拍手第四弾でした。
お題は「創作者さんに50未満のお題」にお借りしてます。
基本的にアイマルでたまにマルアイだったり、女体化だったり寮設定だったりします。
『溺愛・09 ぬくもり』
大会の参加選手が一同に集められた乱闘寮。
寮内は一階に広い食堂と厨房、男女別れた大浴場。
二階と三階には、それぞれの出身世界の特色をいかした部屋が、各自に割り当てられている。
大抵は男女別に分けられる部屋割りだが、ポポとナナだけはまだ子供なので同室に住んでいた。
が、その理由はあくまで建前で。
実際は、部屋の作りが面倒だから一室に纏めた、というのが彼達の部屋に招かれた者の総評だ。
アイスクライマーとして氷山にその名を馳せた二人の自室は、実際とても特殊な作りなのである。
「…寒くはない…んだよね」
言葉とともに発する息が白く凍り付くのを苦笑気味に見ながら、マルスが訪ねる。
聞いた本人はそれこそ歯の根が合わない程に震えている。
が、訊かれた方はちょっと顔を見合わせてふるふると首を横に振る。
青とピンクのコート。真っ白な毛皮がフードから覗く。
まんまるに着込んだ彼達が、まさか寒い筈もない。
例え、冷凍室と化した部屋であっても、だ。
元々氷の世界を住処とする二人に合わせて、部屋の調度品はことごとく氷像の如き外見をしている。
それだけならたいした問題ではない。
見た目の寒々しさなど然したる事もない。
問題があるとするならばそれは、家具と同じく希望通りに設定された、部屋の室温である。
温度計を見上げた青い目は、ため息と共に伏せられる。
氷点下36度。無論摂氏で、だ。
一緒に遊ぼうというナナの誘いに、断るのも失礼だからと同行した。
話には聞いていたが、ここまで寒いとは思わなかったというのが本音だ。
マントを着はしたが、半袖の上着に細身の体では、文字通り寒さが骨身に染みた。
細い肩を抱きしめるように震えるマルスに、ナナが「大丈夫?」と声を掛ける。
「やっぱり、寒かった?」
「う、ううん。大丈夫だよ…」
心配そうに、申し訳なさそうに見上げる無垢な瞳に、引き吊りながらも確かに笑顔を返した。
そんなマルスの頬に、無骨で大きな腕が伸びる。
「大丈夫か?」
声に次いでそっと肩に回される腕。
力強く引き寄せられて、マルスは相手の青い上着に顔をうずめた。
「大丈夫だよアイク」
相変わらずの笑顔で云われた言葉に、しかしアイクは首を振り、細い体をより一層抱きしめる。
強く肌を合わせる事で、冷え切った様子が伝わった。
アイクとて服装はマルスと大差ないが、体の鍛え方が違う。
隆々とした筋肉は、勿論脂肪のそれよりは劣るが、充分に熱を蓄える機能が有るらしい。
寒くは有るが、体温が一度は下がったんじゃないかと思われるマルスよりは、だいぶマシだった。
「真っ青な顔して、大丈夫なんて云うな」
「うん、でも…君が暖かいから大丈夫…」
遠慮がちに抱き返す相手にそう囁かれ、甘える様にすり寄られ。
顎をくすぐる猫の様な柔ら髪の前には、いよいよもってマント越しの感触はもどかしい。
思わず薄い肩をすっぽりと抱え込んで、冷たくなった髪を掻き上げてうなじを撫でる。
冷たさも手伝ってか、肌理細やかな素肌はなめらかな感触で、不意の欲に任せてそっと口づけた。
「ほら、もっと近寄れ…こんなに冷えてるじゃないか…」
「ひゃっ!?あ、アイク、くすぐったい…っ」
「でも、暖まってきただろう?」
生来上品な気質なのだろうマルスは、突然落とされた唇の感触に恥じらい、頬を染めて身をよじる。
その様子がなんとも可愛らしくて、アイクは貪るようにキスを降らせた。
「マスター!室温下げてー!」
「アツアツ空間になっちゃったー!もっと冷気をー!」
ポポとナナが涙目で内線を飛ばしたのは、いうまでもない。
『溺愛・10 目眩がするほど愛してる』
例えば空の色が絵の具だったとして。
それを頭に塗りたくったとしても、こんなに綺麗になるだろうか。
例えば鏡に自分を写したとして。
同じ色だとと云うその瞳は、こんなに澄んでいるだろうか。
白い肌も、細くてしなやかな四肢も、くるくるとよく変わる表情も。
例えようとするなら、きっと表現に乏しい自分でも、いくらでも出てくるだろうし。
そしてまた何に例えても、本物にはかなわないと思うだけだろう。
こんなにも美しくて、思わず手に触れたくなる彼女の全ては、一体何で出来ているんだろう。
