>>589
「おま……え……」
目の前に立っているアイツは……女だった。
どこからどう見ても、だ。普段着ている学ランなのに、どこからどう見ても。
男にはありえない二つの膨らみが見えるんだから、当たり前だ。
「どう? これが……本当の僕だよ」
「本当のって……お前……女、だったのか?」
「そうだよ。普段はこれで巻いて隠してたんだけどね」
アイツの……彼女の手には、白い布切れが握られていた。
「サラシ……?」
「そうだよ。まあ、無理やり押さえつけてたから、普段は結構苦しくてね。
……今は、大分すっきりしてるかな?」
「……そりゃ……そんなデカイのを、無理やり押さえつけてたら、苦しいわな……」
「そこ感心するところじゃないと思うけどね」
「あ……す、すまん」
彼女の言葉に素直に謝ると、何が面白いのかくすくす笑っている。
「……なんだよ」
「いや、あんだけいつも喧嘩してたのに、妙に素直に謝るからさ」
「だ、だって……そりゃ、普段ああだったのは……お前が、男だと
思ってたからで……まさか……」
「女だとは、思わなかった?」
下から覗き込むように、棒立ちの俺の顔を見つめる彼女の姿に、
どうしようもなく俺は女を感じた。ついでに、胸元から見える谷間にも。
……谷間?
「お、おまえ……その学ランの下……」
「うん。何も着てない。ほら」
「や、やめ……」
「見ないの?」
「けど、だって……そんな、いきなり……」
「いきなり、かぁ……そりゃそうだよね。僕はずっと女だったけど、
君にとっては僕はついさっきまで男だったわけだ」
「……そうだよ。いきなり、こんな……」
「でも」
彼女が、俺の腕にすがりついてくる。胸の膨らみを腕に感じ、
俺は頬が紅潮するのを感じた。
「だからこそ……インパクト、あるよね?」
……な、何を言ってるんだ、こいつは……?
「僕は僕にとってはずっと女だった……そして、君は」
「……俺は?」
「君は……僕にとっては、ずっと男だったんだよ」
「………………」
彼女が、女の子がそうするように――いや、女の子なんだから
そうするように、っていうか、まあ何というか、もう……混乱してるな、
俺――瞳を閉じ、顎をくいっと上げ、何かを待つ。
「……」
「……いいの、か?」
「……それ、聞くかな、普通?」
瞳を閉じたまま、呆れたように笑みをこぼす。
その彼女が、とても、凄く、物凄く可愛くて――
「……いくぞ」
――俺は、ゆっくりと彼女の顔に……唇に、自分のそれを近づける。
「……」
「……」
そして――口付けを交わした。
電波キタコレ