「あーキツかった」
プリンスリーグAブロック第5節終了後のロッカールームで圭はそう呟いた。
まあ、6月とはいえ気温は30℃を越える炎天下の中90分走り回ったらそりゃグロッキーにもなるが。
試合は0-0のスコアレスドロー。
なんとか3位で後期の上位リーグに滑り込むことができた。
圭のポジションはDF。3バックのストッパー。レギュラーとはいえかなり地味めなポジションであり。
当然のごとく女の子の人気は前線の連中に集まるわけで。
「はい、圭、お疲れお疲れ」
そう言って学生服をまとった小柄な少年が圭を出迎える。
「結局俺のお出迎えはいつも真琴な訳な」
そういいながら出迎えた―真琴と呼ばれた少年―に溜息混じりで返す。
「なんだよ、ボクじゃ不満があるっていうの?」
「前見てみ、前」
いわゆる前線の、背番号で言えば9、10、11番あたりをつけた前線の選手に女の子が群がっては、
やれ残念だっただの、あのシュート惜しかっただの、次はゴール決めてだのわいわいやっていて。
で、選手は選手で疲れた顔も見せずに笑って返している。
「あれが羨ましくなかったら、俺男じゃないって」
「あー……まあね」
実際、このチームは攻撃のチームとされている。
そんなチームの攻撃の中心でルックスもよければそりゃもてるというものだ。
「まあ、あいつらがもうちょっと前線からプレスかけてれば失点減って引き分けも減るんだが」
前期リーグの成績、2勝3分勝ち点9。得点14、失点12。相手を0に抑えたのはこの試合が初めて。ぶっちゃけザル。
「でも、圭だって相手のFWよく抑えただろ?日本代表候補だっけ」
「U-18のな。といっても細かいファールはあって審判に注意されたあげくにイエロー貰ったからな」
「ま、それでも抑えきったのならすごいと思うけどね」
そう言って黙った二人の間をやたらぬるい風が吹き。
「しかしお前も大変だよな、応援団だっけ、にしてもこんな暑い中かりだされて」
「まあ、好きでやってることだしな」
と、ここで圭を呼びたてる声が聞こえてくる。
「んじゃ俺は今から学校帰ってミーティングだから」
「わかった、んじゃまた」
「おう」
――こうして、圭は選手バスに乗って行った。
試合中。
真琴は応援そっちのけで圭のことを見ていた。
相手はプロチームのユース。学校と一体でプロのコーチとプロの設備でトレーニング。
全国最強の名を欲しいままにした去年のチームを引き継いで、今年も優勝候補に挙げられるチーム。
そんなチームのエースストライカー相手に必死で体を張って食い止める圭の姿。
どんな相手でも圭はそうやって相手を食い止めてきた。
ザルといわれながらも、圭が対応する相手に点を与えてはいない。
どの試合でも圭を見ていたのだからそれは知っている。
最初は暑苦しいスタイルだと思ったが、必死さと真剣さを見るにつけ、その想いはどんどん変わっていった。
気づけば圭の事が気になってしょうがなかった。
普段は自制しているけれど。
圭の「たまには女の子に出迎えられたい」という台詞が胸に刺さる。
もし、自分の本当の姿を知ってくれていたら、と思わなかったことは無い。
だけど、それをしてしまったら今の生活は、どうなってしまうのだろう。
圭と笑って話し合えるこの関係は、どうなってしまうのだろう。
それを考えると、どうしても一歩が踏み出せなかった。
――だって、ボクは「男子高校生」だもの……。
翌日、月曜日。
圭の周りはいつも通りというか、結局男連中で固まり、試合の話になって。
「相変わらず泥臭いよな、お前のスタイル」
「いーじゃねえか、それで相手を抑えてるんなら」
「ほざいてろ。あ、真琴見に行ったんだろ?どうよ、こいつ」
