2*10です。

『青色症候群』
 
「…なんでこの部屋、こんな青いの?」
開口一番、酷く不機嫌な声で目の前の男は言った。
夏という季節を丸ごと無視したダッフルコートは、半年前に別れた時と同じ物。
よくよく見れば襟こそはだけてはいるが、中に着込んでいるシャツも同じようだ。
通りで臭うわけだ。ふっと小さく笑みを漏らす。
公園や路地を住まいとする人々と同じ臭いを、彼もまた纏っていた。
自然と漏れた鼻に掛かる笑いを、目ざとく見つけた男は微かに眉を寄せる。
浮浪者然とした姿になってはいるが、嘲け笑う相手に敵意を向ける程度のプライドはあるらしい。
「何笑ってるのさ」
ぼそりと吐き捨てる様に言う。
元々饒舌なタイプではなかったが、輪をかけて言葉少なになっている。
というよりむしろ声の出し方すら忘れているのかも知れない。
身寄りも友達もあるようには見えないから、まともな会話自体が半年振りなのだろう。
だとしたら、最後に話したのも自分かな?
そう思いついて更に笑いがこみ上げた。
「青はあの人の色だから、とか言ったらどうする?結城君」
にやりと笑って辻が言うと、結城の顔色はあからさまに変わった。
「…君、と…物部さんは…」
感情が篭りすぎたのか、その声は妙に甲高く、小さく震えている。
「何?一緒にいちゃ不味いわけ?」
はだけたバスローブのすそを翻して、一足飛びに彼の目の前に立つ。
頭一つ分大きいはずの結城は、すっかりと辻に圧倒されきって、一回り小さくすら見えた。
「べ、つに…不味いとかじゃ…!」
「へぇ?その割には『あの人』ってだけで物部さんて解ったよね?」
「っ!?」
あからさまに『しまった!』という顔をした結城に、畳み掛けるように言う。
「そもそも青が物部さんの色だから、部屋の事聞いてきたんでしょ?誤魔化すの下手だね」
厭味たっぷりな笑みを浮かべながら、薄く髭の伸びた顎に人差し指で触れる。
中指を喉仏に、薬指と小指を喉の下に、親指を唇に。
利き腕の全部が触れたところで、ようやく結城は辻の手を払った。
「やめてよ!何してるのさ…!」
「何って…ナニ?」
なんちゃって〜と笑うと、「笑えないよ」と顔を逸らされる。
いつの間にか勝手に壁際まで後ずさっている結城を見て、改めて野良猫か何かのようだと辻は思った。
背丈ばかり高くて細っこい上に、ホームレスで栄養状態の悪い彼に、力で勝るのは簡単だ。
だが、あえてくるりと身をかわし、辻は再びソファに戻った。
「別に意味とか無いよ。好きな色なだけだって」
独占欲強いな〜とからかうと、すっかりやつれて悪くなった顔色にぱっと朱が差す。
青はセレソン1、物部大樹のノブレス携帯の色だ。
辻としては例えば彼の指輪とか愛車だとかの色に倣い、彼の色は赤だとイメージするのだが、結城の中では違うらしい。
自分や物部は、正直100億円が無くても、自身の生活からそれなりの満足を得ていた。
だからそこまでノブレス携帯の色にこだわる事もない。
だが結城にとっては絶望の淵の中で得た最後の希望のようなものだったらしい。
それゆえ、やたらと自身の携帯の色である緑を気に入っていた。
つまり、結城にしてみればノブレス携帯の色=そのセレソンの色。
早い話が、青=物部大樹の色なのだ。
「独占なんて…もう、あんな人知らないよ…関係ない…!」
「ふ〜ん?じゃあ、俺と関係しとく?」
ニヤニヤと厭な笑みを浮かべてやると、結城は何かしら聞き取りづらい言葉を叫んで、部屋を飛び出して行った。
「冗談だっつのに…」
今はね。と心の中だけで付け足して、辻は小さく微笑んだ。
 
正直に言えば照明の色は単なる気紛れだ。
だがココまで解りやすく反応してくれるとは、適当に決めた色も悪くない。
次に物部さんが来るときは、緑にでもしてやろうか。
そう思いながら辻は、自身の携帯電話を手に取った。


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ものっそい短くてすみません。
劇場版でスネ毛ツルツル&つめやすり&半裸な2Gさんがどうみてもアッーだったので
いっそ開き直ってソッチって事にしてみました。
物部×辻×物部なような、辻×結城なような…。
とりあえず辻的にはどれでも美味しいくらいに思ってる気がします。
私的にも美味し…。