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桃娘異聞 (いつもお願いは始まり) 前編

9_180氏

処女の証の復活ですか?」
「左様」
ぽかんと不思議そうにこちらを見つめる黒髪の幼い少年を、中年の紳士はできない訳がない
だろう?と、言わんばかりに怪訝そうに睨んだ。
診察用の椅子には、憔悴しきった少女が肩を縮めて座り、その横でこの中年の男が髭をさすり
、偉そうにしているわけだ。
そして、少女の目の前に眼を開いて、口は閉じているが驚いている様子の黒みがかった金髪の
青年が座っている。

先ほどの「処女の証の復活」と聞いたのはこちらの青年の方で、ただ単に男はあからさまに驚
いた少年を睨んだだけなのだ。
「レオナルトと言う若いのに、確かな腕を持つ医師がいると評判を聞いて、こんな山奥までわ
ざわざやってきてやったのだ。まさか、できぬとは言わせぬぞ。」
人柄の分かる台詞で、少なからず少年は不快感丸だしの表情をだしたが、レオルトと言う青
年医師の方は特に顔色も何も変えず中年の問いに答えた。
「出来ますよ…ただ…幾つか問題もありますが。」
「何だ?」
「男の私が術を施すのですから、お嬢様に精神的苦痛と、それから、体内ですから肉体の苦痛
を伴います────とても弱い部分ですので後遺症が残るやも知れません。」
レオナルトは、ペンを走らせながら淡々と述べる。


「処女膜は遠い人の元祖の名残だと言いますし、そこまでして拘る必要は─────。」
「あるのだ! あるのと無いのでは我が家運がかかっている!」
焦っているのか、青年医師の言い分を遮るように恫喝する。
それに一番肩を震わせたのは隣に座っていた少女で、やがて、顔を覆い隠すように手をあて、
しくしくと泣き出した。
「ユーリ、彼女を別室へ。」
ユーリと呼ばれた少年は頷くと、労るように少女の肩を抱き別室へ連れていった。
少年の身体から、甘い芳香がしたのを、男はいぶしげに顔をしかめる。
「貴公の助手のあの少年・・・よもや、私のエミリアにいかがわしい事などせぬよう躾ておろう
な?」
疑いの目で見る中年の男にレオナルトは
「患者に手を出すように教えたことはありませんな。」
と、しれっと答える。
「──────貴公の助手・・・甘い香りがしたが・・・あれは体臭か?香水か?」
少年に興味を抱いたらしく、好奇心を露わにした瞳でレンナルトに尋ねてきた。

その問いに今まで表情を崩さずにいた青年医師の顔が、歪む。

「私の助手のことより、まず────。」
と、中年の男に座るよう促し、厳しい口調で問いかけた。
「処女膜の再生を施したい理由を、聞かなければなりませんな・・・。
こちらの納得のいかない理由ならば、何人であろうとお断りいたします。」
レオナルトの射抜くような眼差しに、詰まったように黙ると大人しく椅子に座った。


ユーリ、何か話を聞けたかい?」
あの中年男性と、少女を馬車まで見送ったレオナルトは、別室から出てきて診察室で待ってい
たユーリに尋ねた。
ユーリは診察台に腰掛けて、ため息をつきぽそりと話始める。
「あの子ね────エミリアさんは、あの嫌味なおじさんの、ベネヴォリ家の養女なんだって
・・・でも・・・娘としてじゃなく・・・。」
「伽の相手としてベネヴォリ家に入ってるんだろ?─────おおかた。」
伏せるように目を泳がせ、言いにくそうにしているユーリの代わりにレオナルトは応えた。
ユーリは伽の言葉に青年医師に分からぬよう、肩を強張らせた。
「・・・それでも、屋敷に出入りする宝飾細工師の青年と、お互い好き合って・・・近いうちに
二人で逃げるつもりだった・・・って・・・。」
「男爵の言い分では、夜盗が入ってあの子の純血を奪っていった。
身分の高い子息が、あの子を見初めて妾に欲しい────純血を失ったまま、差し出すと家の名
誉に関わるどころか、怒りを買い失脚させられらねない────十日後に向こうの家の者が迎え
にくるまで、術を施せ
─────ってな低い身分の男爵の位では、その上の爵位の者には逆らえん。
逆に、娘を差し出して子でも産ませれば繋がりが持てて、社会地位的に有利になる
のし上がれるか、転落するか・・・瀬戸際で男爵殿も必死だな。」
「…何処の国も同じなんだね…。
位の高い人やお金のある人に逆らえないの…それに女がいつも一番悲しい生き物にさせられる
の・・・。」
「ユーリ・・・。」
ユーリとは通り名で、この辺の地方では男名である。
そう、人前ではユーリは少年で通していた。
ユーリは今年14だが、民族の違いなのか、体質なのか、同じ年頃の者達より小さめで女らしい
丸みが足りない。
レオナルトは、ユーリの隣に座りその、細く小さな肩を自分の胸に引き寄せると、彼女は安心
したような表情をし、強ばっていた肩がすっと緩む。
ユーリの骨ばった肩先が、レンナルトの胸にあたる。


