雨が降り注ぐ中、曇天の道を俺たちは走っていた。  
制服のブレザーにまで雨の水が浸透して、ついにカッターシャツまで濡れてしまった。  
体に張り付く感じがたまらなく気持ち悪い。  
横で一緒に走る彼女―ヒロのブレザーもしっかり濡れて、色が濃くなっている。  
雨は一向にやむ様子もなく容赦なく俺たちに降りかかり、おまけに風まで強くなってきた。  
「・・・っ」  
ふと横を見ると何かにたえるように唇をかみ締めているヒロの顔が映る。  
「どうした?」  
問いかけてみても、俺のほうはいっさい向かず「別に」と一言、走り続ける。  
表情を見る限り、全然「別に」じゃないだろう。  
経験上、これ以上原因を聞いたところでまともな返事は返ってこないことはわかっていたから、自分でその原因を探すこととする。  
横で苦しそうに走るヒロを上から下へみていくと以外に簡単に答えはわかった。  
長年一緒にケンカして、何回もの修羅場をくぐってきたからこそわかること。  
苦しそうな表情さえ見なければ、一見普通に走っているように見えるが、俺からすればそれは明らかだった。  
―右足をかばっている。  
さっきケンカしてた奴らにやられたのか。  
「右足怪我してるんだろう。」なんて言った所でヒロが認めるわけない。  
こういうときの対処法もここ数年で覚えた。  
「ヒロ。」  
呼びかけると、目だけでこちらを向く。  
その瞬間にヒロの脚を軽く蹴ってやる。  
「っ・・・!?てめぇ!」  
がくんと膝をつくヒロを上から見下ろす。  
そして屈み、抗議の声を無視してヒロのズボンを捲くる。  
白く細い脚・・・しなやかに筋肉がついているそれは、男の脚とは違う女の脚。  
それが一部赤くはれている。  
ここか。  
「痛いんだろ。」  
「・・・・。」  
「無理すんなよ。悪化したらどうすんだ。」  
そういって、ヒロの脇に手を入れて担ぎ上げた。  
「ちょっ・・・下ろせよ!」  
「あーハイハイ。」  
ヒロの抗議を軽く受け流して歩き出す。  
もう数メートル先は俺の家だ。  
往生際悪くヒロはまだ暴れているが、かなりの対格差があるため、俺にしたらヒロの抵抗などかわいいものだ。  
ヒロは女にしては背が高いほうだが、やはり俺と比べたらかなり低い。  
それでもそこらへんのヤンキーはたやすく倒してしまうほどケンカ慣れしている。  
彼氏としてはもう少し大人しくしておいて欲しいものなのだが、まったくおとなしくなる気配は無い。  
中学生のころの、ケンカに明け暮れていた日々を思い出せば、まだマシになった方なのだから、善しとしておくべきなのかもしれない。  
雨は相変わらず降り続けているが、やっと家に着いた。 
暴れていたヒロをおろし、家のドアをあけて、ヒロに入るよう促す。  
「どうぞ。」  
「・・・・お邪魔します。」  
不服そうに俺を見ながらもすんなり家に入った。  
バタンと音を立ててドアが閉まる。  
二人が入ったことで玄関は水浸しだ。  
とりあえず風呂場に二人分のバスタオルを取りに行き、ヒロにも渡した。  
「先にシャワー浴びてこいよ。」  
濡れたブレザーを脱ぎながら言った。  
「後でいい。」  
「遠慮すんなって。先はいれよ。」  
「いや。」  
頑固な奴め。と思いながらもそれ以上言うのをやめ、俺が先に入ることにした。  
「じゃあ、俺が先に入るから。お前は俺の部屋で待っとけ。」  
「わかった。」  
ヒロが階段を上っていくのを見届け、俺はシャワーを浴びた。  
冷たい雨のせいで冷え切った体は、温かいシャワーで感覚を取り戻す。  
あまり長いこと浴びているとヒロがかわいそうなので、一通り洗い終えると、早めにきりあげた。  
ヒロのために風呂も沸かしといてやる。  
自分の部屋に戻ると、そこには濡れたブレザーを脱ぎ、カッターシャツ一枚とズボンだけになっているヒロがいた。  
水分を含んだカッターシャツは透け、ぴったりとくっつきヒロのボディーラインをなぞっている。  
ズボンを捲り上げて、さっきの右足の怪我をみている。  
濡れた髪をかきあげ俺を見上げる様子はとても扇情的だ。  
心拍数があがるのがわかる。  
「風呂、沸かしといたから入って来い。」  
ヒロの体から目をそらしながらいうと、「サンキュー」と一言、ヒロは階段をおりていった。  
降りていく足音を聞きながら胸をなでおろす。  
正直あのシチュエーションはやばかった。  
かろうじて理性が残っていたから思いとどまったが、あのまま押し倒してしまいそうだった。  
俺は髪をがしがしと拭きながらベッドに横になった。