花束の他に
長いような短いようなリハビリを終えて、復帰したプロリーグの結果は上々。丁度冬休みが重なったので、十代が滞在先までわざわざ祝いに駆けつけてきてくれた。
「紅葉さん、優勝おめでとう!」
笑顔と共に差し出された花束を受け取る。心のこもった祝いは嬉しい。
「ありがとう」
「あと、はい」
何か他にプレゼントがあるのかと反射的に手を出すと、一枚の紙を渡された。「婚姻届」という文字が読める。
さすがにこの前の事を忘れてはいないが、カレンダーを確認して一応聞いてみた。
「十代、エイプリルフールはまだだぞ」
「…本気なのに」
「ごめん、ちょっとからかっただけだ」
冗談であって欲しかった気もするが。むくれている十代の頭を撫でると、気持ち良かったのか機嫌を直してくれた。この際だと、気になっていた事を聞いてみる。
「なあ、十代は俺のどこがそんなに好きなんだ?」
彼女は欲目なしに可愛いと思う。見ていて飽きない表情といい、いつも前向きな姿勢といい男女の区別なく愛されるであろう。デュエル以外は平凡(だと思う)自分の他に相手がいくらでもいるだろうに。
「えっと…デュエル強いし、かっこいいし、やさしいし、…」
十代は言いながら指折り上げて、最後に元気良く締めくくった。
「紅葉さんが紅葉さんだから好き!」
本当に、自分には勿体無いくらい素敵な子だ。
「俺も、十代が好きだよ」
「本当!」
嬉しそうに抱きついてくる。そのまま抱き上げてみると、歓声が上がった。気に入ってくれたのは良かったが、病み上がりの身には少々キツい。
「十代、いい加減離してくれないか」
「えー」
「これが、書けないだろ」
紙を示すと、十代は目を丸くした。
「いいの?」
「約束しただろ?お嫁にもらってやるって」
こうして笑顔を見せてくれるなら、他の事なんて些細な問題だ。
ところが、いざ書く段階になって問題に気付いた。
「そういえば、十代は未成年だから親御さんの許可も必要だよな」
「ああ。言ったら、紅葉さんなら大丈夫って。ほら」
指し示される箇所を見ると確かにサインが書かれている。この子にしてこの親というべきか。黙っていると十代が不安そうな顔をして見上げるので、曖昧に笑って頭を撫でてあげた。
その後、十代と二人で姉に報告をした。
「本気なのね」
「ああ」
この前の事もあったので盛大に反対されるかと思ったが、予想に反してため息をついただけで許してくれた。
「アンタがその目をする時はいくら言っても無駄ね。…いいの、十代ちゃん?」
「うん!」
「そう。…弟をよろしく」
「みどりさん…オレ、紅葉さんを絶対幸せにするから!」
それは普通俺の台詞なんだけど。思ったけど、十代の真剣な表情に口出しをやめた。
「みどりじゃなくて、お義姉さんって呼んでくれる?」
「おねえ、さん…?」
恐る恐る問いかける十代の頭をみどりが笑いながら撫でる。
「良く出来ました。それにしても、つくづく紅葉にはもったいないわ」
「そうだね。本当は姉上がお嫁に行くまで待とうと思ったけど、それだといつになるか分からないし」
「何ですって!」
口げんかを始めた自分とみどりを見て、十代は軽く笑った。
「どうしたんだ、十代?」
「…兄弟って面白いなあ、って」
「…だったら、私がお姉さんになってあげる、か。前は冗談だったけど…本当に妹になるのね」
「…やっぱり、変かなあ」
「そんな事ないわ。ほら、笑って。可愛い顔が台無しよ」
言葉通り笑顔を見せる十代にみどりは「よくできました」と教師らしく褒めた。
「さて、今日はお祝いにお赤飯炊いてあげましょうか。勿論エビフライもね」
「本当!みどりさ…じゃなかった、おねえさん大好き!」
そのまま十代はみどりについて台所に行ってしまった。一人取り残されて、ため息をつく。色気よりは食い気というのは何とも彼女らしいが、少し寂しい。仕方ないから何か手伝いでもしようと二人の後を追った。
届けを出すのは十代が卒業してからだと思われます(曖昧)。とりあえず十代は18才です。そこは無駄に主張。
実は手もつないでいないこの二人。このままではままごと夫婦です。でも、手を出すと犯罪だと思う私は間違いでしょうか。間違いではない気がする。というわけで、これからもこの二人はままごとです。手をつないだら子供が出来る感じでよろしくお願いします。
一応父親のカラーリングに顔立ちが母親似の天才デュエリストな男の子が生まれる予定です(聞いてない)。