だんご組 - 同人サークル



―――――数において圧倒的不利。しかも相手は前線を完成させて攻めてきて、しかも主導権は向こうが握っている。
しかし、それでいてもアブソリュート・ゼロの名は伊達ではなかった。

カツン!カツン!
「あははー、これはまずいですねー、大技を使う暇もありませんー!」
「ちょ、ちょっと待てよ佐祐理さん、アンタ本当に魔術師なのかよ!?」
「そうですよー、本来こんな接近戦は苦手なんですよー。」
言葉とは裏腹に、ステッキをまるでバトンのように縦横無尽に振り回し、朋也の斬撃を後退しつつも悉く食い止める佐祐理。
「…今です!」
と、風子が隙を狙おうとも、
「おっと!」
パチッ!
「わっ!」
詠唱も動作もなしに左手から魔力を放ち、雷にも似たショックを受けた風子、再び後退して仕切りなおしとなる。
「く…こんなに乱戦状態では、うっかりカードも投げられません…。」
数歩離れた場所で、椋がまるで奇術師のように占い用カード――ディスティニー・カード――をシャッフルしつつ構えるも、
うっかり朋也や風子に当ててしまいそうで、手の中で所在なさげにもてあそんでいる。
由紀寧も、朋也と風子の回復に精一杯で攻撃魔法に魔力を割けない。
そしてそれは舞に対峙する方も同様だった。
「――――せいいっ!」
「うわあああっ!」
大きく横に振り回された剣圧をまともに受けた智代が、
まるでゴム毬のように数回バウンドして、そのままうつぶせに突っ伏してしまう。
「レイヴン・ゲート!坂上さん大丈夫ですか?」
「…ああ、毎度すまない…、くそ…隙がないのは昨日と同じか…。」
「ふぅ…来るか…。」
と、智代が間合いから外れた隙をついて呼吸を整える舞。そこを狙って杏が、
「…隙ありよっ!」
と、死角から辞書を投げつけるが、
「…心配無用…。」
振り向きもせずに頭を沈め、辞書をやり過ごすと、そのままの体勢から一気に振り向き、
「…えいっ!」
「きゃあっ!」
一気に間合いを詰めてのタックルで杏を吹き飛ばす。
「杏ちゃん!?」
「こ、こっちは大丈夫よ…。」
なんとか転倒は免れた杏、改めて辞書を構えると、
「えいっ!」
「…つあっ!?」
突然、背中に衝撃を受け、前に転倒する。
「私を忘れちゃいやだよー!」
「くそ…ちょろちょろと…。」
からかうように手をひらひらと振って、杏にくすくすと笑いかけるまいを見て、杏が毒づく。
確かに曲者とはよく言ったもので、朋也たちが少ないチャンスを見つけ、押し切ろうとすると必ず割り込んできて、
体当たりや手に持った枝、光球をぶつけるなどして妨害してくる。妨害といっても、彼女自身が光の属性を帯びているのか、
全ての攻撃が朋也の光のような魔力系のダメージであり、馬鹿に出来るダメージではない。
「全く、あっちへちょろちょろこっちへちょろちょろと…。」
「風子より小さいのに、ばり最悪ですっ!」
朋也と風子が佐祐理を攻めきれない原因でもあるまいの存在に、
二人も毒舌を漏らすものの、佐祐理の相手が精一杯でまいの姿を追う余裕もない。
「まずいです…、これはあの子をどうにかしなくては…。」
渚がそう漏らす。邪魔してくるのは術士相手も同様で、
呪文を唱えだすと見るやあの手この手で集中を乱してくるので、後衛もなかなか動きが取れない。
そんな中、椋がさらに一歩後退すると、
「…やってみましょう…岡崎くん!坂上さん!渚ちゃん!」
「ん!?」
「…よし!」
「…はいっ!」
椋が叫ぶと同時に、相対している佐祐理を無視してまいへと向き直ると、手持ちのカードから一枚選んで投げつける。
