名月の浮かぶ心地よい秋の夜。
乱闘寮からほど近い山あいに設けられた露天温泉に、大乱闘の女性選手達の声が響く。
 
『百花繚乱』
 
「あーやっぱりオンセンていいわぁ」
そう云って真っ白な肌を湯にくぐらせるのはピーチ姫だ。
長い金髪はしっかりとまとめられ、綺麗に施されていた化粧もきっちり落とされている。
隣でうんうんと頷くサムスも、長い髪をポニーテールの根本でお団子にしていた。
ナナはぷぅと膨らんだプリンに掴まって、ぱちゃぱちゃと水を跳ねかせていたし。
ゼルダは自慢の髪を洗い上げるのに夢中だ。
そんな女性達の輪に混じって、王子の肩書きを持つ青髪の人物がひとり。
大切なティアラを外した外見は、ともすれば中性的だった。だが。
「マルスもこっちへいらっしゃいよ、ほら、もっと近くに」
温泉の中にタオルを持ち込む訳には行かず、結果的に大変無防備にさらけ出された胸の膨らみ。
だがその持ち主であるピーチは、恥じる様子もなくマルスに手を振った。
体の動きに合わせて、大きな胸が揺れる様から思わず目を逸らして、マルスは赤い顔で答えた。
「こ、ここでいいよ!というかちょっとは隠そう!?」
肩まで沈んでふるふると手を振るマルスに、後ろからサムスがガバっと抱きつく。
「わぁっ!?」
「なによ、女の子同士隠す事もないでしょ?」
くすくすと笑いながら、頑なに隠し続けたマルスの肩から下が見える様に抱き上げた。
細い体は野伏の如き戦いを経たとは思えないほど純白で、20という齢に似合わぬ純真さを保っている。
戦士らしいしなやかな筋肉の付いた肢体は、それでも男性のそれとくらべれば頼りないものだ。
くっきりと浮き出た鎖骨の下には、申し訳程度の膨らみが二つ。
それを必死に腕で隠しながら、上気しきった顔でいやいやと首を振る。
「ちょ、止めてってば!サ、サムスさん!!っひゃぁ!!」
「いーや、止めなーいw」
ふにふにとあちらこちらをまさぐられて、これ以上ない程に朱に染まったマルスに助け舟を出したのはゼルダだった。
「いい加減になさいな、それじゃあのぼせてしまうわ」
明朗に笑う姫は、湯船に美しい体を沈み入れながら窘める。
どうやら納得の行くまで体を洗い尽くしたらしい。
ようやく解放され、ふぅと一息吐いたマルスの髪に、秋色に染まった紅葉が舞い落ちた。
見上げれば天高く、木々色づく秋の縁取りの中、ぽっかりと浮かんだ月がこちらを見ている。
なんだかとても嬉しくなって、その気持ちそのままに、「ありがとう」と呟いた。
「あらどうして?」小さな声を聞きつけたゼルダが傍へよって尋ねる。
聞かれているとは思わなかったのだろう、慌てて言葉を捜しながらマルスは応えた。
「だって…僕の為にこんな所まで…一緒に…」
「あら?私は逆にアナタに感謝してるわ。お陰でオンセンに入れるもの」
ねぇ?と同意を求めるサムスに、皆一様に深く頷く。
「貴方が居たお陰でこうして一緒に楽しめるんだもの、ありがとうはこちらが言うのよ」
そう言って微笑んだのは、今回の計画の発案者のピーチだった。
王子として大会に参加したマルスは、寮則分類上男性として扱われる。
乱闘寮では、男性は女性用のありとあらゆる施設への立ち入りが不可能な様、特殊セキュリティが施されている。
それは風呂やトイレは勿論の事、個人の部屋に至るまで徹底されていた。
これはおかしな間違いが起きない様にとの配慮だ。
だが、お陰で本来女性であるマルスが、女性達と自由に居られる場所も、また奪われてしまっていた。
女性達は一目見て彼女の本来の性別に気付いていたが、そうと扱う事も出来ない。
男性陣に知れ渡る危険性は、誰もが思いつく物だったからである。
かといって女性であるマルスが、単身男性用の浴場を使い、日々神経をすり減らすのを黙って見ているのも忍びない。
そう思ったピーチは、寮長であるマスターハンドに直訴した。
「マルスが女性として入れるお風呂を造って、のびのび出来る機会を作って」
マスターハンドとてマルスの状況は問題に思っていた。
かといって寮内として扱えば、同じようにセキュリティが働いてしまう。混浴にしたのではなお悪い。
散々考えた挙げ句彼が思い付いたのは、臨時に寮の外に温泉施設を造る事だった。
勿論管理の難しさから長く維持できる物ではない。せいぜい半日程度だという。
それでも一緒に入れる温泉だと聞いて、マルスは大喜びだった。
表向きは女性達の為の温泉に、護衛としてマルスがついて行く。そういう事になった。
それを聞いた男性陣は揃って不平不満をまくし立て、マスターハンドに詰め寄った。
「なんだ、護衛なら傭兵の俺に任せてくれればだな…」とスネークがボヤけば、「水回りなら僕にお任せダヨ♪」と名乗り出る二番手。
「遠距離ならブーメランで」「いやいや、俺のリザードンが」等々、言い張る男性陣に一喝を加えたのはクレイジーハンドである。
曰く、「じゃあオマエらは安全なのか?」と。
安全じゃないと素直に言えば勿論護衛は務まらない。しかして、安全ですと胸を張って言うのも、男としてどうなのか。
散々悩んだ挙げ句、男性陣は揃って当初の予定通り、マルスを送り出したわけである。
「結局納得してもらえてよかったわね」
恋人である緑服の勇者の顔を思い浮かべて、くすくすと笑いながらゼルダが云う。
それを受けて口々に同意する皆の顔は、同じく笑顔だ。
芯から温まる様な思いは、温泉のせいだけではない。
心からの笑顔で微笑んで、名月の下、マルスはもう一度呟いた。
「本当にありがとう…みんな…」
 
