64 洗濯物日和







昨日までの冷え込みが嘘のような陽気だ。
高杉はガラス戸を開け放した縁側で煙草を呑んだ。室内の畳も心なしか温かい。
日光がうららかに照り、冬にしては暑いくらいだ。
高杉自身は寒かろうと暑かろうと気にならなかったが、一間しかない部屋の奥で桂は眉をひそめ、無愛想な声で縁側の高杉に声をかけた。
「高杉、閉めろ。寒い」
「こっち来いよヅラぁ、あったけえ」
「ヅラじゃない桂だ」
手招くと、桂はしばらく躊躇っていたがしぶしぶ腰を上げた。ゆっくりと間をはかり、結局ひと一人分空けて高杉の隣に三角座りして落ち着く。まるで犬猫だと高杉は口の端を吊り上げる。
「外から丸見えだ。」
満更でもなさそうに桂は陽射しを浴びて文句を言った。
「塀があるじゃねーか」
「そういうことを言っているのではない」
「冬には珍しい陽気だろ」
桂の肩が光に当る。
「ヅラァ、咽喉が渇く」
日だまりに影を落とす柱に寄りかかり、高杉は煙草を灰皿に押し付けて消した。
「ポットに湯がある、勝手にしろ」
庭の木を熱心に眺めて、桂は高杉を一瞥すらしない。
だが、肩のあたりが、今日は柔らかい。
ふと、高杉は温まった縁側の木の板目を足に引っかけ、室内の畳に押し倒した。
押さえつけた手首から規則正しい脈が伝わる。
桂は眉を顰めてどけ、とだけ言った。
静かなものだ。予測などしていなかっただろうに抵抗は無い。余裕を見せるためか諦めか、それとも、この陽気にやられたか。
「高杉、こんなところで盛ってどうする」
バカなくせに、諭すような。
「うるせーよヅラァ」
耳元で囁き帯に手をかける。今度は下敷きになった身体が反射的に暴れた。
「っ高杉、やめろ」
「誰が」
やめてやるか。
咽喉元に食いつくように唇を落とすと、華奢な身体は少しおとなしくなった。
背中に太陽の直射。じわじわと温まる。
「開放感あってイイじゃねーか」
着物の裾を割ってのしかかると白い足袋が目に付いた。
のんびりと穏やかな冬の昼。
真昼間からするセックスが一番気持ちいい日和だ。
いつもなら真っ直ぐな破壊衝動が、緩んでぐずぐずと際限ない欲求を向く。
たちまち汗が滲んだ。
桂は目を開けて高杉でない何かを見ている。
身体を入れ替え、桂を太腿にまたがらせ高杉は太陽と目を合わせた。
瞬間すべては陰影を失くす。灼けつく思考は奇妙に立体感を伴わない。
ガラス戸の向うに冬枯れの木。その後ろに明るい水色。空が高い。
仰け反った桂の冷たい指が高杉のそれと重なった。





back

copyright (C) 青く液態 All rights resereved.