十代視点です。
一人には広過ぎる部屋の真ん中で、ごろりと横になる。畳の感触がひんやりとして、じめっとした気候には丁度良い。昼寝でもしようかと目を閉じた矢先、襖の開く気配がした。視線だけを向けると、着物姿の妹がいた。
「……覇王?」
呼びかけても返事はなく、金色の瞳が無表情に見つめてくる。そのまま彼女は歩いてくると、足下のあたりまでやってきた。
「どうしたんだ?」
「…………姉様って」
「?」
続きを促すように首を傾げれば、涼やかな声が降ってくる。
「……姉様って、いやらしいですよね」
「え。覇王、何言っ……」
前触れもなく腰の上に跨られて言葉が途切れる。何をやりたいか分からなくて表情を伺ってみたものの、微笑んでいるだけで。よく見ようと体を起こそうとした矢先、向こうの方から顔が近づいてきた。
「む……」
突然のキスに目を丸くしていると、口内に舌が入ってくる。息を奪うようなそれは彼女がするには珍しくて、呆気にとられている間に体を床に押さえつけられる。首元から引き寄せられて、求められるままに応えていると、しばらくして顔が離れていく。
「……はぁ」
「覇王……急になんで」
口の端から零れた唾液を拭って彼女は笑う。息が苦しかったのか瞳が潤んでいて、上気した頬は興奮している様。でも、聞こえてくる声は普段と変わらないように見えた。
「姉様がいけないんです」
「何が」
「姉様が淫乱だから」
そう言って、笑顔を作る。にっこりした感じが可愛いな、と思わず見惚れているうちに、服の合わせ目に彼女の手が掛かる。
「ちょっと待、うわっ」
止める間もなく前を開かれて、むき出しになった肩が床に触れる。巻いていたサラシまでずらされて、押さえつけられていた胸が揺れた。
「本当、こんなにいやらしく育って」
「やめろって、なに……あっ」
揺れていた肉を掴まれて、一瞬目を閉じる。そのままやんわりと揉みながら、彼女は楽しそうな口調で言う。
「ほら、もう感じてる」
「ちがっ――んぁ」
急に背筋に電流が走る。刺激を与えられて膨らんだ乳首を指で潰されて、押し殺しきれなかった声が漏れる。妙に甲高い音は自分でも媚びているように思えて、恥ずかしくて頬が熱くなる。
「嘘をつかなくても、姉様が淫乱な事は知ってますから」
「嘘なんかじゃ、あぁん」
話している間に責められれば抵抗する事も出来ず、されるままに体が動く。じっとり汗ばんだ肌に舌を這わせながら、甘えた口調で彼女は言った。
「喘いでる声、もっと聞かせて下さい」
「やっ、だめだって、こんな事……つぁ」
「これが初めてという訳でもないのに、今更何を言うのですか」
問われた事はもっともで、でも納得してはいけない事だった。お互いにとって、この行為は禁忌であるべきだったから。
「オレ達、姉妹なのに」
「ええ。だから、こうして一緒にいる事が出来る。姉様のお側を独占する権利は覇王だけのもの」
そっと手が伸びてきて、両頬に触れられる。焦点のぼやけた金色の瞳が近づいて、艶やかに濡れた唇が動く。
「好きです、姉様」
「……は、お」
切なそうに眉を寄せられて、胸がきゅんと疼く。好きという単語に込められた感情は家族に向けられるべきものを逸していて、だからこそ嬉しかった。全く同じか、それよりも酷い感情を彼女に向けていたから。
「ごめん」
先に手を出したのは自分の方。戸惑う彼女を押し倒し、成熟していない体に快感を刻み込んで、常に自分を求めるようにと調教したのは自分の罪。
「どうして謝るのですか」
不思議そうに目を丸くした様子は幼く見えて、罪悪感に苦しくなる。
「オレが悪いんだ」
「姉様は悪くないです。何かが悪いというのなら、それは覇王のせいでしょう」
淡々とした口調は本心からのものだろう。純粋な彼女を取り返しがつかないまで汚した事を後悔しながら、それでも行為をやめる事が出来ない。
「ごめん」
再度の謝罪と共に彼女の服に手をかけると、嬉しいのに、と声がした。
ほとんど手に力を込めない内に漆黒の着物は彼女の肩から滑り落ちて、日に晒されていない白い肌が露わになる。首筋から胸元へと視線を落とせば、むき出しの胸が目に入る。ほとんど膨らみのないそこに触れれば、金色の瞳がぎゅっと閉じられた。
「……あっ」
「ん、冷たかったか?」
触れた肌があまりにも熱かったから、そう聞いてみたが彼女はゆるく首を振る。
「いえ……」
「そっか」
揉むというよりは指を押しつけるようにして、肋骨に沿って撫でれば甘い声が漏れてくる。身をよじらせた仕草は色香があって、幼い体つきには不釣り合いな程だ。
「あ、ぁん」
「体の方は準備できてるみたいだな」
「や、そこは……ひんっ、駄目ですっ、つまんじゃ、あぁん」
やんわりと肉をこね、ぷっくり膨らんだ果実を指で挟むと、華奢な体が大きく跳ねた。いやいやと首を振り、駄目だと言いながら胸を指にこすりつけようとする。
「随分とやらしい格好だぜ」
「だって、ねえさ、ひゃ、姉様が、いやらしっ、んっ、からぁ」
「やらしいのは覇王の方だろ」
「やっ、吸うのは――っ」
