「ふぅ…困ったなあ…柄が曲がっちゃったよ…。」
聖堂に、情けない名雪の声が響く。
「…智代ちゃん、結構馬鹿力なんだもん。困ったなあ、これが真っ直ぐじゃないと高飛びできないし…。」
とあれこれ柄をいじってはいるものの、そこはそれ魔力を帯びた代物である以上、
鍛冶屋でもましてや付与魔術師でもない名雪には如何ともしがたい。と、暫くぶつぶつ言っていたところ、
「お久しぶりですね、水瀬殿。それ修復して差し上げましょうか?」
「…あ、比丘尼さん。いつここに?」
後ろからの声に、怪訝そうに振り返った名雪が、そこに知己―――今はめっきり数を減らした翼人の、
さらに珍しい付与魔術師である――八百比丘尼であることに気付き、笑顔で挨拶を返す。
「先ほど、刀を持った方と闘ってらっしゃるときから見てましたが。」
それを聞いた名雪、急にバツが悪そうな表情で、
「い、いやあ面目ない。智代ちゃんにまんまとしてやられちゃったよ、あはは。」
と、照れ笑いを浮かべながら頭を掻く。比丘尼もそれに笑いながら、
「何を仰る。貴女が本気で彼女を止める積りだったら、今頃ここは血の海の筈。」
そこまで言った所で、笑みを消して、
「…何故彼女に道を譲ったのです?」
それを聞いた名雪も、一瞬考え込むと、
「…いや、私もちょっと判らなくなってきてね。
今まで“願いの光”に人が手を出そうとすると必ず災厄を呼び寄せてるって前例があるから、
私たちはあれは人に触れさせるものではないと護って来たんだけど…。」
「ふむふむ。」
「…でも、あの子たちの祖国を救おうと必死で光を捜し求めてる様子みると…
本当に光が災厄をもたらすものかどうかってのを自分の目で確かめてみたくてね。」
「それを確かめるためにも、彼等の戦いは無駄ではないのですね。」
そう受けた比丘尼に一旦頷いた名雪だったが、ふと顔を上げて、
「でも、いくら彼等とはいっても、ここの次のチェックポイント、
ものみの丘を通り抜けるのは厄介…というより、下手すると全滅するかも知れないよ。」
難しい表情での名雪の台詞を聞いた八百比丘尼、怪訝そうに、
「でも、あそこは真琴殿お1人で護っているのでしょう?皆でかかれば充分に目があるのでは…?」
「いや。」
彼女の意見を否定するように比丘尼の発言を遮った名雪、そのまま続けて、
「丘の豊穣の母は知ってるよね?ものみの丘の守護者…、」
「ええ、しかしアレはここ数百年、丘を離れていたのでは?」
「いや…それが、誰が呼び寄せたのか知らないケド、気配はするんだよ。まちがいない、守護者はものみの丘に来ているよ。」
厳しい顔でそう話す名雪。それを聞いた比丘尼も顔を強張らせ、
「…何ですって!?そ、それではものみの丘は最も恐ろしい関所になるではありませんか!何しろあれに対抗するためには…。」
愕然として叫ぶ比丘尼に、重々しく頷く名雪。ややあって、名雪が誰ともなく呟いた。
「もう、こうなったら彼等を護ってるものの加護に期待するしかないのかも…。」
「いつまで続くのよー、この湿っぽい通路はー?」
先頭から二番目を歩く杏が、誰にともなく不満を漏らす。
先ほど、智代が熱戦を演じた聖堂から続く地下通路を、
一行は延々歩き続けていたので、誰もが口には出さないまでも杏と同じ感想を抱いていた。
「うーん、風子としてはそろそろ出口の予感ですっ。」
先頭の風子がそう言ったのに対して、
「おいおい、その予感は何処に根拠があるんだ。」
と、最後尾の朋也が突っ込む。ちょうどその時、
「あ、前に光です。」
渚がそう呟く。それに釣られた一同がはるか前方を見遣ると、確かに外からのものと思しき光が差し込んでいた。
「ほら、風子の言ったとおりですっ。」
得意げに言う風子に、少々気色ばんだ朋也だったが、完全に風子の方が正しいので何も言えない。
「やれやれ、やっと出口ね…何処に出るのかしら…のわっ!?」
