真っ暗な部屋で布団に潜り込むと、すぐに彼の事を考えた。
体が熱いのは風呂上りのせいではなく、きっと彼のせいだった。
僕は今日、公一くんと初めて手をつないだ。
僕は中学1年生の時から同級生の彼にずっと片思いをしていた。でも3年生に進級した頃から片思いが両思いに変わりそうな予感がしていた。
今日の放課後。2人で寄り道をして、帰宅の途に着いたのが午後8時頃だった。
そして人気のない真っ暗な道を一緒に歩いた時、彼がそっと手をつないでくれたんだ。
公一くんの手はとても大きかった。5月の風はまだ涼しげだったのに、あの瞬間から僕の体が熱くなった。
僕たちは何も言葉を交わさなかったけど、しっかりと手を握り合った時にお互いの気持ちをちゃんと確認する事ができた。
あの時の公一くんの緊張した顔が忘れられない。
彼の鼻はピクピクと動いていて、唇は真一文字に結ばれていた。そして、大きな手は少し汗ばんでいた。
僕は家へ帰った後、彼と手をつないだ左手をずっと使わないようにしていた。公一くんが握ってくれた左手を、決してどこにも触れないようにしていた。
ご飯を食べる時も、パジャマに着替える時も、絶対に右手しか使わなかった。
お風呂に入った時は右手だけでシャンプーし、バスタブのお湯に浸かる時は左手だけちゃんと浮かせてお湯につけないようにしていた。
寝る前にトイレへ行った後でさえ、左手だけは絶対洗わないようにした。
僕の利き手は右手だから、そうする事は特に難しい事ではなかった。
布団の下で左手の拳にキスをすると、公一くんとキスをしたような気分になってすごくドキドキした。
僕はずっと興奮気味で、ちっとも眠りに就く事ができなかった。
彼と本物のキスをするのはいったいいつになるんだろう。
それ以上の事をするのは、いったいいつ頃になるんだろう。
そんな事ばかり考えてしまうと、ますます体が火照ってきた。頭の中はギンギンに冴えていて、何度寝返りを打っても眠れる気配はなかった。
目を閉じても開いても、頭に浮かぶのは公一くんの顔ばかり。
ピクピク動いていた鼻と、きつく噛み締められていた唇。それらがチラチラと目に浮かんで、とても眠れそうにはなかった。
さっきからパンツの下にあるものが硬くなっている。その事をはっきり意識した時、僕は性的欲求が抑えられなくなった。
僕は公一くんの事を考えながらマスターベーションを試みた。
それはいつもやっていた事で、特に珍しい事ではなかった。
僕は布団の下で仰向けになり、風呂上りにはき替えた清潔なパンツの中へ右手を忍ばせた。
部屋の中が真っ暗でも、ティッシュケースの位置はちゃんと頭に入っていた。だからもう準備は万端だった。
でもこの時ふと思い付いた事があって、右手をパンツの中から取り出した。
僕は今夜公一くんと別れた後、彼と手をつないだ左手をどこにも触れないようにしてきた。
でも、あそこなら左手が触れてもいいんじゃないだろうか……
僕は布団の下でもう一度左手の拳に軽くキスをした。すると、また彼とキスしたような気分になってますます興奮してきた。
それから僕は、迷わず左手をパンツの中へ忍ばせた。
不器用な左手が硬いものに触れると、今まで味わった事のないような快感を得る事ができた。
慣れない左手でそれを擦ると、他の人にかわいがってもらっているような気分になれた。
僕の左手はまったく別の人格を持っていた。きっとその手は、公一くんの手だった。
あまりにも気持ちがよくて、その快感に耐えるために何度も何度も体をくねらせた。
先端をかわいがる2本の指はすぐに濡れてしまった。体中の血がそこへ集まってくるのが分かった時、僕は右手で数枚のティッシュを掴み取った。
彼と本物のキスをするのはいったいいつになるんだろう。
それ以上の事をするのは、いったいいつ頃になるんだろう。
僕はさっきまでそんな事を考えていたけど、その夢はすでに叶えられたも同然だった。
終わり