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鬼道の末に 1

名無しのアヒル氏

成幸は今上機嫌であった。彼は今その居城の離れにいた。そこは成幸のある目的の為に建てられたものだった。
一見すると普通の家で別荘か何かの様に見える。確かに成幸は時々そこに一人で寝泊りしたりすることはある。
今もしばらくそうするつもりだった。しかしそれも“ある目的”の為であった。そして成幸は地下へと向かった。
そこには牢があった。単なる別荘代わりの建物にその様なものは必要ない。そして今牢の中に1人の少年が監禁されていた。
少年は壁から伸びている鎖で手首を拘束され、足枷も付けられ身動きは取れない。ぼんやりとうなだれていた様だったが
成幸の姿を確認すると顔を挙げてきっと睨み付けた。年齢は16,7。成幸は18なので同じ年頃だろう。
一見すると女と見紛う程の美貌の持ち主だったが、その頭には人間のものとは違う角がついていた。

そう、少年は人間ではなく、これまで人間に戦いを挑んできた鬼族なのである。

成幸が上機嫌なのは鬼族との戦いに完全勝利し、鬼族の頭の巌は落城の末自害していたからである。
実は少年はその巌の子供なのである。少年は父親がいた城とは別の城を居地にしており、巌が自害した後
そこに軍を送り城を包囲した。少年は鬼族の民衆に危害を加えないことを条件に自ら降伏を申し出て今に至る。
成幸と少年がいる離れには彼ら以外誰もいない。成幸は生来明るい少年であるがある理由により鬼に対しては
激しい憎悪の感情を抱いていた。彼と少年が居る離れは捕縛した鬼を拷問する為に設けられたものなのである。
自分の非情な姿を見られたくないのか、鬼を拷問するときは誰も呼ばない。捕らえられた鬼は拷問の末必ず処刑された。
そしてその拷問を遂行している成幸の憎悪や嗜虐心は牢に拘束されている少年に向けられていた。


「俺をどうするつもりだ!!」
少年が叫んだ。少年の年齢にしては高めの声。この状況でこの様な強気な態度を取れるなんて見た目によらず
気が強いみたいだと成幸は思った。
「わかりきったことを。降伏したとき自分のことは好きにしろって言っただろ。」
「・・・・・・。」
少年は拷問と処刑を頭に浮かべたのか口を閉ざした。しかしその目は気丈に睨みつけることをやめていない。
成幸は単なる拷問の対象として以外にもこの少年に興味を抱いていた。これまで捕らえ、処刑にした鬼は
ある程度年齢がいった兵のみだったので少年位の年齢の者を捕らえたのは初めてだった。民衆や女子供老人を捕らえるのは
父に反対されてたし鬼は根絶やしにしたい位憎いが成幸は本来結構情に厚い性格なので非情になりきれず父の意見に従っていた。
それでも捕らえた鬼には容赦しなかった。これまで捕らえた鬼達は兵士だったからか非情で戦を愉しんでる様な奴らだったから。
しかしその点でも目の前の少年は違っていた。あっさり降伏した上民衆を守る為自分を差し出す始末。正直拍子抜けした。
それも鬼の頭で少年の父である巌は冷酷非情で有名だった。人間は鬼=残虐非道という考えを抱いている。それは巌が
長年の人間との争いの間に培ってきたものといっても過言ではない。それぐらい恐ろしい男である。若くて美しいとはいえ
そんな男の息子、さぞかし残虐であろうと思いきや自分を投げ出して降伏。少年はあまりにもそれまで成幸が見てきた、
思い描いてきた鬼とはかけ離れていた。しかしだからといって何もせず釈放するつもりはない。その考えを少年への
当て付けの為に口にした。
「いくら降伏したとはいえ、鬼の頭の息子だからな、他に戦の先頭にいた奴は皆死んだから戦の責任の為に拷問して
処刑ってとこだろな。」


「・・・・・・。」

少年は黙っている。しかし恐怖に屈してるわけではない。その目は怯えるどころかよりいっそう強く睨み付けている。

――面白い奴だ。愉しめそうだな。
成幸は内心ほくそ笑んだ。少年は口を開こうとはしない。それゆえ成幸から口を開いた。

「お前名前は?オレは成幸。」
名前を聞くついでに自分も名乗った。頑なに口を閉ざしていた少年がその重い口を開いた。

「・・・・・・瑞穂、瑞穂だ・・。」
成幸が自分から先に名乗ったのに答えたのか少年――瑞穂は意外と素直に名乗った。

「瑞穂か、いい名前だな。」
成幸は改めてまじまじと瑞穂を見つめた。

――ほんと女みたいに綺麗な奴だな。
しかも美しいだけではない。その目には絶対に屈しないという強い決意があった。
美しさと強さ、それを見事に併せ持っていた。成幸の中に今まで手に掛けてきた鬼に対してとは違う嗜虐心が芽生えた。
この美しい顔を屈辱で歪ませ、強気な顔を恐怖で満たしたい。成幸は瑞穂の顎を掴み顔を持ち上げた。

「さて、どうしてやろうかな。やっぱ鞭打ちか?傷つけがいのありそうな肌してるしな。それとも顔を狙った方がいいかな?」
瑞穂に当て付ける様に言い放った。

「・・・・・・。」
瑞穂は怯えることもなく更によりいっそう強きな目で睨みつけている。本当に面白い、と成幸は再び心の中でほくそ笑んだ。

「そうだ、とりあえず・・・、」
そう言いながら瑞穂の小袖の胸倉を掴んだ。

「!!?」
今まで強気な顔をしていた瑞穂の顔に驚きが生じた。

「拷問の為に服を脱がせてもらうぞ。」


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