「うぅぅ・・・32点か・・・」
有紀は目の前の現実にため息を吐くしかなかった。
『教科書は最高の参考書』
キーンコーンカーンコーンと言うお決まりのチャイムが鳴り昼休みが始まった。
「有紀、メシ食いに屋上にって・・・どうしたの?」
狂介は机にうつぶせになったままの有紀を怪訝そうな顔で見つめた。
「今日帰ってきたテスト・・・赤点でした。」
「ほほう。」
狂介は有紀が持っていた答案用紙を奪い取るとじっくりと内容を見せてもらった。
「あっ!!コラ何するの・・・かえせ〜〜!!」
必死に答案用紙の奪還にかかる有紀。しかし、頭を軽く抑えられて先に進めない。イメージがわかない人は
池乃めだかの一連の流れをご想像ください。
「・・・ここは公式が間違ってるな。」
「え?」
一通り答案を見て狂介は一つ一つ問題を解説し始めた。
「それに、ここは先に分母の計算をしないといけないんだ・・・って・・・今度は何?」
有紀は目を点にしながら狂介を凝視していた。
「有紀?ゆ〜〜う〜〜き〜〜?」
目の前で手を振っても、猫だましかけてもビクともしない有紀、狂介もさすがに心配になってきた。
「どうした?具合悪いのか?」
「・・・・・・・・・んで?・・・・・・」
「ハイ?」
狂介が聞き返そうと顔を近づけたその時・・・
「何でそんなことが分かるんだよ!!」
有紀は狂介の首を正面から思い切り締め上げた。
「グエッ・・・!ちょ・・・ちょっと・・・ゆう・・・き・・・苦し・・・」
「そういう狂介は何点なの?答案見せてよ!!」
「こ・・・こ・・・これ・・・」
今なら泡が吹けると確証を持ちながら落ちそうな意識をフル稼働させて狂介は有紀に自分の答案を渡した。
「どれどれ・・・」
半分に折られた答案を見るとソコには0の数字が・・・
「なんだ、0点じゃないか・・・狂介らし・・・・・・」
二つ並んでおり、その左隣には数字の1が、そして下線は二つあった。
「100点!?」
「ハー・・・ハー・・・死ぬかと思った。」
「ちょっと・・・!これ本物?狂介100点なの?」
ネックホールドから開放された狂介を今度はゆすり攻撃が襲う。
「アゥ・・・アゥ・・・グェ・・・」
「ふざけてないで!狂介教えてよ!」
「ま、まずは落ち着こうよ。ね?」
遠心分離機にかけられた気分になった狂介。やっとの思いで有紀を引き離す。
「あっ・・・ご、ごめんね?」
冷静になった有紀は素直に謝った。
「ハァ・・・死ぬかと思った。」
「それで狂介、これ本物?」
そう言って満点の答案を狂介に返す有紀。
「そうだよ。今回のテストはムズかったね。」
答案を返してもらいながら、有紀の頭をポンポンと撫でる。
「100点の人がそういうこと言ってもムカつく、っていうか実力?」
「さすがにそれは失礼でないかい?」
「だって・・・」
有紀の疑いの眼差しが狂介に刺さる。・・・と心外とばかりに狂介は机をあさり出した。
「ホレ・・・見てみなさい。」
そこには中間や期末、以前行った様々なテストの答案が出てきた。みれば全てが満点かそのテストの
時の平均点を大きく上回るものだった。
「知らなかった・・・・・・狂介頭良かったんだ。」
「何気に傷つくな・・・」
両手を重ねて人差し指をイジイジと回す狂介。
「昨日、今日の付き合いじゃないだろうに・・・」
言いながら有紀の髪に手を当てて髪をすく。
「だって・・・」
「良かったら勉強教えようか?」
「ホント?」
「俺のやり方で覚えるって言う確証はないけど・・・」
「ありがとう狂介!!」
そう言って有紀は狂介に抱きつき・・・
「ちょっ・・・ヒソヒソ・・・ここ教室だろーが。」
「ヤバッ」
そう言って有紀は教室中を見回す。幸い昼休みの賑わいもあり気に止めているものはいなかった。
「ふぅ・・・危なかった。」
「でも有紀・・・なんか最近はもう女だって隠す必要ないんじゃないかって思うけど?」
「中途半端にしたくないの。それにばらしたら色物扱いされて・・・狂介と一緒にいる時間が減っちゃうもん。」
「!!」
上目使いに狂介を見つめる有紀の視線は破壊力抜群だった。狂介は口元を押さえながら
有紀とは反対の方向を向く、嬉しさで引き攣る口元を押さえきれずにいる。
「狂介・・・どうしたの?」
ヒョイと背後から回ってきた有紀の顔がモロにどアップで視界に入る。
(あ〜〜・・・ホントにカワイーなコンチクショー!!)
