午後9時。僕は林の中を1人きりで歩いていた。
周りの木は僕よりずっと背が高く、夜空を見上げるとその枝の隙間に時々月が見え隠れしていた。
林の中はとても静かだった。たまに風が吹くと木の葉がざわめいたけど、それ以外の音が僕の耳に入るような事はなかった。
7月の夜はかなり暖かいはずなのに、まだ慣れないせいか足元がスースーしてすごく寒く感じた。
今夜僕は、ドキドキするような初体験をした。
胸が少し重苦しいのは、ピンク色のティーシャツの下にブラジャーをしているせいだ。ブラジャーの中には胸を膨らませるための詰め物をしているけど、外から見ると特に不自然な様子は感じられなかった。
ピンクのティーシャツには、風に膨らむ白いミニスカートを合わせてみた。僕は秘密のクローゼットの中に様々な女物の洋服をコレクションしている。今日の洋服は、そのコレクションの中でも特にお気に入りの物ばかりだった。
素足にサンダルをはくと、足が本当に寒かった。でも頭はやけに温かい。それは恐らくウェーブの入ったロングヘアーのウィッグを付けているためだ。
今夜僕は、初めて女の子の姿になって町を歩いた。
明るい光を放つコンビニやパチンコ屋の前を通り過ぎる時はすごくドキドキしたけど、何事もなく無事にここまで戻ってくる事ができた。
この林を抜けると、すぐに僕の家が見えてくる。
本当は堂々と道を歩いて帰りたかったけど、この格好で家の近所を歩くのはやっぱり少し怖かった。
この姿で隣町を歩いた時、きっと誰も僕が男だとは気づかなかった。でも家の近所を歩けば昔からの知り合いに出くわす危険性がある。
万が一僕をよく知っている人とすれ違ったら、その人はすれ違ったのが女装している僕だと気づいてしまうかもしれない。もしもそんな事になったら、僕は金輪際町を歩けなくなってしまう。だから僕はあえて人の通らない林の中を歩いて帰る事にしたんだ。
緩やかな風にミニスカートが膨らむと、なんだかとても嬉しくなった。今夜の僕は、黙ってさえいればごく普通の女の子だった。
この時僕は浮かれ気分で林の中を歩いていた。サンダルのヒールが5センチぐらいあるので、いつもより目線が少し高く感じた。
家まであとどのぐらいだろう。まだ200メートル以上あるだろうか。
僕は再び夜空を見上げ、木の枝の隙間に月を探していた。
その時だった。
僕は突然後ろから誰かに強い力で押さえ付けられた。いきなり逞しい腕が僕の顎の下にグッと入り込み、もう1本の腕は僕のお腹のあたりを締め付けていた。
「うわぁ!」
思わず僕は悲鳴を上げ、右手にぶら下げていたハンドバッグを落としてしまった。財布と携帯電話の入ったバッグが大地の上に落ちると、バサッという音が足元から聞こえてきた。
するとその時、僕の体を押さえ付けていた力がフッと緩むのを感じた。
僕はすぐに後ろを振り返った。
その時は自分の身に何が起こったのかちゃんとよく分かっていた。僕は誰かに襲われたんだ。
いったい誰だ。そう思って後ろを振り向いた瞬間、あまりにも驚いて頭がクラクラした。
後ろを振り向くと、目の前に1人の男が立っていた。その人は上下共に黒っぽい洋服を着ていて、目を大きく見開き、口をあんぐりと開けていた。そして僕はその顔をよく知っていた。
がっちりした体と、短い髪と、不揃いな歯。
その男の特徴を目の当たりにした時、僕は本当に驚いて気絶するかと思った。
僕を襲ったその人は、同じ中学へ通う1つ年上の先輩だった。その彼は、現在生徒会長を務めていた。
僕は早くそこから逃げ出したかった。でも足が思うように動かなかった。それはきっと、先輩も同じだったのだろう。僕らはお互いに動き出す事ができず、そこで長い間見つめ合う事になってしまった。
やがて緩やかな風が吹いて、また木の葉がざわめいた。
僕と先輩はその音を聞いて2人同時に我に返り、2人同時に口を開いた。
「鈴木?」
「先輩?」
次の瞬間、僕らの声が綺麗にハモった。
女装した男と、その男を襲った痴漢。この時僕らの立場は五分五分だった。
「お前、何してるんだ?」
先輩はそう言いながら恐ろしい物を見るような目つきで僕を見つめた。
その時また風が吹いて僕のミニスカートがフワッと膨らんだ。僕は慌ててパンツが見えないようにスカートの裾を両手で押さえた。
僕のそんな仕草を見た先輩は、不揃いな歯を見せて軽く微笑んだ。そして僕らは奇妙な会話を交わす事となった。
「本物の女かと思った」
そう言う先輩に、僕はこう応えた。
「本物の痴漢かと思った」
すると先輩は気まずそうに頬を赤らめた。薄い月明かりはそんな彼の顔を僕の目にはっきりと映し出してくれていた。
「だってお前がすごく綺麗だったから、つい……」
先輩にそう言われ、今度は僕の方が頬を赤らめた。少し強い風が吹いて、木の葉が大きくざわめいた。
