覇王が目を覚ますと、隣に人が寝ていた。すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている人物は碧のぼさぼさした髪が印象的で、確か―
「……誰だったか」
何度か顔を合わせてはいるが、寝起きのぼんやりした頭でははっきりと思い出せない。まあ、いいかと伸びをして、身支度を始める。甲冑を身に着けていると、背中に重量がかかった。
「おはよ」
耳元に囁かれた声は先程隣にいた人物のものだと分かるが、肝心の名前が浮かばない。
「…誰だ?」
「ひどいなあ。何度も会ってるのに」
くすくすと笑う気配がして、胸の前に手が回される。
「何度もしてるのに…ね」
「なっ―」
胸に置かれた手が、つっと下ろされる。不穏な気配を察して離れる前に、腰を引き寄せられた。
「覇王が思い出すのを手伝ってあげるよ」
「…っ、やめっ…」
「やっぱり身体に聞くのが一番でしょ」
肌蹴られた服の隙間から手を差し入れられる。中途半端に着けられた甲冑など、枷にしかならない。ただ、たとえ身軽でも抵抗出来なかった気はするが。触れられた手は身体に馴染んで、撫でられる度に力が抜けた。
「気持ちいいんだね。ここだって喜んでる」
「やっ、強く…握るなぁ」
明らかに熱を持った箇所に指が絡まると、耐え切れない程の快感が襲う。声を抑える事も出来ずに喘ぐと、そっと抱き締められる。軽く触れただけなのに、それだけで達してしまいそうだった。
「素直で、可愛いよ」
「んぁ、ひっ…やぁっ……あ…」
それに、名前。感覚は覚えがあるのに、名前だけはどうしても記憶がなくて、行為に集中出来ない。何か、肝心な事を見落としている気がした。
「―何考えてるの?」
「っ、そこはっ、あぅ」
「ね、ボクだけを見て」
無理矢理顔を向けされられると、唇が合わさる。口内を蹂躙されて、溢れた唾液が頬をつたう。少しだけ顔が離れると、彼は陶然と目を細めた。
「愛してるよ」
「―っ」
意識が焼き切れる感覚はどうしても慣れない。むしろ解放された事に安堵して、表情が緩む。
「…は、あ…」
「思い出してくれた?ボクが誰なのか」
霞んだ視界に橙が浮かぶ。ようやく答えが見つかった。
「…今まで名を言った事など、ないだろう」
「正解」
彼はそう言って、完璧な笑みを浮かべた。
続きます。
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