拍手第三弾でした。
お題は「創作者さんに50未満のお題」にお借りしてます。
基本的にアイマルでたまにマルアイだったり、女体化だったり寮設定だったりします。
 
 
 
 
 
『溺愛・03 それが聞きたくて』
 
「そろそろ言ったらどうだ?」
ルカリオが放った言葉に、アイクは目を見開いて首を傾げる。
「言うって、何を?誰にだ?」
その様子はまるきり本心そのものだ。
自覚と言う単語が彼にとってどれ程までに虚しいものか。
数ヶ月の付き合いにして漸く、それはもふもふの胸毛の向こうに刻み込まれた。
「だから、好きだと言ったらどうなんだ…と言って居るんだ。」
「誰に?」
間髪を居れずに投げかけられる疑問符。
ごまかしも、偽りもない真っ直ぐな表情。
ダメだ。どうしようもない。
そう言わんばかりの盛大なため息を吐いて。
「マルス以外に誰がいるんだ…。そんな事言わせるな。」
心優しい波導のわんこは、そう言って疑問顔の青年を置いて練習場を後にした。
 
困ったのは残されたアイクである。
確かにマルスの隣に居るとき、マルスを思うとき。
他の者と同じ感情で居られない事は、いくらアイクでも自覚している。
ふとした仕草や、風に流れる空色の髪。
色素の薄い肌。細い手足。
自分と同じ色の、しかして全く違う光を孕んだ瞳。
不意に微笑まれただけで、目を逸らしたくなる。
本当は、ずっと見ていたいのに。何故だか見ていられない。
眩しい気がする。引き寄せられる。惹かれるのに、近寄り方が解らなくなる。
しかし、経験浅の彼はずっとその感情に名前が付けられず。
だからアイクはマルスに対する自分自身を、ずっとずっと決めかねていた。
 
だが。
 
「好き…そうか…好き、なのかも知れん。」
ブツブツと恥ずかしい事を鬼気迫る表情で呟きながら、アイクは寮の階段を登る。
噴水のある広場から、石で出来た細い階段を三階分登ったその上に。
アイクとマルスの部屋はある。
石造りの壁に、古ぼけた木の扉。
自分の部屋なのに何故かノックをして、自分でも可笑しくなった。
「はい…って、アイク!?どうしたんだい?」
ノックはいらないだろう?
そう笑って招きいれようとするマルスの細い肩を掴んで。
力無い体を抱きすくめる様にして。
端整な顔立ちを無理矢理に自分へ向けさせて。
アイクは、言った。
「好きだ」
 
「うん、僕も好きだよ?」
一世一代の告白の迫力を溶かす様な微笑で、マルスはアイクにそう答えた。
「そりゃあ、ここでは一番の友達だもの」
そうだろう?
屈託のない顔でマルスは笑う。極自然な笑みだ。
きっと何の疑問も、裏表もないのだろう。
が、アイクはその意味を理解するまでにたっぷり15秒を要した。
 
「なんというか…気の毒だった、すまない…」
まさかそう答えられるとは思っても見なかったであろうルカリオが、見かねて慰めの声を掛ける。
月の輝く真夜中の乱闘寮。その階段に、アイクは独り、座っていた。
戸口の外で始められた告白大会の内容とその結末は、たった数時間の内に選手全員の知る所となった。
せめて部屋の中で言えばよかったのに。
そうアイクの迂闊さを指摘してやりたくもあるが、落ち込む彼を思うと、誰もそれを言う事は出来なかった。
だが、ルカリオの耳に返された言葉は、そんな彼らの想像を超える物だった。
「なぁ、ルカリオ…マルスが…」
「…あぁ」
「マルスが好きだと言ってくれた…」
そうか…と極普通に相槌を打とうとして、思わず「はぁ!?」と大声を上げる。
だがそんなルカリオの驚きも意に介さず、アイクは至極幸せそうな笑みでこういった。
「俺を好きだと言ってくれたんだ…一番の友人だと…お前のお陰だルカリオ」
のろけの如くに言われたルカリオは幾度目とも知れない盛大なため息を吐いた。
 
『こいつら当分進展しない…』
そう彼が思ったのは、云うまでもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
『溺愛・04 隣の特等席』
 
ピットの羽根はとても触り心地が良い。
初めにそういい始めたのはピーチだった。
彼女曰く、「清潔で、柔かくて、すべすべで、お日様の匂いがするの」。
周りの選手達は、最初こそピットも可哀想に…と思っていた。
が、そう何度もお奨めの太鼓判を押されると、気になりだすのが人の常である。
 
