Pillow Talk -SIDE AOKI-

 青木は来ていたパジャマを脱ぎ捨て、薪をベッドの上に押し倒した。両手で膝をすくい上げて、薪の体を二つ折りにする。
 薪のそこが青木の目の前にさらけ出される。薪は両腕で顔を隠した。
「見るな、青木」
「そんなの今更です、って……」
 青木が自分のそれを薪の後ろに押し当てる。そこはすっかり解れて、半ば口を開けていた。青木はぐっと腰を突き入れた。
「あっ……」
 薪が息を吐くのに合わせて、ぐっ、ぐっと腰を進めていく。やがて奥まで入り切ると、薪はもう一度大きく息を吐いた。
「薪、さん……」
 青木も快感に耐えるように息を漏らす。ゆるゆると腰を動かすのを、薪が制止する。
「待、て……青木……」
「え?」
「まだ……動かないで、もう少し、このまま……」
「……はい」
 薪にせがまれて、青木は動きを中断した。肘をついて、そろりと薪の上半身に倒れ込む。
 互いの胸板が重なり合って、心臓の音がダイレクトに伝わる。薪が呼吸するのに合わせて、中がかすかに締め付けられるようだ。青木は深呼吸してなんとか堪えていたが、やがて顔を上げ薪に尋ねた。
「そろそろ、動いてもいいですか?」
 薪は薄目を開けて青木を見つめ返しながら、小さく頷いた。

 青木が薪の足を持ち上げ、腰を打ち付ける。
「ああっ……」
 中はとろとろに柔らかく溶けていた。青木が突き入れるたびに、ぎゅっぎゅっと締め付けて離さない。
「あぁ……あっ……はっ……」
 薪は目を瞑って、気持ちよさそうに喘いでいる。青木は体を倒して、彼の唇にむしゃぶりついた。腰を振りながら、薪の唇を味わう。すると薪も青木の頭をかき抱き、口づけに応えた。
 さっき薪が青木の眼鏡を隠したのは全く持って正解だった。こうして互いの顔を近づけていても、遮るものがないのだから。時折、瞼に薪の睫毛がぱしぱしと当たるのを感じた。
 頭の奥が痺れるような快感の中で、青木はうわ言のように思った。

 ──男同士なのに、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
 ──この人はどうしてこんなにも綺麗なのだろう。

 彼の乱れる所を、目に焼き付けておきたい。青木は上体を起こし、食い入るように薪を見つめた。
 白い肌が汗に濡れ、頬は赤く上気していた。色素の薄い瞳がとろんとなって自分を見つめている。つやつやと濡れた唇からは喘ぎ声がしきりに上がっている。こうして彼を見つめているだけで、底なしに衝動が湧き上がってくる。
 青木は片方の足を高く持ち上げた。大きく広がった足の間に、いっそう腰を打ち付ける。肉の打ち付け合う音が激しくなって、薪の声が一段と高くなる。
 青木は夢中になって体を動かし、それに応えるように薪も腰を振る。二人は互いを見つめながら、自然と手を繋ぎ合わせた。そして──

