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衛兵長動揺する 7

ナサ ◆QKZh6v4e9w氏

静かで優しく、そして裏腹に、危ういところでぎりぎりに留まっているような口づけだった。

「──ひとつだけ聞いていい…?」
唇を離し、衛兵長の見慣れた、そして初めて見る、漆黒の髪の綺麗な女は尋ねた。
「…できるから、抱くの?……それとも、欲しいから抱くの?……正直に言って」
間近で眺める海に似た碧い目は、答えがどちらでも構わないと暗に赦している深い色合いだったが。

衛兵長は、吐息をつき、不器用な間合いで囁いた。
「…たぶん、欲しいから、だろう。──その、いつかお前の夫になる男などに、先に抱かせたくないと思ったからだ」
この男に相応しい、真っ正直すぎる答えだった。
クロードは幸せそうな──おそらく知り合ってからのこの五年間で、初めて素直な、幸せそうな潤んだ色をその碧い目に浮かべた。

「あんたにしては上出来だ。……いいよ…サディアス」
「殴らないのか」
彼女は目に笑いを浮かべた。
「…殴らない。絶対……あ…」
サディアスがその躯を腕で抱きしめると、クロードは感極まったように、小さく喘いだ。
「待って、服、着た、まま──」
「余計な心配はいらぬ、副長。…俺の制服と同じだ」
サディアスは身をわずかに起こし、クロードのブラウスの、わずか二つだけとまっているボタンに指をかけた。
「『副長』はやめてく──やめて──よ」
クロードは恥ずかし気に肩をよじった。
ボタンが外れるとサディアスの躯の重みで前がはだけ、大きくはないがかたちのいい膨らみが露になった。
痩身とはいってもそれは男に比べるからで、女として見ると造りの美しいすらりとした体つきだった。

「サディアス……あまり、見ない…」
「見られたくないのなら、女に戻るな」
柔らかな肌にサディアスが吸い付くと、彼女は言葉をとぎらせ、赤毛の頭に指を絡ませた。
「──あのまま、俺の傍らにおれば良かったのだ」
「…そんなの、いやだ…」
クロードが喘いだ。
「他の女のこと、考えてるあんたを……黙って見てるのはいやだ──」
「……」
サディアスはクロードの腰に手をおろした。腰にひっかかったままのズボンに指をかける。
下着ごとおし下げた。包帯を巻いた太腿の部分だけには気をつけているらしいのに、組み敷かれながら彼女は気付いた。
ブラウスを白い腕から引き抜き、サディアスは熱を帯びた青い目を彼女の顔に据えたまま、太い溜め息を漏らした。
「…俺と同じだ、クロード」

なにか答えようとした唇を塞いだ。
クロードの、開きかけていた唇をこじ開け、サディアスはその味に溺れた。
舌は柔らかく熱く甘く、クロードの剥き出しの腕が肩にすがりつき、脚が遠慮勝ちに衛兵長の腰にからみついている。
自分の躯が大きいのは知っていたから、サディアスは彼女を抱いたまま仰向けに転がった。
クロードは傷だらけなのだ…いくらそれを彼女が望んでいるとしても、あまりに無茶な事だけはできなかった。

彼女が怪我をしたのは自分のせいだとサディアスは知らなかった。
刃物を持っている賊を一人で追った衛兵長が心配で、クロードは早めに姿をあらわしてしまったのだ。




彼女はサディアスの頬を両の掌で挟むと、何度も何度も、喘ぎながら唇を押し付けてきた。
舌を入れるには入れるのだが、動かすやり方はよくわからないか、もしくは戸惑っているようだった。
それでも歯茎を優しく嬲り、クロードはこれでいいのかと問うように、舌を歯の縁に沿って動かした。
その舌先を引き入れて捏ねると、彼女の腕が震える。
鳥肌のようなものが浮かんだその腕を擦り、サディアスは曲線を確かめるように掌を移動させた。
二の腕から肩、降りて脇の下の窪みに泳がせた親指を、そのまま乳房の膨らみに沿わせて撫で下ろす。
「ん」
合わせた白い顔の眉がより、碧い目が薄く開いた。
サディアスが自分を見つめていることを知り、その目に溢れたのは喜びだった。
彼女は掌に力をこめ、顔を離した。
漆黒の髪がぱらりと視界をよぎり、サディアスの首すじにクロードは顔を伏せた。