「相手が化け物ユースだから仕方ないけど、やっぱもうちょっと優雅さが欲しいよな」
「……」
こういったゆるい会話も清涼剤の一種でございますよ。
そうやって暑くぐったりしながら授業を受けきった放課後。
「あ、圭。今日は休養日だろ?一緒に帰ろ」
「おう、ここまで女っ気無いと泣きなくなってくるがな」
「……悪かったね」
何気ない圭の台詞が胸に刺さり、愛想悪く返した真琴。
一緒に帰るといっても、せいぜいゲーセンに寄るしかなかったりするのだが。
どこでやったんだと突っ込むくらい真琴はやたら格闘ゲームに強い。
そのため、ほとんど圭は真琴を待っていることになる。
案の定――
「お前、いつまで待たせる気だよ」
「そんなに言うなら、ボクを負かせばいいじゃん」
等という不毛な会話が出てくるわけで。
40分後。
「あー楽しかった」
真琴はニコニコ顔。
「お前と絡むといつもこれだよ……」
圭は待ち疲れた顔をしながら、真琴に裏手突っ込み。
――刹那。
「きゃっ!」
手の甲が直接胸に当たる。当たった感触が何か違う。
そして上がる真琴の悲鳴。
「あ、すまん」
反射的に謝って、そして気づく。
「て、なんで俺が謝らなきゃいけないんだ?真琴お前男……」
と言いかけて真琴を見ると、そこにあるのは真っ赤になってこっちを睨む姿。
「おい……」
と圭がいいかけた所で、
「帰る。一人で帰らせて」
真琴はそう言って駆け出していた。
知られてはいけないことを知られたかもしれなかった。
一緒に帰るのはお互いに休みならいつものことだったはずだ。
ゲーセンに寄るのも―他に寄るところも無いから―いつものことだった。
自分が格ゲーをやっている間、圭が退屈そうに画面を眺めているのもいつもの光景。
なんでこうなったんだろう。
なんであそこで悲鳴を上げたんだろう。当たったのは手の甲なのに。
理由はわかっている。相手が圭だから。
自分が隠していたことがあっさりバレたかもしれない。
圭との関係が崩れるかもしれない。
それが怖くなった。
だから一気に駆け出した。
――が。
次の瞬間、圭に腕を掴まれていた。
圭自身も反射的に手を出した。
(なんで俺は真琴を引きとめようとしているんだ)
理由はわからなかったが、手だけが先に出た。
ただ、真相は知りたかったのかもしれない。
「真琴」
「離せよ」
圭の呟きに対し、全力で拒否する真琴。
「真琴、今日これから時間あるか」
強い口調で訊く。
「……」
「答えないなら時間あると取るぞ」
「……」
その台詞にも真琴はうつむいたままだった。
「俺の家に行くからな」
そう断言すると、圭は真琴を連れてバス停に向かっていった。
圭の家は、山の中腹といった感じの新興住宅街にあった。
「で、どういう事だよ」
圭はもう苛立った口調になっていた。
ついてきてくれはするものの、何も言わない真琴に。
そして、その真琴に何も出来ない自分に。
「ごめん……なさい」
ようやく、真琴が絞り出せた声だった。
「いや、俺が聞きたいのはそうじゃなくてな」
自分が聞きたかったものと違う答えにさらに声を荒げてしまう。
「ごめん……今まで黙ってて」
「真琴?」
真琴が涙ぐむのを見て思わず思考が停止する圭。
「ボク本当は女なの」
真琴は泣きじゃくりながら一気に畳み掛ける。
「ずっとね、圭の事を見てきた。圭が好きになってた。もう圭以外のことは見てられなくなってた」
「でもね、圭は男同士の関係だと思ってる。もし女とわかったら今までの関係は崩れるだろうって」
「ひょっとしたら圭とはもう今までのように話せなくなるだろうって」
「もう会えなくなるだろうって」
そこまでいって真琴はまた口をつぐんだ。
(言っちゃった……全部言っちゃった……)
二人の間に流れる沈黙。
それを途切れさせたのは圭の抱擁。そして――
