いつになったら夜半の峠を越えて、気まぐれに躁鬱を繰り返す蝶々を飼うことに決めて、喧嘩をする両親を空想して、黙っていてはいけない
余りもしない腕のさきの指を軽く切り落として、ナスカの鳥達を図鑑からちぎりとって、卵の形を模した蝋燭を求めて、野辺送りをしているエウテルペの人達を見送って、その足跡の化石を時間まで丁寧に掘って、バイパスの名前に誰かを思い出して、握りしめた傘も言葉もためらいも放して、空気とあなたの行方を尋ねて、羽化しかけているものを陽炎と間違えて、黄緑の星を見上げた
外の世界や書かでは宙が真空のまま、広がっている
とわ、とわ、瑪瑙を食べることをやめた人形から始まった繋がりを捨てることはしません
はじめて生った私を、復活祭までに取りに帰ろう
心音がそこかしこに落ちている、空気のある部屋へ
クルトンと角砂糖と性格の見分けかたを探していた、どの角も、私や私以外の食器が丸く削りとってしまわないように
うまれて死んでいくために