「クロード…?」
尋ねかけた衛兵長は、股間を探る細い指先の感触に我知らず、かすかに赤くなった。
片手を逞しい胸につき、顔を伏せて、クロードは静かにサディアスのズボンのボタンを外した。
さらりと短い髪の毛をかきあげ、彼女は少し顔をあげると、緩んだズボンを下着ごと両手でおしさげた。
さっきのクロードのように、サディアスは腰を浮かせて協力した。
ズボンをすっかり引き抜いてしまうと、彼女は一瞬、そこに目をやった。
頬を赤らめたが何も言わず、両手を広げて黒い上着に取りかかった。
羽織っただけの衛兵服はすぐに床にひろがり、ブラウスも同様に丸まると、クロードはうっとりと上半身を持ち上げた。
「サディアス……」

二人は、余計なものが一切取り払われた互いの姿をじっと見ていた。
「……好きよ」
クロードの唇が聞こえないくらいの細さでそう囁き、胸の厚みを辿るように動きかけたその手首を、サディアスは掴んだ。
「…このままで大丈夫か…?」
クロードは戸惑ったように、潤んだ瞳で彼を眺めた。
「…教えて……どうすれば?」
「いや」
サディアスは微笑した。
「俺がする」
彼女の手首をまとめて肩から背に掌を置き、サディアスは肩肘ついて起き上がった。
「──無理はさせたくない」
クロードは、上気した顔で、少し不満げに頷いた。
微笑を頬に残したままでサディアスは横抱きに彼女の胴を抱きしめ、片方の手を、その引き締まったなだらかな腰に置いた。
すべすべとした腹を指先で探りながら、髪と同じく漆黒の茂みに触れる。
びくりと肩を震わせたクロードは抗わなかった。
サディアスの指の侵入を拒まず、太腿にかかっていた力を抜いていく。

クロードが初めてなのはサディアスにはわかっていた。
彼女が耐えているこれだけの事が、この短時間にどれだけの羞恥心を抑えつけた結果かも。

指先だけで、彼は静かにそこに触れた。
滑らかな毛の上から狭間に沿って滑らせ、彼女の恥ずかし気な息遣いを計りながらゆっくりとかきわける。
谷間にしずめた指先に、柔らかな花びらがほぐされて纏わりついた。
その複雑な熱い襞からつるつるとした感触の谷間が収束するその上の小さな蕾まで、穏やかに撫で上げた。
何度も──何度も、彼の鎖骨に当たる彼女の唇がそのたびに小さく歪み、小さな甘い喘ぎを漏らし始めるまで、サディアスは待った。
「あ……あ………サ…ディ…」
花びらにいつの間にか露が重く溜まり、指を濡らす。
その芯の奥で慎重に指先を軽く曲げ、くちゅり、と水音がたつのを彼は聴いた。
「あ…」
ぼう、とした顔をクロードはあげた。



彼は指を引き抜くと躯をまわし、彼女の背を下に横たえた。
「…遠慮しなくても…いいのに」
ほっそりした躯の両脇で掌をついたサディアスの重みを感じることができないのを、彼女はひどく悲しく感じているらしかった。
「そうもいかぬ」
サディアスは肋と太腿に怪我をしている彼女の左側の躯には絶対に重みをかけないつもりだった。
「……私は、そうして欲しいのに」
クロードは、怪我をしているほうの脚を持ち上げられながら囁いた。
「あんたがくれる事なら、どんなに痛いことでもたぶん……平気だ」
「そそのかすな」
サディアスは、青い目で漆黒の髪の女を見下ろした。
クロードがこの五年の間に数えきれないほどに見知った、切なくなるほど優しい目だった。
「いくぞ。──泣くなよ」
その広い肩に腕を巻き付けて、顔を伏せ、彼女は呟いた。
「……泣かないよ」

