「どうしろっていうんだよ、これ……」
イスカは自室にて、てのひらサイズに余裕でおさまる小さな包みをつまみあげ、そう呟いた。
その包みは、今日の健康教育の授業で、生徒全員に配布されたものだった。
本日の授業の内容は、実に衝撃的なものだった。
女性の身体、男性の身体、性交、受精、妊娠のしくみと、それから避妊の方法について……をひととおり学んだ。
そして、授業の最後で、教師が一言。
「今から配布するのは、男性用避妊具の、もっともポピュラーに使用されているものだ。一度、自分で装着の練習をしておくように。これ、今日の宿題な」
教師の淡々とした物言いが、逆に生徒たちにはひどく生々しく感じられていた。
授業のあとは、盛り上がって騒ぎ立てる者もいれば、赤くなる者、無言の者など、生徒たちの反応は様々だった。
かくいうイスカは、宿題そのものよりも、そのあとに書かされる感想文をどうしたものか、と頭を悩ませていた。
自室で一人、その小さな袋とにらめっこしながら唸る。
「そもそも付けられないんだから、感想なんてわかんないよ。妄想の域だよね……。どうしようかな」
袋を開けるか開けるまいか、と悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
どうぞ、と返事をすると、訪ねてきたのはアトリだった。
「よお」
アトリは部屋に入ってくるなり、イスカのベッドに腰を下ろした。
いつものことなので、イスカも特に何も言うことはない。
「……リーベルは?」アトリが尋ねてきた。
「今日は生徒会だよ。文化祭も近いし、遅くなるってさ。伝言なら伝えるけど」
「いや、別に、特に用はない。……ふーん、そうか。リーベルは今日は遅いのか」
「何?」
「や、別に。……お。お前、その袋まだ未開封じゃん」
そう言って、アトリはイスカの持っていた小さな袋を取り上げた。
イスカは小さくため息をついてから、アトリに少しためらうようにして尋ねた。
「……アトリは、その、もうつけてみた?」
「ったり前だろ。感想文も書いたし水風船までして遊んできた! これ、意外に丈夫だよなー」
イスカは次に紡ぐ言葉が見つからなかった。
いつもは、宿題は最後の最後まで後回しにするアトリが。あのアトリが。もう終わらせてしまったという。
「優等生だね」
「だろ?」
アトリに皮肉は通じない。
イスカはもう一度ため息をつくと、思い切って、「宿題」のことをアトリに聞いてみることにした。
「……で、ど、どうだった?」
「どうって?」
「だから、その……着け心地」
割と真剣に聞いたつもりだった。
そんなイスカの気持ちに呼応するように、アトリのほうも素直に答えてくれていた。
「そうだな……。思ったよりは窮屈じゃなかった。
他の奴は、ちょっと小さすぎるとか、逆にぶかぶかだったって言うやつもいたけど。
その点、俺は割とサイズぴったりだったから、そんなに違和感はなかったなぁ。
でもやっぱ、正直、実際やること考えると、生のほうが気持ちよさそうだとは思うけどな。
あと、ゴムアレルギーあるやつはちょっとかゆくなったって言ってたぞ。
まあ、中に入ってるゼリーが肌に合わなかったってのも考えられるらしいけど……」
「ふむふむ、なるほどね」
「……って、何メモってんだよ」
「いや、感想文の参考にしようと思って」
「おい、人の感想パクってんなよな。自分の言葉で書かなきゃ意味ないと思いまーす」
「だって、体験できないんだから、仕方ないだろ」
それには、アトリが一言。
「俺でためしてみればいじゃん」
「え?」
「だから、俺でやってみればいいじゃん、て」
イスカは、始め何を言われたのかよくわからなかった。
アトリの試すような含み笑いを見て、その意味をようやく理解した。
「バカ。何、バカなこと言ってんだ」
「いいじゃん。今日はリーベルはまだ帰ってきそうにないんだろ。この部屋には、実質俺とお前だけだし」
「そんなもんは関係ないっての」
「だって、お前、このままじゃ宿題出来ないぞ」
「適当に『やりました』って言えば済む話でしょ。っていうか、何で今日だけそんなに真面目なんだ」
「いやいや。こういうことこそ、真面目にやんねーとダメだと思うけどなー。人として」
「ひ、人として?」
イスカが瞬きをする。
「ああ、そうだよ。仮にもお前、女だろ。これから先、男と寝るようなことが絶対無いって言いきれるか?
