ユベルといっしょ☆買い物編

 ユベルが買い物に行きたいと言いだしたので、十代は一緒にデパートに買い物にきていた。十代のポケットの中にレインボードラゴンのカードを入れ、肩に半透明の姿でヨハンが座っている。
 本日のユベルの格好はヨハンとの見解の相違で散々争った結果、胸元をくつろげたシャツにゆるめたネクタイをひっかけ、ブーツカットのパンツにややヒールのあるブーツと、どこかのホストクラブにいそうな出で立ちになった。
 その格好を「似合ってる」の一言ですませた十代は普段着のままだ。別に十代の格好を気にしていないわけではなく、十代なら何でも似合うというのがユベルの主張である。
その主張はともかく、二人で並ぶと明らかにアンバランスだ。しかも、ホストに見える美人(でも男)がラフな格好の男に愛してるだの何だのと話しかけている光景は、周りから異様だと思われても仕方がない。だが、
「それで何を買いたいんだ」
「服が欲しいな。この格好だとちょっと地味だしね」
『いや、十分派手だ!これ以上オレの姿で変な格好をしないでくれ!』
「どこが変なのさ、ねぇ十代?」
「そうだなあ…。…地味ではないかもな」
「そんな…!十代はボクよりそんな奴の肩を持つんだ。うっ…」
『こら、人前で泣くな!』
「…分かった。服を買いに行こう」
『十代!?』
「本当!?大好きだよ、十代!」
「そんなにひっついたら歩けないって。…ヨハン悪いな。後で埋め合わせするから」
『…カード一箱』
「りょーかい」
 何も見えない空間と会話している時点で、周りの人間から距離をおかれていた。




 周りに空間が出来ている事に気付かず三人は買い物を続けていく。
「とりあえず服とカードだっけ。洋服売り場の方が近いからそっちから行くか」
 売り場案内を見て十代が提案する。反論もなかったので洋服売り場に到着し、しばらくしての事。
「あのな、ユベル」
「なんだい?」
 上機嫌で服を選んでいるユベルに十代は問いかけた。
「…何でオレが着替えてんだ?」
「いいじゃない、そんな事。あ!コレも似合うかも」
 そう言って十代に服を手渡す。かれこれ1時間以上着せ替え人形のように扱われて、さすがに疲れた十代はヨハンに助けを求めた。
「ヨハン、お前からも言ってやれよ」
『そうだな。…ユベル、十代はこっちの方が似合うって』
 そう言って真顔で別の服を指差すヨハンにユベルが反論した。
「それだと地味過ぎるよ。やっぱり華がないと」
『分かってないな。シンプルな方が合うんだって』
「そこまで言うなら、どっちが十代に似合う服を見立てられるか、勝負しようじゃないか」
『望む所だ!よし、十代、まずはこれを着ろよ。あとこれとこれと…』
 誰も止めてくれる人間がいないと知って十代はため息をついた。



 その後、無事に服を買った(ただし、ほとんど十代の服だ)までは良かったのだが、カード売場で目を離した隙にユベルがいなくなってしまった。どうやらカードを見るのに飽きてどこかに行ってしまったらしい。
何しろ売り場にいる事2時間弱。その間十代とヨハンはどのパックを買うだの、新しいカードパックの予想だの、自分のデッキの内容だのをずっと話し込んでいた。うんざりするのは当然だろう。
 ようやく気付いた十代達が辺りを見渡した時には既に気配の欠片も残っていなかった。
『何処に行ったんだ、アイツ』
「うーん、ヨハンの体だから迷ったのかな」
『どういう意味だ』
「いや、そのまんまの意味だけど」
 傍目からは独り言をぶつぶつ言っているようにしか見えない。そのおかげで周りに気を配らなくても人にぶつからずに歩いていると、急にルビイが飛んで来た。
『るびるびい!』
『…なんだって!十代、大変だ!急ごう!』
「いや、全然意味わかんないんだけど」
 5文字だけで全ての事情を知り、いきなり走りだしたヨハンを追いかけつつ、会話の内容についていけない十代が問いかけた。
『それが、近くの銀行で立てこもりがあって、そこでユベルが捕まってるって』
「なんだって!」
 困惑していた表情が一瞬で真剣なものに切り替わる。走りも全速力に切り替え、十代は拳を握って高らかに宣言した。
「よし!オレが絶対助けてやるからな!ユベル、ヨハン!」
『いや、オレここにいるし』
 ヨハンの言葉は暴走した十代の耳には届かなかった。話の通じなさではどっちもどっちである。
 助けに行くと意気込んで向かった十代だったが、当然、中に入る前に危ないからと警備員に止められてしまった。全くもって当然の対応であるが、常識など十代には何の意味もない。
 軽い押し問答の後、身内の事となると見境のない十代の、堪忍袋の尾が呆気なくぷちっと切れる音をヨハンは聞いた。
「…この程度で俺の行く手を阻めると思うのか。…その愚かさ、己が身で償うがいい」
 怒りのあまり覇王化している。風を纏わせ、眼が金色に輝く。そのまま無言でカードからモンスターを実体化させた。異形の者を見て腰を抜かした警備員を一瞥し、攻撃する必要もないと判断したらしくそのまま歩みを進める。
 その後、勇気ある人間が止めよう立ちはだかったが、
「煩い。消してやろうか?」
 眼光と数語の言葉で退けてしまった。ヨハンも何だかんだで心配しているので、十代の無謀な進み方を止めるつもりはないようだ。
 後日、その場にいた男が「何故止めなかったのか」と上司に責められた時、こう答えたという。「止めれば間違いなく自分の命がなかった」と。