その大きな躯が、精一杯開いていた太腿の間をさらに押し開くと、クロードは上気した顔を傾けて眉を寄せた。
初めて感じる太腿への摩擦、濡れているとはいえまだ未熟に開きかけただけの花の間に入ってくるモノは予想以上に熱く、固かった。
「…は…」
クロードは喘ぎかけ、内蔵を押し上げられそうな重さを躯の内側に感じて呼吸を詰まらせた。
両脚が、遠慮しているとはいえ強い、男の侵入の勢いを受け止めかねて、膝から折れてさらに開いた。
「あー………」
自分が短く喘いでいることにクロードは気付かず、長い時間をかけて奥までおさまったそれがじっと動かなくなってから、やっと碧い目を見開いた。
サディアスが心配そうに覗きこんでいた。
その、もの懐かしい顔の男と自分が繋がっているという事実が、クロードの目の奥を刺激する。
だが彼女は、潤んだ瞳から涙を溢れさせる事はしなかった。
口元に柔らかい笑みを浮かべ、彼女は囁いた。
「…大丈夫…いい、感じ」
「そうか」
ほっとしたらしいサディアスの、単純そのものの口調さえ愛しかった。

どうしよう。
こんなに、こんなにも、この人を好きだ。

クロードは、サディアスを見つめた。
抱かれる事を密かに望んできたのだが、こうして繋がっていると、例えようもなく辛かった。
この男以外の男になど、誰だろうと抱かれたくなかった。
だが、互いに知っているとおり、これが最初で最後なのだ。
クロードははるか北部の家に戻り、サディアスはこれからも衛兵長として都に留まるのだから。




彼はクロードの肩を掴んで大きな躯をおこし、床に掌をついた。
クロードは、衝撃を逃すために軽く開いたままだったかたちのいい唇をきゅっと閉じた。
鈍い痛みがゆっくりと、躯の奥で動き始めた。
「ん…」
かすれた喘ぎを押し殺しながら、クロードはそれに耐えた。
サディアスの頭を抱き、彼女は、その動きが段々速さを増していく様子をつぶさに感じ取った。
喘ぎではこらえきれず、彼女は呻いた。
痛く、でもその痛みが幸せだった。
「…ん……うぅ………」
はぁ、と息をつき、彼女は両脚を抱え込まれて小さくのけぞった。
それでも辛うじて包帯を避け、サディアスは彼女のすらりとした脚を跳ね上げた。逞しい肩に載せ、かける体重をそらすようにして再び動き出す。
「あっ…、あっ、あっ…」
クロードはその格好を恥ずかしく思ったが、それよりも密着できない寂しさについに声をあげた。
「サディアス…」
上気して汗ばんだいかつい顔の、もう半ばは冷静でない青い目が彼女の目を見た。
「サディアス…お願い………こんなの、いやだ……」

訴える彼女の声に、その目は薄く理解の色を刷いた。
サディアスは脚をおろし、クロードにのしかかった。
全体重をかけたその動作に、肋も包帯も押しつぶされた。
彼女は思わず悲鳴をあげたが、それが苦痛なのか歓喜なのか、クロード自身にもわからなかった。
必死でその汗にまみれた躯に腕を絡め、彼女は揺さぶられながら喘ぎはじめた。

「サディアス……あ、あ……」
その喘ぎは悲鳴とは違って完全に甘く、女があげられる声のうちで一番優しいものにサディアスには聞こえる。
「サディアス……サディアス……」
うねるようにその細い腰に躯を打ち付けながら、サディアスの中にわずかに残っている醒めた理性が警告の声を漏らす。