自分の元へきてもう1年だが、なかなか肉付きが良くならないユーリに不安が脳裏をよぎる。

ここから遠い東の大国
そこは、支配する者、金のある者の欲望のるつぼだった
皆、金のため、生活のため、己の私利私欲、出世・・・その国で生き抜くために欲のある者達は、
権力者に媚びるために生きた玩具を作り出す

その一つに『桃娘』があった

幼い頃から『不老長寿』の効があると言われている桃を中心に甘い物だけを食させる。
それだけで生きてきた娘は甘い体臭を身にまとうようになる。
そして、その娘と交わったり尿を飲むと、不老長寿が得られると信じられ、権力者たちは大金
を出してこぞって手に入れようとしていた。
しかし、その偏った食生活のせいで売買するまでに滅多に育たないのが現状で、運良くそこま
で育っても初夜で、伽に耐える体力が無く絶命してしまう者や身体の先端から腐り、むくみ、
四肢切断でだるま女としてまた売られ、十代でほとんど命を落とすという・・・。

『人の手で作られた者に不老長寿の効能などあるはずがないだろうに』

医薬や針、灸の勉強のために東の大国に訪れている事になっている西洋医学を学んだレオナルト
は、呆れながらも他の国の伝承や風習などに口をとがらせ批判することはしなかった。

────自分だって、その伝承にあやかってこの国に来たのだから─────

『桃娘』の詳しい育成方法を学び、自国で育て売り、一刻千金を狙う為にこの怪しい医師であ
る老師に裕福な家庭の出身の青年医師として身分を偽り、弟子入りし共にあの屋敷で多くの幼
女を施術を施した・・・・。


「レオあにさん?」
ユーリの声に我に返ったレオナルトは、過去を振り切るようにユーリの耳元でそろえられた前下
がりの黒光りしている豊かな髪を優しくなで、幼さの残る唇にキスをする。
骨ばった体つきと正反対のふっくらした肉付きの良いユーリの唇と甘く香る体臭がレオナルト
の鼻腔を刺激し男の欲情を駆り立てる。
「ん・・ん」
舐め上げるようにユーリの唇と、舌と、歯茎に食らいつく
まるで熟れて滴る果実の汁を余すことなく吸うように

ユーリは逃げることも怯えることもなく、むしろ待っていたようにレオナルトの筋肉が程良く
付いた胸元に手をあてると、自分の舌もレンナルトの舌に絡ませ始める。
舌と舌の絡まる音と口の間を行き来する唾液の音が
いやらしく診察室に響ていた。
ユーリの手がレオナルトのズボンのボタンに触れる。
気づいたレオナルトが、ユーリの指に自分の指を絡ませるように離した。
「あにさん・・・。」
目を潤ませ、切なげに腕をレオナルトの首に絡ませる。
「まだ、病み上がりだから・・な・・・。」
ユーリの肉付きの薄い身体を労るように抱きしめ、撫でるようにユーリの耳元で囁く。
環境の違いのせいなのか、それとも、施術で長く寝込んでいた時におかしくしたのか、ユーリは
よく寝込む。

「もう・・・大丈夫だから
だから・・。」
切れ長の黒曜石色の瞳が切なげに揺れ、猫を連想させるしなやかな体躯は、上気して甘い体臭を強
く漂わせレオナルトを誘う。
「いやらしい娘だね・・・。」
ユーリの耳元でそう囁くと、彼女を診察台にそろりと押し倒す。


「私をこんな風にしたのはあにさんだよ・・・。」
早く、早くと急かすようにレオナルトの首に手を回し、自分に引き寄せた。
「ああ、そうだったな・・・。」
彼も否定はせず、押し殺すように笑うと艶やかな髪に隠れた細い首筋に浮かぶ脈をたどるように
口付けする
「・・・くすぐったい・・。」
ぞくりと首筋に走る快感に、顔を背けるユーリの唇を追うように舌を這わせ、再び唇を合わせ舌
を絡めあわせる。
剥ぐようにユーリのシャツを上にあげると、最近女性らしく膨らみを帯びてきた胸を隠すための
さらしがレオナルトの視界に入る彼はそれを見、彼女から身体を離すと、扉に閑をかけ、ユーリ
を抱き起こした。
「・・・?」
いぶしかる彼女にレオナルトは
「・・・寝室に行こう、ここでさらしを外すのは苦労する。」

