1*10前提劇場版U後捏造です。一部に滝咲表現有。


宴もたけなわ、夜も更けて。
いつの間にか屋上へ上がった滝沢が、からりと晴れた冬の夜空に花火を打ち上げた。
パァンと弾けてパラパラと落ちる様子に、女の子達はうっとりと見入っていたし。
男性メンバーもしばしの寛ぎを得ている。
やがてそろそろ会社に戻って資料を纏めなければという弘瀬の言葉で、その日の宴は一応お開きとなった。
めいめいが自室の有るエリアへ向かう中、「滝沢君の部屋はそのままにしてあるから」と茶色い髪の女性がVIPルームを指差す。
「うん、ありがとう咲。結城もここでいい?」
可愛い彼女に笑いかけてから、くるりと振り向いてそう尋ねられて。
きょとんとして結城は言う。
「僕は…別に外の廊下とかでも…」
曖昧に階下を指差すと、すかさず他のメンバーから「怪我人が何言うんだ!」と怒られた。
 
『西側の楽園 Y』
 
「本当に良かったの?僕がこっちで…」
ソファを幾つもくっつけたベッドの上で、顔半分まで掛け布団を被って、結城はぽつりと呟いた。
するとすぐ下の床から、「勿論!」と声が返される。
「結城はココではお客様なんだからさ。それより長さ、ちゃんと足りてる?」
見た目の印象よりだいぶ大きい結城の身体には、滝沢がショッピングモールで用意した寝巻きは合わなかった。
幸いかなり細身だったので、なんとか着る事だけは出来た。
が、その外見は余りにも寸足らずで、思わず二人で顔を見合わせて苦笑した程だ。
そんな訳だから、彼用のベッドを作るためには、たくさんのベッドを要してしまい。
普段なら二つ分のベッドが作れる程度に余っていたソファは、殆ど余らなかった。
その状況を見た結城は勿論「床で寝る」と主張したのだが、それを許す滝沢ではない。
「ダーメ、それじゃあ結城がこの部屋に泊まる意味ないでしょ?」
有無を言わさぬ笑顔に背中を押され、半ば無理矢理に結城はソファーのベッドに納まった。
「床…寒くない?」
肘を付いて少しだけ状態を起して。
ベッドに生まれ変わったソファの、低い背もたせを越えて下を見る。
薄暗い室内にはカーテンの向こうから淡い月光が差し込んで、ぼんやりとした輪郭の滝沢が笑うのが気配で解った。
「大丈夫だよ。優しいな結城は」
言われてかぁと頬が熱くなる。
何の衒いも無くそういう事を言う男だ。しかも実に自然に。
普通ならもう少し違う表現を、せめて『心配性』だとか『考えすぎ』だとか。
酷いものなら『うっとおしい』とでも言われかねない場面なのに。
彼は簡単に他人の長所を探し出して、簡単にそれを告げる。
こんな男が、他人に愛されないはずがない。自分に、勝らないはずがないのだ。
部屋が暗くて良かったと心で零しながら、結城は小さく溜息をついた。
「どうした?」
「え、あ…ううん、何でも無い」
淡い溜息がその耳に届いたのだろうか、滝沢の心配そうな声が聞こえる。
見えないと知りながらも慌てて首を振って、ごまかしついでに聞き辛かった事を訊いた。
「本当に…良かったの?その…彼女と一緒じゃなくて…」
「はぁ!?いや、えええ!?」
結城の言葉にがばりと飛び起きた滝沢は、素っ頓狂な声を上げてそれから照れたように頭を掻いた。