──もう、危ない。
このままぶちまけたら、クロードのためにならない。

サディアスはぐいと歯を食いしばり、未練を断ち切った。
男をひきつけてやまない隘路から腰を退き、引き抜こうとして──ふと顔をあげた彼はクロードの碧い目を見た。
目を逸らせず、サディアスは思わず見惚けた。
次の瞬間、どくん、と弾けた。
「あ───」
彼は大きく喘ぎ、胸を波打たせた。
クロードの綺麗な目が何かを悟ったように閉じられ、上気した首筋もあらわに顔が、添えられていたサディアスの掌に投げ出された。
柔らかな頬の感触に、背筋が震えた。

何度も脈打ちながら、彼は、彼女の中で完全に果ててしまった。
甘美さと、それを上回る情けなさで、彼はクロードの上に突っ伏した。




「サディアス…」
小さな声がする。
目を開けると、喘ぎを閉じ込めようとしている彼女がじっと、サディアスを見つめていた。
「…終わったの…?」
「………」
サディアスは大きな掌をあげて、その頬に指の背をあてた。
撫でると、クロードが微笑した。
その顔はもう美しいといっても全く違和感がなく見えた。
こいつは女なんだな、と今更ながらに衛兵長は納得した。
つい数分前まで貪っていたのに、今さら納得するというのも妙な話ではあるが。
「…だめだ」
サディアスは、怠い口を開いて呟いた。
「そんな顔をするのはいかん……離したく、なくなる」
クロードの唇がひく、と震えた。
「……え…?」

「……俺は」
サディアスは続けた。
情事の後だからというだけではない。
ここのところの、ろくに睡眠もとらなかった一週間分の疲れが一気に出てきたような、ひどく気怠い気分だった。
「お前の言うとおり、単純で……間抜けの、どうしようもない男だ」
「サディアス」
「いいから聞け」
指の背で唇を塞ぐと、クロードは少しふくれたような頬になって黙った。
サディアスは彼女の上から降りて、ごろりとうつぶせになると少し離れたたき火を眺めた。
もう熾き火に変わっていたが、まだ充分暖かった。

「クロード……どうしても衛兵隊を辞めるのか?」
かすかに衛兵長の声で彼は呟いた。
クロードは俯いて、ふっと笑った。
しどけない姿のくせに、副長の声で彼女は答えた。
「……全部あんたにバレちまったのに、平気で男として居座るほど、神経が太くないんでね」
「では決まりだ」
サディアスは眠そうに呟いた。
「俺も辞める」

クロードは跳ね起きた。
「何言ってんだ、サディアス!」
完全に副長の声になっている。眉を逆立てて彼女は続けた。
「やめられるわけないだろ!あんた、あんなに衛兵の仕事──」
「エデュの街に」
サディアスは無視して続けた。
クロードは目をぱちぱちさせた。話の変わりようについていけない。
「…コリーヌ様のお入りになった、女子修道院のある?」
王家の一番上の王女だ。
穏やかで美貌だがやや病弱の気のあるその王女は、格式あるその修道院の院長として、弟にあたるイヴァン王子の婚礼を機に王宮からその街に移っていた。
「修道院だけではない。大きな駐屯軍がある…あそこは北部の防御の要だからな…秋口から叔父に、そこの連隊長にと誘われている」
「ジェイラス将軍に?」
「うむ。陛下に忠誠を尽くすには変わらぬ。悪い話ではないだろう?」
初耳だ。
「決心がついたらお前も誘う気でいたのだ……その、決心が……なかなかつかなくてな」
「………ああ。そうだよね。都には、気になるお方もいらっしゃるしね」
やや無表情な声になったクロードを、サディアスはちらりと、憚るような横目で眺めた。
「…衛兵隊にはお前と俺の後釜を狙ってうずうずしている奴もいる。特に俺は、もう十五年も勤めた事だし──」
サディアスは言葉を止めた。