そのときが来たら、きっと、今日宿題やらなかったこと、後悔すんぜ。相手の男が避妊してくれるとは限らねーだろ。
避妊の方法、自分で知っとかなくていいのか?」
「う……。そ、そう言われると、なんだかそんな気も、する……ような」
「だろ?」
「ううん……。なんか、正直、ど、どうなんだろ……」
「とりあえず、やってみりゃわかるって」
そう言って、アトリはイスカの手を掴むと、大胆にも自身の股間にあてがった。
「ちょ、ちょっ……! アトリ……っ」
「なんだ。もしかして、若干動揺してたりする?」
「あ、当たり前だろ、こんな……!」
「へぇ。意外にかわいいとこ、あんだな。イスカも」
アトリはそう言って、イスカの手をぐい、と引っ張り、自分のスボンのジッパーへと彼女の手を導いていた。
「ほら、おろしてみろよ」
「なっ……、そ、そんなもん、僕にさせないで、自分でやればいいでしょっ」
「だって、そのほうが勃つじゃん」
「た……!?」
「勃たないと、付けられないだろ」
アトリはそう言うと、イスカに促すようにして、自分のズボンのジッパーを下ろさせていた。
イスカはぎこちない手つきで、中のモノをおそるおそる取りだそうとして、しかしやはり躊躇っている。
「何だよ、早くしろって」
「だ、だって、だって……なんか、この展開、おかしくない……?」
「別におかしくねーよ。宿題してるだけ」
「そ、そうかな。なんかはめられたような……」
「ほら、こうすんだよ」
アトリはイスカの手を、自身のモノに触れさせ、それから器用に取り出させていた。
「う、うぉわ!?」
「いちいちリアクションでけーな、お前」
「そ、そりゃ、でかくもなるよ! て、ていうか……」
イスカは、自分が(不覚にも)取りだしたモノをまじまじと見つめて、思わず息をのんだ。
「お、思ったよりも……ちょ、ちょっと、大きいような……。え、こんなもん? みんな、こんなもんなの?」
「そりゃ、今は『大きくなってる』からな」
「お、大きく……」
「ってか、見すぎだろ、お前。視線がチクチクすんぞ」
「や、だ、だって……。ねえ、みんな、こんなになるの? リーベルも? 男の子って、みんなこんな……」
そう言って、イスカがおそるおそるアトリ自身に触れてみると、ビクン、と一回跳ねるように脈打ち、驚いて慌てて手を引っ込めた。
「も、もっと大きくなった?」
「そりゃ、そうだろ」
「何で!?」
「何でって……。自然現象?」
アトリは平然と言ってのけ、それから、イスカの反応を楽しむように性質の悪そうな笑みを浮かべて言った。
「次はこうやって、握ってみ。もうちっとでかくなると思う」
「!? こ、これ以上大きくなって、どうする気なんだよ!?」
「さあなぁ……。それはこいつに聞いてみないことには、なんとも……」
「も、もういいよ。もう十分わかったから。もうやめる。はい、終わりっ」
「おい、肝心なこと忘れてんぞ。ゴム付けるんだろ?」
「あ、そ、そうだった」
どうやらイスカは本当に、本来の目的をすっかり忘れてしまっていたらしい。
アトリに言われて、初めて気付いたような様子で、小さな袋を破り、中から避妊具を取り出していた。
「お、思ったより、薄いね……。え、えと、どうやるんだっけ」
「ここからかぶせて広げていくんだよ。裏表間違わねーようにな。この先っぽをつまんで空気抜いて。で、付けていく」
「な、なるほど」
装着の要領はそれほど悪くはなかった。
イスカは、割とスムーズにアトリ自身に避妊具を付けることに成功していた。
「で、出来た」
「出来たな」
「も、もういいよね? 終わっても……」
「何言ってんだ。これじゃ、ただ付けてみただけだろ。『使った』ことにならない」
「!?」
「握ってこすってみろよ。実際にやる感覚とはだいぶ違うかもしれないけど、摩擦で破れたりしないかとか、試してみないとわかんねーぞ」
「え……え……?」
「ほら、こうするんだよ」
言って、アトリはイスカの手をもう一度自分のモノにあてがい、上下に動かすように指示していた。
イスカはわけがわからない様子で、半ば泣きそうになりながら、ただアトリの言うとおりに手を動かしていた。
