さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さようなら。
さ よ う な ら。
さようなら。
さようなら、あなた。
私たちの間にははじめましての一言すらなかったけれど。
これでお別れです。
さようなら。
ぷぅ。
「…おい」
「気のせいじゃないよな?」
「確かに聞こえた」
「誰だ」
「誰アルか」
「誰なんだよ犯人は」
「おれじゃねえぞ」
「僕でもない」
「ワテ、たった今部屋に入ったばかりネ」
「じゃあ…」
「どうしてこっち見るのよ!」
「人のせいにしようってことは、お前か」
「違う!おれは無実だ!」
「潔く罪を認めろ」
「そういえば音もそっちから聞こえたような…」
「信じてくれ!おれは無実なんだー!」
「あー分かった。分かったからオーバーアクションはやめろ」
「でも結局誰がお」
「しっ!皆まで言うな」
「この場合、一番怪しいのは黙ってる人なんじゃない?」
「なるほど」
「一理ある」
「と、いうことは」
…なんでおれを見るんだよ。
戦闘用サイボーグは燃料ガスの屁をこくか?
ざわりと風が吹いて、名も知らぬ背の高い草を揺らす。
風の密やかな嘲笑の声は音高く、物思いにふけっていたジョーの心は現実に引き戻された。
先刻、明日はいくさだと告げられた。ジョーにとってはかつての主家との。かの家も又、今頃は不穏の気配ありと迎え撃つ準備を固めているのだろう。あのひとは不安に怯えているのだろうか?それとも、凛とした佇まいで人々を勇気付けているだろうか?あの時のように。
浮かんだ旧知の人の顔を、かぶりを振って脳裏から追いやる。
(それでも良い。僕は明日、鬼となるだろう。人を斬り、命を奪うだろう。人が皆、平穏に幸福に暮らせるように僕は戦うだろう。僕たちが戦う最後の人となるように)
決意はとうにできている。それでも。
それでも、僕は。
足元を見ると、先程の風のせいだろう。真っ赤な花びらが辺り一面に散っていた。
「いーぃ天気だなぁー」
「ああ」
「平和とはかくあるべし、である」
「ああ」
「若者は楽しそうだな…」
年寄りの繰言は聞き流すのに限る。左手にはソフトクリーム、天気は上々、そこらじゅうでハトがくるっぽーと鳴く。平和だ。腹の底から。つまり、中年男の愚痴につきあうにはもったいない日だ。
だが、とハインリヒは疑問を口に出さざるを得なかった。
「おれらはこんな所で何をやっている」
「何って」
「ハインリヒー!」
「おーい!見えるかー?!」
「ねえねえ!ちゃんと写真とってね!」
きゃあー、と悲鳴をあげてはしゃぐ三人の姿はすぐに見えなくなった。
「子守りだな」
フランソワーズに言われたとおり、カメラのシャッターを切ってからグレートが答えた。
「なんなら、一緒に遊んでくれば良かろうに」
「…本気で言ってるのか?」
「怖いのならジェットコースターには一緒に乗ってさしあげよう」
「結構だ」
なにが悲しくて男二人で遊園地のベンチに仲良く座っていなくてはならないのか。運命という言葉は信じていなくとも、ちょっと空しいハインリヒであった。
たまの連休。天気の良い日はお出かけを。
こう言うと変に思われるかもしれないけれど、わたしは雨の日がとても好き。
一番いいのは、帰り道に雨に遭うこと。
それもぱらぱらと降る小雨ではなくて、うたれれば痛くなるような、そんな大雨が。
望み通り大雨にあうと、買い物帰りのわたしは傘も差さず、全身で雨を感じて歩く。
雨の音、雨の匂い、雨の沈み、雨、雨の。
水滴の重さ。
楽しみなのは、雨が降ることだけではない。雨上がりの、透明で瑞々しさを一分のむらもなく透きわたった空気。その透明さは冬の朝にとてもよく似ているけれど、あの、きん・と張り詰めた氷ガラスの「固さ」はない。
だから、ラジオから流れてくる「明日は本格的な土砂降りになるでしょう」などという、あの、無機質になり切れない予報官の声を聞くと嬉しくなってしまうのだ。