出口を塞ぐように生えている草を掻き分け、
外を覗いた杏が素っ頓狂な声をあげる。それを聞いて後ろから続いた一行も言葉を失った。
「…金色の…丘?」
通路を通っているうちに夕刻になったのか、夕陽に照らされた薄が一面の金色の波のように揺れている。
その金色の波に覆われた丘の中心を割るように、一行が立っているところから道が伸びている。
「どうやら、丘を越えて行けということらしいな…。」
「そのようですね…。」
智代の呟きに、椋も同調する。
「でも、もう夕方ですけど…大丈夫でしょうか?」
丘を越えているうちに日没になることを気にする渚に、
「でも、ここもキャンプする条件じゃ似たようなものだから、いいんじゃない?」
「そ、それもそうですね。」
杏が促したので、渚も出発する気になる。そうして一同が隊列を組み直し、薄を掻き分けるように先に進んでいく。と、
「…?」
「どうした、風子?」
「いえ、なんか気配が…。」
先頭を歩いていた風子がふと立ち止まり、周囲を見回したので、後ろの朋也たちもそれに習うが、
「うーん、特に何も感じないけど…きゃ!」
言いかけた杏の足に、突然何かぬるぬるしているものが絡みついた、
と思いきや、全身にロープのようなものが絡みつき、一気に引っ張られる。
「くっ…!」「きゃっ!」「わっわっ!」「な、何だ…?」「…っ!」
次の瞬間、次々と智代、椋、渚、朋也、ことみに同じものが絡みつく。
と、いつの間に立っていたのか、薄野原の中に何本も真っ黒い木…と思いきや、
それはロープが絡まって木の体を為したような真っ黒い怪物で、それぞれ一体が朋也たちの1人ずつを絡めとっていた。
「こ、コイツラ一体何よ…ことみ!?」
「私も初めて見る生き物なの…。」
正体を知っているかと、杏がことみに聞いてみるが、却って来たのは困惑気味の返事。その時、
「あははっ!予想外にあっさり引っかかったわよぅ!」
愉快そうに笑う声に、一行がそちらに首を巡らすと、
そこには薄い皮鎧の上に外套を纏い、猫を傍らに従えた栗色の髪の少女が立っていた。
「だ、誰だお前!?」
「誰でもいいわよぅ、曲がりなりにも名雪を抜けてきたからもうちょっとやると思ったのに…
うちの同胞に簡単に捕まっちゃうとはね…あれ?」
得意げな喋りが途中で止まる。一行でただ1人、目の前の少女には彼女が同胞と呼ぶ怪物が何故か近寄らないのを怪訝に思う。
「…どうしたの?コイツは捕まえないの?」
と、手持ち無沙汰な怪物を促すが、彼等も戸惑ったようにロープ上の触肢を振るだけで、風子に近寄ろうとしない。
「ふむ…。」
と、風子を観察していた少女、風子が手にしているヒトデの彫刻を目にすると、急に納得したように、
「…ははあなるほど、それかあ…。確かに中々やるようね、無意識とはいえ“旧き印”に力を与えられるとはね…。」
「えるだーさいん?これはヒトデですっ。」
どこか勘違いした風子の返答に、少女はニヤリと笑って、
「…そっか、それならヒトデでいいわ。アンタ、名前は?」
「風子は風子ですっ。」
「あっそ、あたしは沢渡真琴、アブソリュート・ゼロの花火師にして、ものみの丘の司祭、よろしく頼むわよぅ!」
「殺村凶子さんですかっ?」
「何処をどう聞き違えたら、そんな名前になるのよぅ!?」
妙な聞き間違いをされて、いきり立つ真琴。風子はそれも意に介せず、こう言い放つ。
「では、風子が勝ったら皆を通してくれますかっ!?」
成立してない会話に、一瞬唖然とした真琴だったが、すぐ不敵な笑いを浮かべて、
「それでいいわよぅ。真琴に勝てたらここ通したげる。勝てたらの話だけど。」
そう言って、腰の袋からなにかの束を取り出すと、左手に持った火口で火をつける。
「それじゃ早速行くわよぅ!」
そう言い放つと、火がついた束――爆竹――を風子へ投げつける。
パンパンパン!
