インタビュー

 質問一、今の気持ちを率直に話してください。

 ――なんだ、いきなり。まあお前が変なのはいつものことか。
 失敬だぁ?ここじゃともかく、外ではお前みたいなのを『変』つうんだよ。
 で、気分か。まあ悪かない。やることやればうまいメシが日に三度食えるし、ちゃんとした寝床がある(※ここで、清潔な真っ白いシーツと暖かい毛布のイメージが脳裏に浮かぶ)。多少体にガタがきても、腕のいい医者がそろってるから安心だ。
 破損率がもっとも高いのはおれだと?うるせえな。そういうことは無茶をさせるあっちに言ってくれ。だが考えてもみろ、なかなか結構な話なんだぜ。なにかあったときにまともな医者に診られるってのは。
 これで酒やタバコが自由だったら、おれとしちゃ最高だけどよ。月に二度しか回ってこねえのが不満といえばそうかもな。ま、しょうがねえ。あれがエサだってのはおれにでも分かる。つまり、ああいうのは牛の鼻先にぶらさげる赤マントみたいなもんだ。ご褒美が欲しかったら、牛みたいに突っ走れと奴らは言いたいんだろ。
 ああ?…いや、酒がうまいとか、そういう話の方がお前には難しいか。まあそういうもんだと思っといてくれ。
 つまりおおむね満足、これでいいか?
 なんだよ。そういうことを聞きたいんじゃねえのか。なら最初からはっきり言いやがれってんだ。
 …そうだな。だれかに命令されるのは確かに気に食わねえ。けどな、世界中どこにいてもそれなりのものをしっかり手の中に入れようと思ったら、相応の苦労は絶対に必要だろ。てめえのケツはてめえで拭かなくちゃならないんだ。
 特におれは馬鹿だからな。あいつらの鼻っ柱へし折ることしか頭にないんだよ。



 ――またあなたなの。
 いつも思う。これはわたしの幻聴なのかしら。いもしない人間の声が聞こえるなんて。
 いちいち言わなくてもいい。そんなこと言われなくても分かってる。わたしの目と耳は強化されていて、どんな遠くの声でも聞き分けられる。この部屋はわたしの能力を遮断しているけど、あなたはテレパシーでわたしに話しかけることができる。そうでしょう?!
 ええ、状況をきちんと理解しているの。あなたたちの希望通りに。結構なこと、なんでしょう。あなたたちにとって。
 質問の答え、ですって。…なにも考えたくないの。疲れてるから、もうさっさと休みたいんだけれど。気分も悪いし。
 ねえ、本当にお願い。放っておいて。なにか考えようとしても頭がまとまらない。質問ならあとでゆっくり答えるから。だからもうやめて。わたしに考えさせないで。
 そうよ、だいたいわたしがなにを考えてるかなんて、あなたならすぐ分かるでしょう。だからさっさとすればいいじゃない。ひとの頭の中を勝手に読めばすぐすむじゃないの。わたしに答えさせなくても。さあ!
 そう。「雑多な感情が邪魔で読めない」の。わたしをいらいらさせているのはあなたの方なのに、そんなことも分からない?冷静になんてできるわけがないでしょう!癇癪を起こさない方が難しいわよ!
 もう黙って。私に話しかけないで。聞きたくないの、なにも。だから遠くから喋らないで!なんでこんな声を聞かなくちゃならないの。おかしくなりそう。
 やめて!もうやめて!聞きたくないって言ってるのに!さっきから何回も頼んでいるのにどうしてやめてくれないの!いいかげんにして!やめてってば!
 落ち着いてるから!わたしは落ち着いてる!だから…だから……――

 ――ええ、そう。そうね。いま一番やりたいこと?なんにも思いつかないけれど…。ああ、でも踊りたい。わたし、踊りたいのねきっと。もう一度。



 ――最高だ!(大音声で数分間笑い続ける)…ああ、最高にいい気分だ。笑いが止まらん。初めてヤッたときもこれ以上気持ちいいことはないと思ったが、あれと匹敵する。
 最高じゃないか、なあ。見てみろ、…そういえばお前、ここが見えるか?へえ、視覚を共有できるのか。そうか。
 なら見せてやる。いい機会だ、外に出たことがないなら、ここがどんな景色なのかおれがじっくり眺めてやろうじゃないか。お前の代わりにな。
 なかなかいい眺めだろ。今日は晴れてるからな。水平線まできれいに見渡せる。三百六十度、何にも邪魔されない眺めなんてそうそうないぜ。よく焼きつけておくといい。
 ロボットを全部積み上げたからここが今、島で一番高い場所だ。そら、あれが第二実験島、その西側がプラント群だな。そして上を飛んでいるのがかもめ、足下にあるのがロボット、戦車、サイボーグ、その他だ。ふふ。
 ふ、ふふふふふ、ふ。…くそ、やっぱり笑いが止まらねえ。愉快でしかたがない、な。ふふ。
 十分前までうじゃうじゃとしつこく撃ちまくってきた奴ら、ひとつ残らずスクラップだぜ?あれだけの武器、作るのにも相当時間と金がかかったろうに全部おしゃかだ。
 物をぶち壊すのがこれほど気持ちいいとはな。動かない的じゃだめだ。訓練場で射的ごっこをやってるときは退屈だったが、動く的、しかもおれを殺すつもりで向かってくる相手を叩き潰すのは無茶苦茶に気持ちがいい。爽快だ。
 初めて説明されたときは武器をつけすぎなんじゃねえかと思ったがな。やっと意味が分かったよ。弾切れの心配がないのはいいことだ。
 まあ、あちらさんたちの馬鹿馬鹿しさと無邪気さにはおそれいるがね。あれだけ純真だと逆に心配してやりたくなる。ふ、ふ。思い出したらまた笑えてきたじゃないか。
 なにが、だと?女のあそこも知らない童貞坊やたちのアホヅラをだよ。ふふふふふふふ、っくく(抑えがきかなくなり、さらに愉悦に浸りきった笑い声が続く。以後、そのまま)。



 質問一、今の気持ちを率直に話してください。

 ――今の気持ち?そうだな、ちょっと前まではなにがなんだか分からないとしか言いようがなかったけれど…、少し安心してきた、という感じかな。
 うん、君の言うとおり、これが慣れた、ということかもしれない。でも、びっくりしているだけの時間も、知らない間にとんでもないことになってわめくだけの時間も、もう終わってしまったから。僕はもう立ち上がっている。
 それにね、一人じゃないっていうのは案外心強いんだ。いや、正確にはこれから一人じゃなくなる、のかな。やっと僕以外のみんなが見えてきたし、分かってきた。これまで僕には僕しかいなかったけど、今はもう違う。これは結構すごいことだと思うよ。
 これからもっと見えてくるし、分かってくる。だから少し安心、なんだ。