ユベルといっしょ☆読み聞かせ編

 ヨハンが目を覚ますといつもと視界が違っていた。違ってはいたものの、慣れた感覚にまたかと思う。もはや諦めの境地だ。物音のした方を見ると案の定、十代と自分の身体を借りたユベルを見つけた。
『何やってんだ?』
 十代の膝の上にユベルが横向きに座っている。ユベルの腕を首に絡ませたまま、十代は経緯を説明した。
「それがさ、ユベルが『一緒に本が読みたい』って言って。最初は同じ向きで座ろうとしたんだ。そうしたら、本が見えなくって」
『別に、隣に座ったら良かったんじゃないか?』
「だって、十代の膝の上に座りたかったんだもん」
 そう言って、十代の首筋に顔を寄せる。
「まあとにかく、それで今に至るわけだ」
『成る程』
 色々つっこみたい事はあったが言うだけ無駄だと思い、ヨハンは相槌を打つだけにした。
「ただ、読み方が分からなくて、さっきからなかなか進まないんだ」
『お前、カードに載っている漢字以外、ほとんど読めないもんな』
「ほっとけ」
『読んでやるから見せてみろよ』
「そうだな…これとか」
 指された文字を見ると「陵辱」と書いてあった。ヨハンは嫌な予感がして十代に尋ねた。
『…悪い、ちょっと表紙見せてくれるか』
 確認してみると、裸の女性のアップという明らかにいかがわしい物だった。どこで買って来たのか。そう聞くと、
「ほら、ウチに読み物の本ってないだろ。それで買いに行こうとしたら、ごみ回収の日だったから、 ちょうどいい具合に色々捨てられてて、適当に拾ってきたんだ。…まずかったか?」
『内容がな。他に何かないのか』
「えーと、あとは…これ、何て読むんだ?」
「眼球綺譚」とある。今度は猟奇系だ。
『却下』
 意味が分からなくても表紙で判断できないのか。ため息をついて本の山を見ると、まともなものをみつけた。
『なんだ、普通に絵本があるじゃないか』
「嫌だよ。そんな子供向けの」
 不満そうなユベルをヨハンは諭した。
『そう言っても、十代が難しい漢字読めないから仕方ないだろ。絵本ならふり仮名あるしな』
「…それもそうだね。じゃあこの本でいっか」
「…俺って、そんなに馬鹿に見えるかなあ」
 さすがに十代も少し傷付いたようだった。


 適当に取った絵本は素直に感動できる話だった。
「十代…こんなの可哀想だよ…」
 泣いているユベルの背中を撫でてなだめる。架空の話だから、と言うのも無粋な気がして困った十代がヨハンに助けに求めようと視線を向けると、彼の方も涙を流していた。
『これは、身体が泣いてるからだからな!』
 真っ赤な顔で言われたってあまり説得力がない。
 それからあった本を片っ端から読まされて十代がさすがに疲れてきた頃、肩に重みが加わった。見るとユベルは目を閉じて寝入ってしまった様子。
 しばらくそっとしておこうと思ったが、座りのバランスが悪かったのかすぐに目を覚ました。元の身体に戻って、ヨハンは覚醒させるように頭を振る。そのまま立ち上がろうとしたが、十代が身体を掴んで邪魔をした。
「なあ、十代。どいていいか?」
「ダメだ」
「何で」
 十代は真剣な表情で、言った。
「足が痺れて、今動いたら絶対痛い」
「…そうか」
 ヨハンは遠慮なく立ち上がった。
「痛っ、動くなって!」
「動かなかったらいつまでも痺れたままだろ。こんなものは動かした方が早く治るんだよ」
 足をつかんで、問答無用に動かす。十代は声を上げて悶絶していたが、解放すると涙目で睨みつけてきた。それだけでは気がすまなかったのか、ヨハンの身体にしがみついた。
「…さすがに重いんだが」
「このまま痺れてみろ。相当痛かったんだぞ」
 恨めしそうに言う十代に、ヨハンは独り言のように言った。
「そうか、残念だなあ。せっかく疲れている十代の為に、クッキーでも焼こうかと思ったのに。動けないなら出来ないよなあ」
 途端に十代が身体を離す。さらに小声で注文が加わった。
「…そば粉使ったやつがいい」
「はいはい」
 ヨハンはキッチンに向かおうとして、途中で振り返った。
「そうだ、ちゃんと本片付けておけよ。次のゴミの日に捨てるから」
「えー。せっかく持ってきたのに」
「今度買いに行こうぜ。ちゃんと読み仮名のふってあるやつな」
「…一応、簡単な漢字なら読めるんだぞ」
 十代の抗議にヨハンはおかしそうに笑った。






KENNさんの声ならどんな話だって最高です(待)
ちなみに眼球綺譚は私のフェイバリット作家さんの作品。何でヨハンが内容知ってるかは謎。館シリーズのほうが好きですが、中身とタイトルの難読っぷりから採用。残念ながら朗読には向きません。
絵本はたまに立ち読みします。昔、図書館で大人向けの絵本(決していかがわしくはないです)を読んでマジ泣きしたり。にゃんこ…!
ちょっとヨハンがツンデレっぽいとか思いましたが、きっと私の気のせいです。

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