「わっ!」
間一髪飛び退き、直撃を避ける風子。一瞬前までいた場所を見ると、
まるで爆薬を投げつけられたようにそこだけ焦土と化していた。
「よく避けたわねぇ。普通の奴なら今ので消し炭なのに。」
挑発的に語りかける真琴に、風子は改めてヒトデの彫り物を抱えなおすと、
「…風子、ちょっとマジに参上、ですっ。風子では役不足ですが、精一杯やりますっ。」
「それって何気にこっち馬鹿にしてるんだけど…。」
真琴の呆れ声も気にせず、そう呟いた風子。ヒトデを構えると真琴に向かって一足飛びに間合いを詰めていった。
「はいっ!」
「っと!」
風子の、一気に懐まで飛び込んでの短剣の一撃を、
一歩退き込んでやり過ごす真琴。行きがけの駄賃にねずみ花火を一つ、風この足元に投げつけていく、
「わっ!」
あわてて飛び退いた風子が今までいた位置で、バン!というより、バチン!という爆発音。これも直撃したらただでは済まない。
「…凄い花火です、今度作り方教えてくださいっ。」
「真琴に勝てたらねー。そら、今度はこっちから行くよ!」
真琴はそうそう言うと、両側の腰に挿していた何かを抜き放つ、
それはおそらく鉄で出来た『く』の字に折れ曲がった棒に見え、真琴は折れ曲がった片方を握り、
もう片方の断面を風子のほうへと向ける、その断面にはなにやら小さな穴が開き、
折れた部分には複雑な機構の仕掛けが施されていた。
「…まさか…銃!?」
「じゅう?ことみ、そりゃなんだ?」
ことみの驚き声に朋也がそうたずねると、何か知ってるのかことみは硬い声で、
「… すでに滅びたシュリュッセル帝国時代に使われていた、
失われた技術を使った武器…あの中には鉛や鉄で作った玉…弾丸って言うんだけど…が入っていて、
火薬やバネの力で高速でそれを飛ばして、遠くの相手に命中させる、使いやすくて当てやすい、
しかも威力があるというとんでもない武器なの。」
「な、何よそれ!そんなのがあったら剣や槍なんて要らないじゃない!」
脇から割り込んできた杏に、ことみはうなづいて、
「そうなの、あれなら小さな子供でも少し練習しただけで戦えるようになるの、
でも、幸か不幸かあれを作ったり直したりする技術は失われたはずなんだけど…。」
「あはは、アンタなかなかの博学じゃないの!そのとーりよ、もっともこれは、
バネ仕掛けで威力も知れたものだけど…こんな使い方も出来るのよ!」
そう言うが早いが、風子に照準を合わせ引き金を引く。
びん!というバネが弾ける音とともに、小さな玉が飛び出し風子を直撃した瞬間、
ぱんっ!
「わうっ!」
着弾の瞬間、弾丸が爆ぜてそのショックで風子がのけぞる。
見ると彼女の衣装に二つ穴が開き、穴の縁には焼け焦げが出来ている。
「…癇癪玉!?」
椋が思わずもらした叫びに、真琴は頷いてみせ、
「そーよぉ、これ、発射の時に誤爆しないように調合するの大変だったけどねー。
さー風子、こんどはマジで狙うわよぅ!」
改めて風子に照準を合わせる。風子は焼け焦げた衣装をまじまじと見つめていたが、きっ、と顔を上げると、
「…風子のお気に入りの衣装が焦げてしまいました、最悪ですっ!そっちがそうくるなら…皆さん、お願いします!」
そう叫ぶと、ホイッスルを取り出し高らかに吹き鳴らす。
そうすると、どこから沸いてきたのか完全武装した男たちがわらわらと現れた。
「な。なによぅあんたたち!」
男たちはそれには答えず、口々に風子を称える言葉や意味を成さない叫びを上げつつ、
風子と対峙している対象―――真琴に襲い掛かっていく。
「やっちゃってください!」
半ば悪役が入った風子の指示もあり、一同が真琴に肉薄するも、真琴は怯むどころか逆に口元でにやり、と笑い、
「なるほど…ソイツの取り巻き、ってところか…
こんな奴のどこがいいのか知らないけど…丁度いい、まとめて片付けてあげるわよぅ!」
言うが早いか、真琴の体がふわりと浮き上がり、地上から手の届かないところまで上昇する。
そして、ゆっくり二丁の拳銃を構えると、
「あ、あれを!」
その存在に最初に気づいたのは渚だった。真琴の真上、さらに上空に、何者かの影が見える。
一見雲のようにも見えるそれは、絶えずその形状を変化させるにもかかわらず、それは生物であると、渚は認識した。
「な、なにあれ!?」
「ど、どうやらあれがあの方に力を与えているようですね…。」
「となると…あれが“ものみの丘の守護者”なの。」
一同がその正体を分析している中、真琴は真下の集団に狙いを付けると、
「一気に片付けてあげる!喰らいなさいよぅ、地上掃射!!」
その瞬間、二つの銃口が同時に火を噴いた。
タタタタタタタタタタ!
