Index(X) / Menu(M) / Prev(P) /

魔王の恋 1

実験屋◆ukZVKLHcCE氏

勇者なんて所詮、その場限りのヒーローで平和な世の中には
不必要な存在だと思う。

『魔王の恋』

「はぁ〜。何でこんな事になるんだか・・・。」
俺はジェイド。何でも勇者らしい。らしいってのは俺の先祖が
昔、魔王をやっつけた勇者だったからだ。
ある日、お城の賢者が魔王が復活したと騒ぎ立てて「勇者の出番だ」と
騒ぎ立てた。当然俺は先祖が勇者なんて知らなかったんだけど、子孫ということで
「世界の運命は御主に掛かってる」と王様が魔王討伐を依頼してきた。
              
                いい迷惑だ。

言っちゃあ何だが先祖が大層な事したからって俺もそうだという確証は無い。
一応、剣に自信はある。魔法も使えると便利程度には嗜んでいる。問題は
俺自身にやる気が無い、と言う事だ。
よくよく考えてみろ。魔王って言ったら魔の王様な訳だ。復活したって言うなら
国をあげて討伐するのがスジじゃない?それをたった一個人に押し付けるなんて・・・
本気で世界の平和なんて考えちゃいないな。むしろ、魔王に征服された方が平和かもね。


多額の報酬を約束してくれたので、とりあえず首を縦に振った。ちゅーか
振らざるを得なかった。屈強の兵士に囲まれてお願いと言われても世間じゃそれを”脅迫”と
言うことを王様は知らないみたいだ。
・・・魔王に寝返ろうかな?
むしろその方が俺は平和だと思う。あっ!!でも一度倒されてるからなぁ〜。
『いつぞやの礼をしてやる!!』と攻撃されるかも。
行くも戻るも地獄だな・・・ハァ。


・・・と、グチりながら出発したのが二日前、なんともう魔王が居るという城まで
到着した。
オイオイ、幾多の試練や障害はどうした?頼りになる旅の仲間や謎のライバル
との出会いも無かったじゃないの!!
ホントに魔王は復活したのか?もしや賢者のジジィの痴呆の始まりじゃないのか?
「まぁ、行って確かめるまでだな。」
復活がデマなら倒した事にして勇者として賞賛を受け、報酬をガッポリ・・・いいんじゃない!!
俺は意気揚々と城の中に入って行った。
「以外にキレイだな。」
数百年前から誰も近づかなかった割に魔王の城は傷みや老朽化の後が見られなかった。
「誰か手入れをしてるみたいな・・・。」
通路にはホコリも積もっていないし、蜘蛛の巣も貼っていない。明らかに掃除されている
赤絨毯やロウソクが交換されている照明、魔王かは分らないが誰かがいるのは明らかだった


「魔王が掃除・・・イメージできねぇ。」
魔王の城に住む物好きな人間はいないだろう。って事はココに住んでるのは
当の魔王、もしくはその眷属だろう。俺には理解できない不思議パワーかご都合主義パワーで
城を維持してるのだろう。いい事だ。
「問題は俺だよな〜」
少なくとも人外の存在がこの先には待ち構えているだろう。そこにノコノコ向かっている俺、
危険以外の何者でもない。なのに恐怖を感じないのは何でだろう。

自分の腕にそんなに自信があるからか?
もう命を諦めているからか?

もしかしたら先祖譲りのご加護があるのかもしれない。クサい台詞だけど
勇気とか愛が守ってくれているのを感じた。

ガラじゃないけどね。


城の一番奥までやってきた。途中モンスターの一匹も出てこないことを不思議に思ったが
この際、無視だ。
「とりあえず、挨拶してダメだったら死ぬ気で逃げよう。」
意を決し、俺は扉を開いた。

「おはこんばんちわぁ!!!!!」

入るなりアラレちゃん流のご挨拶をかました。インパクトは大だ。
「わぁぁ!!」
聞こえた第一声は何とも可愛いものだった。
「・・・・ん?」
部屋を見渡せば奥に玉座がある、部屋一面は赤い絨毯で覆われている。
おそらくは玉座の間か謁見の間と言った所だろうか?
玉座には誰も座っていなかった。
「あの・・・どちらさまでしょうか?」
部屋には一人、少年が腰を抜かして玉座の前に倒れてた。
「俺か?俺はジェイド。魔王さんに用があって来たんだけど?」
「はぁ。どのようなご用件で?」
「俺勇者なんだわ。魔王が復活したって言うんで様子を見に、場合によっちゃ倒しに。」
「えっ!!・・・あの・・・その・・・」
少年は口ごもる。
「で?魔王さんは?やるかやらないかハッキリと・・・」
「・・・しです。」
「うん?何だって?」
「だから、私が魔王なんです。」

「なななななな、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」


秋風が寒くなった今日この頃、私は魔王に会いました。


応接室らしき部屋に通された。
「どうぞ。」
魔王がお茶を差し出した。
「どうぞお構いなく。」
魔王にお茶を勧められる勇者。・・・・なんか変な気分。
「で勇者様は・・・」
「ジェイドでいいよ。」
「はい。ジェイドさんは・・・その・・・私を倒しに?」
「あっ・・・いや・・場合によってはね・・・」
まるでこっちが悪者になったみたいだ。
「俺の言い分は昔、俺の先祖が倒した魔王が復活したので子孫の俺が
 また魔王を倒せって言われて来たってトコかな。」
「はぁ・・・。」
「なんか俺、おかしい事言ってる。」
「いえ。そうじゃないです。ただ・・・」
「ただ?」
「ジェイドさんのご先祖様が倒したって言う魔王、私の父になるんですが・・」
「え?そうなの?」
「はい。ちょうどその時代・・・」