そんな事を考えて、いつの間にやら熱を出した。
「珍しいね…君が体調を崩すなんて」
見た目に似合わず丈夫なマルスと、見た目通り頑丈なアイクは、そろって病気や怪我とは無縁だ。
互いに経験が無かった為、アイク自身ですら自分の体調不良に気付くことはなかった。
結果、彼は突然試合中に倒れたのである。
驚いたのは同室のマルスだった。
いつになく思い詰めた表情をしていると思ったのは確かだ。
が、まさかでそこまでの悩みとは思わなかったのだ。
すぐに連れて帰り、有無をいわさず着衣を緩め、ベッドに寝かせて今に至る、というわけだ。
「何かあったのかい?僕で良ければ聞くけれど…」
「いや、そういう訳じゃないんだが…」
言葉を濁すアイクを、そっと覗き込む澄んだ瞳。
その青さにまたくらくらと熱を覚えた。
「考え事を…していたんだが…どうにも答えが出なくて、な…」
そういうと、「知恵熱かい?」と微笑みながら細い手が伸びる。
白い指は冷たくて、熱を帯びた額に、とても心地よかった。
額からこめかみ、そして頬へ。武骨な輪郭をなぞるように、そっと触れる指の腹。
やがてもう一つの掌も沿えられて、自然と顔と顔が近付いた。
「マッ、マルス!もういい、もういいから!!」
近い、と認識した瞬間に、あの沸騰する様な感情が沸いてくる。
綺麗だ、と。触れたい、と。
だが、そんな思いなど知る由もないマルスは、「失礼…」などと云って額同士をくっつける。
「そんなに高くはないけど…微熱よりはあるかな…」
たっぷりとアイクをざわめき立たせて、少し考える様にそう云って、彼女は離れた。
「それで…何をそんなに考えてるのって、聞いてもいいかい?」
「あ、あぁ…その、おかしな事なんだが…お前はなにで出来ているのかと思ってな…。」
そういうと、きょとんとした顔でマルスが表情を止める。
困惑しているのは明白で、慌ててアイクは言葉を付け足した。
「いや、すまん、意味が解らないよな…その、俺は最近おかしいんだ、それだけだ」
「え、えと…いや、おかしくはないけど…なんだろう…タンパク質?」
「…確かにそうかも知れないがそういう意味ではなくてだな…」
至極本気で云っているのだろう、彼女は真面目だがどこかズレている。
何時もながらにそう思って、そんな評価すらあの感情に繋がるのだと、アイクは驚いた。
どうしてこんなにも、マルスは自分を惹き付けるのだろうか。
自分はマルスに惹かれるのだろうか。
空色の髪。青い双眸。白い肌。細い体。笑顔。強さ。優しさ。
それらはありふれてはいないが、決して彼女だけしか持たないものではない。
それなのに何故自分はこんなにも、彼女だけを特別に綺麗だと思うのだろう。
好きだ。 好きだ。 好きだ。
そんな言葉では足りない程に。
昔何処かで耳にした言葉。
使いどころも解らず、使う相手も出来ないと思い込んでいた言葉。
それは、もしかしたらこんな時に使うのではないだろうか。
それに気付いたアイクは思わず笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、お前がとてつもなく綺麗に見えるから、どうしてだろうって思ったんだ」
「…へっ!?」
「お前が人とは違うもので出来てるのかと思った…」
「いや、多分違わないけど…大丈夫?」
二人は一応互いの気持ちも伝え合っている。所謂恋人同士だ。
だがしかし、マルスは気恥ずかしさから、あまりそういったことを口にしなかったし。
戦に身を置き続けていたせいか、アイクも至って淡泊だった。
好きだという言葉さえ、互いに恋人になった時以来口にしていない。
愛を確かめる行為も軽いキスを交わす程度で、想いを言葉にする事も無かった筈だった。
そんなさなかの発言である。
マルスが驚くのも無理はない。
アイクはそんな彼女の心配を力強く首を振ってかき消すと、細い首筋を掻き抱いて耳元に囁いた。
「考えれば簡単だ…お前に惹かれてしょうがないのは、俺がお前を愛してるからだ」
耳に与えられる刺激と熱のこもった言葉に、今度はマルスが熱を出したのは、また別の話である。
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書いててドンドンウザくなって来ました。(笑
ポポナナの方はリクエスト文でした。