とても、その銃身に入りきるとは思えない大量の弾丸が風子親衛隊の頭上へ降り注いでいく。
まるで鉄の雨のような弾丸にさらされ、親衛隊の面々は打ち倒され、
またはのた打ち回り、算を乱して散り散りに逃げていった。死者が出ていないだけでも奇跡といって良いだろう。
「あははははっ、踊れ踊れ!蜂の巣になりたくなかったら…ね!?」
その様子を見て高笑いをしていた真琴だったが、
着地の瞬間を狙うように銀色の物体が二つ真琴めがけて飛んできて、
一瞬反応が遅れた真琴の両手…正確には両手に持った銃を直撃する。
思わずその一つが跳ね返るところを受け止めてみると、それは星型の手裏剣。
「油断大敵ですっ、とりあえずその武器は厄介なので風子特製のヒトデ手裏剣で落とさせていただきました。」
どうでもいいが、性格には五方手裏剣だが、風子はいつもヒトデ手裏剣という。
「ふーん、なかなかやるじゃない…。祐一が言ってた“光を探すもの”だけはあるわね。」
手裏剣を投げ捨て、いまだに痺れが残る腕をさすりながら真琴がそう言うと、彼女の後ろの空間がぐにゃりと歪む。
「な、なんです!?」
風子が驚いていると、その空間の歪みから次々と出てくるのは、
さまざまな形状の、しかしそのすべてが凶悪そうな大きさを持つ大量の花火だった。
「折角だから、これでとどめ刺してあげる。喰らってみなさい、Unlimited Fireworks!!」
瞬間、上空の“守護者”が身じろぎしたと同時に大量の花火がいっせいに風子目掛けて発射される。
「な…さ、最あく…!」
その先は、爆発音で誰の耳にも聞こえなかった。大量の花火が一斉に着弾し、炎と煙で風子の姿がかき消されてしまう。
「ふ、ふぅちゃん…。」
「ま、まさか…。」
渚と朋也の呟き同様、一同も絶望的な心持ちでその着弾地点を見やる。しかしその中で智代だけは、
「……?」
「……………ちっ。」
真琴が舌打ちしたことを見逃さなかった。
「…ひょっとして…まだ風子は大丈夫なのか…?」
「無事じゃ済んでないだろうけどね…直撃の手ごたえがなかったわよぅ。」
真琴の言のとおり、煙が薄れていくとその焼け跡に風子らしき姿はない。
朋也たち一行がほっとする中、真琴が忌々しそうに、
「…どこか近くに隠れてるみたいね…、そんなら炙り出してあげるから覚悟しなさい!」
そう言うと、両手を高々と掲げる。すると両手のさらに真上に、
一抱え以上ある巨大な火球が現れ、辺りをじりじりと照らし出した。
「…くぅ…暑いな…皆大丈夫か?特に渚やことみは体力ないんだから…。」
「はあ…はあ…だ、大丈夫です…。」
「わたしも…でも、心配なのは風子ちゃんなの。
たぶん直撃は避けたとは言ってもダメージは大きいはず…どこまで耐えられるかどうか…。」
どんなひどい旱魃の年にでも経験したことのない暑さに、汗だくになる一同。
「…ふぅちゃんが一番苦しいんですよね…直撃は避けたとはいえ、無傷では済んでないはずですから…。」
「そうね…あの子がどこに隠れてるかしらないけど…近くにいるでしょうからね…。
たぶん、隙を見て一撃で決める気よ…そのまえにあたしら全員が蒸し焼きにならなければ、の話だけど。」
「…くそっ!」
耐えかねた朋也が暴れるも、この生物にしっかり絡みつかれて動きもままならない。
「…あー、あの守護者って奴さえ何とかできればね…。」
「…守護者を、ですか?」
何とはなしに呟いた杏の言葉に、渚が反応する。
「うん…でも神様なんて、どうやってどーにかできるって言うのよ…。」
投げやりに答える杏。しかし渚はその返答を聞いたか聞こえなかったのか、きっ、と上空の“守護者”を見据えて、
「わかりました…退去は無理ですが、なんか影響を与えてみましょう。」
「な、渚!?そんなことが出来るの?」
あわててそう問いかける杏に、渚ははっきりと頷いて、
「はい、一応私も姫巫女の端くれですから…やって何も出来ないことはないと思います。」
一応言っておくが、ドアナールに一人しかいない姫巫女に、端くれもなにもない。
「でも…大丈夫なのか…?」
「はい、ですから皆さんも私を信じてみてください。」
きっぱり言われては否やはない。皆が暑さに意識も朦朧としている中、渚は祈り始める。そして渚が祈り続けていると、
