社長誕?
前に置かれたのは一組のデッキ。
「何の真似だ」
「さっきも言ったでしょ。誕生日プレゼントだよ」
飄々とのたまう遊戯を、海馬は親の仇のように睨み付けた。もっとも彼の親の仇は彼自身ではあったが。
「貴様から物を貰う筋合いはない」
「まあまあ。別に恩を着せるつもりはないからさ」
「当たり前だ」
まあ、カードに罪はないので、海馬はデッキを取り上げた。数枚のカードを眺める内に顔色を変え、遊戯に詰め寄る。
「貴様、これは!?」
「デッキだよ」
「そうではない!これはあの…」
「デュエルキング武藤遊戯のデッキ」
静かすぎる声に海馬の怒号が止まる。
「そう言いたいんでしょ」
「分かっているなら、何故手放そうとする」
「このままだと誰にも使われない。それだとカードが可哀想だと思わない?」
「思わないな。貴様が使えばいいだろう」
指摘に遊戯はただ首を振る。
「そうしたら、このデッキの持ち主がボクになってしまう。同じ武藤遊戯でも、彼とボクは違うのに」
違うデッキを使って、違うデュエルをして。体は一緒だったけど、確かに別人だったのだ。
「この子達の主はボクじゃないんだ」
「オレでもないが」
「そうだね。でも、キミなら、ボクよりも上手に扱ってくれる」
「世迷い事を。オレのした事を忘れたのか?」
彼の祖父の大切にしていたカードを破ったというのに。
「それは理由があったからでしょ。格好の宣伝材料を台無しにするなんて事、キミは絶対にしない」
反論できずに海馬が黙っていると、遊戯はきょろきょろと辺りを見渡した。
「そういえばモクバ君は?」
「外に出ている」
「そっか。残念だな。じゃあ、これ。おみやげだから渡しといてくれる?」
どこから取り出したのか、丁寧にラッピングされた大きな箱を机の上にどっかと置く。
「オレのよりも随分と凝っているな」
「ひょっとして、妬いた?」
「耳が悪いのか」
「照れなくてもいいのに。…それじゃ」
立ち去る直前、遊戯は海馬の頬に唇を寄せた。
「貴様、何を…!」
抗議はドアを閉める音に遮られる。来た時と同じく唐突に。
気を取り直すように頬をスーツの袖でこすって、海馬は受話器を取った。
「…ああ、そうだ。デュエルキングのデッキを展示する。詳細は任せる」
言うだけ言って受話器を戻し、デッキに目を向けた。
「貴様等もこんな所にいるよりは、騒がしい輩に纏わりつかれた方が落ち着くだろう」
呟いて、即座に舌打ちをする。自分の行動が非科学的なものだと気づいて。
社長のお誕生日だな、と思って書いたのです。何故だろう言い訳しか思いつかない。