「やっぱ、ガクランは俺だけか〜」
クラス中を軽く見回すがまっ黒いのは見当たらない。
制服の無い学校に受かり、散々悩んだが結局着なれたガクランで初登校。
そんな俺、渡辺奏馬(わたなべそうま)は自分の歩んで来た道を少し後悔してます。
男子中学なんて真っ黒でレアな日々を過ごしてきた為、爽やかに交流を交わすオシャレな若き男女(同い年)に近づけず、自らの席と言う名の安住の地を探し求める。
「えっと、廊下側から出席番号順か…なら窓際の一番後ろっと」
36人クラスの36番の俺はこっそりと、自分の席につく、そしてあとは教師の到着を一人待つだけ。
そのはずだった…
しかし、俺は見つけた。その黒き輝きを、真新しいガクランをまとった同志を!
その同志(仮)と目が合い、お互いにホッとしたような表情になる。
「良かったぁ、一人だけガクランだったらどうしようかと思ってたよ」
「俺もそう思ってた。俺は渡辺奏馬、演奏の奏に馬でソウマって書く、よろしくなガクランの同志」
するとキョトンとした顔で動きが止まる同志(仮)。
握手を求めた手を空中でワキワキさせる俺。
「何か俺ヘンなこと言ったか?」
「えっ?あ、ううん。ビックリしただけ」「ビックリ?」
そう尋ねると、握手を返しながら。
「うん、渡辺奏(わたなべかなで)、演奏の奏でカナデ」
………すげぇ!
「同じ名字で名前の漢字まで一緒…なんか運命感じるな!」
握手した手をブンブンと振りながら、感動を表す。
「う、運命?」
顔を赤く染め、うろたえるカナデ。その表情にドキッとした。
いや違う。落ちつけ、こいつは男だ、3年間男だらけの生活で、男に告白された数が2桁だろうと全てその場で拒絶した。
染められてなんかいない、そう俺は女の子が好きな、すなわちノーマルだ。
OK,もう大丈夫だ、さっきのは一時の気の迷いです!
そう結論づけるとカナデの方に向き直る。
「なんだか唸ってたけど大丈夫?」
顔を傾げて尋ねてくる。やっぱ可愛い…
「じゃ、なくて!よろしくな、カナデ!」
ヤバい感情を振り払う為に大声で仕切り直す。
「う、うん。よろしくね渡辺くん」
「ってお前も渡辺だろが、ソウマでもソウでも好きに呼んでくれ」
少し悩むようにして、カナデは笑顔で言い直した。
「よろしくね、ソウくん」
これはそんなかなり風変わりな、二人の奏の出会いから始まる物語。