「あ…あぅ?」
真琴が何か狼狽し始める。みると彼女が維持していた火球が膨張・収縮を繰り返すなど不安定になっていき、
ふと見ると上空に浮かんだ影も心なし薄くなっている。何より彼女が激しく狼狽しだしたことが、祈りの効果を表していた。
「風子さん、今です!」
椋が叫ぶと同時に、懐から一枚のカードを取り出し真琴へと投げつける。
真琴はそれを難なく弾き飛ばすが、そのカードが地面に落ちたかと思うと風子の姿になった。
「…そこだぁ!」
反射的に、その風子に火球をたたきつける真琴。その瞬間、
「取りました!」
背後に密着されるような位置からそう叫ばれ、あわてて振り向くも、風子はすでに照準を合わせている。
「風子のヒトデを燃やしたことを償っていただきます!ヒトデ烈破ですっ!」
瞬間、無数の五方剣が一斉に真琴に叩き込まれる。
「あうううううううううう!」
直撃を受けた真琴は、そう悲鳴を上げて10数メートルは吹き飛ばされ、そのまま目を回してしまった。
「きゅう…。」
真琴が気絶すると同時に、黒いツタのような生物も一同を解放し、どこか草原の奥へと消えていく。
「ふぅ…遥か昔師匠に教えてもらった技ですが…忘れなくてよかったですっ。」
「ンな強力な技、忘れンなって…。」
「でも…ふぅちゃんがんばってくれました、ありがとうございますっ。」
「風子にしてみれば最後の晩餐前ですっ、お礼を言われるほどのことでもありませんっ。」
と、一同が風子を賞賛していると、気絶していた真琴が目を覚まし、ふらふらと一同に声をかける。
「あう〜、正直予想以上ね。真琴をサシで叩き伏せるとは思わなかったわよぅ…。」
「風子のことですから、それも当然のことなのです。では、通してください。」
「よろしい、ものみの丘は合格にするわよぅ。じゃあ、ここは自由に通ってちょーだい。」
その声に、治療中の風子はじめ一同が歓声を上げる。
「よし、これで第二関門突破だぜ!」
「また一歩、光に近くなったわね、この調子でガンガンいくわよー!
…でも安心させといて後ろからパカン!はないでしょうね?」
「アブソリュート・ゼロはそういう約束は必ず守るの。本当はとってもとってもいい人たちなの。」
「ふぅ…うまく祈りが届いて助かりました…。」
一同がほっとした反動からか、いろいろ話していると、
「それじゃ、第3チェックポイントの情報教えてあげるわよぅ、次は麦畑と廃校。審査員は、舞と佐祐理よぅ!」
「な、何だと!?」
驚いたのは智代。それを見ていた杏は、
「な、なになに、アンタ知ってるの?」
「ああ…正史には語られないが、ジペンドの、
特に騎士や戦士を志すもので川澄舞の名を知らないものはモグリだとされるほど、
戦士の一理想像として見られている。確かに、アブソリュート・ゼロに所属しているのでは、
という説もささやかれていたが、ここでお目にかかれるとは思わなかった。」
戦慄すると同時に、どことなく嬉しそうな智代。
「そして、もう一人、倉田佐祐理さん…は、エリアルで舞さんと同じような評価を受けてるの。
わからないことの多いアブソリュート・ゼロの中でこの二人だけは実在が広く知られているの。」
ことみも、不安げな表情ながら興味津々の様子。
「…戦闘と魔法の二大強国で、それぞれ理想像とされる二人か…、これはちょっとあたしたちでも厳しいかもね。」
「なーに、とはいえ、その二人のお仲間二人に認められた俺達じゃねーか、
過信する訳じゃねーが、こんなトコでしり込みしてるより、カラダでぶつかる方が俺達らしいじゃねえか。」
不安げな杏に、朋也がそう言うと、
「そうね…よーし、そうと決まったら早速行きましょう!誰が立ちはだかろうと踏み潰していくのみよー!」
と、盛り上がった杏に苦笑しつつも、一同も釣られて盛り上がる。
「それじゃ、通してもらうわね。」
「まー。せいぜいがんばるのよぅ。」
出発した朋也たち一行の背中を見送りながら、真琴はぽつり、と呟いた。
「…あの年長者コンビはたまに容赦しないところがあるからなあ…こりゃ死人が出るかもね…。」
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