ユーリの体臭は男を欲情させ、事を成すまで収まらない

男を喜ばせる人形となるべく
そのための香り付けの施術を施された桃娘
既に屋敷にいた娘達はその偏った食生活と運動不足で肥えていて、また、幼女でも体力がなく、ど
ちらも施術に耐えきれなかった。

ユーリは香り付けに初めて成功した娘だった。
不思議なのはその後も何人かに施術を施した香り。
皆同じはずなのに
ユーリの香りは自分の性欲を駆り立てた─────だから、ユーリの売り先が決まった時にさらう
ように連れてきた。
もう、ここも潮時だと思ったのも理由の一つだが。


・・・はあ・・・あっ!
あにさ・・・ん」
あえぐ声に交えて、自分を呼ぶユーリ。
さらしが緩み最近、ようやく女性らしい丸みを帯びてきたユーリの腰にまとわりつき、動きに合
わせ、扇情的に揺れる。
その下で
自分のものを食わえ込んだ秘所の部分が、甘く香る汁を出しながら淫らな音を出している。
自分の膝の上に乗せ腰の動きと、愛撫する舌や手の動きに敏感に揺れるユーリの表情は
少女ではなく、交わりの快楽を知っている一人の女だ。
レオナルトはその甘い香りに酔いしれながら
その白くきめ細かい柔肌に顔を埋めた

いろんな意味合いで正規の桃娘とは違う、香娘と呼んだ方がきっと正しい
しかし、どう呼ぼうと、玩具には変わりないのだ

老師のことを悪くは言えない
自分も私利私欲のために、その玩具を作る処方を学びに行った・・・。

身分を偽るのは簡単だ
金を積めばいい
所在不明の裕福な放蕩息子の身分を手に入れ
自分の国と友好関係のあるあの国に入った
自分の裏の仕事を隠すために学び、得た医師の資格はこの国でも役に立った。




だけど・・・

「あっ!・・・はあ・・・あああああ!」
ユーリが喉から絞り出すような声を上げ、自分の肩を掴む指に力がこもる。
「─────うっ」
彼女の中が波をうち、自分の熱いたぎりを奥へ奥へと引き寄せた。
一瞬頭の中が真っ白になり
びくん、びくんと脈打ちながらユーリの体内の中に自分の精が入っていく。

しがみつき、まだ、快楽の余韻で身体が震えているユーリの背中を撫でながらゆっくり寝台に倒す
さらしを上から外してやり、快感で流した涙で濡れた長いまつげに口付けをした。
とろんとした目を自分に向け
「・・・あにさん・・・。」
と自分の国の言葉で言うと、愛おしげにレオナルトの髪を撫でる。
ユーリからでる汗の匂いが部屋中に籠もり果樹園の中にいる錯覚を覚える。
「桃源郷の空気とはこんな感じなのかも知れんな・・・。」
一人心地に呟くと、ユーリから離れ布で彼女の股を拭う
「・・自分でやる・・・」
恥ずかしそうに布を受け取ると、背中を向けゴソゴソと処理をし始めた。

その様子を寝転がりながらじっと見つめる。
未だ初潮の兆しがないユーリだが、背中から、臀部にかけての曲線を見るともう間近ではないかと。

そうしたら避妊も考えないといけない。


処理が終わり、するりと自分の身体と腕の隙間に入り込んできたユーリを抱きしめる。
毛布の温もりと情事のけだるさに眠気が襲ってくる。
細いからだを抱きしめ、背中を優しくさすりながら
「明後日、エミリア嬢に施術をすることが決まった。」
そう話すと、途端にユーリの身体が固くなった。
「どうして?─────あにさんは男爵の言うことを聞くの?
エミリアさんは意に添わない男に足を開くのなんてもうも御免だって。
その上に、後々に痛みが残るかも知れないなんて嫌だって、ねえ何とかできないの?」
「決定だ」
レオナルトの低く通る声が、ユーリの胸の奥に刺さる。
鋭利な刃物でひとつきされたような錯覚さえ覚え、ユーリの息づかいが激しくなった。
「ユーリ?!」

─────思い出す─────

あの、いっそうの事、ひと思いに殺して欲しいと願ったあの夜の事・・・

「お前さんは、七日後に、新しい主人の元へ引き取られる───これは決定だ。」
「い・・・や。」
「お前さんは、玩具だという事を忘れてはないかい?
生きた人形なんだよ人形は逆らっちゃあ、その時点でお払い箱だ
よく言うことを聞いて、次のご主人に可愛がって貰い?」
そう言いながら、男のでっぷりとした肉付きの指が、太股になするように自分の服の裾を上げ
秘所をなすり始めた。