この時僕はすごく変な気持ちになっていた。
自分に女装の趣味がある事はもちろん誰にも言えないトップシークレットだった。だからこんなふうに人から綺麗だと言ってもらえる日が来るとは思ってもみなかったんだ。でも……そう言ってもらえると、やっぱりすごく嬉しかった。
「お前、足も綺麗だし、その髪型もよく似合ってるよ」
「ホント?」
「うん」
先輩は僕の前へ歩み出て、両手をそっと握ってくれた。
すると途端に心臓がドキドキしてきた。でもそれはさっきまでのドキドキとは少し違っていた。
「キスしてもいい?」
探るような声でそう言われると、スカートの下にあるものが少しだけムズムズした。
先輩は澄んだ目で真っ直ぐに僕を見つめていた。月明かりの下でその目がキラリと輝いた時、僕の口から自然にこんな言葉が飛び出した。
「そんな事、聞かないで」
そう言い終わるか終わらないうちに、僕は先輩の渇いた唇で口を塞がれた。
僕より1年先輩の彼は、結構キスがうまかった。器用に舌を使われると、別な意味でまた気絶しそうになった。
やがて彼の大きな手が僕の腰を強く引き寄せた。洋服を通してぶつかった僕らのあそこは、お互いにすごく硬くなっていた。
その事を意識した瞬間、僕は彼に強い力で後ろへ押された。するとすぐに背中が大木の幹にぶち当たった。
ブラジャーの金具が背中の皮膚と木の幹に挟まれ、さっきの僕のように悲鳴を上げているような気がした。
「やらせて」
彼がキスを終えたのは、きっとそのセリフを吐くためだった。
僕が返事をしないうちに彼の大きな手がスカートの下へ滑り込んできた。やがてその手がパンツの中へ入り込み、僕はお尻の上にはっきりと5本の指の感触を味わった。
僕はものすごく興奮し、彼の肩に両手を回した。その時彼の手がパンツの中を動き回り、僕の硬くなっている部分に少しだけ触れた。
「あぁ……ん」
そんなつもりはないのに、自然にそんな声が口から漏れた。
先輩は僕のパンツをあっという間に膝の下まで引っ張った。それから先は僕の役目だった。僕は自分の力でパンツの穴から両足を抜いた。
月明かりに照らされる大地の上にイチゴの柄の小さなパンツがポトリと落ちた。それはブラジャーとお揃いの物だった。
「後ろから入れる」
先輩のその声が、木の葉のざわめきと重なった。僕は彼の手によって体を半回転させられた。すると目の前に大木の幹があった。僕は微かな木の葉のざわめきを聞きながらその幹に両手をついた。
彼の大きな手が乱暴にスカートをめくった。小さなお尻にまた5本の指の感触が走った。先輩は片手で僕のお尻を撫でながらもう片方の手の指を穴にズボズボ入れてきた。
すると僕はもう我慢ができなくなった。
「先輩、早く」
目を閉じて彼にねだると、背中の後ろでカチャカチャとベルトを外す音がした。
外の風がしだいに強まって、木の葉のざわめきも大きくなっていた。風に乱れたロングヘアーの毛先が頬に降りかかり、僕は右手の小指でサッとその髪を払い除けた。
それが済むと、僕の中に彼の硬いものが勢いよく入り込んできた。少し痛かったけど、その興奮は痛みを上回っていた。
「あ……あぁ……ん」
そんなつもりはないのに、またそんな声が口から漏れた。僕はもう自分をコントロールする事ができなかった。
先輩は僕を前後から攻め続けた。彼の硬いものは僕の中を何度も行き来し、彼の5本の指は僕のあそこを丁寧にかわいがってくれた。
「すごくいい」
僕は快感に震える先輩の声を聞き、必死に彼を受け止めた。
彼が僕の中で前後左右に動くと、あまりに気持ちがよくてどうにかなってしまいそうだった。先輩の指は僕の性感帯を確実に捉えていた。
僕は彼の指を濡らした事がすごく恥ずかしかった。でも彼はその事ですごく興奮していた。
「お前すごく濡れてる。そんなにいいの?」
「あぁ……ん」
「やばい。もういきそうだ」
「僕も」
そして、静かな林の中に2人のうめき声が響いた。
「うっ、あぁ……」
この時、また僕らの声がハモった。僕は目を閉じたまま天を仰いで射精した。きっとそれは、先輩も同じだった。
「はぁ……はぁ……」
すべてを出し切った僕は、息を荒げながら薄っすらと目を開けた。その時は頭上から降り注がれる月明かりが僕の目の前を薄明るく照らしていた。
僕が吐き出した白い体液は、スーッとゆっくり木の幹を流れ落ちていった。そして、それと同じ速度で先輩の吐き出した体液が僕の足を流れ落ちていった。先輩の温かい体液は、寒かった僕の足元を十分に温めてくれた。
「今度はフリルの付いたスカートをはいてきて」
先輩は小さくそう言って僕の背中を抱き締め、続けて右の耳に唇を這わせた。
「何色がいい?」
僕は秘密のクローゼットの中身を思い浮かべながら、彼の言葉にそう応えた。
終わり