だんご組 - 同人サークル



「ずいぶんと湿っぽいところに出たわね…。」
杏がボヤく通り、次元の裂け目を通り抜けた一行は、じっとりとした霧がどこともなく漂う、夜の林の中にいた。
「そうだな…それにこの気配、どうも歓迎するような感じじゃねーな…。」
「なるほど、岡崎もそう思うか。」
辺りに漂う気配に顔をしかめ、朋也がそう呟くと智代も同意する。
「…死臭、ですね…。」
「はいっ、あくてぃぶであぐれっしぶな風子でも、これは気が滅入りますっ。」
明かりに照らされた霧がまるで悪意のカーテンのように立ちふさがるのを掻き分けつつ、どうにか道らしきところを見つけてそれに沿って進む一同。ややあって、
「あっお姉ちゃん、あそこ、柵じゃない?」
「ホントだ、なんか人家でもいいけど…げげっ!?」
椋が見つけた柵に、いち早く駆け寄っていった杏だったが、一言叫んで歩を止める。何が起こったのか駆け寄る一同も、杏が目撃したものを目の当たりにし、
「げっ!」
「う…。」
「…こ、こんなところに…?」
「…びっくりなの…。」
「い、いきなり出ると迫力ありますね…。」
思い思いに震えた声を漏らす。その中で一人だけ興味深げに辺りを見回していた風子が、
「あ、あそこのお墓、なんか新しいですっ。」
そう言って駆け出した風子を皆が追っていくと、なるほど真新しい墓石が8つ、一列に並んでいる。そして、
「…これ…まだ誰も入ってないな…。」
墓石それぞれの真ん前に彫られた穴を見つけて、そう朋也が呟く。すこしよく見てみると、何かが墓を荒らしたというよりは、これから誰かが葬られる直前の墓のように見える。
「…この近くで、葬式でもあるのかしらね、それにしては死んだ人が多いようだけど…。」
「ちょ、ちょっと皆さん!この墓碑銘、見てください!」
杏の間の抜けた発言を遮るように、渚が驚きと怯えの入った声で皆を呼ぶ。集まってきた一同も、彼女が震える指で指したものを見た瞬間、それぞれ息を呑んだり、怯えた叫びを上げる。8つの墓碑銘はそれぞれこう記されていた。

OKAZAKI Tomoya
FURUKAWA Nagisa
FUJIBAYASHI Kyoh
FUJIBAYASHI Ryoh
ICHINOSE Kotomi
IBUKI Fuuko
SAKAGAMI Tomoyo
MIYAZAWA Yukine

「――――ふっ、面白いじゃない。どうやら次の試験場はここらしいわね。」
一同が蒼白になって黙り込むなか、不敵な笑みを浮かべて皆に声をかける杏。それを脇で聞いた智代も、
「ああ、一瞬向こうの思惑通りに驚いてしまったが、これは中々ご丁寧な挑発ではないか。」
杏の言葉に緊張を解かれたように、そう言って笑う。
「そ、そうだな、俺達としたことがこんな虚仮脅しに嵌っちまったぜ…。」
「――――――あら、虚仮脅しでもなんでもないわよ。」
『――!?』
突如聞こえてきた声に振り返ると、先ほど一同が入ってきた道から90度左に折れる道があり、そこから二つの人影が近づいてくる。
「アンタらが、次の試験官か?」
どうやら、2人の人間の女性だと見た朋也が、そう声をかける。すると、先を歩いていた、赤っぽく見えるコートを羽織った長身の女性が、
「ええ、自己紹介させていただくわ、あたしは美坂香里、クラスは…一応コレ、と…、」
そこまで行ったところで、両手にはめた棘付きのブラスナックルをかちん、と打ち鳴らし、
「後は…こんなところを戦場に指定したあたり、判るわよね?」
「死霊術士…?ご本でしか見たことないの…。」
「あら、そうするとあたしが実物第一号?それは光栄ね、実力に関しては…これから身をもって経験させてあげるから楽しみにしてらっしゃい。」
ことみの返答に、くすりと笑って返す香里。そして後ろに控えている今一人の人影へと振り向き、
