かみきりばさみ

 閉じたまぶたは自然には開かず、半ば途切れそうになる意志をもってようやくこじ開けた。無理に眠りから呼び戻された体は固くこわばり、呼吸のしかたさえ一時見失いそうになる。引き絞るような心臓の脈動が、今は息苦しい。
 だがそれも、天井の一点を見据えてゆるゆるとした呼吸を繰り返すに従い穏やかになっていく。それに合わせ、軽く握った拳を親指から順に一本ずつ開いていった。眠っている間に「飛んで」いた感覚が徐々に戻ってくるのが分かる。接続の異常に混乱をきたす神経群をなだめすかし、これが自分の体なのだと自覚させる作業。
 いまだ神経と体の間に残るズレを解消していくには、こうして徐々に慣らしていくしか方法がない。思い描いたよりも素早く、そして滑らかに動く体は違和感の固まりで、全てを拭い去るにはもう少し時間が掛かるだろうとの話だった。
 もがくように身を起こすと、たちまちのしかかる疲労感とのどの渇きが襲ってきた。だるさの取れない目はいまだ眠りを欲していたが、何よりもまずこのどうしようもない渇きを癒したい。重い体を引きずるようにして立ち上がり、部屋の外へ逃れ出た。