「ね、ねえ。僕……僕たちって、なんか……へ、変なこと、してない?」
「してないしてない。宿題してるだけだって、言ったろ」
「で、でも、でも、なんか……」
イスカは、自分の手の中の、熱を持ったアトリ自身を見て、いまさらながら、顔を赤くしていた。
「ま、また、おっきくなってきたし……! もう、やだよぉ。ねえ、もうやめよう?」
「お前、いまさらやめるとか、かなり生殺しだぞ。んなことしたら、恨むからな」
「そ、それって、何かお門違いだよ」
「お門違いじゃない。……てか、お前、上手いな……」
「え、そ、そう?」
イスカは少し驚いたように目をぱちくりとさせていた。
「ああ、うますぎ。めちゃくちゃ気持ちいい、かも。あー……、やっべ、背骨引っこ抜かれそう……」
「な、何それ。もう、何だよバカ。このまま引っこ抜いてやるよ、ちくしょうめ」
「うわ、ちょ、待っ……!」
イスカはアトリに構わずに、だんだんと握る力を強くしていき、さらに動かす速度も速めていた。
慣れていないような手つきではあったが、それが逆にペース配分の予測をつけにくくさせ、アトリを翻弄させる原因ともなった。
「イスカ……、おま、お前、すげーな。やばい、すっげ、気持ちいい」
「そ、それ、褒めてるつもり? 全然嬉しくないんだけど……」
「んだよ、ノリ悪いな。もっと喜べよ。あー……やば、すげーやばい」
「も、もう、変なことばっかり言いやがって、このやろう」
イスカは半ばやけくそになっていた。
自分のやっていることで、アトリの息遣いがだんだん荒くなっていくのを見るのは実に変な気分だ。
……が、正直、「気持ちいい」「うまい」と言われて、どこか得意げになっていた部分がないわけではなく。
自分の行い一つで、こんなにも誰かを翻弄させることが出来る。
イスカは、その感覚に魅了されて、無意識のうちにその行為をエスカレートさせていた。
アトリに与えられる快感がさらに増していくのは言うまでもない。
「イ、イスカ……、もうそろそろ限界、かも」
「何が?」
「だ、だから、俺のナニが」
アトリはそう言うと、イスカの手の上に自分の手を重ね、一緒に擦るような形で動かし始めた。
アトリの手がやけに火照ってあたたかくて、イスカはびっくりする。
それから、彼は間もなくして、低く呻いてから絶頂を迎えた。
イスカは驚いて、アトリ自身からぱっと手を離していた。
アトリはしばらく息を整えてから、ずるずると剥くようにして装着していた避妊具を外した。
その、使い終わって萎びたゴムを眼前にかざすと、彼は感嘆の声をあげる。
「おおー! さっきよりもたくさん出た!」
「え? たくさん出たっ、て……」
きょとんとするイスカに向かって、アトリはわざとにっと笑ってみせていた。
「ほら。お前のおかげで、こんなに出たぜ、精液」
「せ、せーえき……?」
アトリがそう言って、その物体をイスカに手渡す。
おそるおそるつまみあげるようにしてそれを受け取ったイスカが目を瞬かせる。
「こ、これが、せーえき……」
「そ。精液」
「こ、こんななんだ……」
「人体の神秘だろ」
「う……うーん、それはどうかわかんないけど」
「なんなら、舐めてみるか?」
「……ふざけんな」
本気なのか冗談なのか、ときどきアトリにはよくわからないところがある。
その邪気のない物言いは、素なのか、それとも確信犯なのか。
イスカは、少しため息混じりに呟いていた。
「男の子って、すごいね」
「そうか?」
「うん。僕も男として生きてる身だけどさ、正直、こんな精液なんて出せる気しないよ」
「? 当たり前だろ」
「いや、そうなんだけどさ。……なんていうのかな。
やっぱり、いくら女の僕が男の振りしたところで、所詮は本当に『フリ』でしかないんだなって思って。
だって、当たり前のことだけど、身体の構造がまるで違うんだもんね」
「身体の、構造……」
「うん、人体の神秘。……て」
言ってから、イスカはアトリの妙な視線に気づき、不審に思って少したじろいだ。
「何、じろじろ見てんだよ」
「いや、あのさ」
アトリはそう言って、言葉を濁していた。
「何」
