がんばれ

 その日、一人で散歩していたら、変な人に出会った。
「…ここも随分と変わったな」
 よれよれのコートを来て、遠くを見るような目で独り言を呟く。サテライトでは見かけないような、どこか現実離れした雰囲気を持つ人だった。
 彼はこちらを見ると、驚いたように目を見張って声をかけてきた。
「なあ」
 手招きをされて何となく近づけば、人懐っこい笑顔に迎えられる。
「お前、面白い髪型してるな」
 失礼な事を言われた上に、力一杯髪の毛をいじられて思わず手で頭を庇う。抗議の視線を向ければ、ぽん、と最後に一回頭を叩いて彼の手はのけられた。
「はは。オレもこんな頃があったのかと思ったらつい懐かしくなって。悪い…と、肝心な事を忘れるとこだった」
 そう言うと、懐から何かを取り出す。
「コイツが、お前の所に行きたいんだってさ」
 渡されたのは一枚のカード。仲間以外の他人から物を貰ったのは初めてで、思わず問いかけた。
「貰って良いのか」
「ああ。…デュエル、するんだろ」
「…何も言っていないのに、」
 どうして知っているんだ、と目を丸くすれば自慢気な笑み。
「…カード達の声が、聞こえたんだ」
「カードの、声?」
 何を言っているんだ、と不思議そうなこちらの視線に気付いたのか、彼は慌てて手を振った。
「いや、別に変な人ってわけでも…あるよな」
 言って、自分で苦笑する。別に悪い人ではなさそうだけど、そう思っているとカードを指差される。
「オレの事は忘れていいから、ソイツは大切にしてやってくれよ」
 その言葉に頷いたら、彼は笑った。
「がんばれよ」
 それから視線が逸れて、何もない空間に向かって話しかける。
「いいだろ、別に。やってみたかったんだから。――ちょっと待てよ、それはさすがにひどくないか?」
 一人で言い争っている。やっぱり変な人だ。
 その変な人から貰ったカードを見る。描かれた綺麗な竜の姿にしばらく見惚れ、ふと、視線を上げれば人影は消えていた。まるで最初から誰もいなかったみたいに。
 ただ手にあるカードだけが、先程までの出来事が現実だと証明していた。




 少年からしばらく離れた所で、十代はてくてくと歩いている。肩には彼の精霊―ユベルがぶつくさと愚痴を言っていた。
『カードまであげちゃうなんてどういうつもりさ』
「でも、アイツきっと強くなるぜ。いつか強くなったアイツと対戦する事を考えたら、今からワクワクするじゃねぇか」
 弾んだ声と昔のような口調から彼が久々の上機嫌だと知れる。
「あー、でも今デュエルしたくなってきたな。戻ったらいるかな」
『いないよ』
「何でそう決め付けるんだよ」
『いないったらいない』
 明らかに険のある口調に十代が不思議そうに首を傾げる。
「今日は機嫌悪いな。どうしたんだ」
『ボクはいつだって上機嫌だよ』
「そんなわけないだろ。…あ、分かった!」
 ぽんと手を打って、十代は納得したように続けた。
「お前もデュエルしたかったんだな」
 それなら早く言ってくれよ、と屈託なく言う彼にため息をつくユベル。
『全く、キミときたらいつまでも…』
「何か言ったか?」
『何でもない』
 絶対に何かありそうな様子に十代は軽く眉をひそめたが、取り出されたデッキの方が重要だったので放っておく事にした。






TURN1はリスペクトすべきですよね。そんな感じで書いてみた5D's風TURN1。
相方に「結局十代が書きたいだけだよね」と言われました。否定出来なかったので、拍手にあげていた時よりさらに十代成分を増やしてみました。彼への愛が増しまくっている今日この頃です。

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