ここは大乱闘スマッシュブラザーズ参加選手専用寮。通称『乱闘寮』である。
参加選手は老若男女問わず、身分を問わず、経歴も問わない。
ただ任●堂という名の神の選別を受けた者だけが、世界を越えて一堂に会する。
そういう場所だった。
 
『始まりの日 Side:M』
 
「じゃ、もう行きますね」
そう言って会釈の様に頭を下げる。ふわふわの赤髪がその動きと一緒に揺れた。
「うん、元気でねロイ」
赤い髪を撫でつけるようにその頭に手を触れる。
もとより人懐っこく、加えて自分の特殊事情に理解のあるロイとの別れは、マルスにとってはかなり寂しいものだった。
勿論例え理解がなかったとしても、彼が良い人で有ることに変わりはない。
だがこの先同室になるのがどんな人間を不安に思う今、それはかなりの重要事項だった。
「次に来るのは蒼炎の勇者とかいう人らしいですよ」
くれぐれも気をつけて、とロイがいう。
自分の不安を見抜かれて、マルスは苦笑した。
上手く平静を装っていたつもりだったが、そうは行かなかったようだ。
「解っているよ、大丈夫」
「安心してうっかり脱いだりとかしちゃ駄目ですよ?」
やりかねない、という風にため息をつくロイに、思わず思い出し笑いが浮かぶ。
そもそも彼にバレた経緯が、暑さから着替えようとしたところに鉢合わせた、だったのだ。
「もうしないよ、気をつける」
そういって微笑むマルスに、ロイは精一杯キツい目をして言った。
「男は狼ですからねっ!?ちゃんと女の子の自覚持って!!」
そういって、赤い髪の少年は大会を引退していった。
 
そう、紋章の王子と呼ばれるマルスだが、本来の性別は女性である。
原因は実父コーネリウスにある。簡単な話、嫡男が生まれなかったのだ。
姉の時はまだ次に弟が生まれれば…と思っていた父だが、次にも女児が生まれると流石に冷静さを欠いた。
英雄アンリの国を率いる者が女性である訳にはいかない。
そう決め込んだ彼は、生まれたばかりの我が子に男名をつけ、王子として世に知らしめた。
その時からマルスは、男として生きる事になったのだ。
自分の世界にいた頃は、それでも不自由は無かった。
城の者はたいていその事情を知っていたし、親友のシーダが恋人役をかって出てくれた為、妙な噂が立つこともなかった。
王子という立場から、皆と部屋を別にしても不思議がられない。
唯一アベルに言い寄られたこと位しか、困った記憶はなかった。
だが、乱闘寮ではそうはいかない。
部屋割りは出身世界別に男女で分けられている。
元々男として登録のあるマルスは、当然のように同じ世界の男と同室になった。
その時同室となったのが、ロイだった。
彼はとても理解があったし、何より出来たばかりの彼女一筋で、マルスに何かしらの不安も抱かせることもなかった。
勿論目の前で着替えていた時は怒られもしたが。
だからこそ、次に同室になる『蒼炎の勇者』がどんな人間なのかというのは、目下の所最大の関心であり不安だった。
いらぬ混乱を防ぐためにも、自身の安全のためにも、バレないにこしたことはない。
「とりあえず、なるべく仲良くならないようにしなきゃ…、余り顔を合わせないように…。」
本当は、同郷同士仲良くしたいのだけど。
そう思いながらも、それが容易には叶わないであろう事をマルスは知っている。
ならばせめてもの用意をと、部屋の中を見渡した。
石造りの殺風景な部屋。
部屋の真ん中にドアがあり、左右対称にベッドと小さな棚が置かれている。
祖国の城に似ているのは選手への配慮なのだろう。
この間ポポとナナの部屋に行った時、壁紙から調度品に至るまで、部屋の全てが氷を模したもので出来ていた事を思い出す。
その配慮はありがたいが、お陰で部屋は質素で見通しが良い。
これでは着替えやら何やらでいずれバレてしまうだろう。
せめて柱の一本もあれば…そう思ってふと考える。
「そうだ…アレなら…」
何かを思いついたらしいマルスは、急いで部屋を飛び出した。
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寮生活の開始です。
とりあえずアイクパートへ続く…って感じで。
ロイに関しては元のゲームをやってない上にDXもちょっとしかやってないのでうろ覚え…。orz