『学園天国』
 
高く青い空に吹く爽やかな風が、満開を過ぎた薄紅の花びらを巻き上げる。
日の光は芽吹きを呼ぶ様に柔らかく、その日差しに照らされた空気はとても心地良かった。
桜の季節。それは即ち新年度、新学期。
新しい学期の初日から、まさか勤勉に授業に勤しむ学校は無いだろう。
いや、無くは無いが少数だ。
アイクやリンク達が通うこのクラスも勿論、大多数の中の一つである。
 
黒板には担任の先生お手製の、席順に番号が書かれた模造紙が貼られている。
そして彼女の手には、これまたお手製の箱がある。
中には番号の振られた紙。
生徒達は順番にその紙を取り出して、そこに書かれた番号の通りに席に座る訳だ。
こういう運任せな決め方の場合、大抵一番人気は窓際一番後ろ。
そうでなくても後ろのほうが人気が高い。
逆に先生の一番前は有る意味『特等席』などと揶揄され、外れクジ扱いだったりもする。
が。このクラスでは少し違った。
 
「おい、アイク」
新学期らしく適当に座った真ん中程の席で、後ろから名を呼ばれて。
パサパサと跳ねる青髪を揺らして、アイクはくるりと振り向く。
「なんだ?」
「なんだじゃないだろ。アンタも勿論あの席狙いだろ?」
悪戯っぽい笑いを浮かべた金髪の青年が、ひそひそ声で云う。
真後ろの席の彼に半身で振り返ったまま、アイクは強い声で返した。
「当たり前だろう。あんたは違うのか?」
「いや、まぁ違わないな。違う奴の方が珍しいだろ?」
そういってケラケラと笑っていると、先生の注意が飛んで来る。
適当に謝って姿勢を正しながら、さりげなく教室内を見渡す。
と、なる程あちらこちらの男連中の視線は、漏れなくその席に注がれていた。
だが。
今回もその席を勝ち取るのは自分だと、根拠の無い自信が胸を満たす。
過去に何度もあった席替えの機会。
そのたびにアイクは、気合と天性の運でその席に座ってきた。
きっとまた、今回も。アイクはそう信じて疑わないのだ。
 
「あーもう!まぁた貴方ですかー」
心から残念そうに溜息を吐くのは茶色い髪に、天使の制服だとかいう金の葉飾りをつけた少年。
その向こうでは無言ながら明らかに気落ちしているらしい、青い体に仮面をつけた一頭身の球体もいる。
リンクなどは席移動にかこつけてペシッと肩を叩いて行った。
それでも、どんなに言われても心には優越感ばかりが湧いてくる。
自分はまたこの席を守る事が出来たのだ。
鞄を持って、件の席へ。わざと目を伏せて席につくと、頭上から降ってくる声。
「やあ、また君なんだね」
耳をくすぐるような、柔かさ。女性にしては少しハスキーな声調に、優しい口調。
一呼吸おいて顔を上げると、図った通りに目の前に、彼女の顔がある。
「君も不運だね、何度目だいこの席は」
授業中寝ちゃダメだよ。
そんな風に笑う彼女に、満ち足りた笑みでアイクはいう。
「ああ、また宜しくな、マルス」
 
このクラスでは不運どころか幸運なんだよ、この席は。
だって、マルス。アンタが目の前で見られるんだから。
 
それは先生だけが知らない、このクラスの秘密。
*******************************************************************************************************
あいつもこいつもあの席を〜♪っていう歌が真っ先に浮かんじゃってつい書いちゃったSSでした。
次の放課後、の絵に微妙に続いてるかもです。

それにしても、席替えって色んな種類ありますよねー。
一番笑ったのが、男女入れ替え制で好きな席に座って、あとで答え合わせ的に座っていくみたいなの。
ぶっちゃけ何の意味があったのか…。(笑)
つーかこいつらどう考えても中学生以上…だから担任と目の前で会えるのってHRの時と担当教科の時だけじゃね?
とか今思いましたが、多分アイクならそれだけでも喜びそうです。