「いや〜まだそういうのじゃないっていうか…てゆうか結城にそんな事言われると思わなかったんだけど…」
苦笑気味に若干失礼な事を言われてむぅと眉間に皺を寄せながら、「どういう意味さ?」と結城は言う。
「確かに鋭い方じゃないけど、流石に僕だって雰囲気で何となく解るよ」
森美さん…だっけ?
そう名前を口にすると、滝沢の気配が緩むのが解る。
「あ〜まぁ…うん…。いやでもまだそういうのはほら、うん!」
しどろもどろに何事かを説明しようと奮闘する滝沢に、思わず結城の口から笑い声が漏れた。
「ちょ、笑うかなそこで…」
「え?ああ、ごめん。なんだか…あはは…らしくないなぁって…」
笑いを堪えながらの返答に「そうかなぁ?」と苦笑する滝沢に、結城は大きく頷いて見せる。
けれど、なんだかずっと敵だと思っていて、殺したいと願っていて。
敵わないと嘆いていた相手の年齢や人柄を知った今では、もしかしたらこんな所こそが『らしい』のかな?とも思う。
病院で目を覚ました時に再会して、もうすぐ四ヶ月になる。
この有り難くも奇妙な関係で結城が学んだ事は、滝沢朗は結局の所滝沢朗である、という事だ。
本人は自分を『ただの男』だと言ったらしいが、彼の行動力やポテンシャルはそんな言葉の枠には収まらない。
明確な主義主張と、それに見合った行動力と機転を持ち合わせている、『ただの男』。
滝沢自身からしてみれば極当たり前な事でさえ、自分の様な人間から見れば十分特別という言葉に値する。
自分がなりたくてもなれなかった存在がそのままそこに有る様で、最初は随分反発して。
けれど会う回数が増えるごとに、或る種畏敬にも近かったその感情は、等身大の彼の姿の前に霧散した。
確かに彼は特殊で特別で、そんな彼に相変わらずの歪んだ感情を持たずにはいられないのだけれど。
普段の等身大に歳相応に過ごす彼は、確かに自分より10近くも年下の一人の青年だ。
そんな時の彼は何かしら特別な象徴などでなく、王子様などではなく。
ただ少し運と実力に恵まれた、少しおせっかいが過ぎるだけの、一生懸命な男なのだ。
おせっかいな一生懸命。
彼を表すのにコレより他に的確な言葉を、結城の語彙では他に思いつかなかった。
正義ではない。善人ではない。悪人ではない。
それで言ったら自分や、あの人の方がよほど悪人だ。
自信が過剰にあるわけでもなくて、ただ一生懸命な男。
正しさではなく、ただ自分にこれ以上罪を背負わせたくなかったからだと言った、その一生懸命さ。
そんな優しさを、ミサイル犯の結城にもくれようとした彼は、王子なんかじゃないただの人間で。
だからこそ結城はこうなって初めて、彼を真正面から見ることが出来たのだ。
特別で特殊な力を持つところも、ただの年下の青年らしいところも、どちらも併せ持ってこその彼なのだ。
あのミサイルの後、全てに裏切られて何もかもに絶望して、彼は何を思ったのだろう。
記憶という今までの人生の全てを自ら殺す時に、世界をどう思っていたのだろう。
それを尋ねようとして小さく首を振って、結城の口から出たのは全く違う話題だった。
「ねえ…今日のシャンパンって…選んだの君?」
「え?いや、咲だけど…なんで?」
きょとんとした雰囲気が夜の闇越しに伝わる。