嬉しいような、自分が情けないような気持ちで、狂介はいっぱいだった。
(ムフフ・・・これはイイ・・・イイわぁ。)
狂介と有紀を見つめる妖しい視線・・・それは・・・
ヒョイ。
「でも気をつけないと、こういう連中があれよあれよと沸いて出てくるんだ。」
バスケットボールを持つ要領で頭部を掴まれて視線の主は狂介に捕獲された。
「ヤ・・・ヤスコ!!」
「どうも・・・お久しぶりね・・・」
ポイ
「あーーーれーーー・・・」
ヤスコは狂介に窓から投げ捨てられた。
「ここ四階だけど大丈夫なの?」
「大丈夫今は完全なギャグパートだから、鼻血かタンコブで助かる。」
そう言って窓から外を見ると地中にめり込み、足だけが出ているヤスコの姿があった。
「何であの人学校に来てたの?」
「おそらくは、冷静に考えて今までの自分の出番は一回無かった事から出番欲しさ。そして
夏に行われる漫画の祭典のネタを仕入れに来てたんだろう・・・。」(※執筆時は祭典前)
「漫画の祭典・・・?」
「深く考えないほうがいい。今後も有紀には縁の無いものだから・・・。」
「??」
分からないキーワードばかりでついてこれない有紀は人差し指を口元に当ててコテンと首を傾げた。
(だから、その仕草がダメなんだって!!)
有紀の一挙一動に動揺を隠せない狂介。
(・・・元から・・・断つか。)
祭典に参加される皆さんは「ゆうき」と言う単語をブツブツ言いながら会場荒らしをする男に会ったら即効で
逃げるようにしましょう。(※しつこいけど執筆時は祭典前)
その日の夕方、場所は変わって山崎家。
「・・・その場合は先に二次方程式を・・・」
今までの素行からは想像も出来ない真面目なせりふがバンバンと狂介の口から出てくる。一応真面目な事を
言ってるはずなのだが・・・
「・・・えと・・・。・・・ん?」
正直言って有紀にはチンプンカンプンだった。
「ふぅ・・・休憩しようか?」
「ご・・・ごめんね?」
内容のほとんどがサッパリな有紀はガックリと肩を落とした。
「気にしないの。」
「ありがとう・・・・・・んっ・・・」
狂介はそのまま有紀を抱き寄せて唇を奪う。
「う・・・・・・ちゅ・・・ふぅ」
驚きはしたものの有紀はそのキスを拒む事無く次第に狂介に身を任せていった。
「授業料もーらった。」
「めずらしいね。今日は・・・目が血走ってないよ?」
「この状況で、そういう事言うかよ・・・」
過去の自分を思い出すとそう言われても反対できないので、あえて言わせておくものの正直な所ショックは
隠し切れない。
「今度はおしおきダベ〜〜!」
「あぅ・・・んぅ・・・ちゅ、あ・・・・・・」
有紀を抱きしめながら、何度もキスを繰り返す。気がつけば有紀の体からは力が抜けて全身を狂介に
預ける形になっていた。
「狂介・・・」
唇を離すと有紀は上気した顔を狂介の胸へとうずめる。
「物覚え悪くてごめんなさい。僕バカだから・・・狂介もつきあうのイヤでしょ?」
キスでのぼせながらも狂介をガッカリさせてしまったという気持ちから有紀はその表情を曇らせる。
「全く、バカだな。」
「ウン・・・僕バカだよ。だから・・・って・・・え?・・・狂介?」
狂介は有紀の頭を抱え包み込む様に抱きしめる。その状態で狂介は有紀の耳元に呟いた。
「イヤだったらイヤって俺はちゃんと言うよ?でも言ってないって事はイヤじゃないんだ。違うか?」
「でも・・・。」
言い切る前に狂介は有紀の頭をポンポンと撫でる。
「んぁ・・・。」
その刺激に反応した有紀は甘い声を漏らした。
「コレって俺の本音だけど・・・勉強でも何でも良いから、とにかく有紀と一緒にいられる理由がほしいんだ。
そりゃいつも一緒にいるけどさ・・・」
狂介は少し顔を曇らせた。
「どうしたの狂介?」
「いや・・・"大人の事情"か"作者の事情"か知らないけど一年以上ご無沙汰な気がしてさ・・・。」
「一年・・・?・・・事情・・・?」
またチンプンカンプンといった感じで有紀は困った顔をしている。
「気にしないで、こっちの話・・・。とにかく俺はイチャイチャしたいしベタベタしてたいんだ。理由は何でも
良いし・・・って有紀は真面目に勉強する気だったのに、俺の方こそゴメンな?」
そう言うと狂介は再び有紀を頭から抱きしめた。
「そんな事ないよ・・・僕うれしい・・・。」
有紀も嫌がる事無く有紀の胸板に頬擦りした。
「狂介・・・お願いがあるんだけど・・・いいかな?」
「言ってみ?」
有紀はさっきよりも顔を赤くして俯いた。
「まだ、よく分からない教科があるんだけど・・・教えてくれないかな?」
「そういう事なら任せなさい。で、なんなの?数学?物理?」
「えーー・・・と。・・・・・・・・・く・・・。」
「はい?何?」
良く聞き取れないので聞き返す狂介。そして・・・
「だから・・・・・・保健・・・体育。」
有紀の顔はやかんを近づけたら一瞬で沸騰しそうな位に真っ赤だった。
「ハハ・・・・・・(今なら俺、どんなベタな展開とか、ご都合主義でも好きになれるわ。)」
狂介は気持ち悪い位の笑みでサムズアップして有紀の願いに答えた。
「良かった・・・。それじゃ・・・よろしくお願いします・・・先生。」
「グハッ・・・!!」
ついに狂介は鼻血全開でぶっ倒れた。
(やっちゃうけど良いよね・・・?答えは聞いてない。)