魔王は人間の世界には伝わっていない歴史を語った。


「私の父がまだ魔王として現役の頃でした。当時から人間界は魔族にとって
 征服するとか、侵略するとか言ったものはありませんでした。無論今も・・・」
「ちょっと待て!!じゃあなんでオマエさんの親父さんとウチのご先祖は
 戦ったのだ?」
「はい。こういう言い方はしたくないんですが、魔族だなんだで騒ぎ立てて
 戦いを仕掛けてきたのは人間の方なんです。」
「なぬ?」
「本来魔族には魔界があります。何も異界に進出する必要は無いんです。」
「ごもっとも。」
「人間の神話や昔話で言われているほど魔族は悪い者たちではありません。
 魔界に住む民だから魔族。それだけなんです。」
「その通りだ。じゃあなんで親父さんはココに城を。」
「魔界といっても一枚岩ではありません。私達は魔界からの移民の様なもの
 なんです。」
「あぁ・・・なるほどね。」
「ですがこの世界のものにとって私たち魔族は異形の存在でしかありません。
 そしてついに魔族を恐れた人間たちが武器を取り、襲い掛かってきたのです。」

俺はその話の内容に衝撃を受けるだけだった。つまり、魔族=悪と決め付けた人間
の方から戦いを仕掛けたのだ。


「私たちに戦う気はありませんでした。魔法であさっての方向を爆発させたり
 炎を出して城の近くから追い払ったり、できるだけ危害を加えないよう徹底しました。
 そしてある日、ジェイドさんのご先祖様が来られたのです。」
話は核心に迫る。
「ご先祖様は魔族が侵略目的で人間界に来たのではないとわかっていらっしゃいました。
 ですが人間達もこのまま引き下がれないので・・・」

『倒された。と言う事にしてはくれないか?』
『いいだろう。』
『すまない。アナタ方の名誉を汚すような真似を。』
『気にするな。下手に争いを大きくするよりマシさ。』
『・・・ありがとう。』

「こうして、父は自分が倒されたことにして、魔族もひっそりではありますが
 人間界で行動できるようになりました。」
「・・・すまない。」
俺は土下座した。こんな事をして許されることではない事は百も承知だ。
しかし、人間の価値観から魔族の尊厳を汚す行為を人間は行ってしまったのだ。


「いいんです。気にしないでください。」
魔王は笑顔を浮かべる。
「だが・・・」
「もし魔族が人間のような立場でも同じことが起こっていたかもしれません。
 ・・・それに私は人間が好きですから。」
魔族は残虐で恐ろしい連中と人は思うかもしれない、だが、人間の方が
本当は恐ろしい化け物なのでは、俺はそう思った。

「ところで親父さんは?ぜひ直接誤りたい。」
勇者の子孫として先代に謝罪しなければ・・・ガラじゃないが人間としての
義務が俺を今動かしている。
「・・・父は百年前になくなりました。」
「えっ!?」
「もう1500歳でしたから。長生きした方です。」
「そうだったのか。」
「城とは言いますがここはむしろ集会所みたいなところで
 人間界に住む魔族は独自に村を作ったり、人間社会に
 紛れ込んで生活しています。今では私が魔王として
 そんなみんなの力になれるように頑張っているんです。」

目から鱗だ。俺に全てを押し付けて祈るだけの人間の王様に魔王の爪の垢を
煎じて飲ませてやりたい。


「偉いんだな。」
「そんな・・・。」
魔王は顔を赤くして俯いた。
(・・・おかしな気持ちだ。)
魔王の仕種に何故か俺の心が高鳴った。・・・・なぜだ?
「どうしました?」
「イヤ・・べつに・・・そうだ!!もうひとつ聞きたいんだが。」
「なんでしょう?」
「城の賢者が復活を預言したんだが・・・」
「それは多分、私の魔力が高まっているからだと思います。」
「どういうことだ?」
「1ヶ月後に私は成人を迎えます。成人になれば力も今の倍以上になります。
 ここ2〜3日で急に魔力が上がりました。賢者の方はそれを感じられたのでは?」
「そういうことね。ボケじゃなかったのか。」

まぁ魔王が復活したわけではなかったのでもうろくはしてるけどな。


「じゃあ、俺はお暇させていただく。・・・迷惑かけたな。」
俺は席を立った。
「もうお帰りになるんですか?」
「あぁ。一応、バカ国王に報告な。安心してくれ、お前さん方を
 危険に晒すようなことは言わないさ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあな。」
そう言って俺は扉へと向かった。
「あの!!」
呼び止められて振り返る。魔王は悲しげな表情で俺を見ていた。
「どうした?」
「あの・・・この城・・・普段から私しかいなくて・・・・また来てくれませんか?」
「・・・・いいのか?」

「ハイ!!」

魔王はそう言って俺に満面の笑顔を見せた。

その後、国に凱旋した俺は国王に報告した。
”魔王の城には邪気が溜まっていて清めてきた”と。
約束の報酬を俺は手に入れた。他に何かあるかと思ったが、特になし。
用が済めばハイさよならってことだな。真実を知った今、そんな国王にヘドが
出そうになったがヘタに問題にするのもどうかと思ったので捨て置いた。

その後、俺は約束どおり、魔王の所に何度か行っている。
そして魔王が成人を迎える日、俺は衝撃の事実を知ることになった。


Index(X) / Menu(M) / Prev(P) /