「痛っ!」
まいが大げさに叫ぶが、有効打には程遠い、却って出来た大きな隙を、佐祐理は見逃さない。
「そこです!ブレーズ・収束ですっ!」
いつの間に呪文を完成させていたのか、佐祐理がそう叫んだ瞬間、
椋の足元から鋭利な金属片がいくつも飛び出し、椋の胴体を貫く。
「…ぅあっ!」
激痛に一瞬のけぞる椋だが、なんとか踏みとどまる。
「椋!」
「藤林!」
杏と朋也が声をかけてくるが、椋はふるふると首を振り、
「チャンスですっ!お姉ちゃんは舞さんをなんとか!風子ちゃんも佐祐理さんを!」
返事を待たず、激痛に耐えながら椋は予め準備しておいた呪文を発動させる。
「こんな相手のために、これはあるんですっ、ソウルブレイク!」
瞬間、椋の掌から放たれた、闇色の光線が、まいの体に何本も突き刺さる。
「きゃああっ!?」
今度は本当に苦痛の叫びを上げるまい。いつもならはじき返せると思っていたまい。
先ほど椋に投げつけられたカード―――
ディスティニー・カード“The MOON”が彼女から抵抗力を奪っていたことには気付いていなかった。
「今です!」
腹部からの流血に耐えつつ、号令をかける椋。
同時に、朋也と智代が、お互いの相手を放ってまいに斬り付ける。同時に渚も、
「エレメントス・ダークですっ!」
「…え、ええええっ!?」
横から二つの斬撃、さらに正面からは純粋な闇のエネルギーの三面からの攻撃に一瞬戸惑ったまい。
そしてその戸惑いはあまりにも致命的だった。
「喰らえっ!シールブレイカー!」
「蒼月!」
「わ、わあああああっ!」
半実体のせいか手ごたえは軽かったが、朋也も智代もまともにヒットしたことを確信していた。

「まい!」
舞が一瞬、杏のことを忘れ、まいへ向かいそう叫ぶ。
「…く、くそお…。」
まいの声が聞こえてきたことに安堵する舞だったが、まいの様子が明らかになるにつれ表情が動揺してくる。
非実体化できるはずの彼女の体はあちこち切断され、闇のエネルギーにさらされた前面はやけどのようにただれている。
「…ご、ゴメン舞…油断してたみたい…暫く…休むようね…ゴメン…。」
「…まい…。」
いつもの様子が考えられないほどの狼狽振りに、杏もしばし手を出すことを忘れる。
しかし、すぐにいつもの表情を取り戻すと、
「わかった、休んでてまい…あとは私と佐祐理でなんとかする…。」
それを聞き、わずかに微笑んで空気に溶けるように消えていくまい。
しばしその様子を呆然と見ていた一同だったが、真っ先に我に返ったのは椋だった。
「…い、痛っ…!」
一瞬緊張が解けたときに、傷の痛みを思い出したらしく、その場に蹲る椋に、自己が持つ最大の回復呪文を唱える由紀寧。
「…これで、暫くは大丈夫ですけど…。しかし、無茶しますね…。」
「む…無茶の一つや二つ、しとかないとね…。」
なんとか血と痛みが治まり、苦しい息の下、なおも微笑んでそう由紀寧に呟く椋。改めて前を向くと、
「あ、あとはお願いします…私は、ちょっと休ませていただきますので…。」
「ああ、あとは任せろ、藤林!」
「うむ、お前の努力は無駄にはせん。」
「風子ががーっとやっつけちゃいますから、ちょっとだけ待っててください!」
「…妹が体張ってるんだから、姉のあたしも黙ってられないわ…。」
モチベーションというものは時には恐ろしいもので、椋の体を張った作戦は、敵戦力を削ぐ以上の効果を表していた。
彼女の姿に、改めて闘志を顕わにする7人、特に杏は鬼気迫るほどの気迫を見せ始める。
逆に、気持ちが乱れてきたのは舞。まいを退けられたせいか、微妙に――