「あー、もうダメ。お前可愛すぎ」
「え?」
真琴は思わず顔を上げる。
「そこまで言われて、そんな顔されて、今までの事思い返して」
圭の言葉も止まらない。
「それで、お前を見捨てるっていったら、どんだけ非情な人間だよ、俺」
「圭……」
真琴の体が不意に強張る。
「それって同情?」
それを聞いた瞬間、圭の抱きしめる力が強くなる。
「バカ。同情だったらここまで抱きしめるかよ。お前が欲しい。」
そして、体の密着度を上げようとする。
「圭……よかった……」
瞬間、真琴は圭に唇を重ねた。
「ん……んぅ」
「はむ……ん……ん」
2人はもう2人の世界に浸っていた。
ここには2人の姿しかなくて。
2人が唇をついばみあう音しかしなくて。
唇が離れると、お互いに睦言を繰り返して。
「真琴、服脱がしていいか」
耐えられなくなったように圭が耳元で呟く。
「脱がす……の」
真琴の顔はもう真っ赤になっていた。
「いや、恥ずかしいなら自分で脱いでくれてもいいけど」
圭も思わず声がどもってしまう。
「圭が、脱がしたいなら、脱がして、いいよ」
途切れ途切れながら圭の顔を見てそう応える。
「真琴、俺は今日どうなるかわからんぞ」
「うん、圭の好きにしてくれて……いいよ」
その一言で、圭の思考が止まった。
シャツを脱がして、さらしを取り、真琴の上半身が全て晒される。
「おまえ、本当に女だったんだな」
「だから言ってるじゃんか……」
圭のことが好きでも、やっぱり恥ずかしいと付け加えながら真琴が返す。
「でも、ボク胸ちっちゃいし、女の子としての魅力があんまり……」
俯きながら、自信なさげにそう呟く。
「それ以上言うなって。俺はお前の体も含めて好きになるんだ」
「そっか……えへへ」
真琴は納得して、圭に甘えるように自分の体をこすりつける。
「おい、ちょっと、真琴……」
「大好きだよ、圭」
圭がうろたえるのにもかまわず、べたべた甘える真琴。
挙句の果てには……
「圭は、ボクが脱がしてあげるね」
「いや、ちょっと待てって」
「圭が脱がしてくれたんだから、ボクも……ね」
2人裸になって、ベッドに隣り合って腰掛けて。
「真琴の胸、やわらかいな」
圭はもう真琴の胸に夢中になっていた。
「そんなに胸ばっかいじっちゃやぁ……ひゃうっ」
不意に圭が真琴の耳も甘噛みしはじめる
「ひゃん……耳……みみぃ……気持ちいいよぅ」
真琴の反応に気をよくした圭はさらに行為をエスカレートさせていく。
「あう……だめだよぅ……耳も胸もそんなにいじらないでよう……けぃ、ひどいよぅ」
「あーもう、そんな声出すなって。止められなくなっちまう」
真琴にはもう余裕がなくなってきていた。一方の圭もそれは同じだったが。
二人の行為はもうとどまる事が出来なくなっていた。
「はぁ……ひゃう……あはぁ……ん……けぃ……すきらよう」
「ああ、真琴、俺もだ」
そして、圭は指を真琴の秘所に持っていく。
「真琴、もう濡れてる……」
「だって……らって……圭に触られると思ったらそれだけで感じちゃうよぉ」
真琴は声を潜めようとすることなく叫ぶ。
「ひゃう……けい、そこ、きもちいいよぉ」
瞳はもう快楽のためかトロンとなってきている。
「けぃ、けいはきもちよく……ない?」
「ああ、お前に触ってるだけで気持ちいいよ」
「嘘……ボク圭に何もしてあげてない」
そういって、真琴は圭の肉棒に視線を寄せる。
「すごい、これが……けいの……」
そういって、おずおずと肉棒に手を伸ばす。
「真琴……うわ……すごい」
圭もいきなりの快感にいきなりのけぞる。
「うわぁ、圭も感じてくれてるんだぁ」
真琴は喜びながら手の動きをエスカレートさせる。
「ちょっとやめろ、このままじゃ出ちまうっ……」