「私も触らせて…」「ボクも〜」「ふむ、欲求を持て余す」
などなど、たちまちのうちに殺到し、今では彼が通るたびに、誰かが羽根を触るという塩梅だ。
 
「大変だね…」
諦め半分に黙って触られる天使の少年に、そう声を掛けたのはマルスだった。
「いえ、喜んでくれるならいいかなーと…。」
「そう、いい子だね」
そう言って微笑んで、癖の有る茶の髪を細い指が撫でる。
柔かく上品な笑顔。王族という血筋が与える品の良さなのだろうか。
つられて微笑みながら、ピットは秘かにそう思った。
「そういえば、マルスさんは触らないんですね」
急に話を振られて、マルスはきょとんとピットの方を見た。
「だって、あんなに沢山いたら、それだけで大変だろう…?」
「大丈夫ですよー?それに今誰も居ませんし。触ってみますか?」
そう羽を差し出されて、拒む理由も無い。
元々その触り心地が気になっていたのも事実だ。
少し迷った後、「御言葉に甘えて…」と断ってから、マルスは純白の羽根にそっと触れた。
「わ…ぁ…凄いね…ふかふかだ」
「ね?確かに触り心地いいでしょう?」
躊躇いがちに伸ばされた手が、やがて嬉しそうに自分の羽根にうずまるのを見て、ピットは満足そうに言う。
羽根も体の一部なのだ。褒められて嬉しくない筈が無かった。
気を良くした彼は、その翼を広げて、細いマルスの肩を包む。
「こうすると羽毛布団みたいでしょう」
少しばかり洒落にならない冗談を云うピットにマルスも苦笑する。
「羽毛布団はちょっと戴けないけど、こうしてると気持ちいいね…凄い特等席だ」
白い羽根に顔を摺り寄せて、マルスはにっこりと微笑んだ。
 
「…それ以上俺のマルスに近寄ったら天☆空…近寄ったら天☆空…」
「よせ…大人気ない…」
ラグネルを手に不穏な言葉を呟いて、物陰から二人を見守るアイクに、メタナイトはため息混じりにそういった。
 
 
 
 
 
 
 
 
『溺愛・05 寝顔』
 
「よぅ、寝ないのか?」
そう声を掛けられてスネークが振り向くと、そこには見慣れた対戦相手の顔があった。
黄色い帽子に『W』の文字。品のなさそうなしまりの無い顔。ワリオである。
寝ないのかと聞きはすれど、彼の目はスネークの前に置かれた酒に照準が合っている。
寝るつもりが無いのは聞くまでも無くお互い様のようだ。
ワリオも手にした酒瓶をテーブルにおいて、差し向かいに座った。
 
「しかしココの連中はみんなお上品なこったなぁ」
「まぁ、姫だ王子だって連中だからな…あとは勇者とか魔王とかケモノとか丸いの…」
「それに配管工だ」
「おお、ソレを忘れていた!」
世界に誇る配管工サマなのに!!
そういうと、お互い顔を見合わせて手を叩いて笑う。
箸が転がっても面白いのが、酒の魔力である。
「しっかし傭兵上がりもいるんだろ?ほら、あのバンダナの…あいつもお上品で驚くな」
「ああ、アイクか…」
対戦経歴は余りないが、自分よりかなり細身の体で両手剣を軽々と扱う様は、スネークの脳裏にも刻まれている。
昔は華奢だ華奢だと思っていたが、その隣に居る王子様とやらを見たときに、前言を撤回した。
女にしか見えない、細っこい男。顔も女顔なら、体つきも女性と殆ど変わらなかった。
自分と比べれば細身な筈のアイクだが、彼と並べるなら充分に標準体型だろう。
いや、むしろガタイが良い様に見える。マルスが尋常ではなく細すぎるのだ。
同室のよしみだろうか、はたまた何処かで聞いた噂の通りにデキてでも居るのだろうか。
マルスと居るときのアイクは、それはそれは大人しい物だった。
「そりゃ、アイツはあの王子様と同室だから影響されるんだろう」
そういうと、ワリオもああ、と頷く。
「あの女みたいな奴か」
どうやらマルスに対する認識は万国共通らしい。
スネークもそうだそうだと肯定した。
「アレは凄いもんだな…ほんとに男かアレ。ついてないんじゃないか?」
「まぁ一理有る」
「あんなんが同室じゃあ肩身も狭かろうによ」
一人部屋で良かったぜと豪快に笑うワリオに、スネークは真剣な顔をして首を振った。
「いや、考えても見ろ。あの女顔で、夜は勿論布団掛けてる訳だから…」
「…それじゃ、どう見ても女じゃねーかアイツ」
「そうだ!きっとアイクはそれを夜な夜な夜食のオカズにしてるに違いない!!」
これでどうだ、とばかりに決めポーズをして、どうしようもない事を宣誓でもするようにスネークが言った。
馬鹿話に花が咲くのも酒の魔力である。
ワリオは「それだ!それに違いない!」と手を叩いて笑う。
「つまりだ…皆が寝静まった真夜中にだな…こう、こっそり起き出して隣のベッドを見て」
「そこで頭だけ出して平和に寝息立ててるカワイコちゃんを眺めるんだな」
「そうだ。そしておもむろに股間のラグネルをだな…」
 
「誰が、何だって?」
唐突に後ろから声を掛けられて、二人は恐る恐る振り向いた。
と、そこには本物のラグネルを手に、眉間に青筋を立てたアイクが、引きつった笑みを浮かべていた。
「いや、まて、話せば解る!」
「そ、そうだ、ちょっとした性欲の持て余し…」
手を振ってじりじりと後退する酔っ払い二人に狙いを定め、次の瞬間ラグネルが二人を中に浮かせる。
「大・天・空っ!!」
寮の中にも構わず炸裂したアイクの最後の切り札で、スネークとワリオははるか天空へと消えていった。
 
「全く…マルスで妙な想像をするな…」
一人残ったアイクは、最早聞こえないであろう天空の彼方へ、そう呟いた。
 


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なんだか回りに被害が及んできた気がします。
まぁばかっぷるなんて得てしてそんなもんですが(笑