「あっ……」

 薪が青木の手の甲に爪を立てながら吐精した。同時に中が痙攣して、青木をぐいぐいと締め付ける。そのきつさに耐えられず、青木もまた絞り切るように精を吐き出した。

「はあ……はあ……はあ……」
 荒く息をつきながら、青木は薪の中から自身を引き抜き、ゴムを捨てた。
 薪は目を瞑ったままぐったりとしている。唇がわずかに開いて、そこから赤い舌が覗いていた。青木は彼の唇に吸い付き、じゅっと唾液を啜った。
「んぅ……」
 薪が鼻にかかった声を上げる。職場ではとても想像できないような甘えた声を。青木は自分の脳の一部が焼けつくのを感じた。
 ──これでもし俺の脳が破損して、MRIにかけられなくなったって言われても、俺は絶対に信じる……。
 薪に知られたら怒られそうなことを考えながら、シーツの上に横たわる。そして彼の頭を引き寄せ、もう一度キスをした。薪の腕がのろのろと上がり、青木の首に回される。
 何度も何度も唇を合わせているうちに、心臓の鼓動が落ち着きを取り戻した。
「ふう……」
 薪の方も落ち着いたようだ。伏せられた目がそろりと開き、青木を捉える。至近距離から見る薪の目は零れ落ちそうなほど大きい。こうして見つめられているだけで胸が騒ぎそうになる。
 危ない危ない、このまま見ていたら、際限なく立ち上がってしまいそうだ。青木は体を起こし、辺りを見回した。目を覚ました時より大分明るくなっている。青木は眼鏡を取って顔にかけた。
「薪さん、水飲みますか? 俺取ってきますけど」
「……ん、頼む」
 ベッドの足元に、さっき薪に脱がされたズボンが落ちていた。それを拾い、下だけ身に着けた状態でキッチンに行く。
 コップに水を汲んで寝室に戻ると、薪はベッドの上に身を起こして青木を待っていた。
「薪さん、どうぞ」
「ああ」
 薪がコップを受け取って水を飲む。すると唇の端から水が溢れ、水滴が首筋を伝った。青木は自分の水を飲むのも忘れて、その様子に見入った。
 セックスをした後の薪の色気は尋常ではなかった。赤く染まった頬、ぼんやりとした眼差し、額には前髪が汗で張り付いている。手を伸ばしてそれをはらってやると、薪と目が合い、青木の胸は高鳴った。
 しかし、彼の口から飛び出したのは色気の欠片もない言葉だった。

「青木、とりあえずあと十年は変死するなよ」

「え? なんです、いきなり」
 思いもかけないことを言われ、青木はぽかんとなった。そんな彼に、薪が滔々と説明する。
「考えてみろ。お前の脳がMRIにかけられることになったら、今の映像も捜査員達に見られるかもしれないんだぞ? 散々他人の脳を覗いてきた僕が言うのもおこがましいが、自分のあられもない姿が公開されるのは、せめて僕が警察を引退してからにしてほしい。今日お前が何らかの原因で突然死して、僕が捜査することになったらどうする。部下の前で自分の痴態を検証するのか? 冗談じゃない。そうなったら辞表をすっ飛ばして遺書を書いてやる」
「ああ、そういうことですか……まあ確かに今のはちょっと激しかったかもしれませんが……」
 薪にとっては、これが彼なりの惚気方なのかもしれない。しかしピロートークと呼ぶにはいささか色気がなさすぎた。
「大体お前は最中に人のことを見すぎなんだ」
「それはしょうがないでしょう。相手が薪さんなんだから、そりゃ誰だって見ちゃいますよ」
「なんだそれは。答えになってないぞ」
 薪がムッとなってこちらを睨んでくる。しかし勤務中ならいざ知らず、ベッドの上でにらみを利かされても怖くもなんともない。ただ愛おしいだけである。
 青木はふっと笑って、薪に言い返した
「それを言うなら、そっちも同じでしょう? 俺だって岡部さんに自分の裸を見られたくはないんだから」
 すると薪は自信ありげに断言した。
「僕なら大丈夫だ」
「なんでですか?」
「僕の脳の記憶を見たとしても、映るのはせいぜいお前の上半身ぐらいだ。腰から下はあえて見ないようにしていた」
「……」
 青木は押し黙った。さらに薪は続けて言う。
「ああ、最初のなら大丈夫だぞ。布団の中で暗かったし、殆ど目を瞑ってやってたから、おそらくモニターには映らない。僕が保証する」
 思わず青木は耳を塞いだ。
「も、もういいです! 分かりました、結構です! なのでもうやめてください……!」
「なんでだ」
「なんでも何も……そもそも俺が死んだら今の会話も見られてしまうんですよ、捜査員全員に。いいんですか、それで」
「……それは確かにまずいな」
 薄暗いモニタールームで、捜査員達が卑猥な台詞を言う所長の唇を読む。一体何のブラックジョークだろうか。
 青木は白旗を上げた。
「いいです、分かりました。俺はこの先絶対に誰にも殺されません。不審死も変死も極力控えるようにします! ついでに過労死も!」
 右手を上げて、誓いの言葉を唱える青木に、

「そうしてもらえると助かるな」

 薪はにこりと笑ってコップの水を飲み干した。


END

表のテーマは「薪さんの悪戯」。
裏テーマは「恋人になってから冗談を言えるようになった薪さん」。

コメント

名無しさん

最近原作漫画にはまって、season0まで一気に買い漁った者です。
こんな素敵な漫画に今まで出会ってなかったなんて…
薪さんと青木の関係本当に萌えます…!
確かに色気のないピロートークですが笑、この2人なら本当にこんな会話しそう!
とニヤニヤしながら読ませていただきました。
素敵な作品をありがとうございます!!