「そしてこちらが妹の…栞、ご挨拶しなさい。」
「美坂栞です。」
不敵な態度の香里とは一変し、丁寧にお辞儀をしつつそう自己紹介する栞。
「へー、あたしと椋みたいな姉妹なのか。もっとも双子じゃないみたいだけど。」
「ええ、お姉ちゃんより一歳下ですよ。」
と、にこやかに杏に返答した栞だったが、次の瞬間、表情を引き締めて。
「それより、覚悟してください。あのお墓は脅しでもなんでもありません、私たちは本気であなた方を一人ずつあそこに葬るつもりです。」
「!」
朋也たちより少し年上ではあろうが、まだあどけなさの残る風貌だが、それだけにその一言の衝撃は大きい。しかし彼らとしても、そう言われてはいそうですかと引き下がるわけにもいかない。
「…上等じゃないの、そんなに言うんなら逆にアンタ達の墓作って、そこに放り込んでやるわよ…!」
一同の意見を代表するかのような、杏の脅し文句に、香里と栞はむしろ不敵に笑って、
「そうそう、そう来なくっちゃ…さあて、まずはこうね!」
と、両手を掲げると、いつの間にか持っていた半透明の黒い塊のようなものが香里の掌の真上に現れる。
「な、なんだありゃ?」
「“ダークソウル”なの。死霊術の媒体となるもので、術者を盲目的に愛して死んだ生物の魂で作るの…。」
「…そ、そんな人がいたんですか…一体それは誰なんでしょう?」
「うふふふ…折角だけど秘密。それより、別のことを心配したほうがいいんじゃなくて?」
香里の返答と同時に、今まで一行の周囲に見え隠れしていた気配が一斉に実体を持つ。
「アンデッド!こんなにたくさん!」
「落ち着いてください宮沢さん。数は多いですが…それほど厄介な方はいないようです。」
驚いた由紀寧を落ち着かせる渚が言うとおり、周囲からぞろぞろ現れたのは、数は多いもののゴースト、リッチ、鬼火、レイス等の、今の彼らにとってはそれほど脅威になりそうにない者ばかりだった。
「…まあ、ネクロマンサーのお約束どおり、色々と呼んでくれたのは評価してえが…この程度の連中なら…!」
瞬間、朋也の全身から、熱量を持った光が迸る、いまや朋也の操る光は、この程度の相手なら残らず浄化するほどの威力を備えていた。
「…とまあ、こんな感じだ。どうするね香里さん?」
周囲のアンデッドを一掃してしまった朋也、やや得意げにそう香里に言うが、香里はいたって涼しい顔で、
「…どこを見てるの?彼らはあたしの波長に引き寄せられてきた野良死霊よ。あたしが呼んだのはこっち。」
そう言って、自分達の後方を指差す、その方向を目で追っていくと、マントを羽織った顔色の悪い、少年といえそうな人物が佇んでいた。一見ヴァンパイアにも見えるが、どことなく個体ごとの個性がないヴァンパイアと比べて、それは顔色を覗けば人間といっても差し支えないほど、自然な造形をしている。
「ジュリアーノ、いつも悪いわね、今回は補助だけでいーわ。」
「ジュリアーノさん、お願いしますね。」
ジュリアーノというのか、それは香里と栞にこくん、と頷くと、さらに一歩後退する。
「な、何だアイツは…?ことみ、判別できるか?」
「やってみるの。」
そう言って、彼を凝視したまま呪文を唱えることみ。ややあって、彼女の表情が驚愕の形に変わっていく。
「…え!?」
「ど、どうしたのことみ!?」
「…まさか…そんな…。」
絶句することみ。その様子を見ていた香里が、
「おや、そっちの学者サマは気付いたようね。そう、彼は“ノーライフキング”と呼ばれる存在よ。」
「ノーライフキング?」
香里の言った単語を、鸚鵡返しにことみに振る朋也。ことみは厳しい表情のまま、
「ノーライフキング…古代の失われた秘術や、邪神の介入によって創造される、究極のアンデッドなの。性質はヴァンパイアに近いけど、その能力はヴァンパイアとは桁外れなの…。」
