時は少しさかのぼり…
まったく何やってるのよあのバカナデは。
早く行きたいから、トイレ行くついでに彼を呼んで来いっていったのに、なんで二人して公園なんかにいるのよ。
…まあ、あの子が私以外の、しかも男の子と仲よくしてるんだし歓迎すべきかしらね。
ソウマくんもなかなか楽しい人みたいだし。
授業中や映画館でのカナデとのコンビを思い出すと、自然とニヤニヤしてしまう。
ソウマくんはカナデを、男だって思ってるみたいだしね。
つき合ってるかって聞かれたとき、つき合ってるって言った方が面白かったかしら。
…流石にそれはカナデも怒るか。
あの子がここまで入れ込むのは『おねえさま』以来か。
あの子ったら単なる学ラン好きなだけじゃないでしょうね。
自分で着るぐらいだし。
……ドドドドドドドド!!
ん、何か近づいてくる?
「お前に!!ラブ、ハ――トッ!!」
ドドドドドドドド……!!
な、何よアレ。
エプロン付けて、ランドセル背負ったゴッツイ男の人が歌いながら駆け抜けていった。
え〜っと、気にしないようにしよう。
春だし変なのも増えるわよね。
うん、アレに比べたらカナデの学ランも可愛いものよね、似合っているし。
そんな風に自分に言い聞かせていると、ベンチに一人座っているカナデが見えた。
ソウマくんは一緒じゃないのかしら。
「カ〜ナデ、あんた一人なの?」
「ハコちゃん、ゴメンネわざわざ来てもらって」
少しうつむき気味にカナデが謝ってくる。
「私はいいんだけど彼はどうしたの?もしかして帰っちゃったの?」
「ううん、ソウくんは今顔洗いに行ってるの」
手の中のペットボトルを転がしながら、ため息をつく。
「どうしたのよ、ずいぶんと暗いじゃない」
ケンカでもしたのだろうか、不安になり顔をのぞき込むと、どこか疲れたような顔であたしの顔を見てくる。
「あのね、ソウくんがね、私のこと男の子だと思ってたんだって」
なんだ、もうバレたのか。
「あら、カナデってば気づいてなかったの?」
「ハコちゃんは気づいてたの!?」
すごく驚いた顔で聞き返してくる。
「彼、私たちがつきあってるって最初に思ってたでしょう?」
「だ、だってほら中学の時ハコちゃん後輩の娘に告白されてたでしょ?」
あ〜、あれか。
「それ以前にあんた、学ラン着てたじゃない」
その当たり前の指摘にカナデは思いつきもしなかったって顔をさせて、視線をさまよわせる。
「だっておねえさまが…」
「だいたい男と思われてたとして何か問題があるの?」
すこし意地悪に聞いてみせるとカナデは、パーカーの紐をいじりながらこっちを見る。
「だって、ソウくん私が女の子だったら友達になってくれなかったかもしれないし…」
「今はもう友達なんだから、気にすることないわよ。むしろ男って思われてたのはラッキーじゃない」
「だけどだけど、なんか女の子っぽくないって見られるのもいやだし…」
後半どんどん声を小さくしながらカナデはうったえてくる。
ふ〜ん、このカナデの態度、これはなかなか面白い事になるかもしれないわね。
「かなで〜、っと乃木さんもう来てたんだ」
顔を洗ってさっぱりしたのか、爽やかにソウマくんが駆けよって来る。
そして、ハンカチを洗って返すとか何とか初々しい会話をカナデと交わす。
うん、私の感が当たってるならこの二人の組合わせはは面白いわ。
「やっと来たわね、おなか減ってるんだから早く行きましょ」
カナデの手を引いて立ち上がらせ、私たちはパスタを求めて歩き出した。
面白い事が好きで、親友の事が大好きな少女が手を引いて歩き出す。
これはそんな恋の物語。