「んー。考えてみたら、俺だけ『身体の構造』見られたのって、不公平かなぁって思って」
「……は?」
「しかも、お前は俺が射精するとこまで見てるわけだし? これってフェアじゃないと思わね?」
「な、何、言って……」
「っつーわけでさ、お前の恥ずかしいとこも見せろよ。あと、射精するとこも」
「む、無茶言うな! っていうか……!」
イスカは、アトリのあまりの問題発言に、頭をクラクラさせていた。
「何をわけのわかんないこと言ってるんだよ。さっきのは、僕の宿題をやるため、でしょ。もう目的は果たした。
アトリの言ってることは、すごく主旨のずれてることだと思う」
「そうかな。そう違わねーと思うけど」
「いいや、違うね大いに違う」
「だってさ、お前がこの先困らねーようにって、そういう理由でやっただろ」
アトリはあくまでしれっとしていた。
「だから、俺がこの先困らねーように、お前も俺に協力しても筋はとおると思う」
「通らないよ」
「通るって」
「通りません」
「いいじゃんか、一回くらい」
これが本音か、と思われるような発言がぽろりと出る。
アトリはそのまま続けた。
「何も、『やらせろ』なんて言わねーよ。気持ち良くしてもらったお返しに、こっちも気持ち良くしてやるってだけで」
「いらん! 何その押し売りおしつけ。大きなお世話。……って、ちょっと、何近づいてきてんの?」
本格的に身の危険を感じたのか、イスカは無意識に後ずさる。
それに呼応するように、アトリも彼女ににじり寄ってくる。
「嫌だ。ちょ、嫌だからね」
「何をそんなに焦ってんだよ」
「そ、そりゃ、焦りもするよ! 何考えてんだよ、バカ! ……ちょ、やだバカ、来るなよ。や、やだ。嫌だ、嫌だってばー!」
焦りすぎて、怒っているのか泣いているのかさえよくわからないようなイスカを見て、アトリはどこか意地の悪い笑みを浮かべていた。
「な、何がおかしいんだよ」と、イスカ。
「いや、だってさ」
アトリは笑いをかみしめるようにして、探るようにイスカに視線をやった。
「なんか、まるで女みてーだなぁって思って」
「はぁ!?」
イスカを無視してアトリは続ける。
「普段の様子からしても、何に対してもあんまり動じないっていうか、やたら肝のすわった感じがするのに、こういうときはお前、普通に泣いたりするのな」
「な、……!」
そう言われて、イスカは顔を真っ赤にして怒り出した。
「な、泣いてない! こんなことで泣くか!」
「あれ? なんだ、違うのか?」
「な、泣いてなんかない! 僕は『男』なんだから。こんなことで泣いたりするもんか」
「へぇ、そう。ふーん。じゃあ、別に平気ってことだよな」
「へ?」
アトリはイスカの手首を掴むと、驚くほどにあけなく彼女をベッドの上に押し倒していた。
「え、ちょ、おい、アトリ」
イスカの抗議の声も無視して、アトリはイスカの制服のズボンのベルトに手をかけていた。
「ちょ、ちょっと! や、やだ。何やって、」
「いいから。じっとしてろよ」
「い、嫌だー!」
イスカが必死で足をばたつかせるのを、アトリは力で抑え込みながら、彼女のズボンと下着を一気にずり下ろしていった。
「や、やだっ……やだぁっ! バカ、死ねアトリっ……」
「はいはい、俺はバカですよ」
言っていることに反して、アトリの口調がやたらに嬉しげなのが、余計に癪にさわる。
イスカは死にものぐるいでアトリに対抗するも、思いのほか、アトリのほうが腕力も反射神経もよく、なかなか思うように抗えない。
そうこうしているうちに、力づくで両脚を大きく開かされてその間に割り込まれてしまうと、拒絶するよりも先に恐怖心のほうが勝ってしまった。
イスカはついに、「泣いてない」とは言えなくなってしまった。
「やだ、……っ……やだぁっ……」
「……おいおい、本気で泣くなよ。気持ち良くしてやるだけだって」
「勝手なことばっか言うな! いらないって、嫌だ、って言ってるのに……! も、……さっさと終わらせろよっ」
「お? 何だ、お前も実は乗り気なんじゃないか」
「んなわけないだろ! でも、アトリにやめる気がないんだったら、結局、こうして組み敷かれてる僕に選択権なんてないじゃないかっ」