歯を立てて乳首を噛めば、体が一瞬硬直した。崩れ落ちてきた所を抱き止めると、耳元に囁く。
「もうイッたのか」
「……はぁ」
顔を覗き込めば金色の瞳がとろんとして、口が力なく笑みを作る。甘えるようにすり寄ってくると、彼女は言った。
「姉様……熱い」
「夏だからな」
「違います」
白い手が伸びてくると、こちらの手を取って、下の方へ持っていく。普段から何も履いていない彼女の股間は既に塗れて、触れるとぬるっとした感触があった。
「ここが熱くて」
「それで、オレにどうして欲しいんだ」
少し指に力を込めれば整った眉が寄る。赤くなった頬は恥ずかしいからだろうか。
「……触れて下さい」
「それだけでいいのか?」
「…………」
さらに赤くなった頬を隠すように彼女は俯いた。その視界に入るように手を動かすと、唾を飲み込む音がする。
「覇王がいいって言うなら、これ以上はしないけど」
「…………もっと……」
「聞こえないぜ」
追い打ちをかけるように言えば、しばらくの沈黙の後、消え入るような声が聞こえてきた。
「……もっと、いやらしい事して欲しいです」
「じゃあ、どうすればいいか分かるよな」
「はい……」
ゆっくりと体を離すと、彼女は畳の上に腰を下ろした。立てた膝を広げると、乱れた着物の奥に蕩けた秘所が見える。それを指で割り広げ、潤んだ瞳を上目がちに向けてくる。どこか媚びを含んだ視線は熱っぽく、もどかしいのか腰がわずかに揺れた。
「姉様、覇王を、思う存分……犯して下さいまし」
「いい子だ」
「――ん」
押し倒す勢いのまま口付けて、そのまま体をまさぐる。汗ばんだ肌はしっとりと吸いつくようで、うっすらと桜色に染まっていた。
「ふぁ……ね、さまぁ――っ」
指を秘所に挿し入れれば、慣らしてもいないのに抵抗もなく受け入れられる。水音をわざとらしく立てれば、緩く首が振られた。
「何もやってないのにぐちゃぐちゃだぜ」
「さっきの、姉様……や、すごくっ、気持ち良かっ、からぁっ」
中をかき回すほどに声のトーンが高くなって、瞳の焦点が失われていく。問いかけの答えも途切れがちだ。
「今は?」
「いいっです、姉様の、指がっ、あぁっ、覇王の中、動いっ、てぇ……や、そんなとこっ駄目ですっ」
「そう言いながら締め付けてるけど」
「だって、気持ちい、あぁっ、そこ、だめです、おかしくなるぅっ」
喘ぐ彼女はすっかり与えられる快感に夢中で、全身を揺らして縋りついてくる。乱れた姿が愛しくて首筋に吸いつけば、嬉しそうな声が上がる。
「今の覇王、すっげーエロいぜ。腰にキそう」
「ね、さまっ、もっと……やぁ、いい、らめっ、ぁあん」
「覇王――ぁっ」
いきなり彼女に股間を触られて息が詰まる。
「ねえさま……いっしょに、かんじたいです」
うっとりとした声に抗う事は出来ず、ふんわり笑うと抱きしめる。
「そうだな」
「――んっ」
唇を合わせながら足を広げて、彼女が触れやすいようにする。舌を絡ませれば身体の奥から熱が出てくるようで、彼女の瞳に映った自分がひどく物欲しそうに見えた。
「いいぜ、覇王。好きにしろよ」
「うれし、ねえさまっ、すき」
「オレも好きだぜ、覇王……んっ」
一番熱い箇所に彼女の指が入ってくる。細くても確かな質量があるそれは動く度に存在を主張して、思わず締め付けてしまう。
「ねえさまのここ、とろって……おそろいです」
「覇王が、っ可愛いから、あ」
増やされた指もすんなり入って、ばらばらになった動きが快感を増幅させる。扇情的な笑みを浮かべた彼女の囁きは、耳からも熱を吹き込もうとしているかのようだった。
「もっと、きもちよく、なってください」
「んっ、覇王も……な」
「ふぁんっ、いいですっ、ねえさまっ、もっとっ」
お返しとばかりに彼女の中を突く。急所を責めればこちらの中も突き上げられて、腰が動く度に触れ合った胸が揉まれて熱を持つ。部屋に響く声がどちらのものかも分からず、ただ互いに求め合って与え合って、同じように上り詰めていく。
「ねえさまっ」
「覇王っ」
達したのはほぼ同時。指先まで電流が走って、一気に力が抜ける。荒く息をつけば滲んだ視界に彼女の姿が映り、情動のまま抱きしめた。
「姉様……気持ち良かったです」
「……オレも」
視線を交わして笑い合って、触れるだけのキスをする。熱狂は過ぎ去ったものの冷めきったわけではなく、腰の奥に疼きが残っている。
「服、汚れてしまいましたね」
「ああ」
マタヤッテシマッタ、と遠くで誰か言っている気がする。その意味を考える気力はなく、腕の中にいる彼女に言った。
「飯より先に風呂かな」
「お背中、流してもよろしいですか」
さっきまで力を失っていた彼女の瞳が熱を帯び始める。そっと背中に回された腕は何かを求めるようで、その期待に応えようと抱き上げる。
「ああ。隅々まで洗ってやるよ」
「……はい」
幸せそうな微笑みをみると、こちらまで心が温かくなる。それが愛している人間のものなら尚更だ。胸が少し苦しいのもその為だろう。
「姉様、覇王はずっとお側にいます。ずっと……」
うっとりとした呟きは全身に染み込むようで。答えの代わりに口付けを落とした。
とっぷへ