しかし、一定以上の力量を持つ相手にははっきりわかる程度に――切っ先が乱れ始める。
佐祐理は特に影響はないものの、舞が押されだすのに付き合うように、表情にも余裕がなくなってくる。
「…くっ…。」
「…ほらほら!…よーし、このまま一気に…!」
「そうは…いかない!」
自らに言い聞かせるように声を張り上げた舞、叫ぶと同時に地面を蹴り、空中高く舞い上がる。
「…ざ…!」
ジャンプの最高点で、剣を構えなおした舞。昨日朋也を吹き飛ばしたように、杏へと向かって急降下、そして
「…せいっ…!?」
「取ったあ!」
相手を吹き飛ばすほどの威力を持つ斬撃が、杏を襲う。
しかし、その一撃は途中で――杏の辞書のページに挟み込まれて――止まっていた。
「…な!?」
「やってみたら出来るもんね!藤林杏式、真剣白刃取り、ってね!」
そう叫ぶと、剣を挟みこんだまま辞書を捻る。空中で剣だけで支えられていた舞は、その勢いで思わず剣を離して倒れこむ。
「舞!?」
舞がやられたところを見て心配そうに佐祐理が叫ぶ。初めて出来た無防備な瞬間を、風子は見逃さなかった。
「えいっ!」
カチン!
短刀に弾かれたステッキが、軽い音を立てて地面に転がる。
「…くっ!」
ステッキを失った佐祐理、なおも手に魔力を込めて風子に対するも、いろいろ考えた末、魔力を引っ込めて緊張を解く。
「…あらら、これはやられましたねー。…うん、これは合格にしなければなりませんね。ね、舞?」
「うん…。」
起き上がりつつそう返事をした舞からは、もはや少しの殺気も感じられない。
「…要の戦力の見極め。見極めた上での電撃戦。…私も正直、あれで冷静さを失ってしまった。」
「仕方ないよー、まいは舞自身でもあるんだもん。でも、それを見極めた朋也さんたちは、ここを通る資格があります。」
「…それじゃ!」
顔を輝かせて佐祐理に聞き返す朋也に、佐祐理は微笑みかけて、
「はい、アブソリュート・ゼロ、舞&佐祐理ペアの試験は合格です。」
それを聞いた一堂から、歓声が上がる。暫く続いた歓声が落ち着いたところで、舞が剣を拾いなおして、
「それでは、次の試験場までの道を教える。…次の香里と栞は気をつけたほうがいい。」
「香里と栞?それが次の試験官なの?」
杏の問いに、舞がゆっくりと頷く。それに続けるように、
「ホントに気をつけてくださいよー、私達アブソリュート・ゼロのうちで最も容赦ない姉妹ですから。」
「…そうか、判った、気をつける。…で、川澄さん、次は何処に行けばいいんだ?」
「ちょっと待って…。」
そう言って、校舎跡地の瓦礫の山に入っていくと、建物のほぼ中央に立ち、朋也たちに背を向け、一回呼吸を整えると、
「…せいっ!!」
気合一閃、地面すれすれからほぼ頭上まで切り上げる。
と、まるで幕を切り裂いたように空間が裂け、その中にさらに通路が続いている。
「…次へは居空間の通路でつながっている。ここからは私の次元斬でないと開かない。」
一連の現象に声もなく呆然としている一行にそう説明する舞。その通路を指差すと、
「…早く行って…この通路、そう長くは持たない…。」
「わ、判った、それじゃ皆行くぜ、舞さん佐祐理さん、またなー!」
そう言いながら朋也が皆を急かし、次々と通路に飛び込んでいく一行。
その様子を舞と佐祐理は見送りつつ、こう言葉を交わしていた。
「香里さんと栞ちゃん、大丈夫かな?」
「…誰も殺さないといいけど…。」


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