「んー、たしかに。いや、でも俺、別にお前を襲ってるつもりとかないし……」
「どの口が言ってるんだ!?」
「あはは。それもそうだな。ま、なんとかなるって」
まるで他人事のような言い草だった。
アトリはイスカの両脚を高く持ち上げ、今よりもさらにさらに大きく開かせていった。
足の付け根の中心部をマジマジと見られる格好にされてしまい、いくらなんでもこれは、とイスカは慌てふためいた。
「ちょ、こらっ……!」
「どれどれ」
「バカっ……見すぎだっ、て……」
「お前だって見ただろ。さんざん、俺の」
「べ、別に見たくて見たわけじゃないし。……ってか、僕、本気で、そんなにまじまじ見てないっ、て…… ひ、ぃぁっ!」
突然アトリの指がイスカの中心部に触れ、隠れていた部位をすべて見通すように中を押し広げてきた。
あまりに唐突で、イスカは思わず反射的に足を閉じようとするが、間にアトリがいるのでまったく無意味なことだった。
「やっ、やだっ、や……!」
「へぇ、女ってこうなってるんだ。なんか、すげぇな。複雑怪奇」
本当に興味しんしんといった様子で、アトリはイスカの秘部を無遠慮に観察していた。
イスカはあまりの羞恥に耐えられず、思わずぎゅっと目をつむる。
すると、アトリがその反応に対して意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんだ、見られて恥ずかしいのか?」
「あ、当たり前、だ! そ、その、ニヤニヤするの、やめろって! なんか、無性にムカつく!」
「そうか? わかった。なら、んなこと思ってられないくらいには、お前の余裕をなくさせてやるよ」
「へ……? 何、……ゃっ……!」
そう言うと、アトリはイスカの秘部をいじりだす。
最初は外側をなぞり、そこを堪能すると、今度はじっくりと、自身の中指の腹でイスカの中心部を念入りに擦りつけていた。
アトリにしては、意外すぎるくらいゆっくりとした動きで、その指の動作は丁寧といってよかった。
イスカが耐えるようにびくっ、びくっ、とときおり痙攣するように打ちふるえている様子を見ては、彼は楽しんでいる。
手探りなようでありながら、アトリは確実にイスカの敏感な部分を探り当てるのがうまかった。
陰核の部分を優しく押しつぶすように触れられ、イスカは思わず甲高い声をあげた。
そして、自身の声にはっとして、慌てて口を押さえる。
が、時すでに遅し。
そこには、にんまりと笑んだアトリの顔だけがあった。
「イスカ、やーらしー」
「ア、アトリに、アトリにだけは、言われたくないっ!」
イスカはまた泣きたくなった。
「いや、褒めてんだって。すげーそそられる。もっと喘げよ」
「絶対やだ!」
「強情だなぁ。それなら、力づくで泣かせてやるしかないかぁ〜」
そう言うと、アトリはイスカの上半身の制服のチャックを下ろし、中のシャツのボタンを手早くはずしていった。
すると、さらしに巻かれた胸板が露わになる。
さきほどイスカが思い切り暴れたせいで、さらしは呈よく緩んでおり、アトリにとっては大いに都合がよかった。
「ちょ、ちょっと! どさくさにまぎれて、何して……っ」
「この際、ここまできたら、もうかたいことは言いっこなしだぜ」
アトリがそのまま緩んださらしを引き下げると、しっとりと汗ばんだ白く薄い胸板が彼の眼前にさらけ出された。
小さな乳房がイスカの呼吸に合わせてゆっくりと上下している。
その様子に思わずごくりと喉を鳴らしてから、アトリはイスカの乳房をもみしだいていった。
「や、やだっ……」
「へぇ。胸、まったくないわけじゃないんだな」
アトリはそう言って、しばらくはそのやわらかな感触を楽しんでいたが、ふいに、揉んでいた片方の手を離し、唐突に乳房の突起部に口を近づけ、先端を軽くなめた。
イスカが小さく声をあげるが、そんなことを気にするそぶりもなく、アトリはまるでむさぼるように、彼女の乳房に深く吸いついた。
「や、いやぁっ……! アトリ、だめっ……」
「だめ、じゃないだろ。いいから、じっとしてろって」