それもそうか、と結城は思う。彼は『あの時』先にあの場所を離れた。
途中退席した彼にはその後起こった事なんて、まさか解る筈も無いのだ。
口の中に広がった味を思い出しながら、質問には答えず、結城は更に質問を重ねた。
「ここは君の築いた楽園だ…。なのにあんな、まるでただの追随者みたいに言って、本当に良かったの?」
今や完全に結城の身体は起き上がっている。
ベッドの上に座り込んで、闇に融ける滝沢の輪郭を真っ直ぐに目で追った。
シャッと音がしてブラインドが開けられ、遮られていた月の青い光が部屋を染め上げる。
眩しくて思わず目を細めると、窓際に立つ滝沢が、振り向きもせずに言った。
「…嫌だった?」
その張り詰めたような、なんだか泣きそうな声に驚いて、思わず言葉を見失って。
たどたどしく必死に言葉を選んだ。
「え…?あ、…ううん。嬉しかった、けど…僕はあんな立派な事、考えて無かったよ…」
ただの子供みたいな八つ当たりだったんだ。
そう結城は言った。ほんの少し涙声になったのを、悟られないようにこっそり願う。
この国を変えるなんて、そんな事考えてやしなかった。
そのための手段としてミサイルを撃ったなんて、そんな事は全く無かった。
自分を嘲笑った全てを、ぶち壊してやりたい。その程度の考えしか無かったのだ。
勿論滝沢や弘瀬が言ったように、今こうして豊洲が楽園になった発端に、自分のミサイルが有った事は確かだ。
だが、それはあくまでも結果論でしかない。
自分が生み出した結果を、この形にしたのは目の前に居る男と、結局は敗者となった『彼』なのだ。
豊洲のニート達が喜ぶ今のこの国は、彼が求めた物とは勿論違う有り方だ。
けれど、少なくともこの結果を演出するのに一役買っただろう彼を思うと、酷く胸が軋む。
自分がかつて滝沢朗に奪われたと思っていた功績を、今は自分と彼が、あの人から奪っている気がした。
そんな結城の思考を打ち切る声が、月明かりの窓辺から届く。
「…俺さ、色んなモノに裏切られて…例えばおふくろと最後に会った時、振り返ったら居なかった時とかさ…」
結城にとってその話は初耳だった。
しんみりした口調ではあれど、淡々とそんな事を言えてしまう彼に、何事か言葉をかけようとして。
さりげなく滝沢に片手で制されて、ぐっと押し黙った。
「まあ兎に角色んなモノに絶望しちゃってさ…だけど、たった一人だけ信じてくれた子が居たんだ」
「…それが森美さん?」
思わずはさんだ口に、「まあね」と滝沢は答えて、視線をちらりとこちらへ投げる。
ほんの少しこちらを振り向いた顔は、笑顔だった。
「兎に角、そういう気持ちつーか、救われるカンジをさ、結城にも味わって欲しかったんだ」
思ったより心強いだろ?
そういって今度こそ身体ごと振り返って。
青い月明かりを背負った救世主は、満面の笑みで言う。
「そう、だね…弘瀬くんの言葉とか…凄く嬉しかった…」
目を閉じてかみ締めるように言う結城に、すかさず滝沢の茶化しが入る。
「まあ可愛い女の子じゃなくて残念だったけど?」
「そういうんじゃないから!それ君だけだから!」
やり返された。
口では不満げに言いながらも、結城は滝沢と一緒になって暫く笑った。
 
