拾っちゃいました
あるどしゃぶりの雨の日。
マスタングは例によって、部下に見張られながら仕事を片付けていた。雨の日の方が周りの視線が冷たい気がするのは自分の被害妄想だろうか。じめじめとした湿気がさらに気分を鬱屈とさせる。
そのせいだろうか、新しい書類をとろうとして他の書類を落としてしまった。とことんついていない。
「あ、落ちましたよ」
かがんで拾おうとすると目の前に落とした書類が差し出された。
「ああ、すまない。…アルフォンス…君?」
物腰や口調の柔らかさからアルフォンスだと思って顔をあげてみたが、目の前にいる少年は以前見たときより明らかに背が高くなり、声も低い。つい違和感を思ったまま口にしていた。
「…随分と、大きくなったね」
「いえ、僕は…」
「ボクはこっちです、准将」
声のした方を見ると、以前会った時と同じ姿をしたアルフォンスがいた。疑問符を頭に浮かべていると、そこにエドワードが顔を出した。
「アルを間違えるなんて目でも悪くなったか、准将」
「鋼の…もう他に人はいないね」
まさかエドワードまで二人いないかとあたりを見る。怪訝そうに兄弟と何某がこちらを見る。とにかく疑問点を解決すべく、混乱している頭を整理しつつ問いかけた。
「それでこの青年は一体誰だね?何故ここにいる?」
兄弟の答えは当然というか、実にあっけらかんとしていた。
「ああ、道を歩いていたらいきなり空から降ってきたんだよ。しかも血を吐いて倒れるし」
「それで一応その場で治療したんですけど、しばらくうちで静養しようって話になって」
「治療というのは…」
危険な予想が頭をよぎる。それを裏付けるかのようにエドワードが自信満々に胸をはった。嫌な予感が増す。まさか…。
「ああ、たまたま賢者の石が手元にあったから。こうパンっと。別に人体錬成にはあたらないし」
「…そうか」
やっぱり。それはその通りなのだが、そんなに軽々しく使うなと言いたくなる。無駄だと理解しているが。そもそも空から降ってきたという事に疑問はないのか。
「それでしばらくうちで面倒をみていたらすっかり気があっちまって」
一人で悩んでいるのをよそに、今日最高の笑顔でエドワードが言った。
「で戸籍作ってほしいんだけど」
「申し遅れました、僕アルフォンス・ハイデリヒといいます。よろしくお願いします」
妙に馬鹿丁寧なアメストリス語で青年−ハイデリヒは名乗った。
ハイデリヒを出したかっただけという。いつもより多めに設定を無視しております。