「ぬぅ…聞くとかなり厄介な相手らしいな…それならなんで、前線に出さないであんな後方に配置しているんだ?」
智代の呟きに、香里が反応して答える。
「そりゃ、確かに常人じゃとても敵わない奴だけどね、あなたたちも既に規格外なんだから、あの子よりあたしたちが出たほうが攻撃力では期待できるからねえ。回復とかだけ頼んだのよ。というわけで…栞!」
「はいっ!それじゃ先制はこちらで行きますよー!」
そのやり取りに、各々武器を構える朋也たちを正面に見据え、栞は両掌を前にかざす。すると、掌の周囲から青い光が現れたと思うと、青く輝く吹雪となって一同に襲い掛かった。
「わっ!」
「ふぇっ!」
「きゃっ!」
吹雪自体が与える傷こそあまり大したことはないが、大量の雪の重量に耐え切れず、次々と吹き飛ばされて転倒する。そんな中、
「な、何とか…!」
「風子は倒れませんっ!」
間一髪、直撃を免れた椋と風子が、それぞれ香里、栞へと飛び掛る。
「…えいっ!」
「おっ!?」
扇のように広げたカードで、香里の肩口を狙って斬りつける椋、香里は咄嗟にブラスナックルで受け流そうとするも、受けきれず右腕に一筋、傷を作る。
「…む、術士だと思ってたらやるわね…。」
「わ、私だってこのくらいは…。」
右腕を庇って一歩下がる香里と、深追いを避けてその場で構えを取る椋。一方、
「捉えました!風子のヒトデを味わってください!」
風子が、栞の懐に一気に飛び込む。と、
「…。」
とんっ。という音がしたと思ったら、次の瞬間風子がその場にくたり、と倒れ伏す。
「昏倒攻撃!?な、渚ちゃん!」
風子の様子に驚いた椋、ようやく立ち上がった渚に風子の蘇生を促す。
「わ、判りました!…魂よ、今一度その肉体を立ち上がらせよ…リザレティアクション!」
瞬間、渚の手から放たれた暖かい光が、風子に降り注ぎ、風子が目を覚ます…筈だった。
「え…?」
「ど、どうしました…!?」
珍しく動揺した渚に、慌てて聞き返す椋。その隙に、
「余所見しちゃだめ!」
「きゃ!」
香里のフックが襲ってくる、顔面を殴られた…と椋が目を閉じた瞬間、
「おっと!」
差し出された杏の辞書の表紙が、香里の拳を食い止める。
「…妹にはおいそれと手は出させないわよ…!で、でも渚、どうしたの…?」
杏だけではなく、一同もようやく立ち上がって改めて臨戦態勢を取る。
「…え、えっと…レイヴン・ゲート…!」
今度は先ほどよりも強い光が、風子に振りそそぐ、しかし結果は同じ。そこまで見た渚が突然、
「ふぅちゃん…ふぅちゃん!お願いです、目を開けてください!」
涙ぐみながら、声を張り上げて風子に呼びかける。そこにいたって一同も事の重大さに気がついた。
「伊吹!伊吹!聞こえてるか!?」
「風子ちゃん…!」
「風子!起きてくれ、頼む、起きろおおおおっ!!」
「叫んだって生き返らないわよ。」
香里の一言は、まさに凍りつくような声色だった。
「栞のデスタッチで心臓凍ってるんだから、片手間に呪文かけたって聞くわけないじゃない。手遅れにならないうちに儀式クラスの術を施す必要があるわ。…もっとも、完全に死んでしまわないうちに、だけど。」
「か、香里…お前…。」
わなわなと震える声で、やっと香里にそう言えた朋也。怒りと悲しみで満たされた朋也の視線を香里は正面から受け止め、さらに不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。
「言ったでしょ、一人ずつ墓に放り込んでやるって…。さ、まずは一人。次はだれがいい?あたしも色々と見せたい技あるから。」


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