試験勉強

「なんでこんな問題が解けないんだ!」
 阿部は今日何度ともしれないため息をついた。目の前では三橋が問題集を見て頭を抱えて固まっている。阿部は我らがエースの試験勉強監督を、チームから任されたのだ。なんで自分がと聞くと「だって阿部は三橋係だろ?」と田島にきっぱりと言われた。その発言に関して異論はあったが、結局他の人物の成績や性格を考えた結果、勉強を見る事を了承した。
 初めて三橋の球を受けた時から、そのコントロールに惚れ込んで自分のピッチャーだと定めているのだ。成績が悪ければ投げさせないと聞いては放ってはおけない。そこで三橋の家で勉強会になったのだが…予想以上の出来の悪さに阿部は先程から頭を悩ませている。
「だからこのタイプの問題はこっちの公式を使って…」
 馬鹿丁寧に、何度したかも分からない説明をしていると三橋が真剣な表情で頷いている。やる気はあるのだ。野球と違って結果にあまり結びつかないだけで。
「…でこれで終わり」
 解答を示すと三橋がキラキラした目付きでこちらを見た。
「阿部さん、は、スゴイね」
「はいはい。じゃあ下の問題解いて」
 褒められて悪い気はしないが、こんな事ではいつ試験勉強が終るのか。三橋はといえば問題に取り掛かったばかりなのに、すでにシャーペンを手に固まっている。さっきよりは進んだ様子だが、もう一回説明した方がいいかと思った時、三橋の母親が紅茶とケーキを持ってきた。
「ごめんなさいね、何もおもてなしできずに」
「いえ、おかまいなく」
 彼女はティーカップを置き、何故か含み笑いをした。
「それにしても廉もやるわね。誕生日に彼女連れてくるだなんて」
「ち、違…」
「誕生日ぃ!?なんで言わなかった!」
 いきなりのことに、三橋に詰め寄る。
「だ、だって…」
「あら、言ってなかったの?」
 目を丸くしている母親に気づき、慌てて自分を抑える。なんとか取り繕って彼女に部屋から出てもらってから、改めて三橋に向き直った。当然三橋はびくつくが気にしてはいられない。
「それで、どうして言わなかった?」
「…来てくれるだけで嬉しかったし、別に、オレの誕生日、なんか…」
 どうせまた否定的な意見なのだから、さっさと遮る事にした。
「別にじゃないだろ。早く言ってくれればプレゼントでも用意したのに、今からじゃ店にも行けないし…」
 そういうと三橋はおずおずとこちらを見上げて言った。
「…お祝いして、くれる、の?」
「当たり前だろ」
 きっぱり言うと三橋はいきなり泣き出した。喜ぶならともかく、予想外の反応にびっくりする。
「お、おい、どうしたんだよ」
「だって、誕生日なんて、ずっと、お祝いして、もらってなくて」
「あー泣くなよ」
 そうだ。中学時代の三橋がどんな目にあってるか分かってたはずじゃないか。それに三橋の性格だ。自分だけで悪い方向にどんどん考えてしまっていたんだろう。あやすように三橋の頭をなでていたら、なんとか落ち着いてくれたようだった。
「お前の誕生日だろ。泣いてどうするんだ」
「でも、嬉しくて」
 また涙目になる三橋を泣き止ませようと別のもので気を引こうとする。
「そうだ!さすがにプレゼントは無理だけど、代わりに何か一つ言う事聞いてやるよ」
「なんでも?」
 三橋が現金にも泣き止む。扱いやすいのだがちょっと問題な気もする。
「ああ。…あ、でも試験勉強やめるとかなしな」
「ち、違うよ。ただ…」
「ただ?」
 ここで怯えられては元も子もないので極力穏やかに聞いてみる。それが良かったのか三橋が訥々と話しだした。
「キャッチボール、して、欲しい」
「?いつもやってるだろ」
「今日、やりたい」
「投げた球、受けてもらえるのが、一番、嬉しいから」
 そう言ってはにかみながら笑う姿に不覚にもくらっとくる。可愛い。
「〜分かったよ。じゃあ遅くならないうちにやっちゃおう」
「う、うん!」
 やっぱり今度の休みにプレゼント買いに行こう。阿部はそう思った。だってそんな笑顔反則だ。こっちがプレゼントをもらった気になる。
 そんなこんなで三橋の誕生日は、本人としては大層幸せに過ぎていったのである。

 次の日、阿部は値段が手ごろで実用的という事で、シャーペンとノートをプレゼントする事にした。いくらもらっても困らないし、人からもらったものなら三橋の事だ、大事にするだろうから多少勉強もするだろうという配慮だからだ。実際三橋はびっくりするぐらい大げさに喜んで、礼を言ってくれた。
「あ、ありがとう!大切にする!」
「ああ。あ、でもちゃんと使えよ。試験近いんだし」
「でも、もったいない…」
「いいから使う!」
「はい!」
 これはひょっとしたら大事にしすぎるあまりに使わないかもしれない。その考えに至ってちょっと失敗したかなと思う阿部であった。
 そんな心配もあったが三橋は無事に試験を乗り切る事ができた。試験のときに阿部からもらったシャーペンがお守りのようにあったとか。






魔が差しました。あれです。腐女子らしくCP話を書こうと思い立ち、しかし恋愛なんて書けない→ひょっとして男女間なら書けるのでは、と愉快な方向へ思考が進み…こんな事に。そして女言葉の阿部氏がおかしかったので、ぎりぎり違和感ないくらいにしたのですが、どう考えても男の子にしか見えない罠。文字はこういう時不便です。そういう問題ではない。
名前考えるのが楽しかったので他のキャラも名前だけ考えました。悠ちゃんとか、文美ちゃんとか。でも個人的に気に入ってるのは元子さん。ダサさがたまらない。考えたけど話が浮かばないので誰か書いて下さい(待)。

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