『怖がるな痛くしないから』
 
「…やっぱり無理だと思う…」
恋仲になって早ひと月。
散々に口説き落として、風呂にもしっかり入って、濡れた髪を乾かして。
いつもなら別れて収まるベッドを、同じくして。
替えたばかりの真っ白なシーツの上にぺたりと座り込んだマルスに、前置きの様に「痛くしないから」と宣言をした。
それに対する返答が、先の言葉である。
 
白い肌を赤く染め上げるのは、風呂上りの熱気か、それともこみ上げる羞恥か。
細い体は縮こまった姿勢のせいでますます細く見え、恋人と変わらない程の長身も、丸めた背のお陰で見る影も無い。
ほんのり湿った洗い立ての青髪が、桃色の肌に張り付いてそれだけでもう艶かしかった。
この期に及んで今更、と云ってしまいたくなるアイクの気持ちを、男なら皆心の底から理解出来るだろう。
だが、ここで無理を云えば、それこそ取り返しがつかない。
全ての男がそうだとは言えないが、少なくともアイクがマルスを抱きたいのは、愛しているからなのだ。
「なるべく、…としか言えないが…痛くはしない、つもりだ」
「いや、だって初めてって痛いモノだって聞いてるし、ちゃんと解ってるから…」
気にしないで抱けとマルスはいうが、その体が震えて居るのが見て取れる。
怖いなら怖いと正直に言われた方がまだいいのにと思ってしまうのは、どうにも鈍感な自分の性質のせいだろう。
「怖がらないでくれ…ただお前を抱きたいんじゃなくて、お前と一つになりたいんだ」
 
かすかに震える肩に手を伸ばし、白い薄布の寝巻きをそっと脱がす。
露わになった体の線の細さに、自分と違う性別を改めて自覚した。
壊れ物を扱う様に指を進め、控えめな大きさの胸を掌に収める。
見た目に反してそれは、柔らかな弾力をもってアイクの欲を募らせた。
元より色白だと思っていたが、服に隠された部分は更に白い。
やがて残された一枚の布に手を掛けると、慌てた様にその手を押さえられる。
「…ん?」
どうした?と見上げると、真っ赤な顔でふるふると首を振る。
「あの、そこ…は…恥ずかしい…よ…」
「と言われても、コレを脱がさずに出来るほど手馴れてはいないんだが…」
至極真っ当な言い分だと思ったのだろう、マルスの細い手はそろそろと離れていった。
止めるものも無くなって、そろそろと薄青い下着を脱がす。
一層白いなだらかな丘に空色の毛が薄く生え揃う場所。
初めて見るそこは、経験の無いアイクを惹きつけてやまなかった。
「へんじゃない…?」
泣き出しそうな震える声に、「綺麗だ」と答えて、その晩アイクは心行くまで愛する者を味わった。
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なんていうか、お題を勘違いしてる感じですね。
怖いくせに怖くないと云いはるマルスさん。
怖がらせたくなくて「痛くしない」と言い出すアイクさん。
「んな無茶な…」と至極冷静なマルスさん。みたいな。
ちゃんとお題通りやれよって感じですねすみません。