イスカの反応を見て、アトリが再び笑った。
乳房をいじると同時に、下半身への刺激も忘れない。
最初の頃と比べて、指にまとわりつく粘液の量が、明らかに異なっていることにアトリは気付いていた。
「なあ、イスカ。お前のここ、なんか、すっげぇぬるぬるしてるぜ?」
「そ、んなこと……っ」
「ないっての? なんなら、俺の指、見せようか?」
「い、いらんっ……!」
イスカは息も絶え絶えに、なんとかアトリから浴びせられる刺激に屈っしまいと、必死に耐えていた。
声が出そうになるのを済んでのところで抑える。
しかし、声をあげるのを我慢している分、身体の昂ぶりを止めることにまで手が回らない。
また、イスカにそんな余裕を与えるアトリではなかった。
彼はイスカに快楽を与えることに、異様なまでに貪欲だった。
女性の身体がどうなっていて、どうすれば気持ちよくすることができるのか、それに関する探究心は尽きない。
まるで、彼は身体をほぐすことで、心までも解き明かそうとしているような気がして、イスカはアトリに全部見透かされているようで少し怖くなった。
そんな風に考えているうちにも、もう身体のほうはそろそろ限界を迎えるころだった。
「ア……トリ、も、もう、ダメ……僕っ……」
「何がダメなんだ?」
「お、お願い、も、もう、許し……っ、ん、やぁっ……」
そう言って、その瞬間イスカの身体は高くのけ反り、びくっ、びくっ、と数回痙攣したのちに、ふっと脱力していた。
その様子を見て、アトリは驚きを隠せない様子だった。
「も、もしかして、い、イったのか……?」
「き、聞くなバカっ……」
恥ずかしさでイスカはすぐにアトリから顔をそらすと、横になって身体ごとうずくまってしまった。
アトリは一瞬呆けていたようだったが、すぐに我を取り戻していた。
「……なんか、女って、男に比べてイったインパクトが少ねーな。射精もしないし」
「し、してたまるか!」
「っていうか、なんか、さ……」
そう言って、口ごもるアトリ。
それを不審に思ってイスカは彼を見上げる。
アトリは、半ば言いにくそうにし、しかし、はっきりとこう告げていた。
「あのさ、やっぱ、入れちゃダメだよな……」
「え……?」
「あー、くそ、入れてーなぁ。でも、もうゴムもないし。ああ、でももったいねーよなぁ。お前、こんなに濡れてんのに。
今入れたら、絶対気持ちいいって。お互い」
「は……」
イスカは一瞬、アトリが外国語を話しているような錯覚にとらわれた。
しかし、すぐに、彼がどうしたいと言っているのかを理解すると、これまでにないくらい大いに憤慨した。
「な、だ、ダメに決まってるだろ! な、何、真面目な顔してとんでもないこと抜かしてるんだよ!
信じられない! っていうか、ゴムがあるとかないとか、普通に関係ないから!
普通に門前払いだから! もう、ホント、心底、本気で信じられない!」
「んなこと言ったってさ……」
アトリは、まるで母親に叱られている子供のよ
「お前が、その、あんまりにもやらしいっつか、色っぽいっつか、そんなだったから。
俺だって、まさかお前に本気でこんな風に思う、なんて考えもしなかったし。
でも、なんかお前、今日びっくりするぐらい、すごい可愛くて。感じてる顔とか、すげーやばくて。
だから、俺もなんつーか、自分抑えるのに必死だったっていうか、正直、今、すげーいたたまれないっていうか」
「いたたまれない……?」
「うん。主に俺のムスコが」
「死ねよ」
即答だった。
それでもアトリはくじけない。
「なあ、リーベルの荷物の中に、きっとあいつの分のゴムがあるだろ。それ使ったら……」
「本気で殴るよ。しかもグーだよ」
それでも、アトリが引き下がることはなかった。
「あ、じゃあさ、一緒に風呂入ろうぜ、風呂。汗かいて気持ち悪いだろ。俺がお前の身体の隅々まで綺麗にしてや……」
「そういうアトリが一番気持ち悪いんだよ!」
そんなアトリの顔面に飛んで来たのは、「人間の身体のしくみ」という分厚い一冊の教科書だった。
運悪く角が彼の眉間に直撃し、その場で意識を手放すことで、しばらくは頭を冷やすことになった。
終わり。