覇王様視点です。


 たまの休日にと外に連れ出されたものの、予想外の人手に少々辟易していた。
「混んできたな。こっちに来いよ」
「ああ」
 彼に促されて、一歩足を進める。ほぼ同じ遺伝子のはずなのに、自分よりも頭二つ分ほど高い身長は男女差の問題なのだろうか。小柄だと揶揄される身としては、長身と言える体躯が羨ましい。
「こんな時間でも結構人がいるんだな。大丈夫か」
 気遣いに頷こうとした矢先、床が大きく揺れる。バランスを崩して前のめりになった体は、差し出された腕に支えられた。
「すまない」
「オレは平気だから。遠慮なくもたれてこいよ」
 返答の代わりに体重を預ける。背中に腕が回されると、自分の体はすっぽり収まる形になった。上から降る声はどことなく楽しげだ。
「覇王はやっぱりちっこいな。ちゃんと食べてるのか」
 言いながら尻のあたりを撫で回した手の甲を躊躇いなくつねる。
「――痛っ」
「余計なお世話だ」
 抗議するように睨んでくるが自業自得というもの。甘やかすのも経験上良くないと分かっている。
「なんだよ減るもんでもなし」
「減るか減らないかではなく、その考えが問題だ」
「そんな難しい事言ったってわかんねーよ」
 ぷい、と横を向いた拍子に束ねた髪が揺れる。尻尾のようなそれを強めに引いて、耳元で説教した。
「都合の悪い所だけとぼけるな」
「いたたた。分かってるって」
 降参、と両手を上げたのを見て手を離す。いつまで経っても変わらないやりとりに、思わずため息が漏れるのも仕方ないだろう。
「全く……いつまで経っても成長しないな」
「でもさ」
 そう言って、彼が触ったのは自分の胸。微かな膨らみを揉まれて、一気に血が上る。
「覇王も成長してないと思うけど」
「だから……その性根をなんとかしろっ」
「――がっ!」
 勢いよく脛を蹴り飛ばすと、彼の表情が歪んだ。涙目の視線をさらっと無視すれば、不満そうな声が聞こえてきた。
「少しくらい手加減しろよ」
「それに見合う行動をとればな」
「ふうん……」
 顎に手を当ててしばらく考えた後、彼は徐にこちらの手を取った。そっと口元に持っていくと音を立てて口付けて、ほんの少し首を傾げる。
「こういう感じか?」
「……そう、だな」
 咄嗟に反応が出来ずに曖昧に頷くと、表情が柔らかく緩んだ。整った顔立ちはこういう時に卑怯だ。
「分かった。今度からそうする」
 ふんわりと微笑まれて、不意に居たたまれない気分になる。赤くなった顔を隠すようにもたれかかって、早く目的地に着く事を祈った。


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