「うん……じゃ、しよ?圭……」
圭に組み敷かれている。それだけで真琴は幸せだった。
「圭、いいよ、来て」
「真琴、お前初めて……」
さすがに真琴を気遣うが、
「うん。だけど圭だったら、圭だから、全部あげるよ……」
その健気な一言に圭も覚悟を決める。
「じゃ、行くぞ、真琴」
「ん……大丈夫……だからぁ……きて、けい」
焦る思いを抑えながら、秘所と肉棒を重ね合わせて。
「じゃあ、入れるからな」
その台詞とともにずぶっ……という音がした気がして、そして抵抗を感じる。
真琴の初めての証。自分がそれを奪おうとしている。
その高揚感で堪らなくなって。
「真琴、お前の初めてを俺が奪うからな!」
高らかに宣言する。
「うん、もらって、ボクの処女もらってぇ!」
そして、一気に貫いた。
「真琴、全部入ったよ」
「うん、圭のモノ、ボクの中で感じるよぉ」
痛さを我慢しながら笑顔でそう応える。
「真琴、その……痛くはないのか」
圭がいたわる様に囁きかける。
「痛いけど、圭とつながれただけで幸せだから……大丈夫」
さらに続けて
「けいは……動いたほうが気持ちいいんでしょ……大丈夫だから動いていいよ……」
実際は違った。
真琴の中に入れているだけでイキそうだった。
入れているだけで真琴の肉壁が締め付けてきた。
「お前が落ち着くまで、大丈夫だから。」
そうやって、自分を落ち着かせるので精一杯だった。
「うん、ありがとう」
真琴は涙ながらにそう答えた。
「あのね、圭、キスして。そうしたらね、落ち着くから」
真琴が不意にキスをせがんできた。
圭もそれに応えて行動で返す。
「ん……んふ……んむぅ……はぁ」
「はぁ、はむ……あむ……んふ」
唇をついばみながら、舌を絡めながら、2人はどんどん一体化していく。
「圭……ボクもう大丈夫だから……動くね」
そういって、ぎこちないながら真琴は腰を動かしだす。
「うわ、真琴、今動かされるとヤバイっ……」
と、真琴を見れば、目尻に涙がたまっている。
真琴も痛みをこらえながら、圭のために動いている。
ただでさえ、真琴の中の感触だけで気持ちいいのに。
真琴の暖かくて柔らかいものに包まれているだけで気持ちいいのに。
そんなことをされたら動くわけには行かなくなって。
「ごめん、圭。俺もう抑えられない」
「抑えなくていいから、ね、けいっ!」
どう動いていいのかわからなかった。とにかくがむしゃらに動いた。
真琴が俺のことをこんなに想ってくれていることがこんなにも自分を突き動かすとは。
真琴の中は感じたことのない快感。
「真琴……まことっ」
もう名前を呼ぶくらいしかしてやれなかった。名前を呼ぶことでまた高まる射精感。
「ね、けい……はぁ……あぅ……気持ちいい、気持ちいい?」
真琴のそんな呼びかけで、圭はもう限界に達しようとしていた。
「ああ、気持ちいい、ごめん、そろそろ、俺……」
「うん、ボクもっ……そろそろだから、いっしょに、ねっ」
2人はどんどん一つになっていって。
「うっ……イクっ……!」
「あああああああああーっ……」
同時に絶頂に達し、お互いの思いをぶつけ合って。
そして、2人は深いまどろみに落ちていった……。
「ところで、今日家に連れてきてよかったの?」
目覚めた真琴が圭に聞いてくる。
「ああ、俺の親試合がある日以外は中々仕事が忙しいみたいだからな。つか、今日は2人とも出張のはず。」
もう慣れた、という表情で返す。
「そっか。ねぇ、ボクに何かして欲しいことって、ある?」
「そうだな、女の子の格好した真琴を見てみたい」
「じゃあ、次の試合でボクのために点を取ってくれたら……ね」
「……うへぇ」
生粋のDFである圭が真琴の女の子姿を見ることになるのはいつのことやら……。