「なにやってるんだお前?」
アパートの部屋の前にうずくまる物体に男は声をかけた。
「え?」
「え?じゃないよ。ソコ俺の部屋なんだけど・・・。」
「あぁ、そうだったんだ・・・ごめんなさい。」
物体、では無くうずくまっていた少年は寄りかかっていたドアから数歩横にそれて
再びうずくまった。
「どうぞ。」
「どうぞって・・・何だお前、家出か?」
「!!」
男の質問に少年はギクリと震え俯いた。
「ドンピシャか・・まぁ理由は分んねぇけど帰れるなら帰ったほうがいいぞ。」
「うるさいな・・・アンタには関係ないだろ。」
「そうだ、まったく関係ない。」
あっけらかんと男は言い切りポケットから鍵を取り出しドアを開けた。
「・・・・・」
「あーーー・・・何だよ?」
突き刺すような少年の視線に苛立った男は少年に問いかける。
「・・・・別に・・・。」
少年はプイッと横を向いてむくれた。
「・・・・・・・上がってくか?」
「え!?」
男の提案に少年は驚いた。
「安心しろとって喰ったりしないから。警察に届けたって家が割れてるんだ、後で報復されるヤだし。」
「そんなことしないよ。」
「なら安心だ。で、どうすんの?」
「・・・・」
少年は返答に困っているようだった。
「ちなみに今夜は冷えるらしいぞ。氷点下だってさ。明日の朝、家の前に凍死体なんて困るんだけど。」
「・・・・お邪魔します。」
可愛げは無かったが少年はペコリと頭を下げた。
男は台所でゴソゴソと料理する準備を始め、少年は居間のテーブルにちょこんと座っていた。
「俺は今から飯だけど、お前どうする?」
「どうするって?」
「喰ってないなら作ってやろうかって言ってるの。」
「いいの?」
「一人分も二人分もそんなに変わらないからな。」
「えと・・・うーん・・・」
グウゥゥゥ・・・
考え込んでいた少年のお腹から腹の虫が元気に返事を返した。
「・・・・いただいてきます。」
「はいはい。」
「今日は臨時収入が入ったんでな。少し豪勢だ。」
30分の後、テーブルの上にはスキヤキが美味しそうに煮えていた。
「でもお肉豚じゃん。」
「うるさいな、牛なんて高級品が食えると思ったのか?」
「だって豪勢だって言ったじゃないか。」
「・・・普段は肉すら入ってないんだが・・・・グスン。」
「あっ・・・その・・・ごめんなさい。」
「まぁいいさ。ホレ、食っていいぞ。」
「ウン。いただきます。」
「そういえば・・・。」
「ん?」
食後に男がふと疑問に思ったことを口にした。
「お前の名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
「・・・草薙巽(くさなぎ たつみ)。」
「巽か・・・俺は大上辰斗(おおがみ たつと)だ。よろしくな。」
「アンタっておかしな人だね。」
「なんだいきなり失礼な。」
「普通、家の前にいた不審者を中に入れる。家出を装った泥棒とか考えないの?」
「あ〜、そういうのもありだな。」
「ありだなって・・・そんな人事みたいに・・。」
「だって別にお前泥棒じゃないんだろ?」
「それは・・・そうだけど・・・。」
「だったらいいじゃん、ヘタに疑うのもなんかイヤだし。」
辰斗はスッと立ち上がりなべや食器を片付け始めた。
「僕も手伝うよ。」
「そうか、じゃあ鍋とか洗うから閉っといてくれ。」
「うん。」
「おつかれさん。ホレ、コーヒー。」
「ありがと。」
片付けも終わり一服する辰斗と巽。
「ところで巽。」
「なに?」
「家にはなんて言ってるんだ?」
「ヴッ・・・・」
家の話をした途端に巽は顔をしかめた。
「そんな顔すんなって。一応連絡くらいは・・・」
「いいよ別に・・・連絡したって誰も出ないし。」
巽は辰斗と目を合わせずに横を向いた。
「ワケありなのね・・・じゃあ泊まってくか?」
「えぇ!!」
辰斗の提案に巽は声を荒げた。
「イヤそんなに驚かなくても・・・。」
「だってさ、部屋に上げてくれたり、ご飯ご馳走してくれたりしてくれて感謝はしてるよ。
でも、泊まっていけなんて・・・辰斗どれだけお人好しなの!?」
「なんか言い方にいちいち毒があるよなお前。」
辰斗は気分を害したように眉間にしわを寄せる。
「・・・だって・・・。」
「見た感じ遊び半分って訳じゃないみたいだし、モチロン遊び半分のプチ家出なら即効家に
送りつけるけどな。覚悟あって家出した奴を見捨てるってのもいい気分じゃない。」
「辰斗・・・。」
「それにさっきも言ったけど今晩冷えるってよ。明日のニュースでお前が凍死体で発見なんて
シャレにもならねーじゃんか。」
辰斗は床にあぐらをかいたままタバコに火をつける。
「で?どうする?」
「宿代を身体で払えなんて言わないよね?」
「言うかバカ!!俺は男に興味なんてねーよ。」
「・・・・・・・ボソ ・・男・・ね・・・。」
「ん?どうした?」
「イヤイヤなんでもない。」
巽はあわてて手を振った。
「じゃあ・・お言葉に甘えて。」
「ハイハイ。クソガキ一名様ご案内〜。」
「クソガキって言うな!!」
これが辰斗と巽の最初の出会い。