名無しさん、初めまして。
お返事が遅くなってしまってごめんなさい。

> 最近原作漫画にはまって、season0まで一気に買い漁った者です。

名無しさんは新しく秘密に嵌ってくださったんですね!映画の宣伝効果かな?
秘密の一気読みなんて贅沢な時間を過ごされたんですね。うらやましい〜!
ふふ、読んだら絶対嵌っちゃいますよね。
お話が面白い上に、二人の関係性が最高だから……♡

> 確かに色気のないピロートークですが笑、この2人なら本当にこんな会話しそう!

そう思ってもらえてよかった!
薪さん素直じゃないから普通に甘えないだろうなあ、
でも少しは恋人らしい会話してほしいなあっていう妄想の表れです(笑)。

> 素敵な作品をありがとうございます!!

こちらこそ読んでくださってありがとうございました!
同じ秘密好きさんに書いたものを読んで頂けて……こんな光栄なことはないです!
あとごめんなさい、せっかく感想を送ってくださったのに、お礼が用意できてなくて。
慌てて戻しましたので、もし気が向いたら読んでやってください。
薪さんラブ!とか一言だけで構いませんのでw

 

lilithさん

え* ̄д ̄* いいんですか・・・・
ええと・・・・
背後から青木が薪さんを包み込む体〇の話なのですが、
青木は夢中で気づかないんですが、ちょうど薪さんの視線の先にたまたま全身鏡があって、
薪さんふと自分のあられもない姿に気づいちゃうんですよね。
(なぜ全身鏡があるのか設定は謎なんですがw)
背後から青木に太ももの内側を揉みしだかれて・・・* ̄д ̄*

とりあえずここで終わらせますwとりあえずメロディ楽しみです(強制終了)

> 青木は夢中で気づかないんですが、

なるほど〜、青木は無自覚なんですね。
それで結果的に羞恥攻めみたいなことになっちゃったと……。
確かに青木ならそういうことを狙ってやるより、
ラッキースケベ的な展開の方がありえそうですね!
むしろ狙ってやると外しちゃうタイプのような気がします(笑)。

> とりあえずメロディ楽しみです

ね、本当に楽しみですよね!
今回のお話は次号で終わりなのかな? 続くとしてもあと一回ぐらい?
いったん終わるのが寂しいですが、また次の章を書いてほしいですよね。
そして青木に(庇われて)押し倒されたことへの薪さんの反応を見るのが楽しみです♪

 

lilithさん

はぁっはぁっはぁっ* ̄д ̄*
薪さんと青木、お互いムッツリのイメージなんです。
スーツ着てお仕事モードのときはほのかなエロ(何だそれ)は感じますが、
お互いのあられもなく乱れる姿は想像出来ないので、なおさら萌えます* ̄д ̄*
うーん、うまく言えない・・・

お互いすました顔しながら、身体の隅々まで知ってる仲・・・・・
青木とHしてるときの薪さん・・・青木と体を重ねて一つになって手を繋ぎそしてキス・・・なんて幸せなのでしょう* ̄д ̄*
体格差で、青木にすっぽり包まれて・・・* ̄д ̄*
あ、背後から青木が薪さんを包み込む体〇も好きです(聞いてない)

> 薪さんと青木、お互いムッツリのイメージなんです。

すっごい分かります、それ!
薪さんは自分の気持ちを隠すタイプだし、
青木も好きだの愛してるの甘い言葉を囁くタイプではないと思います。
でも分かりやすくべたべたすることはなくても、互いを思い合っていて、
ちゃんと心で結ばれている二人だからこそ萌えてしまうんですよね。

> スーツ着てお仕事モードのときはほのかなエロ(何だそれ)は感じますが、
> お互いのあられもなく乱れる姿は想像出来ないので、なおさら萌えます* ̄д ̄*

それも分かります。原作の二人って本当にストイックですもん。
二人がびしっとスーツを着ているのを見るだけでむらむらします。
さっさと脱いで抱き合えばいいのに〜って。
……あれ、lilithさんの言いたいことと違う?(笑)

> あ、背後から青木が薪さんを包み込む体〇も好きです(聞いてない)