 
ひとしきり笑って、思い出したように時計を見た滝沢は、慌てて結城をベッドに寝かせる。
「やばいって。もう1時過ぎてるし!一応まだ外泊許可だけなんだからさ」
まるで幼子にでもするように、甲斐甲斐しく面倒を見ようとする滝沢を押しとどめて、結城は言う。
「いいよ、大丈夫。ちゃんと寝るから…それより…」
そういいかけて、少し哀しそうな、苦しそうな顔をして。
たっぷり一分近く、僅かに口を開きかけてはまた閉じて、最終的にその声はこう告げた。
「やっぱり、いいや…」
薄く笑って、ふるふると頭を振って。
『もののべさんにあいたい』
たった11文字の言葉をとうとう口に出せず、結城は小さく「おやすみなさい」とだけ言った。
 
 
翌日起きてから病院に送り届けるまで、結城の様子は明らかにおかしかった。
それでも表面上は取り繕っていたから、下手に尋ねる事も出来ず結局病室に着いてしまった。
「じゃあ、ここまでで大丈夫だから…」
言いながら「ありがとう」と頭を下げる。
ここまでとエントランス前から言われるたび、「まあまあいいから」と半ば強引に付いてきた。
だが流石にこの先まで着いて行く口実は、滝沢には無い。
「また遊びにおいでよ?」
結局言えたのはそれが精一杯で、結城は曖昧に「ありがとう」とだけ言った。
会釈だけで閉じられた扉はまるで結城の心のそれのようで、容易には開けられない物だろう。
「…あのシャンパン、嫌いだったのかな?それともジェームズ・ボンドが嫌い?…なわけないか」
映画好きな自分ならいざ知らず、結城がそのシャンパンと007を結びつけたとは考えにくい。
昨晩あけたシャンパン、咲の選んだソレを思い出すたびに疑問が頭をよぎる。
寝る前の他愛無い会話で、彼はそのシャンパンを選んだのは誰かと尋ねた。
その後理由を聞いても何も言わなかったし、大して重要には思っていなかった。
けれど今になってその違和感は、心なしか沈み込んで見える結城の雰囲気とあいまって見過ごせなくなった。
「美味かったと思うんだけどなあ…『ボランジェ』…」
結構値も張るし。
ぼんやりそう呟きながら廊下を歩くと、顔見知りのナースに呼び止められた。
「火浦先生がお呼びですよ」
よほど険しい顔でもしていたのだろうか、彼女は自分の顔を覗き込んで、びくりと肩を震わせた。
「ああ、うん、今行きます」
ありがとう、と最大限の笑顔を浮かべて手を振って。
滝沢は火浦の元へと続く専用エレベーターに乗った。
 
 
エレベーターを降りると小さな廊下があって、突き当たりにオフィスへ繋がる扉が見える。
真鍮のネームプレートには『火浦 元』。
かつてセレソン5として、自分にゲームのルールを教えてくれた人だ。
この総合病院の創立者だという彼に敬意を表し、引退後もこの院長室は彼のものなのだと言う。
そうそうに自分の望む世界を実現した彼は、誰より早く記憶を消された。
そして徐々に記憶が戻ってからは、物部や結城の所に通う自分に、なんやかやと融通を利かせてくれている。
今回の外泊許可も、彼の口添えがあったからこそ出来た遠出だったらしい。
ちゃんと送り届けましたと報告しなくては。
そう思いながらドアをノックした滝沢に、「どうぞ入りなさい」と声が掛けられる。
鈍い銀に光るドアノブを回し、「失礼します」と声を掛けながら綺麗な木目の扉を押し開けて。
中を見て初めて滝沢は、火浦が一人ではないと気付いた。
「え…?あれ?」
向かって正面の窓際には火浦のデスク。
その手前の応接セットには、入り口が見える位置に火浦が、反対側にはニット帽の男が座っていた。
目の前の人物の意外さに言葉を失い固まった滝沢の様子を見て、火浦はどこか安心したように頷いて。
「ああ、矢張り『セレソン』だったんだね、君は」
しみじみと感慨深そうに、火浦は差し向かって座る男に笑いかけた。
「『セレソン』…ねぇ…?なーんか聞き覚えあるんだけどさぁ…」
そういいながらその細身の男は、眉間にあらん限りの縦皺を寄せて。
「アンタも俺の事、知ってんの?」
ひょいと眉を吊り上げて滝沢に向かって軽く顎をしゃくる。
「あー…なんつったらいいかな…」
知ってるという程きちんと紹介されてやしなかった。
だが、誰だかは解る。誰と一緒に居て、最終的にどうなったのかも何となく。
言葉に詰まる滝沢を助けるように、さりげなく火浦がカルテに書かれた名前だけを器用に見せてくれた。
「君は覚えがあるかい?この名前に」
そういわれて指し示された名前は、『辻 仁太郎』と書かれていた。

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結城君が始めて物部さんとちゃんと向き合おうとし始めた瞬間だったりします。
そして、皆様のお知恵を拝借して、やっと方向性が固まったので登場させてみました2G。
彼が何処にどうからむのかはまた次回という事で…。

これからの事は殆ど決まっているので、あと3〜4回で終了だと思います。
宜しければお付き合い下さい…。