がば、と起き上がり、彼は崩れた壁の向こうの曙光の気配が薄め始めた闇をすかして、王都方面を窺った。
「迎えが来た」
「え!」
慌ててクロードは傍らのブラウスを掴んだ。
部下たちが迎えに来たなら急いで副長に戻らなければならない。
すでにブラウスの袖に腕を通し始めたサディアスが、彼女の太腿の包帯に目をくれた。
「…ああ…少し血が滲んだな」
「平気さ」
クロードはその視線から隠すようにそそくさと身繕いをすませ、漆黒のさらりとした髪を耳にかけて衛兵長に振り返った。
「ほら、愚図だな!トロトロしてないで急げよ!」
「……こ、困った」
サディアスは、本当に困ったように、上着のボタンを止めないまま呟いた。
「……どどどどんな乱暴な口を叩いても、おおお前が男に見えぬのだが」
「………」
かぁっ、と、クロードは頬を紅潮させた。
サディアスも赤くなった。
「……ほら、外で待とうぜ」
クロードは衛兵長の広い背中を押し、廃墟の外に連れ出した。



火から離れると夜明けの風は寒く、サディアスは大きなくしゃみを二回した。
「大丈夫かよ」
疲れ気味の衛兵長が風邪をひきかけていたことを思い出す。
その彼が大汗をかいたままシャツなしでお仕着せを着ているという間抜けな事態に陥っていることに、クロードは思い至った。
その原因を思い出すと、また頬に血が集まる気配がした。

黒髪を掻きむしり、クロードはきっと衛兵長を睨みつけた。
「…あー!!もう!…もう俺は明日にでも家に戻るからな!あんたもいない衛兵隊じゃ、こんなんじゃこの先やってけねえや」
「……お、おおお前の故郷はどこだと言ったかな」
サディアスは、都の方角に顔を向け、鼻を擦りながら呟いた。
「サラシュ」
北部の、貿易の盛んな海岸都市である。

クロードは、ふとサディアスに視線をむけた。
なぜ衛兵長はどもっているのだろう。

「エ、エデュから馬でどのくらいだ」
「………」
クロードは碧の目を見開いた。
「…ど、どのくらいなんだ?」
「……一時間半」
「………よよ、よし」
衛兵長は巨大な躯を縮めて、肺が空になるのではないかと思われるような深い溜め息をついた。
背筋を伸ばすと、いかつい顔をクロードに向けた。
青い目は緊張でいつもよりも薄い色になっている。
「お、俺が、立候補してもいいか」
「……何に?」
「れ、連隊長の退役後だが………モ、モモ、モリソン貿易商会の、む、婿にだ」
「………………」



しばらくして、クロードは声を絞り出した。
「………子爵家の坊ちゃんじゃんかよあんた」
「お、俺は、四番目だから。そのあたりの息子の身の振り方など、誰も気にせん」
呆然と、クロードは明るくなってきた空に浮かび上がる衛兵長の姿を眺めた。

「う、う腕がたつとか、尊敬されるというあたりは、あ、あてはまらぬと思うが、い、一応、いつもお前に単純だ間抜けだお人好しだと罵られ───」
抱きついてきた副長の細い躯を受け止めて、衛兵長はたたらを踏んだ。

「………あんた、馬鹿だろ」
やがて顔をあげた副長が、碧い目を登り始めた朝日に眩しそうにしかめながらぼそりと言った。
「……うむ。それもよく言われるな」
自分の言ったことが半分かたこの単純極まる衛兵長には伝わっていないというこの事実に、クロードはげんなりした顔をした。
「…いーよもう。戻ってさっさと服着替えて寝ろよ」
その胸を押しやって無理矢理に街道に向け、クロードは顔を開けはじめた空に向けた。

──あなたのご存知ない事ではあるけれど、どうやら、ナタリー様をお恨みせずにすみそう、ですよ。

澄んだ空に浮かぶ王子妃の清楚な面影に、クロードは微笑んだ。



「ああ、来たぞ。あれはジョンとフィリップだ。──い、今言ったことは考えてくれるのか、副長…?」
心配そうに振り向いた平凡な青い目に映ったのは、空を見上げている、とてつもなく綺麗な19の娘の姿だった。




おわり


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