「それにしても羨ましいよなぁ」
残された者同士、自然と集まった食堂で、リンクが大げさにため息をついた。
勿論温泉をあてがわれた女性陣に対しての言葉ではない。
唯一同行を許されたマルスへの物だ。
「まぁ、上手くすれば相当良い目にあえらぁな」
下品な笑いでワリオが云うと、思わずあちらこちらで首が縦に振られる。
一つ屋根の下という程狭い寮ではない。
だが、共同生活を経て見知った女性達の、見慣れた服のその下に興味が無い男などいるはずもない。
「でも僕としては安全牌扱いというのもなんか…ねぇ?」
ため息混じりに複雑そうな表情を浮かべるピットにも、同じく同意の声が寄せられる。
「まあぱっと見、女みたいな奴だからな。下手したら一緒に入ってるんじゃないか?」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべて云うスネークをやれやれと見遣るアイクも、思わず内心想像してしまう。
白い肌。細くすらりと伸びた手足。
ほのかに汗ばんだ肌。肌理細かいうなじには、長めの襟足の青がしっとりと張り付く。
抱きしめたら折れそうな程細い背中。
振り向いて火照った頬で、いつもの様に微笑んで。
『アイク…』
 
「おい、アイク!アイク!?」
「うおぁ!!?」
リンクの声に我に帰ると、あたり一面は血の海だった。
「おいおい、そこまで鼻血出す奴があるか」
呆れつつも応急処置をしてくれる所が、スネークの実戦慣れしている証しだろう。
テキパキと詰め物を用意され、根本を押さえて上を向けと云われる。
「おっまえ妄想しすぎだぞ!まさかそこまでムッツリだったとはなぁ」
「いっやぁ、女の子達の入浴シーンなんて反応しない方がおかしいだろ、ねぇ兄さん」
ありえない程意気投合したワリオと弟を適当にあしらいながら、ようやくDr.マリオがやってきて処置を取った。
「まぁ健全と云えば健全だけど…程々にしてくれよ?女の子達に悪いだろう」
それは愛しい姫が皆の妄想対象の一人であるマリオにとっては、極当たり前の一言だった。
だが、それを聞いたアイクの顔は、見る間に色を無くしていく。
「お…んな…の…こ…たち…?」
「うん。……ん?どうした?」
ぽかんと口を開けて、きょとんとした顔のまま固まったアイクに、マリオが訊いても返事は帰ってこなかった。
「おんなの…こ、うん…そう、だよな……あれ?」
うわ言の様に続けるアイクに、やれやれとばかりに苦笑して、マリオはその場を離れた。
 
その後暫く、アイクは帰って来たマルスと、顔を合わせられなかった。

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女の子達が書きたくなって書いてみました。ついでに温泉行きたい(関係無!
段々アイクさんがやばーくなっていきます(笑)
そろそろ告白タイム来るかなーwとか思ってたり。
でもまだまだ微妙に引き伸ばしたりしてやろうかと思います。
なんといっても一歩進んで五歩下がる感じが大好きなので。
のろのろしい歩みですみません。でも書いてて凄く楽しいです!←