私も大好きです☆ そういう話ならいつでも聞きますよ?(笑)
ちなみに私のイメージしている事後の二人というのが、その体勢なんです。
薪さんには好きな人にすっぽりと包みこまれて、安心して眠ってほしいですね。

 

なみたろうさん

私も薪さん意外と(自分がその気の時は)積極的なんじゃないかと思ってます。
だって一応男の子だし。普通に性衝動はあるのではないかと。←根拠は4巻。
でも普段はストイックな人ですよね。
それが青木と付き合ってからは少しだけのびのびとしてたらいいなあ( ´∀`)無表情で(笑)

このお話の事後のキスで薪さんが「んぅ」って声あげるところが凄く好きです。
甘えた感じももちろんですが、青木の愛しくてたまらない感じが。
エッチ直後にまだしつこめのキスってなんか、愛しさをもて余してる感じでイイ〜( ´∀`)

再掲ありがとうございました!
凄く読みたかったコレ〜。

> だって一応男の子だし。普通に性衝動はあるのではないかと。←根拠は4巻。

4巻のあれを読んだとき、「あ、薪さんもそういうことするんだ」って思いました。
仕事で色んな映像を見なければならないから、
それが原因でそういう欲求が減退してもおかしくないじゃないですか。
だからちょっと安心してしまいました^^;

> それが青木と付き合ってからは少しだけのびのびとしてたらいいなあ( ´∀`)無表情で(笑)

そうそう、絶対顔には出さないんですよ。素直じゃないから。
でも実は本人結構楽しんでるというね(笑)。

> このお話の事後のキスで薪さんが「んぅ」って声あげるところが凄く好きです。

疲れてぐったりしているときに更に求められて、ぽろっと薪さんの素が出ちゃったんでしょうね。
薪さんの甘え声が聴けるなんて世界中で一人だけですよ。本当に青木は幸せ者なんだから!

> エッチ直後にまだしつこめのキスってなんか、愛しさをもて余してる感じでイイ〜( ´∀`)

ねえ、お前しつこいよってぐらいにキスしまくりですよね(笑)。
でもそのキスに青木の所有欲が表れているかなって気がします。
普段服着て仕事している薪さんは偉くて、みんなに必要とされているから、
青木一人のものにはなってくれないけど、
この時、この瞬間の薪さんは俺だけのものだ、みたいな。

> 凄く読みたかったコレ〜。

ほんとですか? 初めて書いた青薪で、まだ全然書き慣れてなくて下手な頃の作品なんですが、
でもそう言ってもらえて嬉しいです。ありがとう!

 

kahoriさん

いたずらっ子で積極的な薪さんがすーごく可愛いです!!
恥ずかしがる薪さんなんてもう可愛すぎて萌え死にます(≧∇≦)
お互いが夢中で「好き」という感情をぶつけ合っていて、愛しさ溢れてる様子が伝わってきます。
沈丁花さんの書かれるHシーンは感情がこもっていてすごく素敵です。
青薪には愛あるエロじゃなきゃ意味がない!
薪さんにも青木君にも身も心もぴったり繋がってほしいんです。
それを叶えてくださってありがとうございますm(_ _)m

こちらこそ読んでくださってありがとうございます〜!
エロって人を選ぶネタなので、アップする時は結構ひやひやしてるんですが
こうして反応を頂けると、勇気出して公開して良かったなって思います。
いやほんと、閲覧者の方に引かれてるんじゃないかっていつもハラハラしてるので(笑)。

> いたずらっ子で積極的な薪さんがすーごく可愛いです!!

薪さんって割とこういうことに躊躇しないイメージなんですよね。
4巻の例のシーンと違って、相手が本当に好きな人なら(それも年下なら)
こういう薪さんもありなんじゃないかなって。
一方で恥ずかしがってしまうのも、本当に青木のことが好きだから。
(それと、自分のことをあまり綺麗だと思ってないってのもあります)
でも素直になれないので、仕事にかこつけて言い訳をしてしまう辺りが薪さんですね〜。

> 薪さんにも青木君にも身も心もぴったり繋がってほしいんです。

同意です……!
精神的に繋がれるのもとっても素敵なんですけど、それだけじゃ物足りない! 大人だから!笑
清水先生、どうぞお願いします。薪さんを幸せにしてあげて。
それまでこうして自家発電で耐えしのぎますから……。

 

 (無記名可)
 
 レス時引用不可