ユベルといっしょ☆看病編

「ちょっとヨハン、起きてよ!」
 カードの中でわりと居心地よく寝ていたヨハンは、ユベルに起こされて少し不機嫌そうに答えた。
『なんだよ、うるさいな』
「十代がいきなり倒れちゃったんだ!どうしよう!」
『本当か!』
 ユベルが指差した先には十代が床に倒れていた。先程から大声で騒いでいるにも関わらず、気が付いた様子もない。
「どうしよう!十代が死んじゃったら」
『落ち着け。とりあえずベッドに運ぶんだ』
「分かった」
『…って首根っこ掴んでどうするんだよ!せめて肩からひきずるとか!』
 指示するよりも交代すれば早いという事に気づいていないあたり、ヨハンも相当動揺していた。
 なんとかベッドに運んだものの、相変わらず十代は目を覚まさないままだ。まずは事態の把握からだとヨハンはユベルに問いかけた。
『それで、一体何があったんだ?』
「確か、追いかけっこしてたんだ。テレビで見て楽しそうだなって思って」
 二人で鬼ごっこ(しかも室内)という不毛な行動にはあえてつっこみを入れず、さらに問いを重ねる。
『他には?』
「何もしてないよ。ただ走っていたら十代が…」
 さすがに走り回っただけで倒れはしないだろう。ヨハンはしばらく考えて、一つの事に行き当たった。
『…そういえば、昨日やたらと咳してたっけ』
 ひょっとして風邪をこじらかせたのか。
普段が病気一つしない十代だから思いつかなかったけど、寝ている彼を改めて見ると顔が赤くて息も荒く、明らかに熱を出している様子だ。原因が分かれば話は早い。
『そうだな、まずは頭を冷やさないと。冷凍庫から氷出して、洗面器に入れて、タオル用意して…』
「えっと…これで大丈夫かな」
 普段なら嫌味の応酬の一つもありそうなものだが、今回ばかりは素直にしたがう。十代の額に濡れタオルを乗せると、さっきよりも楽そうに見えた。それでも起きる気配はない。
「ボクのせいだ。ボクが十代に無理させたから…」
 思わず目に涙を浮かべるユベルにヨハンがいつもよりは柔らかな口調で言った。
『お前だけのせいじゃないよ。俺だって気付かなかったんだし。…大体十代が悪いんだ。普通気付くだろ』
 そのまま病人に悪態をつき始めるヨハンを見て、ユベルは泣き止んで笑った。
「…キミに慰められるなんて。なんだかおかしいや」
『悪かったな』
 ヨハンがそっぽを向くのと同時に十代が目を覚ました。
「う…」
「十代!」
『大丈夫か!』
「ああ…」
『無理に起き上がるなよ。熱あるんだから』
「そっか、道理で朝から妙に寒いと思った」
 答える十代の声は若干かすれていて、嫌でも病人だと思わせる。
「十代。ボク、十代が具合悪いって思わなくて、死んじゃったのかと思って…」
「そんなわけないだろ。悪かったな、心配かけて」
 素直に頭を撫でられているユベルを見て、ヨハンは俺の時と態度違うだろと憮然としたが、それは言わずに別の言葉を口にした。
『どうだ、食べれるか?薬を飲むにしろ少しは何か食べ物入れないと』
「んー。そう言えば、ちょっと腹減ったかも」
 十代の言葉にユベルが元気良く立ち上がった。
「ボク作ってくる!待っててね、十代」
『ちょっと待て!お前一人で作れるわけないだろ!』
 ぱたぱた走っていくユベルの後をヨハンが追いかける。しばらくしてぎゃんぎゃん言い争う二人の声が聞こえてきた。
だるさが残っている頭には少し騒がしすぎたけど、人の気配に安心したのかいつのまにか寝入ってしまったらしい。気が付くとユベルが笑顔で鍋を持っていた。その横でヨハンが荒く呼吸をしている。寝ている間にかなり壮絶なやり取りがあったようだ。
「おまたせ。はい、十代。あーん」
 笑顔で勧められたさじを口に入れる。熱過ぎた上に鼻が詰まっていて味は良く分からなかったが、気持ちが嬉しくかったので「うまいよ」と答えておく。
『それ食べたら薬飲めよ』
「うっ。…やっぱ飲まなきゃまずいか」
『当然だ』
 その後、仕方なく薬を飲んだ後もう一眠りして、十代が再び目を覚ました時には辺りはすっかり暗くなっていた。
 熱が下がったらしく、さっきまでより視界がはっきりしている。思ったより風邪がひどかったと実感する。
 これは相当心配をかけただろうと、看病してくれた二人に礼を言うべく姿を探すと、ヨハンが床に座ってベッドにもたれ掛かるようにして寝息を立てていた。相当疲れたのか、寝苦しそうな体勢なのに熟睡しているようだ。
 そっとしておきたかったけど、このままでは風邪をひくと肩を掴んで軽くゆさぶった。
「ん…十代?」
「風邪ひくぞ」
「…お前が言うか」
 ヨハンの声は寝起きのせいで、いまいち力がない。
「ユベルは?」
「あんまり覚えてないけど、帰ったみたいだな。…それより、もう無茶するなよ。俺達相当心配したんだからな」
「反省してる」
「後でアイツにも言っとけよ。自分のせいだって大分落ち込んでたから」
 ヨハンの言葉に十代は珍しい事もあると思った。普段は自分に対して、ユベルに甘すぎだと怒るのに。
「ユベルの事、心配してるんだな」
「今回は特別だ」
 仕方がないというように重々しく答えるヨハンに十代は思わず吹き出した。
「何笑ってんだよ。ちゃんと反省しろよ」
「はいはい」
「晩飯用意してくるから、おとなしくしてるんだぞ」
 ヨハンはそう言って部屋を出た。キッチンに行って残っていたおかゆを温める。ふと気になって味見をしたら、思わず頭を抱えたくなった。
「…何入れ間違えたんだ、アイツ」
 何とも不可思議な味になっている。そこまでまずくはないけれど。どうするか悩んだけど、せっかくだからとそのまま器に入れる。
今度はちゃんと分かりやすいレシピを書いておこうと思いつつ、食器を乗せたトレイを持って十代の元へ向かった。






仲良し三人組を目指しました。目標って大事だと思います(どこか視線をそらして)。
私は実際に熱を出しておきながら、気付かず一日を過ごしていた事があります。倒れはしなかったものの、夜やたらと寝苦しくて熱を測ったら38度越え(それまで無自覚)というネタにしかならない事をしました。ネタになったら勝ちだと思う悲しい関西人気質。

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