拍手第四弾でした。
 
お題は「創作者さんに50未満のお題」にお借りしてます。
基本的にアイマルでたまにマルアイだったり、女体化だったり寮設定だったりします。
 
 
 
『溺愛・06 君のにおい』
 
西日の沈みゆく頃。日の落ちかけた乱闘寮には、夕餉の匂いが漂っている。
窓から一陣の風が吹き込んで、青いシーツの引かれた生木作りのベッドの上、丸まって眠る人影の頬をそっと撫でた。
青い髪が、さらりと揺れる。男にしては長めのそれは、癖のない指通りのいいものだ。
長く影を落とす同色のまつげがそっと震え、空色の瞳が開かれる。
「う…うん?」
小さく呻いて、頭を振る。
いつの間に外したのか、いつものカチューシャから解放された前髪が、大きく揺れた。
肘を突っ張って、上体を起こす。
窓を見てその暗さに驚いた。一体どのくらい眠っていたのだろう。
試合が終わったのは昼過ぎだった。
初夏の程良い爽やかさ、まだ雨季の湿りが届かない時期の空気は、眠りを誘うには充分で。
疲れた体を横たえた時には、もう半分眠ってしまっていた。
それにしても、いつもなら夕闇が迫る時間など、気温も下がって自然に目が覚めるというのに。
今日に限っては芳しい夕食の香りが、遠く届く程に過ぎた昼寝をしてしまった。
しかも、夢も見ないほどの熟睡。
不思議に思って、ふと自分の体を見る。
使い込まれた緋色のマント。裏地は黄色い。
自分のマントは藍色だから、これはきっとアイクのものだろう。
そっと抱き寄せて、抱きしめる。
吸い込んだ息は、彼のにおいがした。
 
「もう…起こしてくれればいいのに。」
そう呟くマルスの顔は、少しも怒ってなんか、いなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『溺愛・07 取捨択一』
 
世の中に手袋の右手と左手が喧嘩する、という事例がどれ程の頻度で怒りうるかは解らない。
だがこの乱闘寮に限って言えば、もはや日常茶飯事に近くなっている。
そのたびに右手は家出をし、結果的に彼が担当している炊事全般は、選手達の担当となる。
タブーは元々料理などしないし、左手の料理に至っては、自殺志願者ですら人生の幕引きに選ばない出来だからだ。
 
「はい、どうぞーw」
そういって大きく開かれた、乱闘寮一階の食堂へと続く扉。
中ではにこにこと笑う女性参加者達が待っていた。
今回の担当分けは男女別。
夕食は女性陣が、朝食は男性陣が作る事となった。
ちなみに、昼食は皆試合の時間によってまちまちなので個人調達である。
「みんな腕によりを掛けて作ったのだけれど、さーて、どれが誰の解るかしらー?」
悪戯っぽく笑うピーチ姫が指し示すテーブルには、なる程どれも器用に盛り付けられた多様な料理。
それらは5つのまとまりに区切られていた。
女性陣はピーチ、ゼルダ、サムス、ナナ、そしてマルス。丁度五人。
どうやら各自別々に料理をしたらしい。
その様子をみて色めき立ったのは男性陣である。
「おい、マリオ。我輩は必ずやピーチ姫の手料理を食べるぞ!」
「いやいや、恋人の料理を取られる訳には行かないな!姫のは僕が食べる!!」
と、亀と配管工がにらみ合いを始めれば、同様の理由で魔王と勇者がけん制しあう。
狙いは明白、意中の相手の手料理を我が物にして、ついでにソレをネタに口説こうというのだ。
「アイクさんは誰のが食べたいですか?」
静かなる騒乱を避けてそう尋ねたのはピットだった。
だが、訊かれたアイクは、面倒そうに首を振る。
「別に誰のでも良い。肉が食えればな。」
どうせどれが誰のか解らないし。
その答えに、ピットは苦笑する。
どれが誰のか解らなくても、彼が無意識に選ぶ結果は、いつもたった一人なのだ。
そんな男性陣の喧騒は、二人の姫の「どうぞー」という声と共に、一斉に料理の方へと走り出した。
 
「わ、アイク野菜も好きだったの?良かった」
「お前のメシはなんでも美味いからな…」
取り皿いっぱいの野菜炒めに笑みを浮かべるマルスに、アイクも笑顔を返す。
「…肉がいいって言ってた癖に…」
嫉妬ともつかないピットの声は、愛おしそうに微笑みあう二人には届かなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
『溺愛・08 鼓動』
 
「ねぇ、知ってる?」
 
天高く月星の昇る夜。昼間の喧騒を忘れた乱闘寮は、静かな闇に眠っている。
何階建てとも表現しがたい奇妙な石造りの建物の、最上部の端にある部屋。
木の扉を開いた向こうには、色味の異なる青色の髪をした、二人の青年が互いのベッドに入っている。
部屋の明かりはとうに落とされ、窓から差し込む淡い月の光が、部屋の中心を仄かに照らすだけだ。
眠りに落ちる頃に声を掛けたのは、マルスの方だった。
「うん?何を?」
優しく帰ってくる声。
まだ夜に慣れない目にはその表情は見えないが、きっと微笑んでいると解る。
「人の一生分の鼓動の数は、決まってるんだそうだ。早く打ったら、その分早死にしちゃうのかな?」
乱闘選手なんて、そう考えると危ないね。
寝物語のつもりだろうか、くすくすと笑いながら云うマルスに、アイクは応える。
「そうか…なら俺は誰より早死にをするかも知れんな」
深く響く声に、「どうして?」と尋ねる。
少しずつ慣れる視界は、闇の中に互いを浮かび上がらせた。
歩幅にして、ほんの数歩の距離。青と青の視線が交じる。
目を合わせて、今度こそ解る様にアイクが微笑んだ。
「お前に会ってからドキドキ鳴りっぱなしだ。早死にするどころじゃない」
きょとんとして刹那、理解したマルスの顔は、暗い視界にも解る程に赤く染まる。
青い掛け布を顔まで被って。
その奥からくぐもった声がした。
「そんなの…お互い様だ」
その様子が可愛くて、思わず顔が緩む。
サラサラと流れる髪に触れて、肌理細かい肌に唇を落として。
その細い体を抱きしめたい。そんな衝動に駆られる。
 
「なぁ、そっち行っていいか?」
そういいながら、アイクは自分のベッドを後にした。
答えなんて、訊くまでもないのだから。

*******************************************************************************************************
鼓動の元ネタは最終兵器彼女です。
なんていうか、甘いとかラブいじゃなくて、ウザイですね…。
うちのアイマルは…。