 覇王の力によって、案外あっさりと立てこもりの場所まで辿り着いた十代達。そこで見たものは、
「汚い手で触らないでよ。ボクを傷付けていいのは十代だけなんだから」
 犯人を床に転がし、ブーツで踏みつけて笑っているユベルの姿だった。他の人質は隅で震えている。犯人に怯えていたのか、ユベルに怯えているのか微妙な所だ。
 そのまま傲然と構えていたユベルだったが、覇王モードから戻った十代を見つけた瞬間態度が変わった。
「十代…、怖かったよ!」
 涙を浮かべて十代にすがりつく。残念ながらユベルの方が背が高いのでバランスは悪い。
「よしよし」
 現在の状況を把握していながら、疑問を抱かず頭を撫でてあげる十代。間違いなく大物だ。普通の感性を持っている人質達はさらに隅に逃げてしまっていた。
「聞いてよ十代。アイツったらひどいんだよ。ほら、包みが潰されて…。せっかく十代に買ってもらった服が台無しになっちゃった」
「服ならまた買ってやるよ。それより、怪我しなかったか?」
 心配そうに問う十代にユベルはきっぱりと言った。見るからに平気そうだ。
「大丈夫だよ。あんな奴なんかに指一本触らせるもんか」
「なら良かった。ヨハンも心配してたんだぜ」
 いきなり話を振られて、ヨハンは目に見えてうろたえた。
『うっ…。いや、オレは自分の体の心配をだなあ』
「フフ…ありがとう」
『…まあ、無事で良かった』
 ユベルから礼と共に笑顔を向けられて嬉しいのに、わざとぶっきらぼうに言う。そんな二人のやり取りを見て十代は晴れやかに笑った。
「だよな!じゃあ、晩飯の材料買って帰るか」
『昨日カレーの材料買っておいたぜ』
「なら、買う必要ないか。さっさと帰って飯にしようぜ」
「ボクも手伝うよ」
『まだいるつもりなのか!?』
「当然だよ。邪魔が入ったせいで十代とまだ遊び足りないもの」
『それはお前がほっつき歩くからだろ!』
「まあまあ」
 目に見えない第三者のせいでどこかつながらない会話をしながら、何事もなかったかのように去っていく三人をその場にいた人達は畏怖の目で見送っていた。




 その後、外見自分がしでかした出来事が噂となって広まった為、ヨハンはしばらく外に出ようとしなかった。同じく噂となっているにも拘らず、そういう事に無頓着な十代は何か悪い物でも食べたのだろうか、と見当違いに悩んでいたという。






アニメの展開を清々しく無視しております。…ほら、ギャグですから(遠い目)。
前回同様その場の勢いで書いてるので話の都合がいっぱいいっぱいです。覇王様ははずせません。
あと、ルビイ(ルビーって書くのは好きじゃない)との会話は某ポケットなモンスターでの話。ピカとチュウだけで全てを悟った悟史君(漢字違う)に感心よりも戦慄を覚えたものです。十代も相棒とは羽ばたきだけで会話できるぐらいの心積もりです(話が進まない気がしたので割愛)。

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