────ひっ・・・!」
「動いたら、膜に傷か付く!大人しくしい!
────新しい主人は高齢な方、余りに素娘ではここが固くて肝心な事ができん・・・少しほ
ぐしとかなきゃあならん。
────これはお前のためでもあるのだぞ・・・初夜で痛みと行為に耐えきれず死ぬ者もいる
特にお前さんときたら、ちっともふくよかにならん・・・!
こんなにやせ細った桃娘なぞ、買い取りが付かん、普通に売ってしまおうかと思うとったときに
・・・。」
屋敷の主人は、肉で埋まった瞳が細くなり、声を殺すように笑う。
「物好きもいる者じゃわ・・・こういう桃娘も珍味であろうと良い値で買い取りなさったわ。」
売値額を思い出したのだろう。
秘所をかき回す指が止まる。

しかし、そんな事ではなかったと、身体を仰向きにされ、大きく足を開かされて気付く。
「濡れぬ…これでは傷が付くわ。」
屋敷の主人はそう言うと、太って人より大きい顔を自分のその股間に埋めた。
「─────!!」
身を捩って逃げようとしたが、寝台の薄い垂れ幕の外に人影が見えその影の人物が分かり硬直した
────あの青年医師────
どうしてここにいるの?
いや!いや!
こんな姿見られたくない!
男に好きにされてる姿なんて見られたくない!
しかし、元より力の無い女でしかも、痩せて筋肉も何もない自分がどう、あがいてもどうすること
もできない。
抵抗して主人を押さえていた腕も、痺れだし弱々しく床に落ちた。
主人の舌が自分のその形をなぞるように舐めているのが分かった。
時々、尖らした舌先を入り口に押し入れ中の壁を回すように舐める。
いやいやと首を振るも、されるがままの自分を呪いながら涙を流した。


「ようやく感じてきたようだわ。」
濡れて、特有の甘い香りが漂う中、主人はそう言いながら顔を上げ、涙を拭う余力もない自分を
楽しげに見つめながら言った。
「これから迎えに来る間での夜、仕込むだわ。」

「後の処理頼んまっせ。」
「はい。」
青年医師との短いかい会話をすると、主人はでっぷりとした腹を揺らしながら部屋を後にした。

青年医師は
嗚咽している彼女を気づいてないかのように終時無言で、自分の役割を成すと帰っていった。


同じ屋敷に住んでいた、他の桃娘達は言った。

私たちは買われ先のまだ見ぬ御主人様のために、ここで桃娘になるのよ
その辺の娼婦達と私たちは違うの
生きて無事に御主人の元へ行けるのを誇りに思いなさいと
皆、口々に言う

お菓子や甘い茶を飲みまがら、流行の服や化粧のや食べ物の話
飽きたら、柔らかい床の上でまだ見ぬ主人の夢を見る

年と共に大きく膨らむのは夢ばかりではなく
菓子や果実をたらふく食べたその体躯
夢は夢のままに終われる者はまだ幸福
生きて桃娘として外へ出た女達は現実を知る・・・

私は買われてきた、歳が遅かった・・・
周りを把握し、自我が目覚めていた年頃に子の屋敷に来た。


先にいたあねさん達のように何も分からぬままにお屋敷に入れば良かったの

知っている私に泣いても拒んでも、私には逃げ道はない
『死』より他に逃げ道はないのだ…
そう、それをあにさんが─────

「あにさん・・・お願い・・エミリアさんを・・・。」
懇願するユーリにレンナルトはため息をつく。
「・・・明日・・私の方からもエミリア嬢に問診をしなくてはならないから・・・それから・・
。」
「じゃあ・・・問答無用じゃあないんの?」
「ああ・・・。」
「お願いよ・・・エミリアさんを助けてあげて・・・私の時みたいに・・・。」

─────また『お願い』が始まった・・・・。
慈善事業じゃない、と、何回説得した事か。

─────ユーリの時は、自分の思惑があっての事──────
こんな厄介事に手を突っ込むユーリに、何度連れ去ってきた日の自分の思惑をぶちまけ、放り投げ
ようとしたか。

しかし、いつも涙をためてじっと食い入るように見つめるその黒曜石色の瞳に、欲深い自分の性分
が映し出されているかのようで・・・・自分の汚さから顔を背ける為に彼女の『お願い』を叶えてしまう。

(結局、今回も・・・『お願い』を叶える為に収入無しになりそうだ・・・・)

レオナルトはそう、心の中でぼやいた。


                            『桃娘』 後編に続く


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